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第14話




 あれから2時間。

 サガナ街を目指す肉塊に対して、いくつか実験を行った。


 まず、魔法に対してだが、やはり一発で全体を消し飛ばさない限り、無限に再生するようだ。

 浄化魔法でも同じで、削れた傍から修復されて元通りになっていく。


 他にも斬撃や打撃を試したが、やはり効果無し。

 斬撃は斬った場所から触手が伸び合って繋がって元通り。

 打撃に関しても凹むだけで効果が無い。


「こりゃキリがないね?」


 神威がそう言いながら頭の後ろで棍を持ったまま手を組む。

 あまりに無防備だが、これにも理由がある。


 この肉塊、攻撃を加えている俺達を完全無視して街目指して一直線なのだ。

 まるで、攻撃されている事に気が付いていないようだ。


「攻撃しても再生繰り返すわ、浄化魔法も耐えきって再生するわ…処置無しだな…」


「しかし、街に到着したらとんでもないパニックになるでしょうね」


 リョウの言葉にマキーシャとシシーが頷く。

 そりゃこんなグロテスクな肉塊が襲い掛かってきたらパニックは必至だろう。

 そうしていると、探知レーダーに赤い点が増える。

 その方向を見ると、茂みを揺らし、木々が揺れて巨大な黒いモンスターが現れる。


 見た目は頭に巨大な角が生えたイノシシ。

 口からは長い牙も生えている。


「こんな時にトライホーンボアかい…」


 そのモンスターを見たマキーシャがそう呟く。

 鑑定眼で見ると、気性はかなり荒く、発情期以外では縄張りに入った同種の雌でも徹底的に排除し、駆け出し冒険者にとっては絶望の相手だと言う。

 恐らく、数日前にフォレストウルフを大量に狩猟してしまった事で、森の奥にあったコイツの縄張りが広がったのだろう。

 そして騒ぎを聞き付けて、今回ここにいると…


「プギャァァァァッ!!」


 トライホーンボアが一鳴きすると、前足で地面を数回掻き上げる。

 そして、こちら目掛けて一気に突進してくる。


 だが、全員そんな直線的な突進に当たるはずも無く、トライホーンボアの突進はそのまま歩みの遅い肉塊に直撃した。

 深々と肉塊に角と牙が突き刺さり、その突進力で若干肉塊が浮き上がる。


「しかし、あれだけ攻撃しても反撃してこないなら、街に付いた後、総出で攻撃すりゃ良いんじゃないかい?」


「いや、こりゃただ単に俺等より、街の方が食料が多いから、ほっとかれてるだけだ…」


 突撃された肉塊は気にした様子も無く、変わらず触手を生やして動き始める。

 だが、今回は違ったようだ。


「プギィァァァァァッ!?」


「み、見てください!」


 シシーの声と、トライホーンボアの上げた叫び声で肉塊の方に視線を向ける。

 そこには、トライホーンボアの頭に触手が絡まり、更に表面から触手が伸びて、トライホーンボアを肉塊の表面に押し付けていた。

 そして、肉塊の触れた部分に口が現れ、トライホーンボアを捕食し始めた。

 当然、トライホーンボアも逃げようと暴れるが、細い触手は見た目に反して相当な耐久力を持っているようで、引き千切れる様子も無く、暴れるトライホーンボアをゆっくりと、肉塊に沈めて行く。


