第11話
ここまで連続して投稿してきましたが、次話から更新速度が低下します
ここまではサクサクと投稿したかったんじゃー
急に現れた少女が棍を横薙ぎに振るい、フォレストウルフを吹き飛ばす。
更に飛び掛かってくるフォレストウルフを蹴り飛ばし、棍を地面に突き刺し飛び上がって空中から別のフォレストウルフに襲い掛かる。
だが、少女の乱入により各自に掛かる負担が減った為、かなり楽になった。
しかし、何故フォレストウルフがこうも執拗に襲ってくるかがまだわからない。
普通に考えるなら、これほど力の差を見せ付ければ逃げるだろう。
だが、相当数のフォレストウルフを倒しているのに、未だに森からやってくる。
ある程度余裕が出来たので、頭の中で今までの状況を整理する。
モンスター対策で結界を用意したのだが、フォレストウルフ程度ならまず寄って来ないはずだ。
なのに、その結界を無視してやってくるフォレストウルフ。
原因は何だ?
そこで思い付くのが先程から鼻に残る匂い。
もしや、この匂いが原因か?
「シシー!風の魔法で強風を出せるか!?」
「出来ない事は無いけど、何の為に?」
「何かの匂いで引き寄せられてる可能性が有る!」
その言葉でシシーが準備に入り、マキーシャ達が防御に回る。
少女は気にした様子も無く、変わらずフォレストウルフを叩きのめしている。
「コイツ等の素材は諦めてデカいの使え!」
「了解ーっ」
俺の言葉で少女が棍を宙に放り投げる。
「燃えよ炎撃!ヴォルカニックウォール!」
その掛け声と共に、少女を中心にしていくつもの炎の柱が噴き上がり、多数のフォレストウルフに直撃する。
直撃したフォレストウルフは文字通り消し炭と化し、周囲に独特の焼けた臭いが広がる。
少女は空中で棍をキャッチし、その炎柱から逃れたフォレストウルフを追撃する。
「ウィンドストーム!」
発動した魔術が一体のフォレストウルフを吹き飛ばし、その周囲に土埃が巻き上がる。
さて、これで周囲に残っていたあの匂いも吹き飛んだだろう。
フォレストウルフはどうなった?
棍を構えてフォレストウルフの動きを注視する。
そうしていると、フォレストウルフ達が周囲を確認して一目散に逃走した。
予想通り、あの匂いに引き寄せられていたようだな。
探知レーダーには、既にこちらに向かっている赤い点は1つも無い。
「よし、もうこっちには来ないみたいだな…」
「やー大変だったみたいだね?」
少女がそう言いながら、倒したフォレストウルフの尾を持って引き摺ってくる。
今回、この少女がいなかったらパーティーに被害が出ていただろう。
「協力に感謝するよ。所で、アンタは誰なんだい?」
マキーシャが礼を言いながら、少女に尋ねる。
その姿は、何処も油断しておらず、いつでも対処出来るように斧の柄に手を置いている。
「あー…そいつなら別に問題は…」
「私は神威、狼=神威!」
そう元気良く名乗った少女の言葉で、マキーシャ達の視線が俺に向く。
まぁそうなるよな。
「ロウって…王牙の関係者かい?」
「妹さんですか?」
マキーシャとシシーがそう言って、神威の方を向く。
いや、妹じゃないんだが…
「いや、神威は妹じゃない、娘だ」
「「「娘!?」」」
「ちょっと待ってください、王牙さん一体いくつなんですか?」
そう言えば、年齢の事は言ってなかった気がする。
最初に出会ってから、そこそこ経つが詳しい話はしてなかったな。
「んー…今年で42だな」
「「「42!?」」」
「神威は15だ」
神威は肩程度の黒髪ショート、黒い瞳に赤い服と白いズボン、茶色の革ブーツを履いている。
その両手両脛には金色の籠手と脛当てが付けられており、片手に赤い棍を持っている。
見ただけなら、要所要所が俺と似たデザインであり、名乗らなくても関係者ではないか?と勘が良い奴ならわかるだろう。
