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第17話




 殺人黒霧(マーダーフォグ)

 ゲームではガス状モンスターであり、見た目はまさしく黒い霧。

 主にダンジョンや森の奥深く、洞窟の中と言った暗い場所に生息している。

 そして、スライムより知能が高く、対象を霧で取り込んだ後、血を吸う。


 問題なのは、このモンスターはテイム可能であると言う事。

 本体の無いガス状である為、隙間さえあれば何処にでも侵入出来るので、育てれば阻止不可能な暗殺者になり、要注意のモンスターである。

 禁庫から愚者の石を盗むと言うのも、実体がガス状のコイツなら可能だ。

 禁庫と言えど通気口はあるので、そこから盗まれたのだろう。

 そんな小さい場所から侵入されるとは想定されていないので、ロクな対策もされていない。

 今回は天井の通気口から侵入し、一度天井に広がった後一気に襲い掛かって首を切断し、噴き出す血を吸収したのだろう。

 切断した首は…言い方は悪いが恐らく粉々にして喰われた。

 一瞬で霧で包まれて殺害された為、ギルドナイト達は声を上げる事も、倒れる事も出来なかった。

 そして、知能が高いので騒ぎを察知されないよう、死体を静かに床に置いたのだろう。


「確かに、あの魔獣ならこの状況も納得出来るが……」


「まぁどう考えても口封じだろうな」


 ターゲットはジャロイ。

 そして、ギルドナイト達は暗殺の際の目撃者と言う事で巻き込まれたのだろう。

 この暗殺がこのまま終わってくれれば良いのだが、問題なのは今回の被害者であるマキーシャ達も狙った場合だ。

 だが、コレに付いてはクックがすぐに対処すると言う。

 方法は教えてくれなかったが、恐らく防御用の結界を用意するのだろう。


「テイマーでアレをテイムしてるのはいないのか?」


「確かにいるが、今は王都にいるな」


 クックがそう言って説明してくれた。


 殺人黒霧(マーダーフォグ)のような危険なモンスターをテイムしている場合、冒険者ギルドだけではなく、テイム協会と言う専門の機関に登録され、月に一回、必ず報告する必要があると言う。

