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第102話




 目の前で爆発が起きる度、重装騎士達が粉々に吹き飛ばされて、臓腑と血糊を撒き散らす。

 当然、重装騎士が耐えられない攻撃を、通常の騎士が耐えられる訳が無い。

 重装騎士が居なくなった場所から、どんどん奥に攻撃が通って、騎士達が物言わぬ肉塊へと変わっていく。

 運良く……いや、運悪く生き残ってしまった騎士達は悲惨である。

 確実な致命傷を受け、逃げる事も出来ないまま、死だけを待つのだ。


「と、突撃せよ! 懐に入ってしまえばあの攻撃も出来まい!」


 アダムスが指示を出したが、騎士達は動けなかった。

 接近するまでに、重装騎士が消し飛んだあの謎の攻撃を喰らえば確実に死ぬ。

 確実な死を前にして、誰もが動けずにいた。




「ふむ、やはり連続使用では照準がズレるか……」


 着弾点を見て、思わず呟いてしまう。

 賢者殿が開発したこの『火砲』は、一撃の威力は高い上に、弓矢よりも遥かに遠くから攻撃が可能になっている。

 だが、相応の弱点が存在するのも事実であり、その一つが短時間での連続使用を行った場合、射線が安定しないのだ。

 賢者殿が言うには、『素材が悪いせいであり設計には何の問題も無い』らしい。

 それでも、この『火砲』を一つで、通常の兵士装備の十倍近い金額が掛かる。

 更に言えば、現在は魔導兵装で運用出来るサイズで、これ以上小型化が出来なかった。

 賢者殿は、これを人が持てるサイズまで小型化する、と言っていたが開発者達の話では無理だと言う。

 正直に言えば、こんな物を作る前に兵士への装備を充実させて欲しい。

 帝国の兵に支給される装備は、素材の品質から大抵質が悪い。

 最も、獣王国の保有していた鉱山を接収出来た事で、良質な鉱山資源が手に入るようになった為、質は上げられるようになるだろう。


 これ以上は無駄だな。

 鉄壁と呼ばれたサガナの重装騎士に対し、『火砲』は十分威力を発揮して蹂躙出来た。

 後は……


「こちら地上、重装騎士は一掃出来た」


 懐に入れてあった小さな箱を取り出し、その側面にあったボタンを押しながら、下部にあるメッシュに向けて話し掛ける。

 暫く待つと、箱から『一時後退せよ』と指示が来る。

 これで次の段階に進むのだ。




「見よ! あの攻撃は長時間出来ぬようだ!」


 騎士達の見ている前で、筒を向けていた全身鎧が筒を戻し、後退していく。

 それを見て、アダムスが声を上げた。

 だが、先程までの恐怖に囚われた騎士達は動けないでいた。


「だ、団長! 飛空艇が!」


 後方で待機していた魔術師隊の一人が、そう言いながら空を指差していた。

 そちらに目を向ければ、徐々に飛空艇が高度を落としているのが見える。

 その様子を見て、アダムスはチャンスだと考えた。

 重装騎士達を失ったのは痛いが、飛空艇(アレ)を落とせば、相手は補給も出来ず、数で圧し潰せる。

 そして、後方には対飛空艇対策として、強化バリスタと投石器を用意してある。


「よし、投石器準備! 魔術師隊は術式を展開せよ!」


 ゆっくりと投石器の照準が合わされ、撃ち出しの部分に縄で縛り付けられた油壷が置かれる。

 そして、その隣では魔術師隊の3人が一列に並んで詠唱を始めている。


「発射ぁッ!」


 アダムスの掛け声で、投石器が唸りを上げて油壷を打ち上げた。

 一つ目が飛空艇の横を通過したのを確認し、二つ目、三つ目と油壷を打ち上げては修正していく。

 そして、四つ目が打ち上げられ、これは当たる、とアダムスは勝利を確信した。


 油壷が、その手前でまるで壁があるように砕け散るまでは。




