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8 修行パート(3)

まだまだ続く修行パート(という名の説明)

個人的に、少年漫画では修行シーンが一番好きなんです・・・・

界〇星とか宇宙船の中とか最高



 フレイムさんとの手合わせの後、私は強くなることについて真剣に考え始めた。

 いや、今までも真剣だったんだけど。今度はよりそのイメージが具体的になったという感じだ。


 今までは強くなる指標があやふやだった。

 だが、フレイムさんと手合わせをしたときから、。彼が私の目標になった。


 弱さを克服し、ハンデを逆に利用する。


「弱いからこそ、強い」


 矛盾しているようだが、それが私の求める強さのイメージとなった。




 あれからも夜の間はフレイムさんの自宅で訓練を続けさせてもらっているが、特にやることは変わらない。

 フレイムさんは座って見ているだけだ。

 いや、関係は割とフレンドリーになったと思う。訓練の合間に「やはり才能がないな」「うっさい」みたいな軽口を言い合うし。

 この前なんか飲み物まで用意してもらったし・・・。


 でもフレイムさんが直接指導(?)してくれたのはあれっきりだった。

 そういえばまだほかの勇者もまだ真面目に訓練していた時も、フレイムさんが何か指導しているところを見たことはない。

 ・・・・・もしかして何か事情があるのだろうか?


 まさかただ日々忌々しく思っている勇者の一角を叩きのめして悦に入るため・・・・。

 なんて理由なわけでもあるまい。


 ほかの騎士だったら、あるいはそうだと思ったかもしれない。

 というか当然だ。

 私たち勇者はこの世界、その現地人から見れば何をなすでもなくただただ日々を自堕落に過ごし。

 そのくせ自分たちには高圧的な態度をとる気に入らない輩、といったところだろうし。

 立場ゆえに表面化しないが、その内には煮え切らない不満がたまっていることだろう。


 だから腹いせに・・・・。

 という論推になりそうだが。



 それはないと思う。



 フレイムさんとは会って時間がたったわけでもない。

 それどころか、個人的に話したこともここ数日だけで。その内でも語らった総計はもしかしたら1時間にも満たないかもしれない。


 まだ、人間の人格を判断するのは時期尚早といえるような段階だが。

 私はフレイムさんのことを信用に足ると判断した。


 信頼できる人だ、と。


 理論とか理由とか、そういった確固たるものは何もない。

 ただ単なる「勘」としか言えないあやふやなものだが。とにかく私は彼のことを信じることしたのだ。


 そう決めた。

 もし裏切られたとしても。それはそれだ。

 見る目がなかったと、笑うしかない。

 


 だから、フレイムさんが意味のないことをするはずはない。

 そう思う。


 私の好きな漫画の言葉に、

「その一言には100の意味を込めた。その100内、10でも伝わればいい」というようなものがある。


 その漫画を読んだのは数年前で、詳細はあやふやになってしまったが。

 あの立ち合いには、何か。様々な意味があった。


 それを読み取れるかは私次第。

 私がフレイムさんの意図を理解できるか次第。

 その意図を活用できるかも・・・。


 ま、それは私の希望的観測で。

 あるいはただ単に、意外と茶目っ気があるとわかったナイスミドルのお遊びかもしれないという可能性はあるのだが・・・。

 それでもいい。

 冗談で何か得られるならば儲けものだ。

 瓢箪から駒。冗談を本当にすればいいだけだ。


 まあ、冗談がやはり冗談でしかないと分かった瞬間。

 これ以上ない滑稽な図になってしまうのだけれど・・・・。




 まあ、それはそれとして。

 あの立ち合いで私が感じたこと。

 その1つ目。

 つまりは私が感じた彼の強さについて、だ。



 手合わせのフィニッシュブロー。

 『盾』のスキル効果、『シールドバッシュ』。

 これは本来、敵との間合いを取る際。あるいは味方のアシストをする際に使う。

 威力よりも吹き飛ばす、動きを封じるということに重点を置いた技のはずだ・・・。


 それがなぜ、あんなに強い威力が出ていたのか・・・?

