7 修行パート(2)
修行パート、という名の説明回
けっこう長いです・・・
夜の間フレイムさんの自宅で訓練されてもらえることになり、あっという間に3日が過ぎた・・・。
その間、特筆するべきことは何もない。
何も変わらず私は木人に格闘を繰り出すだけで、フレイムさんもただそれを座って眺めるだけだ。
無心で殴る・・・。殴る・・・。殴る。
少しずつ、少しずつ自分の力。その制御を会得していく。
私の力が他の勇者に劣るのは、仕方がないことだと割り切る。
だから今持っている力をどう生かすのか。
力が劣っているからこそ、その力を使いこなせるようにする。
出来損ないの私も、この世界基準でも弱いという訳ではない。
現に異世界に来た直前は戦い方を知らないこともあり勇者だけでなく騎士にもボコボコにやられていたが、最近はいい勝負をできるようになってきたし。試合形式では時間切れの判定勝ちもできるようになった。
一応一般人よりは強い分類に入ると思う。
現に、今木人を殴っているときもかなり手加減をしている。
本気で殴れば木でできた人形なんて簡単に粉砕できる。
私はギリギリ壊れない力加減で、木人を殴っている。
力の制御を身体に染み付けていく。
今の力を完璧に操れるようにする。
それが着実に強くなることだと信じて・・・。
「どうだい、少し手合わせでも」
3日目、フレイムさんが突然そんなことを言い出した。
「はい・・・?手合わせ・・・ですか」
「ああ。君と私で、だ。なあに。余興みたいなものさ、気楽に考えればいい」
突然の提案を訝しく思いながらも、いい機会だと思いなおす。
騎士団長様が直々に稽古をつけてくれるということだ。いい経験になるだろう。
私は提案を了承する。
平服のまま、盾と木剣を持ち私の前に立つフレイムさん。
「おっと、始める前にルールを決めよう」
「ルール?」
「ああ。勝負を公平にするための、な」
提案されたルールは単純だ。
フレイムさんは一歩も動かない。そして彼が攻撃するのは1度だけ。
お互いの勝利条件は、攻撃を相手にクリーンヒットさせること。掠ったり、防御されたものは有効とはならない。
フレイムさんがその場を動いてしまったり、一度の攻撃を外してしまった場合。私の勝利となる。
かなり私に有利な条件だ。
なめていると取られるほどの・・・。
だが憤慨はしない。むしろ妥当だ。
下っ端の騎士にさえ苦戦する私が、騎士団長と対等に戦えるわけがないだろう。
思い上がりはしないし、見くびりもしない。
正直、これでもきついくらいじゃないだろうか・・・?
攻撃するときに「今から攻撃する!」って宣言してもらうことにしようか・・・。
特にプライドもないので、そう提案してもいいのだが。
しない。
こういう条件を出したということは、これで対等になると相手が判断したのだ。
だったらそれでやる方が私の益になるだろう。
訓練・・・というか、運動をするうえで一番大切なのは易くもきつくもなく。自分にちょうどいい量でやることだ。
間合いを空け、見合う。
「お願いします」
武道の試合みたいに、頭を下げる。
うーん、毎回やってるけど。やっぱり変な目で見られてる。
この世界のそういう礼儀は知らないけど、やっぱり変なんだろう。
頭の中で空想のゴングを聞き、私は全力で間合いを詰めた。
そして腰に装備したピックを投げる。
一度に使えるスキルは一つだけ。
今は『格闘』スキルを使用しているため、『投擲』は使えない。
よって投げたピックの軌道はスキル使用時よりぶれているし、勢いも弱い。
だがそれで充分。
「ッ!」
フレイムさんが剣でピックを叩き落し、私の蹴りを盾で防御した。
それだけでも十分牽制になる。
ピックの直撃も「クリーンヒット」に含まれることはフレイムさんに確認している。
よって、本来なら対処するまでもないピックをフレイムさんは対処せざる負えない。
その隙を攻撃する。
本来の私の戦い方は、ピックをけん制に使いながらのヒット&アウェイだ。
一撃の決め手がない私は敵の攻撃を躱しつつ、ちまちま当ててダメージを稼ぐ。
だが、この勝負に一撃の重さは必要ない。
当てれば勝ちになる。一撃勝負だ。
なら手数に重点を置く。敵の反撃に警戒しつつ、攻める攻める・・・!
