雪降る頃に
しんしんと雪が降る。
指先が思うように動かずスマホを出す気力さえない。足元に注意しながらいつもの道を歩く。
ふと周りを見渡すとピンク色の傘を広げ、くるくると回転しながら空を見上げる少女がいた。
去年よりも雪の勢いが強いというのにその少女は爛々と目を輝かせている。
そういえば、僕はいつから雪を鬱陶しく感じるようになったのだろう?
昔は雪が積もると雪合戦ができると友達と大いに喜んでいたが、今では電車が止まるかもしれないなどと危惧している。
それを知り大人になったーーではなく、子供ではなくなったと感じた。
いつまでも子供のままではいられないとは重々承知しているのだが、やはりあの頃に戻りたいと思ってしまう。
だが僕の心情が変化して世の中は変わらない。受験はなくならないし、就職活動は避けては通れない関門となる。
白い吐息を漏らしつつ、その少年のように空を見上げてみると急に視界が歪む。後頭部に痛みが走ったところでようやく自分が転んだのだと悟った。
誰もがそんな惨めな僕を見て見ぬ振りをしていく中、一人だけ手を差し伸ばしてくれた。それはあの少女で心配そうにこちらを見つめている。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
大丈夫だよと答えると少女はニッコリと笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんも雪が好きなんだね?」
何のことかと聞いてみるとどうやら空を見上げていたところを目撃していたらしく、自分と同じだと思ったらしい。
「雪ってね、冷たいけどキレイだし楽しいよね。ほら、これワタシがつくったの」
小さい手を広げ、その上にウサギの形をした雪を見せてくれた。不細工だがその愛くるしさは伝わってくる。
「大人の人はみんな雪がキライだって言うけど、雪は悪くないの。だからお兄ちゃんもキライにならないで」
確かに雪に罪はない。
僕らはこの苛立ちを何かのせいにして自分を保とうとしているだけなのだ。責任転嫁、罪の押し付け合い。人間とは実に愚かしい。
けど、この少女のように純粋な者もいる。果たして僕はどちらに分類されるのだろうか?
「痛いの良くなるようにこれあげるね」
そっと雪のウサギを手渡すと少女は雪道を物ともせず走り去る。
貰ったは良いがこのウサギは持って行くわけにもいかない。仕方ないので踏まれないような場所を見つけて、そこに置いてやる。
まだ後頭部の痛みは引かないが休みわけにはいかない。帰りにまたこのウサギに会えることを祈りつつ、僕は雪道は進むことにした。