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第16話




 その後、ジャロイはギルドマスターのクック自らが尋問する事になり、俺と神威は帰宅。

 マキーシャ達は冒険者ギルド内の一室で療養するので、拠点にしている宿から荷物を移動させた。


 クックが数名のギルドナイトを連れ、地下の懲罰室にやってくる。

 冒険者ギルドの地下にある懲罰室は、本来、素行の悪い冒険者を捕縛した後、余罪を調べる為に閉じ込めておくための部屋だ。

 その為、部屋の中央に床と固定されている椅子が一つだけあり、他には灯り用の魔法照明以外何も無い。

 扉も一つしかないので侵入も脱走も不可能だ。


「さて、それじゃ期待出来んが始めるとするか……」


 懲罰室の前にいたギルドナイトに挨拶をして扉を開ける。

 本来なら、中央に拘束されたジャロイが座り、その左右と部屋の四隅にギルドナイトが立っている。


 はずだった。


「なっ!?」


 そこにいたのは倒れたギルドナイト達と、椅子に座ったジャロイ。

 ただし、全員その首から上が無くなり、床は血溜まりが出来ている。

 確認するまでも無く、全員絶命している。


「見張りは何をしていた!」


「い、いえ、誰も部屋には入っていません!それに物音もしませんでした!」


 クックの怒鳴り声に、扉の前に立っていたギルドナイトが慌てて答える。

 もちろん、もしもの時を考えて懲罰室に来るまでの通路には、各種隠蔽を見破る魔道具が設置されている。

 なので、もしもこっそり来たとしても、すぐにバレてギルドナイトが押し寄せて来る。


「すぐに魔道具を調べろ!それと、ギルドの出入り口を封鎖して誰も儂の許可無く外に出すな!」


 クックの指示でギルドが一時閉鎖状態になる。

 業務に支障が出るな、とクックは溜息を吐いて部屋を見回す。

 難攻不落とも言える冒険者ギルドの最奥に侵入し、音も無く複数人を殺害する。

 そもそも、ギルドナイトは冒険者で言えば金級ランク相当の実力がある。

 その彼等が何も出来ずに全員殺害されている。

 もし、これが暗殺者の仕業だとするなら、その実力は最早白金(プラチナ)級は確実だろう。

 そんな実力者がサガナ街に隠れている可能性が有る。

 残っているギルドナイトにその場を任せ、混乱し始めた受付に向かった。



 屋敷に戻った俺は自分の目を何度も擦った。

 出発前に比べて、屋敷は綺麗に整えられ、敷地の境には生垣が出来上がっていた。

 壁は白く塗られ、窓には街でも珍しいガラスが使われている。

 窓には左右に開く鎧戸も付けられており、風が強い時も安心だ。

 玄関の鍵をインベントリから取り出した鍵で開錠する。


 まだ内装は何も置いていない。

 ランタンに魔法で作った灯りを灯し、屋敷の中を見て回る。

 注文通り、台所や風呂場、地下室が拡張されている。

 取り敢えず、神威と協力してショップで買い足した家具を部屋に配置していく。


 まず、俺の部屋だが、二階の中央になった。

 ベッドに机、椅子と服を収納するチェストを購入する。

 机と椅子は窓際の壁際に置き、ベッドは入り口の壁側に設置、チェストも近くに設置する。

 そして、ストレージボックスをチェストの隣に設置する。

 設置したストレージボックスを開けると、今までストレージボックスのアイテムに付いていた鍵マークが消えた。

 これで今後は気兼ね無しにアイテムを使う事が出来る。

 取り敢えず、今回使用した月光シリーズをストレージボックスに収納して置く。

 流石に危険な装具の為、マキーシャ達には悪いが返してもらった。


 次に神威の部屋だが、俺の部屋の隣。

 同じように家具を購入し、配置して置く。


 他にもリビングや台所、風呂場に購入したアイテムを配置していく。

 そうしていると、空腹感を感じ始めたので、インベントリに残っていたパンと肉を取り出し、サンドイッチを作って昼飯にする。

 広くした地下室の方は、鍛冶用の部屋にする予定なので後回しにし、家具を置いた部屋とは別の部屋に向かう。

 その部屋も若干広いので、コレからやろうとしている事は十分間に合う。

 ルーム配置からいくつものページを捲る。

 そして、目当ての部屋を見付けると、それを選択して決定する。

 その後、扉を閉めてしばらく待つ。

 メニュー画面で『終了しました』と表示されたので扉を開けてみる。


 先程まで何もなかった部屋に、所狭しと様々な物が置かれていた。

 選択したのは『食料庫』と言うルームアイテムだ。

 文字通り、部屋の一つを食料保管庫にする事が出来るのだが、保管されているのは小麦粉や米だけではなく、ジャガイモや人参等、保存期間が比較的長い食料がぎっしり棚に詰まっている。

