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第10話




 マキーシャ達と別れてから数日後。

 遂に屋敷の修繕がある程度終わり、拠点として認識されるようになった。

 と言っても、未だにボロボロな所はボロボロだし、地下室の改築は手付かず。

 主に屋根と壁を優先して修繕してもらったので、中はまだ半分と言った所だ。

 だが、外側が直った事により、ちゃんと拠点として認識されるようになったのは幸いだ。


 取り敢えず、一階の一室にインベントリから机や棚、ベッドを取り出して設置する。

 そして、机の上にランプを取り出し、中に光の魔法を灯す。


 遂に…遂に拠点が手に入った…


 感慨深いが、喜んでもいられない。

 実は、修繕費が赤字状態なのだ。

 このまま進めると、予算は確実に足が出てしまう。

 だが、現在教会の動きが不透明なので下手に遠出も出来ない。

 だが、遠出しなきゃ資金が貯まらない。

 取り敢えず、ギルドで適当な近場の依頼を見繕う事にした。



 冒険者ギルドの依頼ボードを見るが、物の見事に依頼が無い。

 と言うのも、現在は収穫期の終わりに当たり、森に生息するモンスターも活動が緩やかに落ちて行く時期になると言う。

 この後、冬になり、モンスターの多くは冬眠したり、越冬の為に別の地域に移動したりする。

 冒険者が一番暇になり、ある意味で一番忙しい時期。


 なにせ、依頼が無いので、どんな小さい依頼でも取り合いになってしまうからだ。


 併設してる酒場の方では、ゴブリン退治を賭けて男達がアームレスリングを開始し、現在乱闘中。

 それを横目に見ながら、残っている依頼を確認する。


 採取系は当然あるが、この時期は大部分が既に枯れ始めているので、採取自体が難しい。

 他には鉱石集めがあったが、これが銀級にランクアップしている。

 と言うのも、鉱山近くに越冬目的のモンスターがやって来る為、危険度が上がるからだ。

 それ以外だと…水路掃除とかゴミ集めとか、雑用くらいしかない。


 こうなれば、適当な採取依頼で街の外に出て、鉱山付近で討伐するしかないかなぁ…


 そんな事を考えていたら、後ろから肩を叩かれる。


「何を考えてるかは予想出来ますけど、駄目ですからね?」


 アイナがそう言って抱えていた書類を渡してくる。

 軽く目を通すと、誰かの護衛依頼のようである。


「詳しい話をしますので、奥にどうぞ」


 アイナに連れられ、ギルドの奥の部屋に案内される。

 現在の依頼が減った状態で、あそこで話し始めれば暴動が起きるだろう。


「さて、今回は王牙さんに指名依頼がありまして…」


「待て、確か指名依頼は銀級からじゃなかったか?」


 確か、ギルドが発行している初心者向けの紹介本に、指定依頼についても書いてあり、最低でも銀級からとか書いてあった気がする。

 俺の今のランクはまだ銅級だ。


「えー……実は別に銀級からじゃなきゃ指名出来ない訳じゃないんですね」


 アイナが詳しく説明してくれる。

 別に銀級未満を指名してはならないと言う事は無く、実力的には銀級からが望ましい、という事だけらしい。

 なので、今回の様に銅級の俺でも指名される事は不思議ではないと言う。


「それに、王牙さんの実力は銅級に収まる物では無いですからねぇ……」


「まぁそれはともかく、どんな依頼なんだ?」


「はい、内容はこの街から王都まで、ある人物を護衛すると言う依頼ですね。ただ、今回はマキーシャさん達にも指名が入ってますね」


 教会絡みかと思ったが、マキーシャ達以外にも二名追加されているらしい。

 かなり厳重だが、そこまで護衛が必要な人物って誰だ?