「クハハハッ! あの騎士の顔を見ろ! 我々が何の対策もしていない訳が無いだろうに!」


 艦長と呼ばれていた男が、唖然としていたアダムスを見て笑った。

 飛空艇の周囲には目に見えない膜があり、帝国では『物理障壁』と呼ばれている防御システムである。

 これにより、物理的な攻撃をある程度は全て防ぐ事が出来るのだ。

 実験では、『火砲』程度なら十分に耐えられる。


「では、お返しはしなければな、左舷副砲準備!」


 艦長の指示で飛空艇がゆっくりと旋回し、左側面をサガナに向けた。

 そして、その側面に数か所の穴が開き、そこから筒が突き出される。


「目標、サガナ! 撃てェッ!」


 艦長の掛け声と共に、左舷の筒から爆音が響く。

 そして、撃ち出された砲弾が煙の尾を引きながら、サガナへと飛んで行った。




 飛空艇から発射された砲弾が、サガナに迫るのをアダムスは唖然と見ていた。

 当初の作戦では、重装騎士で地上を抑え、飛空艇を炎上させて強化バリスタで撃沈させる筈だった。

 だが、実際には重装騎士は壊滅、更に飛空艇は無傷。

 そして、今、サガナに向けて重装騎士を壊滅させた攻撃が向けられている。


 夢だ、コレは夢だ……


 余りの状況に、アダムスは現実逃避をした。

 周囲では魔術師隊が飛来する砲弾に対し、準備していた魔術を放つが、早い上に小さい為に当たらない。

 強化バリスタはそもそも、旋回速度が遅い為に追い付かない。


 そして、サガナに飛来した砲弾が炸裂した。


 壁の手前で。


「……は?」


 アダムスが唖然と炸裂した場所を見た。

 そこには、巨大な金色に輝く透明な盾が浮かんでいた。




 領主邸の尖塔の上で、神楽が金色に輝く盾を掲げている。

 その姿は、能力を開放した状態の熾天使モード。

 そして、先程の砲弾を防いだのも、神楽の能力の一つであった。

 その名を『審判の盾(アイギス・シールド)』。

 使用者の技量によっては、あらゆる攻撃を防ぐ事が出来る強力な範囲防御スキルである。

 ただし、発動中は常にマナを消費する為、基本的には長時間使用する事は出来ない上、発動者は攻撃が出来ない。

 最も、能力解放状態の神楽の場合、一日中でも余裕で発動可能ではある。

 神楽にとっては、自身に命じられた作業を熟しているだけなのだが。




 明かりを付けた工房を進み、目の前の布を剥がす。 

 そこで半起動状態のゴーレムを、召喚した零式に持ち上げさせ、その胸部を操作して開放する。

 胸部は簡単に開かない様に、特定の色が違う鱗を順番に操作する事で初めて開くのだ。

 まず、外殻部分が中央から左右に開き、内部装甲が下に開いていく。

 そして、蛇腹の様な膜がシャッターの様に上部へと引き上げられると、そこにはポッカリと空洞が現れた。

 ここが魔石(サブコア)収納スペースである。


 神威から譲り受けた魔石は、純粋に力だけを引き出す様に魔法陣を刻み終えている。

 魔石をこのスペースに配置すると、周囲からパーツが迫り出し、魔石を完全に固定する。

 シャッターが下り、装甲が元に戻っていく。

 零式がゴーレムを元の位置にゆっくりと戻したのを確認し、召喚を解除した。

 そして、システムを呼び出して確認すると、何故か、新しく製作していたこのゴーレムの表示が消えている。

 魔石を接続する前までは、ちゃんと表示されていたのを確認している。

 つまり、この異世界の魔石を接続した事で、システムから切り離された?

 謎ではあるが、今は考えている暇はない。


「さて、それじゃ派手に試運転といくか」




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