「まぁそれはともかく、よく俺がここにいるって判ったな」
「こっちの方で、父様に似た人が棒を振り回してるって聞いて、来てみた」
少女の言葉にマキーシャ達は頷いている。
確かに、俺の戦闘方法は独特だろう。
ここまでで、彼女達は神威の事を怪しんでいる事は無いだろう。
しかし、神威はただの娘ではない。
神威は『サポートNPC』と言う、ゲームではシステムで容姿から設定、スキルまで自由に変更出来るNPCであり、本来なら『ゲーム中だけの存在』なのだ。
つまり、血の繋がりという物は本来存在しない。
本来、ゲームで作り出されたサポートNPCは、ユーザーがゲームを楽しみながら、面倒な長時間作業を行う為に用意された、文字通りのサポートが役目だ。
拠点で回復用のポーションを準備したり、時間の掛かる錬金術を使用させたりと、とにかくユーザーが負担に感じる作業をさせる事を目的に、運営が準備した存在。
だが、ユーザーの多くはサポートNPCを連れてクエストに行き、拠点での作業はログアウトする際に指示を出すと言う、運営が想定していなかった運用方法をしていた。
俺もそんな一人。
だが俺の場合は、神威を娘として設定し、装具やスキルを設定した。
設定としては、魔法もそれなりにこなす事が出来る万能戦士。
別の言い方では、器用貧乏とも言われるが…
装具も、俺が装備している物と同格の装具。
それが、『鬼神』シリーズと呼ばれる『武神』シリーズの別種装具。
能力は似通っているのだが、どちらもゲームでは入手が超極端に難しく、どちらもある欠点を持っている。
それは、同名シリーズの武具を装備している間、専用のスキル以外が使用出来なくなると言う欠点だ。
先程、神威が使った『鬼炎撃』や、俺が使っていた『武雷閃』『地爆陣』は、本来なら『ブレイズナックル』『サンダースラッシュ』『アースブレイク』と言う名のスキルだ。
そして、その専用スキル数は、本来のスキル数より遥かに少ない。
だが、手放している間は本来のスキルや魔法が使用出来るようになる。
そして、システムの便利な機能の一つに、『記憶転写』と言う機能がある。
これは、ユーザーの知識をノータイムでサポートNPCに覚えさせる事が出来る機能だ。
今回、俺が知っている事を神威には転写してあるので、会話の端々に不自然な点は無い。
自然と各自が自己紹介をしており、それが終わった後、大量のフォレストウルフから討伐証明部位である尻尾を切り落とし、無事な毛皮を剥ぎ落す。
毛皮を剥ぎ取る作業は『解体』スキルを持っているので、かなりのスピードで終了し、無数の肉が手に入ったので、纏めてインベントリに収納しておく。
そうしていると夜も明けてきたので、馬車の方も確認する。
戦闘中、御者と少女は馬車の中にいたので無事だろうが、あの戦闘で馬車自体に被害が出ている可能性は否定出来ない。
リョウとガリーノが確認した所、外装部分に傷はあるが、自走するのに問題は無いらしい。
そして、全員の無事を確認し、これからの事を話し合う。
このまま続行すると言う意見は、マキーシャ、ガリーノ、メルフィ。
一旦サガナ街に戻ろうと言うのは、リョウ、シシー。
ちなみに、神威は途中参加扱いなので意見はスルーする。
俺はあの匂いの原因がわからない限り、どちらも選びたくはない。
もし、戻って同じ事が起これば、サガナ街に被害が出るし、進んでも同じようにモンスターに襲われる。
ならば、原因を調べた上で、対処出来るなら進み、出来ないようなら戻ると言うのが俺の意見だ。
そう提案したら、全員賛同してくれた。
なので、まずあの匂いの原因を探る事にしたのだが、怪しいのは当然馬車だ。
フォレストウルフは全部俺達を無視して馬車に向かっていた。
つまり、あの匂いは馬車から出ていた可能性が高い。
調べてみたら、原因はあっさりと見付かった。