「肝心の護衛対象の情報は?」


「ある貴族の御嬢さんなのですが…その貴族がギルドの支援者らしくて、ギルドマスターも無下に断る事も出来なかったみたいで…」


 ふむ、教会絡みではないみたいだな…


 若干、胡散臭い気もするが、今は気にしている事もあまりできない。

 護衛期間は、サガナ街から王都までのおおよそ一週間。

 そして報酬は、一人おおよそ銀貨300枚。

 移動方法は、俺達冒険者は徒歩で、護衛対象は馬車でとなる。

 出発予定は明後日の昼なので、当日の朝にギルドに集合する事になる。


 その他諸々は自前で準備する事になる。

 既にマキーシャ達は依頼を受諾しているらしい。

 これは受けない方が悪いだろう。


 アイナに依頼を受諾する事を伝え、準備を整える。


 まず、食料だがこれは確実に自前で用意する。

 この世界の食事事情はあまり宜しくなく、味気無いからな。

 インベントリにパンや野菜を用意して突っ込んでおく。


 この世界に来てから、インベントリとストレージに付いても幾つか実験を行っている。

 ストレージは、現在は取り出すだけで収納は出来ない。

 これは、実験時には拠点が完成していなかったので、出来なかっただけと考えているが、もし、拠点にストレージボックスを設置しても収納できなければ、ただ取り出すだけの物になってしまう。