そして当てるだけでなく、私の勝利条件はもう一つ。
フレイムさんを一歩でも動かせばいい。
いくら戦闘力に差があると言っても、攻撃に対処すれば重心が動く。
それを絶え間なく繰り返せばバランスを崩し、体制を変えるために足を動かす。
「はあぁっ!」
放ったハイキックで、上体が大きくのけぞった。
勝機!
「でやあぁああっ!」
私はすかさず『格闘』スキルのレベル効果『強打』を発動する。
これはMPを消費し、一撃の威力を上げるものだ。
使用後に数分のクールタイムが必要で、使用すると拳や脚がぼんやり光るので使用タイミングもバレバレと。なかなか使いどころが難しい効果だが、今は惜しみなく使った。
もしも私の攻撃を防御したとしても、体勢が崩れている今。
強化した一撃ならそのまま衝撃で退かせることができるだろう・・・!
私が勝利を確信し、放った拳は————
あっさりと空を切った。
「へ?」
そう、間抜けな声が漏れてしまうくらい見事に躱された。
あんな崩れた態勢で・・・・。しかも一歩も動かず。
フレイムさんの上体はアイススケート選手もびっくりな角度までのけぞっていた。
膝を曲げて、身体がほぼ地面と平行だ・・・。
うそーん・・・・。
だが、ありえない動作はこれだけで終わらなかった。
次の習慣、フレイムさんの身体はばね人形のように跳ね上がり。私へ肉薄する・・・!
まずい!一撃を振り切った今、ほとんど身体を動かせない!
出来ることは無理やり手を動かし、攻撃を防ぐことだけ。
防御すればクリーンヒットにはならない。剣の攻撃を防ぎきれば私の勝ち————!
右手の剣を注視して、攻撃に待ち構える・・・・が。
私は左手の盾のことを、全く念頭に置いていなかった。
だから見えない。
ほのかな光をまといながら繰り出される、盾の攻撃を・・・。
それはノーガードだった右の脇腹へと吸い込まれ、
私の身体を吹き飛ばした・・・。
数メートル宙を舞い、地面に叩きつけられた後も勢いが止まらず転がり続ける。
「う・・・・・ぐぅ、ぁああっ・・・・・!」
止まった後も起き上がれない・・・!
痛みはない。
苦しさも衝撃も感じない。
だが息が止まり、脇そしてその奥から本能的な焦燥感が広がっていく・・・。
「うぅ・・・・げぇえっ!げほっげぼっ!ぁあああぁぁぁ・・・・っ!」
苦痛は遅れてやってきた。
痛い。痛い痛い痛い・・・・!
身体の中に、焼けた鉄球を埋めこまれたみたいだ。
「うえぇええっ・・・!」
数時間前に食べた夕食を吐き出す。
だが吐いても吐いても、吐き気は止まらない。
どれだけ脇を抑えても苦痛は引かない。
違う・・・。これは私の知る痛みじゃない。
同級生たちに暴行を加えられた時のものとは比べ物にならない。
あれは表面を傷めつける、ただの暴力だ。痛みは続かないし、慣れれば苦痛でもなんでもない。
だがこれは違う・・・!
表面から浸透し、内部を破壊する。本当の痛み・・・!
痛めつけるための暴力でなく、破壊するための本当の攻撃だ。
「はっ・・・はっ・・・・ふう」
たっぷり10分弱ものたうち回り、ようやく起き上がった。
それでもじんじんとした痛みは残っている。
フレイムさんは先ほどと同じ位置に居る。
一歩も動いていない。
・・・・・と、いうことは。
「ま・・・・いり、ました」
完敗だ。
「意外と悔しがらないんだな」
「いや、悔しいですよフツーに。でもあれだけの条件でも勝てないかもしれないって思ってましたし」
「ふむ。涙をふくためのタオルも用意していたんだがな」
「大丈夫ですよ。精神の図太さは人一倍だって自負してますから」
でなければこんな顔で今まで生きてない。
「それに、うまく化かされたみたいで感情なんかしぼんじゃいました」
「なんだ、気づいてたのか」
「騙されてから改めて考えればね。事実、私はあなたの術中に見事にはまっていましたから」
勝負を一撃制にしたのは、火力がない私にも勝機があると思わせるため。
一歩も動かない、動いたら負けという条件を付けたのはバランスを崩して勝利しようと攻勢に出させるため。
自分の攻撃を一撃に制限したのは、逆に躱せばいい防御すればいいという思考にすることで剣に意識を集中させ盾への注意力を散漫にさせるため。
「ずいぶん手の込んだことを・・・」
「これくらいの条件を出さなければ、君は本気で勝負に臨まなかっただろう?」
「それは・・・・そうでしょうけど。よくこんな不利な条件で戦いましたね」
「どんなに不利だろうと、やり方しだいでどうとでもなるものだ」
「・・・・・・そんなに私を負かしたかったんですか?」
「ああ」
・・・・・この野郎。
「本気を出した勝負で負ければ、悔しさも人一倍だからな」
「・・・・・」
「そして、そういった経験が人を成長させることもある」
「え?」
「・・・・・君には、どうやら効果がなかったようだが」
「いや、だから普通に悔しいですよ。端からは見えないかもしれないですけど」
・・・・これはあれか?
