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第9話




 オーク退治はサクっと終わった。

 指定数は5頭だったが、普通に群れが出来始めていたらしく、最終的に12頭いた。

 オークは全身余す所無く素材になる為、武神棍で叩きのめした後、そのままインベントリに収納。

 冒険者ギルドに持ち帰って買い取ってもらう。

 1頭で大凡銀貨5枚。

 そして、群れのリーダー格だったのが、オークウォーリアーと言う進化種だったので、銀貨10枚に増えた。


 ちなみに、アイナから怒られた。

 曰く、単独なら問題無いが、群れが出来ていたのなら一度戻って報告し、パーティーで挑むようにと言う事だ。

 いや、これにはちゃんとした理由がある。

 最初、普通に数頭の少数だったのだが、あれよあれよと言う間に増えてったんだよ。

 最終的に、群れのリーダーだったのであろうオークウォーリアーが出て来たので倒したんだが……


 取り敢えず、そう弁明はしておいた。

 だが、何故かアイナは頭を抱えていた。


 その後、報酬の銀貨を受け取る。

 討伐報酬で65枚、依頼報酬で20枚の合計85枚。

 その内、60枚を屋敷の修繕費としてテンドラムに払って置き、残りはインベントリの皮袋に入れる。


 そして、今日はマキーシャ達と幽霊屋敷の依頼達成と言う事で祝杯を上げている。

 併設してある酒場でやる案もあったのだが、マキーシャ達から却下された。

 なんでも、今回の依頼はかなり色んな所で噂になっているらしく、あまり目立つような事は避けた方が良いらしい。

 なので、面接にも使った最初の個室を利用している。


「そんじゃ、依頼達成を祝して!」


 マキーシャがそう言って、エールが注がれている木のカップを掲げる。

 この世界にもガラス製のコップはあるが、技術的にまだ発展途上で普及はしていない。

 特に冒険者ギルドの様に使用頻度が高い所では、未だに木で出来たカップが普通だ。


 今回の祝杯費用は全員の割り勘だ。

 エールを飲み干し、運ばれてくる料理を食べる。

 オーク肉を焼いた物から見た事無い野菜。

 味付けは若干薄いが、どれもそこそこ美味しい。


「しかし、これ貰って良いのかい?」


「別に問題は無いだろ」


 マキーシャが言うのは、今回の為に準備した武器の事だ。


 と言うのも、魔法が付与された武器と言う物は早々入手出来ない。

 聞けば、王都なんかの大型の街に行って、宮廷魔術師クラスの『魔法付与者(エンチャンター)』が気紛れに作った物が、稀に店で並ぶ程度らしい。

 それ以外では、『迷宮(ダンジョン)』での宝箱や、モンスターからのドロップ品くらいでしか、魔法付与された武具は存在しない。

 そんな状況で自在に魔法付与出来る男がいると判明すれば、間違いなく狙われるだろう。


 なので、俺が自作したが、もう存在しない『錬金術師が手に入れて研究していた武器』として手に入れた事にする。

 後の事は知らん。


 そうして食事をし、あの時はどう動けばいいか、使うべき魔法や対処法を話していると、何やら外が騒がしくなってきた。

 酒場を併設しているから、そこで喧嘩でも始まったのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「いつもの喧嘩でしょうか?」