 もし報告しなかった場合、テイム資格が剥奪され、冒険者ランクが落とされた上に罰金刑になる。

 ただ、高難易度ダンジョンに挑む関係で数ヶ月報告できない場合は、事前に申請していれば問題は無いと言う。


 クックの知っているテイマーも、現在は王都で活動しているらしく、サガナ街に戻ってきたと言う報告は無い。


「それじゃ、後は未報告って奴か……」


 所謂、暗殺専門という暗殺者だ。

 こうなると、始末に負えない。


 取り敢えず、今日はこのまま冒険者ギルドから帰る事になり、ギルド内にいた冒険者達も順次、解放されていった。


 敢えてクックに言わなかったが、俺には大体の予想が付いている。

 恐らく、テイムしているのは教会のメンバーの誰か。

 それも、こういった暗殺任務を専門に扱う、所謂、粛清部隊。


「まぁ俺達には関係無いな……」


「それでコレからどうするの?」


 俺が呟くと、神威が聞いてきた。

 元々、依頼を受けるつもりで冒険者ギルドに来たが、あの状態では依頼を受けるのは無理だろう。

 そうなると……


「取り敢えず……家に帰って保存食でも作るか?」


「ソーセージとか?」


 その言葉で神威の目が輝く。

 保存食で、いきなり肉……

 う~ん、こういう性格に設定した記憶は無いんだがなぁ…

 しかし、ソーセージか……

 確か肉屋に腸詰用の素材はあったはず……


「ソーセージだけじゃなくて、ベーコンとかハムとかも作るか……」


 それを聞いて、神威が鼻歌交じりで先に歩き出す。

 まぁ……良いか。



 肉屋で塩漬け腸を買う。

 鑑定眼で調べたら、トライホーンボアの腸らしい。

 ソーセージを自作する事を説明したら、作ったら味見させて欲しいと言う条件で、かなり太めの絞り袋と金具をくれた。

 この肉屋の親父、本当は冒険者になりたかったらしいが、奥さんと結婚して肉屋を継ぐ事になり、断念。

 だが、冒険者がどういう肉料理を作るのかに興味があるらしく、こうやってサービスする代わりに味見をさせて貰っているらしい。

 取り敢えず、失敗するかもしれないとは伝えておいた。


 最低限の材料は買えたので、次は街の外に出てハーブを探す。

 今回作るのは、ソーセージとベーコン、ハム。

 なので、香り付けに香りの良いハーブが欲しい。

 他にも、燻製する為に香りの良い材木も探しておく。


 神威と手分けして探した所、バジルっぽいのとレモングラスっぽいハーブを見付けられた。

 燻製用の材木も、桜によく似た物が見付かったので十分だ。



 採取した材料を持ち帰って、ハーブは風魔法で乾燥させる。

 さて、それじゃ作るとするか。

 フォレストウルフの肉とオーク肉を細かくミンチにし、塩胡椒とハーブを細かく擂り潰した物を加えて良く練る。

 この際、氷魔法で常に冷やし続けて温度を上げない様に注意。

 塩漬け腸は先に水に漬けて塩抜きし、完成したタネを詰める為に、金具にセットして置く。


 そうして完成したのは何と言うか、ソーセージと言うよりフランクフルトっぽい。

 ソーセージと言うにはかなり太く、大体、大人が親指と中指で輪を作ったくらいの太さがある。

 まぁコレはコレで良いか。

 軽く下茹でし、水気を噴き取って庭先で神威が燻製用の窯を作ったので、それにセットして燻製開始。

 そして、燻製が終わった後に取り出し、風味を落ち着かせる為に置いておく。

 他にもベーコンやハムを仕込んで置く。

 流石に今日一日で作れる量ではないので、他はまた後日だ。


 その日の晩御飯は、燻製していない手作りソーセージを火で焙った物とサラダと黒パン。

 神威は笑顔でソーセージに齧り付き、御満悦のようだ。

 俺も食べたが、若干ハーブの香りが弱いと感じた。

 ここ等辺はまだ要研究だな。


 後で、こういう保存食を乾燥させる為の小屋でも増築するかな、と考えながら就寝。



 暗闇の中、ベッドの下に黒い靄が溜まり始める。

 そして、それが一定量溜まると一気にベッドを覆い包んだ。

 靄がベッドを包んで黒い球体になった瞬間、その靄が動きを止める。


「……まぁ狙える方を狙うよな」


 そう言って俺は灯りを点けて隠れていたチェストから出て来る。

 ベッドに齧り付いていた殺人黒霧(マーダーフォグ)が慌てたように窓に向かうが、窓に触れた瞬間、火花を散らして弾かれる。

 既にこの部屋には結界を張ってあるので、逃げ出す事は不可能だ。


「相手が悪かったな」


 懐から取り出したのは、蓮の花が描かれた一つの空瓶。

 それを感じ取ったのか、俺を倒さなければ逃げられないと判断したのか、黒い霧かが襲い掛かってくる。


雷華(らいか)封印!」


 瞬間、床に青白い蓮の花の様な魔方陣が現れ、黒い霧が瓶に吸い込まれていく。

 瓶の中に黒い霧が全て吸い込まれたのを確認すると、蓋を閉める。

 そして、瓶の口の部分を魔法文字が描かれた布を巻き、密閉して終了。


「これで良しと」


 流石に、こんな危険なモンスターが街中に二匹も三匹もいるとは思えない。

 瓶の中にいる殺人黒霧(マーダーフォグ)は、動けなくなったようで大人しい。


 いつから、このモンスターの気配に気付いていたのかというと、ほぼ最初からだ。

 屋敷に戻った際、探知レーダーに赤い点があった。

 なので、自然に振る舞いつつ、就寝する際にベッドにダミーを設置して完全隠蔽(フルステルス)スキルで隠れていたのだ。