 いや、ダメージは(・・・・・)ほとんどなかった。


 あの時確認した通り、あの攻撃は私のHPを1割ほどしか削らなかった。

 つまりダメージという観点では決定打にはならない。ほぼ無効なものだといえる。


 外傷もなく、ダメージもない。

 だが、食らった私は動けなかった。


 痛みで卒倒した。

 苦しみで悶絶した。


 これが実戦だった場合、のたうち回る間私を殺す隙がどれだけあっただろう。


 そういう意味でもあれは決定打だった。

 威力のない技に、私は殺された。


 それを実現したもの。

 可能にした要因。

 それはただ単に。技術、だろう。


 インパクトの瞬間、私の体へ正確に力を叩き込んだ。

 私の内側へと威力を流し。かけらも逃さなかった。


 あの一撃。

 それはともすれば見惚れてしまうほどに精錬された技。

 彼の並々ならぬ修練が垣間見える集大成。


 それがステータスという数字上のダメージを超えた、本当の威力を生んだのだ。


 例えるならば、

 勇者(私以外)の戦い方が弾数制限のないロケランを乱射するようなものだとすれば。

 彼は一発しか弾が装填されていない拳銃で、相手の眉間を正確に狙撃するようなものだ。



 圧倒的な火力の差。

 それを埋めるであろう技術をあの一撃から私は感じた。


 ・・・・・が。


(気づいたところで、一朝一夕でどうにかなるもんでもないなぁ・・・・)


 当たり前だ。

 そんなにあっさりと強くなってたまるか。

 それができるならは、まさしくズル(チート)だ。


 彼の一撃、それに匹敵するだけの技術を得るよりも。

 私がここから追い出されるほうが万倍早い。


(それじゃあダメなんだ。誰かを守れるなんて贅沢は言わない。せめて、私がここに居られる程度の実力を・・・・!)