少女が寝る前に祈りの為に使った蝋燭。
これが原因だった。
その名もズバリ『獣魅蝋』と言う、獣系モンスターを強力に引き寄せる効果のあるアイテムだ。
ゲームでは、すぐに逃げてしまうモンスターを討伐する際に使用する以外では、ある行為でしか使われないアイテム。
このアイテムと、今回の事である程度の予測が立てられる。
恐らく、コレはゲームで言う所の『MPK』と呼ばれる行為だ。
モンスターを人為的に他人に押し付け、その他人を殺害する迷惑行為の一つ。
少女はこの蝋燭がそんなアイテムだとは知らず、ずっと馬車の中で御者と共に祈り続けていたらしい。
この蝋燭は父親から渡されたらしく、入手経路は不明だと言う。
「つまり、この蝋燭さえ使わなければ襲われる事も無い訳だ」
ガリーノがそう言って、蝋燭を手に取り、その匂いを嗅いでいる。
そして、表情を顰めた。
狼獣人であるガリーノにはあまり好みではない匂いのようだ。
「それじゃ、普通の蝋燭に替えれば問題無いね」
蝋燭はランタン用にいくつも予備を持っている。
なので、少女の持っていた蝋燭と交換し、このまま王都目指して進む事になるのだが、問題がもう一つ。
それが、神威の処遇についてだ。
本来は6人で受けた依頼だが、ここで神威も参加するとなると依頼料が増えてしまう。
そして、依頼を出したのは少女の父親であり、この場にはいないので交渉は出来ない。
なので、本来ならば神威はこのままサガナ街に向かうのが普通だ。
が、神威は俺と同行を希望し、依頼料については今回のフォレストウルフの報酬だけで良いと言う。
最終判断はマキーシャがするのだが、彼女は同行を許したので神威はこのまま一緒に王都を目指す事になった。
神威への依頼料と言う事で、集めたフォレストウルフの尾を渡す。
その数、おおよそ72本。
ただし、この数には神威の魔法によって消し炭になったフォレストウルフを含んでいない。
つまり、80頭以上のフォレストウルフが襲ってきたことになる。
獣魅蝋怖いわぁ…
そんな事を考えながら、尾を10本で一束にして神威に渡し、神威が自身のインベントリに収納する。
一応、俺と神威のインベントリは別扱いだが、俺から神威のインベントリは見る事が出来る。
その中には、俺が事前に渡しておいた野営道具も入っていた。
あの夜、俺は拠点である屋敷で神威を呼び出し、その日の晩にサガナ街の壁を越えて森で待機させた。
そして、馬車の後方をずっと追跡させ、今回の襲撃を受けて乱入したのだ。
ここまではある程度予定通りなのだが、この後が問題だ。
この蝋燭を渡した相手がどういう意図を持っているのかが不明な現在、王都に到着するまで妨害が入らないとは思えない。
ただ、妨害のタイミングは恐らく5日目前後になるだろう。
防衛側も疲労が溜まっていて、王都までそこそこ遠い日数。
だが、神威がいる今なら、力技で解決できる問題なら楽に解決出来る。
この世界では、俺達の戦闘力や装具は明らかにオーバースペックだ。
そんな状況で、二人揃えば大抵の事は問題にすらならない。
本当なら、拠点が完成した事であと二人も呼び出せるのだが、資金的な問題として今は呼び出せない。
安定して稼げるようになれば、呼び出せて楽になるだろう。
「さて、それじゃ腹ごしらえも終わったし、先に進むよ」
マキーシャがそう言う。
今日の朝飯は、黒パンに干し肉を焙った物と野菜を挟んだサンドイッチのような物。
御世辞にも美味い訳ではないが、問題無く食べる事は出来た。
神威が同行する事になり、最後尾が三人に増える。
これで安定感は増えたな。
そうして、馬車は王都目指して森の中を進んで行った。
次話は3日後の予定となります
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