第104話
目の前でハンマーを横薙ぎに振るう鎧。
しかし、大振り過ぎて欠伸が出そうですな。
旦那様から与えられた私の名前は『炎尚』。
老骨ではありますが、旦那様は私を信用し、この場を任せて頂けました。
神楽と共に、旦那様に幾年も御仕えしております。
当然、神楽が本当の姿を持っていますように、私も持っております。
気軽に使う事は旦那様から禁止されておりますが、今回は問題無いでしょう。
さて、塵掃除を済ませてしまうとしましょう。
「神威さん、炎尚さんだけであの数は無理なんじゃ……?」
マドゥーラがそう言いながら、倒れている騎士の一人に回復ポーションを飲ませる。
神威はリルの背にある鞄から、いくつもの小瓶を取り出しては重傷の騎士達にぶっ掛けていた。
「んー? 問題無い無い」
神威が軽く言いながら、騎士にぶっ掛けて空になった小瓶を鞄に戻す。
別の騎士の状態を確認し、新しい小瓶を取り出してぶっ掛ける。
一見すると手荒な方法だが、死ぬよりマシである、という事で神威は重傷者には飲ませる前にぶっ掛けて、ある程度簡単に治療しているのだ。
治療を開始した当初は、それを見た鎧が襲い掛かって来ていたが、大門の上からジーナ達の狙撃によって周辺にいた鎧は全て沈黙している。
「だって父様が一番戦いたくない相手が……」
神威が言葉を言い終わる前に、炎尚がいる場所で連続した爆発が起こる。
一度後方に引いていた鎧達が、炎尚に向けて火砲を連射しているようだ。
そして、爆発が収まり煙が晴れると、その場には似付かわしくないモノが現れた。
それは、大きな金色の球体。
爆炎に晒されていた筈なのに、傷一つなく焦げ跡すらない。
鎧の数体が剣を引き抜き、球体に近付いていく。
その後ろで鎧が火砲を構えつつ、警戒する。
剣を構えた鎧が、剣先で球体の表面を突いた瞬間、金属が叩き付けられたような音が響いた。
グラリと剣を持った鎧が倒れ、火砲を構えていた鎧達が慌てて火砲を撃つ。
しかし、火砲から放たれた火の球は球体に到達する前に爆発し、轟音と共に鎧達が真横に吹き飛ばされた。
球体から金色の尻尾が生え、ユラユラと揺れている。
「さて、次は誰が御相手をして下さるのですかな?」
球体の表面に筋が現れ、ゆっくりと開いていく。
それはやがて金色の翼となり、現れたモノの背で広げられている。
全身は金の鱗で覆われ、その背に4枚の翼を広げ、長い尻尾を揺らし、頭からは後方に伸びる2本の角。
化物が戦場に現れた。
「馬鹿な……竜人は遥か昔に絶滅したはず……」
鎧達に指示を出していた男が呟く。
古代に存在した最強種の一つであり、今では伝承や口伝に残っている程度の存在。
今でも何処かで生き残っていると言う噂があり、賢者殿も一時期探していたが、結局、噂は噂だと結論付けていた。
そんな存在が目の前にいる。
伝承では、その力は鋼をも引き裂き、その鱗はあらゆる攻撃を跳ね返すと言われている。
その伝承通り、魔導兵装が攻撃を加えても平然としており、逆に魔導兵装は攻撃されてパーツが引き千切れていく。
「どうしたら良いんですか隊長!?」
火砲を連射している魔導兵装から聞かれるが、我々の目的はアレの相手では無い。
戦力を最低限残し、残りは全てサガナに向かわせるのがベストだろう。
「お前達はサガナへと向かえ! アレの相手は私がする!」
剣を抜いて魔力を送り込むと、輝きを放って目の前に専用の赤い魔導兵装が現れる。
他の魔導兵装が銀色なのに対し、私の魔導兵装は赤く輝いている。
魔導兵装の装甲に使用している魔法金属に、耐久力を上げる実験で火属性の魔鉱石を加えた結果、防御力が上がった上に色が変色したのだ。
能力が上がったのは良かったが、魔力消費量が上がっており、気軽に使用出来ない為、隊長格の人物だけが所有を許されている。
背面から乗り込み、剣を右のスロットに差し入れる。
コレで、魔導兵装の安全装置が解除され、初めて戦闘が可能になる。
「竜人! 私が相手だ!」
背に固定されている剣と盾を持ち、竜人に向けて突っ込む。
武器の剣も特注品であり、同じ魔導兵装の装甲でも楽に切り裂く事が出来る。
その剣を金の竜人目掛けて振り下ろす。
例え伝承通りの防御力といえど、このパワーと剣の威力が合わされば、無事ではすむまい。
戦場にバギンと鈍い音が響き渡る。
振り下ろした剣は、翼の一枚で止められていた。
しかも、骨がある部分ではなく、薄い筈の翼膜の部分で。
「ば、馬鹿な……傷一つっ!?」
「ふむ、最後に一つ、間違いを正して起きましょう」
そう言いながら、竜人が翼を広げる。
剣をフルパワーで押し込んでいるのに、あっさりと押し返されてしまう。
「私は、竜人ではなく、龍人ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、龍人の姿が霞む。
そして、魔導兵装に凄まじい衝撃を受けた。
一気に吹き飛ばされ、地面を転がる。
何とか停止し、魔導兵装の腹部を確認すると、ダメージを受けた装甲がベコリと凹んでいた。
それを見て、ゾクリと背筋が凍る。
もし、通常の魔導兵装であれば、今の一撃で胴体部が吹き飛んでいただろう。
「おや、随分と頑丈ですな」
蹴りを放った龍人が意外そうに言いながら、周囲を見回している。
俺に構い続けている間に、部下達はサガナへと向かっている。
どうやら時間稼ぎは成功したようだ。
「少々被害が出るかもしれませんが、仕方ありませんな」
そう言うなり、龍人が翼を広げる。
広げられた翼をよく見れば、その周囲に何やら金色の粉の様な物が舞っていた。
それが徐々に集まり、薄い三角形を形作っていく。
これはまるで、黄金に輝く小さい鱗である。
「全て撃ち貫け『龍連鱗弾』」
周囲に浮かんでいた無数の黄金の鱗が、一気に周囲に飛び散っていく。
鎧の一体が盾を構えて受け止めようとしたが、まるで薄紙に針を刺したように、鱗が簡単に貫通して鎧を襲った。
その鎧は悲惨な事になっていた。
鎧達は穴だらけになり、搭乗者達も同じように蜂の巣となってしまっているだろう。
しかし、多少の指向性を持たせてはいても、鱗は無差別に飛び散っているようで、大門の前で治療中の騎士達の方へも少しは向かっていた。
「に、逃げろっ!」
「ひぃぃぃっ!?」
それに気が付いた騎士達が、我先にと逃げ出そうとするが、怪我が完全に治っていない状態である為、そのスピードは普段よりも遥かに遅い。
騎士達に鱗が到達するその瞬間、上空から巨大な黒い影が飛来する鱗と騎士達の間に落ち、持っていた巨大な剣の巻き起こした剣圧が、鱗諸共、地面の土砂を吹き飛ばした。
土煙が晴れた時、そこには抉れた地面に突き刺さる巨大な剣と、黒い巨人が立っていた。
リアルが大変立て込んでおりまして、本年度の更新はコレで最後になるかと思われます
次回更新は新年あけてからの予定となっております
それでは、気長にお待ちください
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