 その一つを手に取って地面に下ろし、袋の口を開けてみる。

 その麻袋には真っ白い粉がぎっしり詰まっていた。

 袋の口を閉じて、別の麻袋を確認すると、そちらは米だった。

 取り敢えず、小麦粉と米を台所に運んでおき、夜の献立を考える。

 ……よし、足りない具材を買うとするか。


 神威を連れていくつもの店を巡る。

 まず、牛乳や鶏肉を探す。

 後はバターがあれば良いのだが、流石に無かった。

 確か作り方は……

 そんな事を考えながら店を巡る。


 運良く、探していた物が全部見つかり、荷物は全てインベントリに収納する。

 しかし、卵の値段を考えるなら鶏自体を育てた方が安上がりになるかな……

 地球の様に養鶏場がある訳でも無いので地味に高い。

 まぁ普通の鶏だったら、養鶏場も作れるんだろうけどな……


 この世界の鶏は簡単に行ってしまえばモンスターだ。

 しかも、地味に強く、群れを作られると駆け出し冒険者くらいならあっさりと返り討ちにされる程。

 それが原因で、冒険者を諦めた者達もいるとか……

 だが、俺達にはあまり関係ない。

 将来的にはあと二人も呼び出すので問題無い。

 ただ、現状ではまだ不可能だ。

 主に金銭面の問題で。


 今回、教会から迷惑料として金貨50枚、神威と二人合わせて金貨100枚を貰った。

 だが、金貨100枚で四人が安心して暮らすのは無理だと考える。

 なので、安定して稼げるようになるまでは二人には待っていてもらう。


 その為にはランクを上げ、何か他にも副業を作った方が良いのだろうか……

 そんな事を考えつつ屋敷に戻ると、晩御飯の準備を始める。

 簡単に言えば、バター作りだ。



 腕が死ぬ。


 椅子に座った俺の目の前には白い塊の山。

 それとカラになった大きめの牛乳缶。

 バターの作り方、瓶に牛乳を入れます。

 後は何も考えず只管振れ。

 ちなみに、市販されている大半の牛乳では出来ないから注意だ。

 魔法で瓶を冷やしつつ、延々振り続けた。

 後は多少の塩を加えれば有塩バターになる。

 神威に頼んで出来上がったバターは別の瓶に詰替えて貰っている。


 日が多少傾いてきたが、バターさえ作れてしまえば後は楽だ。

 と言うより、後々の事を考えるならバター作りは暇な時に作って置いた方が良いな…

 今回バターから分離した水分も確かチーズだかに出来たな…

 確か……リコッテだかそんな名前のチーズだ。

 なので、全てを一纏めにしておき、インベントリに収納して置く。

 まずは今日の晩御飯だ。


 台所に設置されているのは、魔力充填式のコンロであり、使用時間によって充填されている魔力が減っていく。

 そして、使用していない時に周囲の魔力を吸収して充填されていく為、ほぼ人為的に充填は不要と言う物だった。

 水回りも同じように魔法による物なので、補充する必要が無い。

 これはかなり楽だ。


 神威に食料庫からジャガイモや人参、タマネギを持ってきてもらう。

 その間に小麦粉と作りたてのバターで準備をしておく。

 まぁ材料的にわかっていると思うが、作ろうとしているのはシチューだ。

 魔法でゆっくりと熱を加えてバターを溶かし、小麦粉を加えて練り合わせる。

 これはブールマニエと言う物で、シチューのルーの様な物だ。

 後は普通に肉を焼き、切っておいたジャガイモ、人参を加えて炒め、色が少し変わり始めた所でタマネギを加える。

 その後は水を加えて煮込み、煮汁をブールマニエに少し加えて練った後、鍋に投入する。

 残っている牛乳を足してから煮込み、塩胡椒で味を調える。


「よし、出来たから皿とかの準備をしてくれ」


「了解~」


 神威が机に皿を並べる。

 そして、鍋敷きを置いたのでそこに鍋を置く。

 この世界に来てから食べる元の世界の料理。

 ただし、パンは用意するのに時間が掛かるので黒パンだが。


 それでも十分過ぎる程に美味だった。