 やがて、トライホーンボアが完全に肉塊に取り込まれると、肉塊の表面に変化が現れる。

 所々に生えていた骨がトライホーンボアに似た角や牙に変化し、足代わりの触手の先が硬質化して蹄の様になる。


「どうやら、生き物を取り込んだら変化するみたいだな…」


 攻守として利用出来る角と牙、更に移動に対して蹄を手に入れた。

 その証拠に、今まで遅かった肉塊の移動速度が、先程より多少早くなっている。

 もし、この予想が正しければ、この肉塊が鳥型のモンスターを取り込んだ場合、最悪な状況になる。

 今はまだ地を這っているだけだが、これで空を飛ばれたら最早対処は不可能になる。


「…本当にどうしますか?」


 リョウがそう言うが、正直、普通に考えたらどうにも出来ない。

 ただ、俺のストレージ内のいくつかのアイテムを使えば倒せる可能性はある。

 マキーシャ達としばらく一緒に行動していたので、彼女達は十分信頼出来る。


「…奥の手がある事にはある…問題もあるが…」


 俺の言葉でマキーシャ達が此方を見る。


「まず、あの肉塊だが、恐らく浄化魔法で倒せる」


「ですが、浄化魔法では倒し切れませんでした」


 シシーの言葉に頷く。

 確かに、シシーの使った浄化魔法でも倒し切れずに再生された。


「あぁ、だから、最上級浄化魔法を使う」


「アンタがかい?」


「残念だが、俺も神威も適性が無くてな…使えるのは中級までだ」


 ただ使うだけならスキルから習得すれば最上級魔法は使う事は出来る。

 だが、その威力を完全に発揮させる為には、使用者がしっかりとしたイメージを持たねばならない。

 つまり、炎系の初級である『ファイアーボール』であれば、『燃える玉が爆発する』と言ったイメージが必要になる。

 それが、中級や上級になると、『燃える玉が複数爆発する』とか、『燃える玉が複数、広範囲に拡散してから爆発する』と言う風に複雑になっていく。

 俺はそういったイメージをする事が苦手だった。


「昔、クソジジイに魔法を教えられたが、どれもこれも中級止まりでな、適性が無いと言われた」


「…その方は誰ですか?」


 シシーにそう聞かれて、脳裏に一人の老人が浮かぶ。

 ゲームを初めて暫くした頃、スキルの伸び具合が滞った時期があった。

 その時、あるユーザーからその老人を紹介され、半ば強制的に弟子にさせられた。

 そして、リアル時間で1年間、ゲームの中でその老人によって修行させられた。

 結果、様々なスキルの応用方法から戦術まで、かなりの技術を習得する事が出来たのだが……

 魔法に付いては、そのイメージが難しく、結果中級までしか習得出来なかった。

 ただし、その修行は筆舌し難い程、過酷だった…


「一応、俺の師だが…クソジジイ曰く、魔法は武器とかと違ってイメージ力が必要なんだとさ」


「王牙さんの師匠…」


 それを聞いたマキーシャ達が何か考え込んでいる。

 まぁあのクソジジイの事はともかく、今は目の前の事だ。


「とにかくだ、シシーは浄化魔法をどこまで使える?」


「…一応、上級までは…」


「最上級は無理か?」


 その言葉に、シシーが俯く。

 まぁ使えればもう使っているか…


「上級が使えるなら…何とかいけるか…」


 そう呟いて、ストレージ内からある装具と武具をインベントリに移動させる。

 元々はサポートNPC用に用意しておいた物だったが、結局使わずにストレージで眠っていた物だ。


「まず、これから言う事を覚えておいてくれ、その上で無理と思ったら別の方法を考える」


 俺の言葉に全員が頷く。


「奴を倒す方法だが、まずコイツを使う」


 そう言ってインベントリから取り出したのは一本の杖。

 その先端は金で細工が施され、月を象った丸い宝珠が付いている。


「コイツは『月光の杖』っていう特殊武具だ」


 それを神威に手渡し、更にインベントリからアイテムを取り出していく。


「そして『月光のローブ』『月光のヴェール』『月光の腕輪』『月光の首飾り』『月光の指輪』と…」


 通称『月光シリーズ』と呼ばれる特殊装具だ。

 見た目は黒いローブとヴェール、金の腕輪と月を象った細工が施された首飾りに金の指輪。


「まず、これ等を全てシシーが装備する事になる」


「そりゃ良いけど、何があるんだい?」


「まず、この月光シリーズだが、ちょっとした能力を持っててな、この指輪をしているパーティーメンバー全員の精神力を、魔法力に変換して増幅する事が出来る」


 そう言って指輪をマキーシャとリョウに手渡す。

 二人が渡された指輪をしげしげと眺める。


「そして、この腕輪をしているメンバーがそれを全て集約し、超威力の魔法を使う事が出来る」


 腕輪をシシーに手渡す。

 つまり、ここにいる全員の精神力を集約し、あの肉塊に直撃させようという物だ。

 確かに一撃の威力は凄まじい物になる。

 ただし、当然デメリットも存在する。


「ここからが大事な事だが、もし、失敗した場合、確実に全員死ぬ」


 その言葉で全員の視線が俺に集まる。

 しかし、コレは当然だろう。


「つまり、反動(リバウンド)が起きた場合、その増幅した力が全員に帰ってくるから、まず耐えられん。更にだ、成功したとしてもシシーはしばらく魔法が使えなくなる」


「どういう事だい?」


「強引に強力な魔法を使う訳だからな…下手すると、魔法回路が焼き切れて一生使えなくなる可能性もある」


 魔法回路。

 ゲームでは『マジックサーキット』と呼ばれていたが、簡単に説明するなら、魔法力を効率良く全身に巡らせる為の通り道の事だ。

 魔術師の上位ユーザーは大抵、この魔法回路をスキルで強化している。

 そうする事で、大量の魔法力を一度に行使し、極大魔術をポンポン連発する事が可能になるのだ。

 ちなみに、クソジジイは全く強化していないが、それでも魔術師の頂点に立っていたりする。


「つまり、一か八かな上に、下手すりゃシシーは冒険者引退になる訳だ…」


「もし、上手くいった場合、魔法が使えない期間はどのくらいなんでしょう?」


 マキーシャが呟き、シシーが聞いてくる。

 確かに、気になる所だろう。


「正直、個人差があるとしか言えん…ただ、最短でも一週間は掛かる」


 クソジジイ曰く、魔法回路がダメージを負った場合、その回復速度は術者依存。

 そして、その度合いによって回復期間が異なり、今回の様に強引に行使した場合、恐らく全身の魔法回路が傷付く。

 そうなった場合、通常でも一週間から一ヶ月程度は必要となる。


「さて、どうする?」


 俺の問いに全員が押し黙る。

 上手くいけば、あの肉塊は倒す事が出来る。

 ただし、その代償は、シシーが冒険者を引退するかもしれないと言う可能性。


「…このまま街に到着して犠牲が出る可能性があるなら、私は可能性に賭けてみたいと思います」


 シシーがそう言って拳を握る。

 その瞳は確かな覚悟を決めているようだ。

 それを見て、月光の杖を手渡す。


「ま、生き残れたらコイツ等から搾り取れば良いかね」


 マキーシャが足元に転がっているジャロイを踏む。

 後で邪魔されない様に簀巻きにして木に吊るしておくか…


「それで、手順は?」


「幸いな事にアレの動きはそこまで早い訳じゃないからな、ここから少し先に行って準備する」


 リョウが月光の指輪を嵌めながら聞いて来たので、作戦を説明する。


 まず、シシーを中心に全員が四方に立ち、もしもの場合に備えて俺は肉塊側に立つ。

 そして、シシーの詠唱を全力で防衛し、完成と同時に一気に叩き込む。

 それで倒せなかった場合、三人は全力で街に向かい、俺と神威が足止めに専念する。

 そしてこの馬鹿(ジャロイ)は、失敗時には見捨て、成功時は冒険者ギルドに引き渡す。


「それじゃ、始めるぞ」


 その言葉に全員が頷いた。




また3日後にお逢いしましょう。


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