 まぁそれでも十分助かるが……

 インベントリに関しては、収納物の時間経過は存在しないらしく、鍋でお湯を沸かし、それをインベントリに収納して数日後に取り出してみたが、沸いた状態のままだった。


 つまり、インベントリに入れた物はその状態を維持し続ける。

 ただし、物限定で生物(いきもの)は収納出来ない。


 そうして、水樽や食料を大量にインベントリに収納し、一旦屋敷に戻り、いつも来ているジャケットを脱いで別の上着を用意する。

 流石に一週間もの間、野営をするのにジャケットは不向きだ。

 今回用意したのはロングコート状の外套だ。

 色は汚れが目立たない様に黒い物を用意してある。

 野営道具も用意して、ザックに突っ込んだ所で準備は完了した。


 そして、今はベッドに腰掛けてメニュー画面を見ている。

 今回の依頼だが、タイミングも考えると流石に胡散臭い。

 それを踏まえて今回は万全な準備が必要だ。

 今までは拠点が出来ていなかったので考える事も出来なかった。

 だが、今はその拠点がほぼ完成し、身分証に関してもどうにかなるだろう。


「よし、やるか」


 そう呟き、俺はシステムのある項目をタップした。



 そして、当日の朝。

 壁に立て掛けてある武神棍を手に取り、荷物を詰めたザックを背負う。

 食料や野営用の消費品に関しては、余裕を持って10日分を用意して置いた。

 ただし、ザックではなくインベントリに収納してある。

 流石にザックに全て収まる量ではないのだ。


 背に武神棍、腰に武神刀を装着し、冒険者ギルドの前にやってくると、マキーシャ達と見慣れぬ二人組が立っていた。

 一人は黒毛の狼獣人の男で、身体の要所に金属鎧を装備し、背には幅広の刃のグレートソードと、左腕に小さい盾を装着している。

 もう一人は金髪のエルフの女性で、皮鎧に弓矢を背負っている。

 鑑定眼で見た限り、二人共装備している武具はそこそこのレベルだ。


「アンタが噂のレコードブレイカーか」


 狼獣人が腕組みしながらそう聞いてくる。

 いや、そんなの初めて聞いたんだが…


「銅級でありながら、ランク上の依頼を事も無げにクリアしていくから、『記録破り(レコードブレイカー)』」


 エルフの女性がそう説明してくれる。

 成程、確かに最近は大人しくしていたが、最初の頃は実験も兼ねて結構暴れたからなぁ…


「俺はガリーノ。コイツはメルフィだ」


「メルフィ=レナンド=ブレグナントと言います」


 狼獣人がガリーノ、エルフの女性がメルフィか。

 二人共魔法を使えるようだし、バランスは良いのだろう。

 マキーシャ達との組み合わせで考えるなら、かなり安定しているだろう。


「まぁこの面子なら大抵の事には対応出来るだろうし、気楽にやろうかね」


 マキーシャがそう言うと、リョウとシシーが頷く。

 メンバー同士の挨拶を済ませると、やはり、マキーシャ達はサガナ街での活動期間は相当長いのだと思い知らされる。

 全員で野営時の対応を決めているが、マキーシャ達の意見をガリーノ達が素直に聞いている。

 一応、見張りは二人組でローテーション、時間は魔力を籠めると三時間光るランタンを使用する。

 ただし、何かあった場合は全員を叩き起こして対応する。

 俺はマキーシャ達と見張りを組む事になった。

 食事は朝と夜の二回、基本的に夜に進む事はせず、安全第一で王都を目指す。


 そうして話をしていると、ギルドからアイナが出て来る。

 その後ろには、いかにも貴族と言う感じの男と、お嬢さんと言う感じの少女が立っていた。


「それでは、彼等が今回の護衛となりますので」


「うむ、それでは王都まで我が娘の護衛、頼んだぞ」


 そう言う男は父親らしく、後ろの少女が頭を下げる。

 そして冒険者ギルドの横に待機していた馬車に少女が乗り込む。


「それじゃ、前にアタシとリョウ、左右にシシーとメルフィ、後方にガリーノと王牙で良いかね?」


 このメンバーの中で、一番経験豊富なマキーシャが手早く配置を決める。

 恐らく、場馴れしているマキーシャが前面を警戒、左右は感覚の優れたエルフのメルフィが警戒、後方は嗅覚の鋭い狼獣人のガリーノが警戒すると言う事だろう。

 寧ろ、このメンバーで対応出来ない事態というのは考えたくない。


 サガナ街を出発し、馬車は何も無い平原を進む。

 探知レーダーには小型モンスターがちらほらいるが、どれも襲ってくる気配は無い。

 流石に昼間の平原で襲ってくるようなモンスターはいないか…

 今日の予定では森の手前で野営し、次の日の昼間に森を通過して王都を目指す。

 途中の小川で水を補給し、可能であればモンスターを狩猟して食料も確保する。


 そして、問題無く馬車は進み、森の手前に到着する。

 辺りは既に暗くなり始めている為、急いで各自が野営の準備を始める。

 シシーとメルフィが簡易ながら料理を作り、マキーシャとリョウが馬車の馬に餌を与える。

 俺とガリーノは周囲の地面に金属の棒を突き刺して、モンスター避けの結界を張る。

