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第99話




「おまっ天使じゃないって言っとったじゃろ!?」


 クックがそう言いながら王牙に詰め寄る。

 しかし、王牙としては一切嘘を言ったつもりはない。


()天使だからな、天使ではない」


「屁理屈か!?」


 クックの言う通り、これは屁理屈である。

 元々目立つ事はしたくなかったが、今回の場合は仕方無いと割り切っている。

 最も、領主であるゲオルグに恩を売っておき、後で今回の事は揉み消そうとは考えている。

 そんな光景を見ながら、神楽が背中の羽根を消した。


「取り敢えず、神楽達の事は後で話すとしてだ、正体不明だが確実に敵となるナニカが接近してるのは確からしい」


「その……それはどういう感じなのだ?」


「あぁ、それは俺も聞いておきたい」


 ゲオルグの問いに王牙が同意し、神楽がしばらく考え込む。

 そして、『薄ら寒い何か黒いモノが徐々に近付いてくる』と言う返事が返って来た。

 ただ、今回の場合は一つはかなり大きい上に、それに小さい何かが取り付いている感じらしい。


「……龍がワイバーンでも引き連れて来たか?」


「御言葉ですが、その程度で脅威とは言えません」


 王牙の呟きを、神楽がバッサリ切り捨てる。

 彼等にとって、龍やワイバーン程度は脅威でも何でもない。

 事実、神楽は複数現れたワイバーンをあっさりと倒している。


「しかし、眼が良ければそろそろ肉眼でも見えるのではないでしょうか」


 神楽がそう言うのとほぼ同時に、部屋の扉が激しくノックされた。




 時は少し戻り、領主邸にある尖塔の頂上。

 そこでは、三人の兵士が交代で定期的にサガナの周囲を確認している。

 彼らの任務は一早く周辺の異変を察知し、下にいる騎士達に知らせる事だ。

 その為、彼らの視力はかなり良く、定期的に試験も受けさせられる。


「しかし、あのメイドさんは凄かったな」


「ここじゃ見た事無いから、新しく来る子かな?」


「いやいや、あの身軽さからして、実は領主様の子飼いの密偵だったりしてな」


 そんな事を話し合いながら、各々が窓から周辺を確認する。

 サガナは魔獣の襲撃があり、防衛力はガタ落ちしている。

 彼等が異変を見逃せば、それはそのままサガナ崩壊の危険性を持つ。

 それを理解している為、尖塔に勤めている兵士達は普段よりやる気を出している。


「ん? ……なぁ『遠見の筒』貸してくれ」


「どうした?」


 遠見の筒と言うのは、所謂『単眼鏡』である。

 壁に掛けられている単眼鏡を受け取り、兵士がそれを覗き込む。


「……………」


「……おい、どうしたよ?」


「いや、流石に疲れてるんだなって思ってよ……」


 言いながら単眼鏡を受け取り、先程まで見ていた方を眺める。

 そして、ソレ(・・)を見付けた。


「……ぇ? アレ? 何だ??」


 それを見た兵士も我が目を疑った。

 遥か遠くの空に、本来ならあり得ない物が見えたのだ。

 アレは、本来こんな所にある事は無い。

 しかし、徐々に止まっていた思考が動き出し、緊急事態であると判断した。


「す、直ぐにゲオルグ様に報告! 急げ!」


「お前は監視しててくれ! 報告に行ってくる!」


 一人が慌てて階段を下りて行き領主邸に向かい、残った二人は単眼鏡を覗いている兵士が、詳しい方角を早口でもう一人に伝え、詳しい進路を割り出していく。

 もしも、サガナに近付いてこないのであれば、警戒するだけで済むのだが……


 最も、その願い空しくソレ(・・)はサガナに向かってきていた。




「何? 船?」


「はっ! 船が徐々にサガナに向けて接近しています!」


 部屋にやって来た兵士が、ゲオルグに報告を行う。

 本来、来客中に報告するのはマナー違反だろうが、緊急事態である。


「所属は?」


「まだはっきりとは見えていないので不明です!」


 その言葉でゲオルグの表情が曇る。

 所属不明の船がサガナに迫っている事は問題ではない。

 それを確認する前に、報告に来た事が問題なのだ。


「川を下ってきているのであれば、首都からか魔王領からであろう? まずは確認をだな……」


「違います! 船は……空を飛んでいるのです!」


 ゲオルグの苦言を遮り、兵士がそう言い放った。

 部屋が一瞬、静寂に包まれる。


「お前なぁ……船が飛ぶ訳がないだろう?」


「本当です! 船が空を飛んでいるのです!」


 それを聞きながら、王牙の脳裏には一つのアイテムが浮かんでいた。

 この異世界に来た際、召喚アイテムだったが使えず、ストレージに保管され続けているとあるアイテム。


「……もしかして飛空艇……か?」


「なんじゃ、その『ひくーてい』とか言うのは」


 隣に座っているクックが、王牙の呟きを聞いて尋ねる。


「名前通り、空を飛ぶ船の総称なんだが……」


 王牙が呟きながら、知り得る限りの情報をクックに説明する。


 ゲームの飛空艇はただの移動手段だったが、現実に存在するのであれば、その有用性は抜群だ。

 まず、何よりもその輸送能力。

 魔法袋を利用すれば、大量の物資を一度に運ぶ事が可能な上、障害物があろうと空が飛べれば一直線で行けるのだ。

 最も、飛行能力のある魔獣もいる為、絶対安全とは言えないのだが……

 そして、制空権を抑えられた場合、地上に安全な場所は存在しない。


「しかし、あんなん作れる技術力があるってのはどこだ?」


 王牙の知識からすれば、ゲームにあった飛空艇を作るのは不可能に近い。

 その一番の理由が、船を稼働させる動力源が判らないという事である。

 ゲームでは、どの飛空艇も動力炉に通じる道は無く、ユーザーは一切確認する事が出来ない。

 そして、動力源についての詳しい設定は存在せず、非常に重量のある飛空艇を浮かせて飛ばし、周囲の影響を受けない為、結界を張り続けるという性能を発揮する。

 それを考えれば、この異世界で飛空艇を作った組織は、かなりの技術力を持っている事になる。


「ふーむ、実際に見てみるしかないの」


 クックがゲオルグ達の方を見ながら立ち上がる。

 そして、口論している二人に近付くと、実際に確認してみようと提案し、ゾロゾロと尖塔の方へ移動する。

 途中、護衛として騎士達も合流しつつ、尖塔に到着した。


 まずはゲオルグとクックが尖塔に上り、物見の兵士達の説明を受けた後、実際に確認する。

 その後、ゲオルグと王牙が交代し、クックの指示した方角を見た。


 肉眼ではゴマ粒くらいの大きさだが、単眼鏡で確認すると確かに船だった。

 見た目は帆船の帆が無くなっただけの形状だが、飛空艇であれば帆は不要だ。

 兵士の話では、間違いなくサガナに向けて接近しているとのことだ。

 クックと共に下に降り、これからの事を話し合うという事で先程の部屋とは別の部屋に案内された。


「神楽、嫌な気配ってのはあの飛空艇からか?」


「……はい、間違いないようです」


 神楽が眼を閉じて再確認してから、はっきりと答えた。

 これは、少々気を付けなければいけないだろう。




年末に近付き、リアルが非常に忙しくなってまいりました

今年は非常に厳しいっ


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