「それにしては酒場の方じゃないみたいだけど…」


 シシーとリョウがそう言うと、部屋の扉が勢い良く開かれた。


 そこに立っていたのは、白いローブを着た集団。

 見た感じ、ローブはシシーの物と似ているが、微妙に違う。

 その全員が、腰に細剣(レイピア)と短いロッドを提げ、首には捻じり合った蛇のような銀と金が使われた揃いのネックレスを付けている。


「教会の連中が何の用だい?」


 マキーシャの問いには答えず、全員がずかずかと部屋の中に入ってくる。

 そして、最初に入ってきた男が笑みを浮かべながらこちらを向いた。

 この男、見た目は赤毛で優男風だが、その身のこなしから明らかに戦闘慣れしている感じがする。


「申し訳ありませんが、あの幽霊を全て浄化した方々と言うのは貴方達で間違いありませんか?」


「どの幽霊だか知らないが、聞きたければ最低限名乗るモンじゃないか?」


「…失礼しました。我々は教会に所属していまして、私はジャロイ=ダグと申します」


 俺の言葉に、優男の片眉がピクリと反応し、思い出したかの様に名乗る。

 しかし、何か問題だったんだろうか。


「街外れにある屋敷にいた幽霊なら、確かに俺達が殲滅したが何か問題でも?」


「…いえ、問題という訳ではないのですがね…あれ程の幽霊達をどうやって浄化したのか気になりまして…」


「別に珍しい事はしちゃいないよ。片っ端から倒しただけだ」


 大半のゴーストはシシーの魔法で一掃したんだが、別に『片っ端から倒した』事に間違いはない。

 詳しく説明するのが面倒なだけだ。


「しかし、彼女達はともかく、貴方は教会で祝福を受けていないと報告を受けましたが?」


 その言葉で、マキーシャ達を見る。

 すると、彼女達の視線はどっちかと言うと、『行ってないの?』 という感じだ。

 どうやら、行かねばならなかったようだが…どんな意味があるんだ?