「アゲハちゃん、まだ寝ないの・・・?」



 * * *



 ユリの声で、私は思考の渦から脱出する。


「あ、ああ。そうだな。もう夜も深いし。そろそろ寝よう」


 椅子に座り、片膝を抱えた体勢から立ち上がる。

 うん・・・と伸びをすると背骨がぽきぽきと鳴る。どうやらだいぶ長い時間そのままだったらしい。


 私たち二人はこの世界に来た日からずっと同じ部屋を使っていた。

 ちゃんと監督している騎士に許可を取ったし、掃除なんかは自分がやると言って付けられていたバトラーも外してもらった。

 今は完全に私たち二人の部屋になっている。


 この部屋でユリと一緒に過ごしている時が、この世界で唯一安らげる時間だ。

 ・・・・・なのに、自分の思考に集中して呆けているとは。

 我ながら、時間の使い方がなっちゃいないな。


 部屋の明かりを消し、ユリの待っているベッドへ入る。

 ちなみに、この部屋にはベッドは一つしかない。

 一部屋で同居するにあたって、最初ベッドをもう一つ増やすことを提案したのだが。そのことをユリは珍しく断固とした様子で拒否した。


 なんでも、私と一緒に寝たいのだそうだ。



 ・・・・・。

 この会話をした際、嬉しさのあまり慣れているはずのユリにすら「気持ち悪い」と言われてしまうくらいに顔をにやけさせてしまったことはここでは割愛する。




 まあ、正直ユリの提案は渡りに船というか。

 私としても望むことだったので異存はなかった。


 だって、一緒に寝るということはユリの自己主張の激しい二個のスライムボールがわっしの体に密着するということで・・・・・うへへへへへw。


 この世界に来てからというもの、毎日感じる桃源郷のような感触と芳醇なメスの香りに包まれ寝不足な日々が続いている。

 が、この毎日に不満などあるはずもない。

 強いてあげれば、この世界に来る以前はエロサイトを徘徊しながら行っていた毎日の「日課」がしづらくなったことだろうが・・・・。

 それもユリと一緒に寝ることへの代償だと思えば安いものだ。

 どうしてもという場合には、人気のないトイレにでも籠ればいいわけだし。

 ちなみに、ここ数日は以前なんとなく触らせてもらったフレイムさんの8パック腹筋の感触を想像してたりする。


 閑話休題。


「最近」

「ん?」

「アゲハちゃん、訓練がんばってるね」

「ああ・・・私もあせってきたというか。周りに迷惑かけないようにしないとって思って。じゃあ、不出来な私は他より努力しないといけないし」

「うん・・・・」


 はっきり言ってしまえば、訓練はつらい。

 これは訓練自体のつらさではなく。量を増やせば増やすほど、ユリとの時間が減ってしまうことへのつらさだ。


 先の通り、私にとってこの世界で唯一の癒しの時がユリと過ごすこの時間なのだ。

 それが減ってしまうのはまさに身も細る思いというものだ。


 だが、それでもやらなければいけない。

 出来損ないの私は人よりも努力しなければいけないし。


 私がここに居られる時間はそうないかもしれないから。


 先日フレイムさんから直接伝えられたのは、私への勇者としての最後通告というやつだった。


 この国の上層部が私の実力が勇者として不適切という結論をついに出し。その一存で私は今度の実地訓練で実力を認められるような結果を出さなければ、勇者としての立場をはく奪されることとなった。

