第103話
サガナに向け、飛空艇から連続して火球が撃ち出されるが、その全てが半透明の盾に防がれる。
タイミングをずらしても防がれているのでは、副砲ではこれ以上攻撃しても意味は無いだろう。
「主砲を準備せよ」
「アレは……サガナを占領した後、奪還に来た王国軍へ使用する予定では……」
部下の一人がそう言うが、王国軍が来るまでに再充填すれば問題無い。
それに、王国軍が来たとしても、魔導兵装軍だけでも十分だ。
そう伝えると、部下が主砲室へと発射準備を伝えた。
飛空艇が左舷に突き出していた副砲を収納し、ゆっくりとサガナに艦首を向けていく。
飛空艇に装備されている武装の中で、一番の威力を誇るのはやはり、巨大な主砲だろう。
ただ、威力があり過ぎて反動が凄まじく、バリスタの様な回転機構を使用出来ずに完全固定されており、艦首直線状にしか撃てないと言う欠点はある。
実験では、10%の威力で直撃した龍鱗素材の盾を貫通する程の威力があり、完全に充填されていれば山すら消し飛ばせるだろう、と研究者達が言っていた。
これなら、あの忌々しい半透明の盾でも破壊出来るはずだ。
主砲を向け終わり、サガナに向けて発射しようとした瞬間、何かがサガナの上空へと一直線に飛び上がった。
それが一瞬だけ空中で止まると、一瞬でこちらに向かって来る。
そして、艦橋の真横を掠めて通り過ぎて行き、凄まじい衝撃で艦橋が震えた。
「今のは何だ!?」
「判りません! アレが速過ぎて目視確認出来ません!」
「直ぐに確認させろ! 両舷副砲再展開! 甲板バリスタも全部使って構わん!」
飛空艇の両側から再び副砲が突き出される。
甲板上では複数のバリスタに兵士達が張り付き、専用の矢を装着していく。
そして、飛び去った何かを警戒し、飛空艇はその場に停止した。
甘く見ていた。
コイツのフルパワーだと、見てから操作するのは不可能だ。
何せ、見えたと思った瞬間には通り過ぎてんだもん。
完全に通り過ぎた艦橋を見て、大きく旋回させる。
「マッハいくつくらい出てんだ……」
風の結界と衝撃吸収の結界を常に張っているから、自覚は無いが確実に音速は超えている。
「もう少しスピードを落とすぞ」
その言葉で、スピードが徐々に落ちていく。
そして、改めて飛空艇を確認する。
見た目は帆の無い大型木造船。
ただし、甲板には艦首に向けて物騒な巨大な筒が置かれている。
多分、アレは主砲か何かだろうが……碌なモンじゃないのは確実。
「さて、早くぶっ壊さんと地上がヤバイな」
地面の方を見ると、騎士団は壊滅状態で銀色のデカイ鎧達に蹂躙されている。
あのサイズからしてあのデカイ鎧はゴーレムだろうが、それにしては動きがスムーズ過ぎる。
まぁ、アレは後で確認しよう。
どうせ、炎尚が回収してくるだろう。
「さて、それじゃ迅雷、ゴーッ!」
「キュォォォォン!」
銀に輝く一角龍が両翼から蒼白い炎を噴き上げ、一気に飛空艇へと向かった。
まさに地上は地獄絵図。
騎士団は壊滅状態になり、流れた血や臓腑で大地は赤黒くぬかるみ、飛び散った肉片を踏み締めて銀色の巨大な鎧が進む。
追い付いた騎士達に向け、巨大なハンマーが振り抜かれ、騎士達が拉げて血飛沫を飛ばし、骸が地面に叩き付けられる。
無謀にも槍を突き出した騎士は、槍が刺さらず、その横手から剣が振り抜かれて両断されて臓腑が飛び散る。
魔術師達も様々な魔法を使用するが、直撃しても大したダメージにはなっていないようで、接近されてどんどん数が減って行っている。
壁の上からは強化バリスタが発射されるが、鎧の持つ盾に弾かれ、直撃したとしても碌なダメージを受けていないようで、すぐに立ち上がる。
そして、反撃として火砲が撃ち込まれて、強化バリスタと近くにいた騎士が吹き飛ばされる。
「も、もう嫌だぁっ!」
「逃げろぉぉぉっ!」
後方にいた魔術師達が、我先にと逃げ出し始める。
逃げ出し始めた騎士や魔術師達を、アダムスは見たが止める事はしない。
何せ、アダムス自身も逃げようとしているからだ。
最早、サガナに勝ち目は無い。
サガナを守っているあの謎の盾も、そのうち消えるだろう。
そうなれば、サガナはこの鎧共に蹂躙され、その時、サガナに残っていれば……
そう考えた時、アダムスの頭には、家にある持てるだけの財宝を持ち出し、サガナから逃げる事しか思い浮かばなかった。
馬をサガナに向けようとした時、その馬に吹き飛ばされた騎士が衝突し、アダムスが放り出される。
地面に落ちた時、ベシャリと嫌な音がする。
アダムスが慌てて立ち上がろうとしたが、目の前には巨大なハンマーを構えた鎧。
死。
そう思った瞬間、ドゴンと凄まじい音が響き、鎧の胸部が大きく凹んでいた。
ゆっくりと、鎧が仰向けに倒れて大きな地響きを立てた。
「い、一体……何が……」
「何とか、間に合いましたな」
その声にアダムスが振り返ると、そこには戦場にはいる筈のない老執事が立っていた。
そして、その傍らには、巨大な銀狼と年端のいかない少女が二人。
「御嬢様方は他の方々の救助を御願い致します。 私はあのガラクタを片付けてきますので」
「おっけーおっけー、こっちは任せて」
老執事が少女にそう言って一礼すると、まるで平時の様にゆっくりとした足取りで歩いていく。
少女達の方は、銀狼が背負っていた鞄から大量の小瓶を取り出している。
アダムスが呆然としていると、少女の一人が巨大なゴーレムを召喚して、近寄って来た鎧を殴り飛ばしていた。
殴り飛ばされた鎧が起き上がった瞬間、再びドゴンと音が響き、その胸部はまたも大きく凹んでいた。
それから暫くドゴンドゴンと連続した音が響き、周囲で動いていた鎧達は全て倒れ伏していた。
サガナの大門の上で、長い銃身から硝煙を上げる対物ライフルを戦場に向けたジーナが最後の一発を撃ち込む。
少し離れた所にいるラナとミナキも、同じ様にラストショットを終え、スコープで戦場を確認する。
「コレで後はお任せかな?」
「と言っても、残弾0だからどうしようも無いけどね」
「それじゃ、掃除して戻るよっ」
ジーナの掛け声で、ラナとミナキが箒と塵取りを手に取る。
そして、足元に散らばっていた薬莢を全て回収し、それを預かっていた魔法袋に入れていく。
完全に回収を終えた後、その魔法袋に対物ライフルも収納して、その場から撤収していく。
ジーナ達が炎尚から任された任務はただ一つ。
周辺のゴミ掃除が終わったら、屋敷に戻って夕御飯と御風呂の準備をしておく事。
神威達の周囲にいた鎧掃除を終えた彼女達は、屋敷に戻って準備をし、主人達が戻るのを待つのだ。
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります