表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪降る頃に

作者: 和銅修一

 しんしんと雪が降る。

 指先が思うように動かずスマホを出す気力さえない。足元に注意しながらいつもの道を歩く。

 ふと周りを見渡すとピンク色の傘を広げ、くるくると回転しながら空を見上げる少女がいた。

 去年よりも雪の勢いが強いというのにその少女は爛々と目を輝かせている。

 そういえば、僕はいつから雪を鬱陶しく感じるようになったのだろう?

 昔は雪が積もると雪合戦ができると友達と大いに喜んでいたが、今では電車が止まるかもしれないなどと危惧している。

 それを知り大人になったーーではなく、子供ではなくなったと感じた。

 いつまでも子供のままではいられないとは重々承知しているのだが、やはりあの頃に戻りたいと思ってしまう。

 だが僕の心情が変化して世の中は変わらない。受験はなくならないし、就職活動は避けては通れない関門となる。

 白い吐息を漏らしつつ、その少年のように空を見上げてみると急に視界が歪む。後頭部に痛みが走ったところでようやく自分が転んだのだと悟った。

 誰もがそんな惨めな僕を見て見ぬ振りをしていく中、一人だけ手を差し伸ばしてくれた。それはあの少女で心配そうにこちらを見つめている。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 大丈夫だよと答えると少女はニッコリと笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんも雪が好きなんだね?」

 何のことかと聞いてみるとどうやら空を見上げていたところを目撃していたらしく、自分と同じだと思ったらしい。

「雪ってね、冷たいけどキレイだし楽しいよね。ほら、これワタシがつくったの」

 小さい手を広げ、その上にウサギの形をした雪を見せてくれた。不細工だがその愛くるしさは伝わってくる。

「大人の人はみんな雪がキライだって言うけど、雪は悪くないの。だからお兄ちゃんもキライにならないで」

 確かに雪に罪はない。

 僕らはこの苛立ちを何かのせいにして自分を保とうとしているだけなのだ。責任転嫁、罪の押し付け合い。人間とは実に愚かしい。

 けど、この少女のように純粋な者もいる。果たして僕はどちらに分類されるのだろうか?

「痛いの良くなるようにこれあげるね」

 そっと雪のウサギを手渡すと少女は雪道を物ともせず走り去る。

 貰ったは良いがこのウサギは持って行くわけにもいかない。仕方ないので踏まれないような場所を見つけて、そこに置いてやる。

 まだ後頭部の痛みは引かないが休みわけにはいかない。帰りにまたこのウサギに会えることを祈りつつ、僕は雪道は進むことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