 正直今まで待ってくれただけ寛大で。出来損ないだと判明した段階で追い出されなかっただけありがたいくらいだと思っていたが。ついにケツに火がついてしまった状況だ。


 そのことはユリも知っている。


「・・・・勇者じゃなくなったら、会えなくなっちゃうのかな・・・・」

「流石にそれは言い過ぎ。確かに位はだいぶ変わっちゃうし今よりも短い時間になるだろうけど、会えないわけじゃないよ」


 勇者といっても特に行動に制限があるわけでもない。

 現に他の勇者は毎日城下町を遊び歩いているわけだし。


「追い出されても。どっかで仕事見つけて細々と暮らしてるから、暇なとき会いに来てくれればいいさ」

「そんな、能天気に・・・・」

「気負ったって仕方ないって。どんな状況でもなるようになるし、なるようにしかならないって」


 だとしても、できるだけのことはするつもりだ。

 そのうえでそういった結果になってしまったのなら、それを受け入れるしかない。

 なるようにしかならないんだから。



「とにかく、ユリが心配することじゃないさ。もう寝よう、ね?」


 隣で横になるユリを強く、それでも優しく抱き寄せる。


「・・・・・・あ」


 手慣れた手つきで頭をなで、そのまま下へ。

 まるで子供をあやすように背中をさすった。


「おやすみ、ユリ」



 * * *



「やっぱり、寝つきいいな・・・」


 そのまま数分と経たず、ユリの呼吸は深いものになった。

 の〇太くんほどではないが異常な寝つきの速さである・・・。


 こうなるとユリはよっぽどでもない限り起きはしない。

 現に今、頬を指でつついても眉をひそめることもない。


 なんというか、10年以上の付き合いだが改めて知ったこの子の一面だ。


「よし・・・」


 私はゆっくりとベッドから抜け出す。

 ユリの体に回していた腕を解いた瞬間、寝つきがいいはずのユリの顔が若干ゆがんだような気がした・・・。


 そのことを申し訳なく思い、このままユリを抱きしめたまま眠ってしまいたい衝動にかられたが。

 誘惑に負けるわけにはいかない。


 断腸の思いでユリから離れた。

 こめかみを拳でコツコツと軽く殴り、茹ったような思考を鎮める。





 ここ数日、私は夜中寝る時間を削って訓練を行うようになっていた。


 といっても、真夜中の訓練は禁止されているため目立たないようにだが。

 もちろん訓練場を使うこともできないため、訓練はこの部屋で行っている。


 となると周りの人間に気づかれないように(何よりユリを起こさないように)、ひっそりと行わなければならない。


 ま、いま私の状況を見て訓練を行っているとはなかなか思わないだろうが。


「・・・・・・・」


 私は今、先ほどまで座っていた椅子。

 その背もたれの上に直立していた。


 ちなみに椅子は4本の足のうち、2本を床から離して斜めになっている状態だ。


 そのままスクワットをしたり、目をつむって片足立ちしてもバランスは崩れない。




 今使用しているスキルは『直立』。


 効果はシンプルで、足が地面あるいは立てるだけの足場についていればどんな体勢でも維持することができる。


 そう、「あの時」フレイムさんが使っていたスキルである。


 考えてもみればあり得ないんだよなぁ、あんな動き。

 上体を地面と平行までそらせるなんて。

 前の世界ではフィギュアスケート選手が似たような動きをしていたが、あれは両足を前後に開き身体を支える軸足を作っているから可能な体勢だ。


 1歩も動かずにあんな動きをするためには・・・・魔法でも使わない限り無理だろう。

 あるいは『スキル』か。


 ・・・・。

 こういう言い方をすると、なんだかすさまじいかのような気がするが。

 これは本当に無理な体勢を維持する「だけ」のスキルだ。


 その場から移動できないし、スキルを切った瞬間にバランスを崩すから高所の作業なんかにも使えない・・・。