 後は、結界で逃げられない様にしてから封印魔法で封印するだけ。

 もし、神威の方に行っていた場合、屋敷の壁が吹き飛んだかもしれないが、実力行使で排除するつもりだった。

 ベッドに寝かせたダミーの人形は、見事に頭部の部分が無くなっている。

 このダミーもただの人形では無く、『ドッペルデコイ』と言う魔道具だ。


 胸の部分にある水晶に自分の血を塗ると、生体情報と魔力波動を模倣し、まるでそこに自分がいる様に偽装する事が出来る。

 ただ、外見はただのマネキンなので、何も装備していなければあっさりバレる。

 今回の様に、ベッドに寝かせて隠れて襲撃者を騙す場合はかなり有効だ。

 瓶はインベントリに収納せずに机に置いておく。


 テイムモンスターには大雑把に分類すると、三種類。

 魔獣系、精霊系、非実体系。

 魔獣系は言う間でも無く、フォレストウルフの様なモンスターになる。

 更に言えば、ドラゴンもここに含まれる。

 精霊系は、イフリートやウンディーネ等の高位の精霊達。

 ただ、出会う事が少なく、契約者も稀だ。

 そして、非実体系と言うのは、モンスターの中で実体を持たないモンスターの事だ。

 精霊とは違うゴーストやガス状の実体を持たないモンスターになる。


 契約する際、それぞれによって契約方法が異なり、屈服させたり、望んでる条件を承諾する事で契約出来る。

 そして、今回の非実体系の大半は、契約時に複雑な契約条件を結ぶ事が多い。

 ゲームでは、非戦闘時はクリスタルに封印されており、戦闘時に召還し、その間は魔力を消費し続ける。

 だが、現実であるこの世界では条件が違うだろうが、別に問題は無い。

 例え違ったとしても、延々召喚し続ける事になるので充分な嫌がらせになるだろう。


 そして朝。

 黒パンにレタスとソーセージを挟み、マキーシャ達と食べたフォレストウルフのトマト煮込みのソースをベースにしたソースを掛ける。

 それ以外に簡単なスープで朝食を済ませ、瓶を片手に冒険者ギルドに向かう。

 神威が昼御飯と言って、ホットドッグを五個程追加で作ったが、多分、俺の口には入らないだろう。

 あの嬉しそうな表情を見る限り、相当気に入ったのだろう。


 そして、やってきた冒険者ギルド。

 アイナにギルドマスターへの面会を頼むが、何やら来客中らしく、今は無理だと言われた。

 仕方ないと思いながら、依頼ボードを確認しながら待つ事にする。


 しかし、依頼がものの見事に減っている。

 これから季節は冬に向かうので、モンスター退治の依頼は減っていく。

 特にゴブリンやオークと言ったモンスターは冬眠しないので、自然と温かい地域に移動してしまう。

 ここ等辺だと、近くにある鉱山の麓だ。

 しかし、鉱山付近は銀級にならないと立ち入りが禁止されているので、銅級の俺は行く事が出来ない。

 ノービスの神威は尚更だ。

 溜息交じりにマシな依頼を探すが、そんな都合の良い依頼は既に他の冒険者達が受領している為、残っているのは薬草採取とかだけだ。


「王牙さん、ギルドマスターが会ってくれるようですよ?」


 依頼ボードの前で悩んでいると、背後からアイナが声を掛けてきた。

 どうやら、来客は帰ったようだ。


「何かあったのか?」


「まぁ早い方が良いと思ってな」


 そう言いながら、机の上に瓶を置いた。

 そして、昨日の夜にあった事を話す。


「それで封印した物がこの瓶だ」


「成程……それでか……」


 クックが唸りながら顎に手を当てる。

 どうやら、何か知っているようだ。


「実はな……さっきまで来ていた来客、早急に魔力ポーションを用立てて欲しいって言われてな」


 そう言うと、クックはこの世界でのテイムを教えてくれる。

 やはり、非実体系は召喚し続けている間、魔力を消費し続けるようだ。

 そして、テイムモンスターはクリスタルになる事は無い。

 クリスタルにならない代わりに、特殊な容器に入れる事で召喚者の魔力を消費しなくなる。

 このタイミングで来訪すると言う事は、その訪ねてきた人物の関係者にテイマーがいるようだ。

 犯人はあまりにも間抜けだなぁ、と思ったが無理も無いだろう。

 恐らく、召喚し続けている扱いになり、魔力が枯渇寸前になっていると予想出来る。

 ゲームでは魔力枯渇になると一定時間意識を失い、召喚されてるテイムモンスターはクリスタルになる。

 だが、現実ではそんな事は無い。

 当然、意識を失っている間もテイムモンスターはクリスタルにはならず、延々魔力を搾り取っていく。

 そうするとどうなるかというと、簡単に言えば廃人になるか死亡してしまう。

 更に、契約者がそうなった場合、テイムモンスターが制御を離れる為、場合によっては相当危険な事になる。

 そう考えれば無理も無いか。


「まぁ服やら顔はローブで隠してたが、ありゃ教会の副教主だ」


「相当慌ててるようだな」


 顔には出さないが、そう言う俺の内心も慌てている。

 もうその時点で犯人一人しかいねぇよ!

 教会に所属してる暗殺者かと思ったが、そんな相手が走り回る様な相手なんて一人しかいねぇよ。




また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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