第101話
騎士達が大門に集結し、慌ただしく動き回っていた。
この壁の上に、ある程度分解したバリスタを運び、そこで再度組み立て直す。
その際に、スプリング等を強力な物に変えて飛距離と威力を上げる。
ただし、これは無理な改造である為、本体にもダメージが蓄積し、今回の迎撃戦を終えれば使い物にならなくなると、改造を担当したドワーフが言っていた。
更に、兵器庫で埃を被っていた投石器も引っ張り出し、使える様に整備し直す。
この投石器も、昔は帝国が攻めてきた際に使用された物だったが、ここ十数年は使用されず、倉庫の中に放置されていた物だ。
コレで油壷を撃ち出し、飛空艇に当てれば威力が弱くなっていても、燃え上がって一網打尽に出来る。
あの冒険者風情に言われずとも、対策など簡単に考えられる。
尖塔から確認する限り、飛空艇とやらの速度はそこまで速い訳ではない。
確かに高い位置にいるが、投石器の過去の実働情報から、十分に届く高さだ。
後は、生き残った雑魚の相手をし、飛空艇の残骸を調べれば終わり。
「クックック……さぁ、私の手柄の為に早く来るがいい……」
自然と笑みが浮かぶが、仕方無いだろう。
前の騎士団長はアレだコレだと口煩かったが、暗殺された。
コレは騎士団長にあるまじき不手際になる。
それを考えれば、直ぐにでも私が正式に騎士団の団長に抜擢されるだろう。
そして最後の一手として、あの飛空艇を落とせば十分な手柄になる。
何より、落ち目の帝国兵など数がいた所で、我が精鋭騎士団にはなんの問題も無いのだ。
アダムスが徐々に迫る飛空艇を見ながら、自身の輝かしい未来を夢見ていた。
飛空艇の後部から何かがバラバラと落ちていき、空中で布が広がってゆっくりと地上に落ちていく。
「艦長、魔導兵装隊130人、全員投下完了しました!」
「指示通り、高度戻します」
その言葉通り、徐々に飛空艇の高度が上がっていく。
「主砲、副砲、対魔法障壁チェックせよ」
「了解」
椅子に座っていた兵士の一人が、備え付けられた管の蓋を開け、指示を伝える。
それ以外の兵士は、壁に備え付けられた計器を見ながら、各々、割り振られている操作を行う。
「さて、帝国の受けた積年の恨み、受けるが良い」
艦長と呼ばれた男がそう呟き、笑みを浮かべた。
地上に到着してまずやる事は、落下傘の処分である。
手早く回収し、火を付けると勢い良く燃えて跡形もなくなる。
使い捨てとはいえ、結構勿体ないと感じてしまうのは、自分が貧乏性なのだろうか。
「少し流されたか……」
落下傘を処分した後、周囲に仲間がいない事から、自分だけ風で若干目標地点からズレたらしい。
コンパスを取り出し、位置を確認してから合流地点に急ぐ。
小走りで森の中を進むと、数名の仲間と合流できた。
どうやら、ズレたのは自分だけではなかったらしい。
「落下傘は結構流されるな……戻ったら報告せねば……」
やっと部隊に合流して隊長に報告すると、そんな事を言っていた。
自分達は、正式に認可されてるとはいえ、まだまだ実験部隊に近い。
その為、配備されている鎧や武器も、試作品と言う意味合いが強く、全員の服装はダークグリーンで統一されている。
模擬戦や今回のような実戦のデータを元にして、後続の部隊や兵装はどんどん高性能になっていくのだ。
「……よし、全員集合したな。 では、これよりサガナに侵攻する!」
隊長の号令で、全員が一斉に歩き出す。
そんな自分達の上には、飛空艇イプシロンが浮かんでいる。
自分達が全滅したとしても、空を飛ぶイプシロンを落とす事は不可能だ。
最も、ただの兵士が自分達を倒す事も不可能だろうが……
騎士達が大門の前に並び、その後ろに魔術兵が集まる。
集まった騎士は500、魔術兵が200。
サガナの兵士は1000程いるが、今回は街の中で待機になっている。
これはアダムスの要請であり、自分達の作戦をスムーズに遂行する為、と言っているが、実際には手柄を騎士団で独占する為に、邪魔な兵士を排除する為の方便である。
当然、兵士側もそれは理解しているが、サガナにいる騎士は国の配属であり、サガナにいる兵士達より命令系統としては上位に位置している。
その為、殆ど逆らう事が出来ず、命令に従うしかなかった。
そして、大盾と槍を構える騎士達の前に、森の中からダークグリーンの制服に身を包んだ団体が現れた。
その数としては、騎士達と比べて圧倒的に少ない。
せいぜい100いるかどうか。
それを見て、アダムスの口元が吊り上がる。
あの程度の数であれば、楽勝である。
さっさと片付けて、飛空艇対策に集中するとしよう。
「現在、サガナは魔獣襲撃を退けた後であり忙しいが、其方は何用か!!」
一応、馬に騎乗したままでアダムスが声を掛けると、一人の男が前に出てきた。
見た目は、他の面々と変わらないが、唯一、腰に剣を下げている。
「知れた事、王国に虐げられ続けた我等が蜂起する為、手始めに落としに来たまで!」
そう言って、男が剣を抜き、その切っ先をアダムスに向けた。
「コレは正当なる権利である!」
「ふざけるのも大概にせよ! 全員斬り捨ててくれるわ!」
アダムスが手綱を引き、騎士達の中央を通って急いで後方に移動する。
そして、最前列にいた重装騎士達が巨大な大盾を構え、ゆっくりと前進を始めた。
それに対して、男は剣を頭上に向けた。
「全員、搭乗せよ!」
その掛け声で、男達がショートソードのような剣を引き抜き、前面に翳した。
瞬間、そのショートソードの刀身が光を放つ。
騎士達が慌てて大盾を地面に据え置き、防御態勢を取り、後ろにいた他の騎士達が足を止めて同じ様に防御姿勢を取る。
光が収まった時、男達のいた場所には銀色の巨大な全身鎧達が並んでいた。
騎士達が見上げる程に大きく、その手にはタワーシールドと呼ばれる大盾を持っているのと、巨大なハンマーを持っている物がいる。
だが、それらよりも奇妙な物を持った一団が中央にいた。
盾もハンマーも持ってはおらず、その両手には奇妙な筒を持っているだけ。
その筒を、大盾を構えて防御態勢を取っていた騎士達に向けた。
「火砲隊、斉射!」
頭上に向けた剣を騎士達に向けて振り下ろしながら、男が指示を出した。
そして、騎士達に向けられた筒の先端が一気に爆音を響かせ、大盾を構えていた重装騎士達のいる場所で巨大な爆炎が噴き上がった。
最初、その騎士は爆発が起きた後、何かが兜に叩き付けられ、衝撃で思わず尻餅をついた。
余りの爆音でしばらく耳がおかしくなっていたが、徐々に戻っていくのを感じながら、兜に付いた泥のようなモノを拭った。
自分の前には、王国が誇る重装騎士達が、相手の謎の攻撃を受け止めている。
前回の帝国との戦いでは、当初は帝国側に押されていたが、重装騎士達が到着した後、その防御を崩す事が出来ず、徐々に押し返されていき、遂に撃退に成功した程である。
今回もそう考えていた。
兜を拭った手を見た瞬間、それが間違いである事を知ってしまった。
「……は?」
その手は真っ赤に染まっていた。
面白いなーとか続きを読みたいなーと思ったら、ブックマーク・評価してくれると、作者がすごく嬉しくなります