 このモンスター避けの結界、弱いモンスターは嫌がって近付かないが、ある程度の強さのモンスターなら気にせずにやってくる。


 今夜のメニューは、干し野菜と干し肉のスープに黒パンと、焙った干し肉。

 スープには塩と若干の香辛料を使っているので、不味いという訳ではないが物足りない。

 こういう所は出汁の文化を持ってる日本人には辛い所だ。

 ちなみに、馬車の御者が料理を出来るようで、貴族の少女は専用の食事が用意されており、馬車の中で食べている。

 どんな料理なのかは不明だが、俺等より悪い物ではないだろう。


 そうして最初の夜。

 初日はマキーシャとリョウが最初に見張りをし、次に俺とシシー、そしてガリーノとメルフィと言う順番になっている。

 本格的に寒くなってはいないのでテントは張らず、ザックから毛布を取り出しそれに包まる。

 そして一応、木に寄り掛かって仮眠する。

 横になったら本格的に寝てしまうからだ。



 最初に気になったのは鼻に残るような甘い匂い。

 そして、探知レーダーでこちらに迫る大量の赤い点。


「全員起きな!魔獣が来たよ!」


 マキーシャの掛け声で棍を手に取る。

 そして、シシーとメルフィが、魔法の灯りを四方に飛ばして光源を作った。

 最初に現れたのは、フォレストウルフの群れ。

 数は10頭弱くらいいるかな…

 だが、問題なのはその後だ。

 モンスター避けの結界を張っているにも関わらず、赤い点が森の方からまだ此方に向かってきている。


 これ、何匹来るんだよ…


「シシーとガリーノ、メルフィは馬車の護衛、アタシ達はコイツ等を片付けるよ!」


 マキーシャの指示でガリーノ達は馬車の前に移動し、マキーシャがフォレストウルフの群れに突っ込む。

 振るった斧でフォレストウルフの2頭が斬り飛ばされ、リョウの剣が追加で1頭を斬り捨てる。

 俺の棍が更に2頭を叩き殺すが、フォレストウルフの様子が明らかにおかしい。

 まるで俺達を無視する様に、馬車の方に向かっているのだ。


「コイツはどうなってんだい!」


 マキーシャが更に1頭を斬り捨てるが、既に半分近くが馬車の方に向かっている。

 メルフィの放った矢が2頭を足止めし、シシーの魔法が更に2頭を仕留める。


「ソードスラッシュ!」


 ガリーノがグレートソードを振ると、剣から白い剣撃が飛んで3頭のフォレストウルフを斬り飛ばす。

 確か、『ソードスラッシュ』はソード系の初期スキルだったな。

 だが、フォレストウルフを数匹まとめて倒せるなら、相当レベルは高い筈だ。


 これで13頭倒したが、森から追加がどんどんやってくる。

 いや、本当にどうなってるんだよコレ。


「一体何頭いるんだコイツ等!?」


 ガリーノがグレートソードの腹でフォレストウルフを叩き飛ばす。

 だが、その隙にフォレストウルフの1頭がガリーノの片脚に喰らい付く。


「俺を舐めんな!」


 ガリーノが喰らい付いたフォレストウルフを殴り飛ばし、体勢を立て直す。

 だが、どう考えても数が多過ぎる。


「地爆陣!」


 棍の先で地面を薙いで一筋の線を引き、返す一撃で地面諸共前方のフォレストウルフを薙ぎ払う。

 これで5頭程巻き込んだが、焼け石に水と言った所だ。

 探知レーダーには、森から続々と赤い点が迫ってきているのが確認出来る。

 マキーシャ達も既に指示を出せるような状況ではなく、向かってくるフォレストウルフを倒すだけで手一杯な状態だ。

 そんな中、メルフィは矢を放ち続けていたが、遂に矢筒に入っていた矢が尽きてしまい、矢を取ろうと伸ばした手が空を滑る。

 そして、矢が尽きた事に気が付いて、慌ててワンドに持ち替えようと、馬車に立て掛けてあったワンドに手を伸ばす。


「メルフィ!横だ!」


「しまっ…!」


 その隙を突いてフォレストウルフの1頭がメルフィに飛び掛かっていく。 

 ガリーノが気が付いたが、距離が離れすぎているし、戦技を使おうにも二人の位置的に使う事は不可能だ。

 シシーも既に魔法を放った後の為、援護する事も出来ず、こちらも援護するには距離が離れすぎている。

 少しでもダメージが軽い内に助けられるように短剣を引き抜き、フォレストウルフに向かって投げようとした瞬間、馬車の陰から青い点が現れた。


鬼炎撃(きえんげき)!」


 繰り出された拳がフォレストウルフの横腹を打ち抜き、吹っ飛ばす。

 そして、吹っ飛んだ先で別のフォレストウルフにぶち当たり、殴り飛ばされた方から青白い炎が噴き出し、弾き飛ばされた方を巻き込んだ。

 現れたのは黒い髪に黒い瞳の少女。

 全員が呆気に取られている中、現れた少女は赤い棍を構えた。


「助太刀するよ!」


 そう言ってフォレストウルフの群れに突っ込んで行った。




面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります

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