「悪いが、そういう事は知らなくてな、次があったら寄る事にするさ」


「…いえ、それはどうでも良いのですが…あの屋敷で何か手に入れた物があれば、教会の方で浄化するので提出していただきたい」


 この場合、手に入れた物と言うのは彼女達が持っている武具だけだ。

 ジャロイの言葉で、周囲にいたローブの男達が数人前に出て来る。


「それにどんな意味があるんだ?」


「アレだけ大量の幽霊がいた場所ですので、万が一呪われていたら危険ですから、教会の方で調べ、浄化してからお渡しするのですよ」


 ジャロイの言う事は一理あるが、彼女達の武器は元々俺の自作品だから、万が一なんてあるはずが無い。

 だが、それを言う訳にもいかないしなぁ…


「今、彼女達から武具を取り上げたら、仕事が出来なくなるんじゃないのか?」


 あの後、マキーシャ達は今まで使っていた武具を処分したのか、持っていなかった。

 この場で武器を持っていかれたら、返却されるまで彼女達が仕事が出来なくなってしまうだろう。


「…仕方ないですねぇ…おい」


 ジャロイが仕方なさそうに言うと、扉の奥から別の男達が入ってくる。

 その手には複数の武器を持っていた。

 それを料理が置かれているのとは別の机に置いた。

 どれも見事に磨き上げられ、見た目はかなり上等な武具だ。


「お渡しするまで、此方を特別にお貸ししましょう。それなら問題無いでしょう?」


「……問題大有りだ。馬鹿じゃねぇのか?」


 俺の言葉にジャロイの表情が凍る。

 その周囲にいたローブの男達の動きも一瞬だが止まる。


「…この武器は皆、上位の神官戦士が使う上等な物を、特別に用意した物です。それに一体どんな問題があるのか…愚鈍な私に教えてもらっても?」


 その言葉でシシーの方を見ると、彼女も頷いている。

 成程、確かに見た目はかなり上等な武具に見える。

 だが、俺の鑑定眼は誤魔化せない。


「何が上等だ…そんな破損寸前のクズ鉄武具なんざ使える訳ねぇだろ」


 俺の言葉で完全にジャロイの表情から笑みが消える。

 そう、コイツ等が置いたのは見た目だけ立派で、中身はボロボロのクズ鉄武具。


 その名も『ボロ鉄』シリーズと言う詐欺武器だ。

 ゲームでは、ストーリーの中盤辺りに登場するのだが、見た目は確かに立派で、いかにも高級そうな武具として存在する。

 ただし、その能力は酷い。

 まず、デフォルトで付与されているのが切れ味鈍化から始まり、耐久劣化、刀身劣化、威力弱化とあらゆる弱化性能が付いている。

 それも全部の付与レベルがLv9と異常に高い上に、数度使うと完全破損してしまう。


 まさか、そんな物をここに来てみる事になるとは思わなかった。


「何なら、ギルドにいる鑑定士に鑑定してもらうか?」


 その言葉で、周囲の男達が動揺し始めているのを確認する。

 それを見て、コイツ等の魂胆が見えてきた。

 机に置かれたボロ鉄武具は、斧と剣が二振り、盾に杖。

 つまり、俺達の武具の数と同じ、まぁ俺のは剣では無く刀なんだが…

 恐らく、俺達の武具を回収した後、呪われていたとか何とか理由を付けて没収する魂胆だったんだろう。


「良いでしょう、鑑定士に頼んで鑑定してもらいましょうか」


 ジャロイがまるで勝ち誇ったかのように言う。

 こりゃギルドの鑑定士もグルの可能性があるな……


「それじゃ、悪いがギルドマスターも同席してもらおうか」


「…何故ですか?」


 俺の言葉にジャロイが尋ねる。

 その言葉は、ギルマスを呼ばれるのは明らかに予想外と言った感じだ。

 流石にあのギルマスまでグルという事はあるまい。


「中立の立場だからだ」


 そうしてやってきたギルドの鑑定士のオッサンとギルドマスターのクック。

 彼等にやってもらいたい事を伝えると、鑑定士は横目でジャロイとクックをチラチラと見ている。

 このオッサンは今、自分はどっちに付くべきか考えているのだろう。

 鑑定士のオッサンが斧の鑑定を終え、次に剣の鑑定を始める。


 まぁ俺としてはどっちに付こうが関係無いし、もし彼女達の武具を持っていかれたとしても、別の武具を用意すれば良い。

 材料はまだストレージ内に大量にあるしな。


 そして、全ての鑑定が終わったのか、鑑定士が一息吐く。

 さて、この鑑定士のオッサンはどっちの味方に付くのか……


「結果はどうだ?」


 クックが腕組みして聞く。

 その言葉はかなり威圧が籠められているので、もし不正がバレたらこのオッサンは立場を無くすだろう。


「…そちらの冒険者が言うように、コレ等はクズ鉄で作られた粗悪品です……が、全て偽装の魔法が掛けられており、見ただけでは上等武器と誤認してしまうようになっておりました……」


 そう言って、オッサンが額に浮いていた汗を拭う。

 つまり、俺が言ってる事は正しいが、教会側に悪意があった訳ではない、という事にしたいらしい。

 確かに、変なトラブルになるより、その方が良いだろう。


「…部下の失態、これは失礼しました」


「間違いは誰にだってあるモンさ」


 ジャロイはそう言うが、決して頭を下げない。

 その笑みの下にある眼は明らかに、こちらを敵視しているように睨んでいる。

 このままだと彼女達が危険だな…

 少々早めに手を打った方が良いだろう。


 武具を回収するにも彼女達を丸腰にする訳にもいかず、ジャロイ達は渋々と言った感じで部屋から出て行く。

 鑑定士とクックもそれに続いて出て行く。

 それを見届け、マキーシャが廊下を確認してから扉を閉める。


「一時はどうなるかと思ったよ」


 マキーシャが戻ってきて椅子に座る。

 残っていた料理は大半が冷めてしまったが、喰えない事は無い。


「でも、よくあの武器がクズ鉄で出来てるってわかりましたね。偽装もされてたみたいなのに…」


「偽装なんて掛かってないよ」


 リョウの言葉に簡単に返事を返した。

 俺の言葉にシシーの表情が固まる。

 教会関係者には耳が痛い話だろうなぁ…


「ありゃ、鑑定士もグルだ。今回はギルマスのクックがいたから、教会側にも責任が無いって事にするんで、あんな事言ったんだよ」


 その証拠に、クズ鉄武具は全て教会側が持ち帰っている。

 これでは、本当に偽装の魔法が掛けられていたのか、知っているのは鑑定した鑑定士自身だけになる。


「そんな…どうして…」


「まぁ…簡単に考えれば口封じだな」


 俺の言葉で彼女達が此方を見る。

 考えれば簡単だろう。


 もしも、クズ鉄武具と知らずに交換し、そのまま依頼に出れば確実に途中で武具が壊れただろう。

 そうなれば、武具を持たない冒険者は助からない。

 完全犯罪になるだろう。


「俺達と言うか、俺は完全に教会の面子を潰した事になるからな。教会としては何としても排除したいだろうし」


 教会はあまりに多くのゴーストを浄化し切れず、浄化を断念した。

 それが数年続いていたのを、ノービスを含む銀級冒険者数名が全て退治してしまった。

 そんな事をされれば、教会側が手抜きをしていたのでは無いか、と噂が立つだろう。

 しかも、そのノービスは教会を利用すらしていないのであれば余計だ。

 なので、ゴースト退治をした冒険者に難癖を付けて武具を没収し、クズ鉄武具に交換する。

 後は勝手にモンスターが掃除してくれる上、教会側は、実はあのゴースト退治をしたのは教会の者達でその証拠がこの武器だ、と発表する。

 後は教会を信望している民衆が勝手に勘違いしてくれる。


 この後、彼女達に一応注意するように伝えて解散となった。

 さて、どうなることやら……




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