 崖から落ちそうな時、その場しのぎに使うくらいしか用途がないだろう・・・。

 それも助けてくれる誰かがいないと、ずっとそのまま落ちかけの状態で止まっていることになるが。(そんな感じの怖い話が確かあったような・・・リピートリピートって繰り返すやつ)


 まあ、実際は使用している間じわじわと魔力(MP)を消費していくから結局落ちることになるんだけど。



 10分ほどそのまま『直立』を使い、スキルをならす。

 準備運動終わり。

 ここから本番・・・・!








 『直立』を使用したまま、私は『格闘』スキルを使用した。


「・・・・っ!」


 瞬間大きくバランスを崩す。

 それでも両手を水平に伸ばし、そのままの状態を維持するように耐える・・・・。


 た、耐え・・・・!


「うおっ」


 大きく体勢が崩れたところで、転倒する前に椅子から降りる。

 倒れて音を立てる前に、椅子を支えることも忘れない。


「3分ちょいってところかな・・・?」


 机の上に置かれた砂時計の砂の落ち具合で、椅子の上で耐えていた大体の時間を推測する。

 この世界にも機械時計はあるらしいのだが、馬鹿みたいに高価で個人が一つずつ持てるものではないため砂時計これでどうにかするしかない。(スマホのストップウォッチ機能が使えればいいのだが、充電が切れて既にただの板切れと化している)


「延びた・・・のかな?」


 正確な時間が分からないので、維持できた時間が延びたのか否かが判断しづらい。

 まあ、最初に比べたら今の結果は大分成長しているから着々と延びていると考えていいんじゃないだろうか。



 なにせ、時間を延ばす以前にそもそもできなかったんだから。









 ・・・・。

 そろそろ、私が何をしているのか説明する必要があるだろう。


 端的に言えば、『スキル』の練習で。

 正確に言うと、「複数のスキルを同時に使う練習」である。



 

 そういったものの、これには不明な点というか矛盾がある。


 スキルは同時に一つまでしか使用できないはずだ。



 これは私たち勇者の間では常識的な話だったし、実際私も試して出来ないことを確認済みだった・・・。

 が、そんな認識もフレイムさんとの手合わせで崩れ去った。



 フレイムさんはあの時確かに『盾』と『直立』の二つのスキルを使用していたからだ。


 私は魔力を体内で操る技術が高い影響で、体外にある魔力の感知することも割と得意だった。

 そのため魔力を消費して発動する『スキル』を感知することもできる。


 だからフレイムさんが2つのスキルを発動したことを察知し、

 


 もしかして複数のスキルを使用する方法があるかもしれない。

 と、考え至った。



 これが、私がフレイムさんとの手合わせで感じたこと。

 その2つ目だった。



 * * *



「はあ⁈んなことできんのか?」


 と、ここで回想は終わり。実地訓練の最中へと時間は戻る。


 私はここまでの内容をユリと鳴鹿にかいつまんで説明していた。

 ちなみにフレイムさんに直接手合わせしてもらったことは端折って、スキルの複数使用に関しても私が自発的に気づいたことにしている。

 これはフレイムさんに配慮しての行動だった。


 フレイムさんがほかの勇者に指導を施しているところを見たことがないから、私に指導したことが広まれば角が立つだろうと思うし。

 知っている技術を大々的に公表しないのは、しないことにそれなりの理由があるってことなんだろう。

 だったら私もこの技術をなるべく隠して、フレイムさんから教えてもらったことも公にしないべきだと判断したためだ。


 まあ、鳴鹿にあっさりバレた上に洗いざらい説明させられたわけだけど・・・・。

 私もその辺まだ未熟なのだ。許してほしい。


 ・・・・・誰に言い訳してんだろう?