 次の日の朝。

 多少腕が痛むが、そのまま冒険者ギルドに向かう。

 大金を手に入れたとて、それは何れ無くなるのだ。

 それなら定期的にでも収入を得なくてはならない。

 更に、季節は冬に向かい始めているので依頼が減っている。


 もう森に入って乱獲するかな……

 そんな事を考えつつギルドにやってくると、かなり慌ただしい。


「あぁ、王牙さん、すみません、今はちょっと依頼を出せるような状況じゃないんです」


 アイナがそう言いながら書類を抱えている。

 壁際には疲れ果てた表情の冒険者達が座っている。


「コレはどうしたんだ?」


「皆疲れてるみたいだけど……」


 二人で不思議そうに見回す。

 そうすると、奥の方で何か冒険者と話しているクックの姿が見えた。

 そのクックと視線が合った。


「おぉ、丁度良い所に……ちょっとスマンな」


 クックがそう言いながらこちらにやってくる。

 その眼の下には隈が出来ている。


「ちょっと問題が起きてな……お前さん達も無関係じゃない事なんじゃが……取り敢えず奥で話をしたいんだが……」


 そう促されたので大人しくクックに付いて行くと、いつものギルドマスターの部屋に到着した。


「実は、証言を取る前に奴が殺された」


「……それがどうしてこんな事に?」


 そうしてクックが説明してくれた。

 そして、犯人が逃げているにせよ、隠れているにせよ、僅かにでも手掛かりは探さねばならない。

 なお、現在まで手掛かりは無い。


「現場は見れるか?」


「別に問題は無いが……どうしてだ?」


「まず、ソイツが本当にあの馬鹿(ジャロイ)かどうかの確認だな」


 俺が危惧しているのは、ギルドに内通者がおり、ジャロイを逃がす為に身代わりの死体を用意したと言う可能性だ。

 その真意に気が付いたのか、クックが懲罰室に案内してくれる。

 道中も、通路に設置されている対隠蔽用の魔道具の説明をしてくれる。


「さて、ここだ」


 部屋の中では七人の遺体が寝かされ、頭の部分に布が被せられている。

 そして部屋には魔法で灯りで明るくなっており、床に夥しい血の後が残っている。

 それを見て天井の方も確認する。

 天井はおおよそ二メートル程。


「何かわかったか?」


「まぁコイツが身代わりじゃない事と……犯人が人じゃない可能性が高いな」


「どういう事か聞いても良いかね?」


 そう言うクックに現状でわかる範囲で説明を行う。


 

 まず、鑑定眼で確認した所、間違いなく馬鹿(ジャロイ)だった。

 そして、死体に不自然な点がある。

 全員が首を切断されたなら、首の大血管から相当量の血が噴き出したはずだ。

 だが、血は床にあるだけで天井には一滴も飛び散っていない。

 他にも、その切断された頭部が無い事。

 つまり、何かしらの方法で犯人は『大量の血と全ての首を持ち帰った』と言う事になる。


「天井に付いてないって事は……スライムとか?」


「いや、スライムだったとしたら天井に貼り付いて広がるのは、重過ぎて無理だ」


 神威のいう事も最もだが、重量の関係で無理だ。

 それ以外にも、天井に付いていた(すす)(ほこり)が残っていた事から、スライムが貼り付いた形跡はない。

 後は、普通に知能が低いスライムに暗殺は無理だ。


「そう考えると、暗殺犯が一人と言うか一匹、心当たりがある。」


「ふむ……?」


 クックがそれを聞いて顎に手を当てる。

 しばらくして思い出したかのように顔を上げた。


「……殺人黒霧(マーダーフォグ)か……」


 クックの言葉に俺は頷いた。




また3日後にお逢いしましょう


面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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