「って、実際できてるんだからこんな質問は意味がないか」


 私に詰め寄ってきた鳴鹿だが、自分の質問を否定して身を引いた。

 そして何やら考える。どうやら質問を吟味しているようだ。


 頭のいい人ってむやみやたらに疑問を出したりせず、

 的確に疑問を解消する質問をする人だと個人的には思う。


 why(なぜ?)からHow(どうして?)に至るまでが早いと言えばいいのだろうか。


その例にもれず、鳴鹿は数秒で再度質問をしてきた。


「それは、私にもできるか?」






 スキルの複数使用を鳴鹿も使用できるかどうか。


 それに対し、端的に答えてしまえば、


「それは出来るけど・・・出来ないこと、かな?」


 ということになる。




「あ?てめぇふざけてんのか」

「すいません、真面目に答えます」


 睨まないでください、普通に怖いから。あと、私より数センチ高いタッパで迫られると威圧感すごいんですよ・・・。

 せっかく某少年漫画のセリフをもじったというのに。こいつカードゲームとか通らなかったタイプか?


「まあ、論より証拠。実際にやってみたらわかると思いますよ」


 私の言葉にいぶかしげな顔をしつつ、鳴鹿は槍を構えた。

 おそらく『神槍術』のスキルを発動したんだろう。


 そしてそのまま、スキルが停止した。


「出来ないですよね」

「・・・・ああ。二つ目のスキルを使うどころか、使ってたスキルも維持できない・・・。お前、本当にどうやってるんだ?」

「特別なことは何もやってないですよ。鳴鹿のやり方も何も間違ってないし」

「じゃあ、どうして私にはできないんだ?まさか才能の問題なんて言わないよな」


 そういうもんじゃない。

 そんなもの、私が最もないだろう。


「うーん・・・要領と容量の問題というか」

「んん?」


 ああ、またいぶかしげに睨まれた。

 こういう言葉遊びみたいな文章は嫌いなタイプか。


 前置きや口上なんて挟まず、間接に説明した方がいいだろう。


「何か簡単なスキル・・・・そういえば『察知』が使えるんでしたっけ。発動したあと、同じく戦闘系じゃないスキルを使ってみて」


 鳴鹿は眉をひそめながらも私の言うとおりにする(その辺素直だ)。


 そして、


「⁈」


 鳴鹿はあっさり2つのスキルを使用してみせた。

 すごいな。私の時はそこそこの慣れが必要だったんだけど。一発で成功させた。やっぱり私って才能ない?はっきりと差を見せつけられるとびっくりだ。

 まあ、本人が一番驚いているようだが。


「なんで・・・?」


 出来なかったことがいきなり出来るようになれば、そりゃあ驚くだろう。

 が、案外なんでもそういうもんだったりするよね。


 運動なり勉強なり、簡単な・・・それでいて的確なアドバイスや指導ひとつで劇的に進歩するものだ。


「おっ・・・・!」


 鳴鹿の中で使用されていた魔力が霧散するのを感じる。

 どうやらスキルを維持できなくなったようだ。


 鳴鹿はしばらく自分の手を呆然と眺めていた。


「さっきまで全くできなかったのに・・・・」

「容量の問題って言ったでしょ」


 私の推察、というか分かりやすくしたイメージだが。

 おそらくスキルにはコストのようなものがあるんじゃないだろうか。

 有用で強力なスキルほど大きく、簡単でクズなスキルほど少ない。

 ゲームでもよくある設定だ。


 そしてスキルを使用する人間には容量のような値がある。


 例えば、私の容量が「10」とする。

 『投擲』のコストは「7」、そして『格闘』は「5」とすると。

 同時に使おうとすれば、合計は「12」となり私の容量ではキャパシティオーバーで使用することができない。


 だが、数日前の訓練の時のように『直立』と『格闘』の組み合わせの場合。

 『直立』のコストは「4」だと仮定すれば、合計は「9」でギリギリ容量に収まっている。

 よって私は『直立』と『格闘』の組み合わせなら複数のスキルを同時に使用できる、という理屈になる。


「つまり、イデ〇ンとガン〇スターを同じ小隊に編成できないようなもんだよ」

「それは知らんが」


 伝わらんか。

 ま、ロボットゲームとか興味なさそうだしな。

 いや、最近のはコスト制なくなったんだっけ?そこそこ前のやつで止まってるから私もよくわからん。


「でも、こんなに簡単ならなんで広まってないんだ?」

「多分簡単だって感じてるのは、鳴鹿だけだよ」

「?」

「次が要領の問題だけど・・・」


 コストが容量内に収まっていたとして、あっさりと使用できるわけではない。

 現に私は同時に発動させるだけでだいぶ時間がかかったし。発動できたとしても短い時間しか持続しなかった。


 これにはコツ、というか。

 単純に練習が必要だった。

 考えてみれば、当然の話なんだよな。車や自転車だって、便利な乗り物だが必ず練習が必要だ。


 地道な反復練習と慣れ。

 言ってしまえば、それがすべてであり。ズルもチートもない。


 むしろ1つだけなら無意識にでもスキルを使用できる方が、考えてみればおかしい。

 もしかしたら何らかの補正がかかっているのかもしれない。


「鳴鹿はかなり筋がいいんだと思う。簡単って言いきっちゃうくらい」


 おそらく鳴鹿の容量は私の倍、いや3倍ぐらいはあるのかもしれない。

 だから私が9割の力を使って行うことを、鳴鹿は3分の1程度の労力で済む。

 労力が少なければ、残りのキャパシティをスキルの維持に使用できるということだ。

 なんでも、余裕があるとはいいことである。


「多分、みんな高コストのスキルの組み合わせで複数使用を行っていたから発動すらしなかった。あるいは、コスト内に収まったけどロクに維持できないから。そもそも複数のスキルを同時に使用できないって私たちは誤解してたんだと思う」


 その誤解を訂正もされなかったし。


 まさかこの技術のことを知っているのはフレイムさんだけってことはないだろう。

 そりゃあ、私たちが今まで気づかなかったってことは秘中の技みたいなことなんだろうが。

 王都の騎士団、つまりエリートたちが知らないってことはないだろう。


 つまり意図して教えられなかった。

 勇者たちの放任といい、いったい騎士団・・・・というかこの国はなにを考えてんだか。



 鳴鹿はそんな私の推察を聞き流し(どうやら鳴鹿はこうかもしれない、という仮定や推論には興味がなく。こうだ、という結果・結論を重視する性格のようだ。効率主義というか、論より証拠というか・・・)、再度同時使用を試していた。


 ファイティングポーズをとっているから、『格闘』と何かだろう。


 そのまま、鋭い右ストレート・・・・は放たれず。

 足運びもおぼつかず、へっぴり腰の。リスも殺せなさそうな弱々しい右突きだった。


「・・・・・・練習が必要だな」

「だから、そう言ってんじゃん」


 最初は単純に、同時使用した状態を維持して。

 感覚を慣れさせることから始めた方がいい。


「ドラムの初心者が、8ビートをバスドラとハイハットだけでやるようなもんだよ」

「いや、それは知らんが」


 伝わらんか。




なんだか今回、ネタが多い回だったなぁ・・・

伝わる人いるかな?



ややこしい説明になりましたが

間接にまとめれば


1,スキルの複数使用はできなくはないが、多少の条件と地道な反復練習が必要

2,その技術を騎士たちは知っているが、なぜか勇者たちに教えてはいない


この2点が分かっていれば大丈夫です

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