悔しさをばねにして、強くなるとか。
バトルものスポーツものお約束の展開か・・・?
だとすると期待外れなことしちゃったかなー。
さっきタオルを用意してるとか言ってたし。
きっと私が悔しさに涙を流すだろうと思ってたんだろう。
・・・すいません、そういう感情は表に出ないタイプなんです。
「ところで、私の戦いはどうでしたか?」
この際、プロに評価してもらおう。
「クズだった」
うわおー、辛口ー・・・・。
「一般的に見れば、なかなかのレベルではあるが。それでは他の勇者の足元にも及ばん。戦いで無様に死ぬことが目に見えている」
「・・・・そうですか」
「それ以前に、お前は前衛に向いていない」
先から配慮のない厳しい言葉が続く。
だがそれは事実であり、厳しい厳しい現実だ。
例え取り繕っても変わらないことだ。
「それは分かっています。私には火力もないしまだ格闘スキルのレベルだって・・・」
「そういうことではない。体質的な問題だ」
「・・・・?」
「お前、右目が見えていないだろう」
・・・・・!
バレている。
なるべく周囲に気取られないように振る舞い。ユリだって知らないことなのに。
「・・・・よく、気づきましたね」
「前々から訓練を見て、そうだろうと思っていた。
君は右側からの攻撃やフェイントへの反応が若干早い。おそらく君は正面と左側の情報を視界から、右側の情報を聴覚を集中させ得ているのだろう。
私に専門的な知識はないが目よりも耳で聞いた情報の方が脳の処理が早いと聞いたことがある。そんな風に当たりをつけ、そして今回実際に手合わせして確信になったというだけのことだ」
「完全に見えない訳じゃないですよ。近くならおおまかな輪郭ぐらいはまだ分かります」
「その言い方だと、生まれつきという訳ではないのか」
「ええ、昔色々ありまして・・・・」
まだ小学校にも入っていなかった時期だったと思う。
幼稚園から帰ると、そのときまだ離婚していない両親が家で喧嘩をしていた。
怒鳴り合い、モノを投げつけたり。激しい喧嘩だった。
両親ともが家に居ることが珍しく(特にお父さんには、たしか1週間ぶりに会ったんじゃなかったっけ)、私は久しぶりにそろった家族に仲良くしてもらいたかった。
両親の喧嘩に割って入ると、二人は「お前のせいでケンカしてるんだ」と激高し感情の矛先が私に変わった。
私は両親にボコボコにされ、それでも感情が収まらなかったお父さんに髪をつかまれて・・・。
そのまま窓ガラスにたたきつけられた。
その時割れた欠片が目に混入し視神経を傷つけてしまったらしい。
髪で隠してはいるが、こめかみにはその時の傷がまだ残っている。
「でも、大分昔からこうですから距離感とか右側への注意の仕方とか。支障がないくらいに慣れてます」
「それは生活に関しての話だろう。戦闘では一要因で足元を掬いかねない。
君に関しては実力が伴っていない分、余計に危険だ」
「だとしても、後衛をやれるかは別問題ですよ。私『弓術』を持ってないですし、魔法の方はからっきしなの知ってるでしょ」
* * *
出来損ないだと分かってから、私もいろいろと試していた。
剣だったり槍だったり、弓を引いたり・・・。後天的にもスキルを習得することができるからだ。
が、結局私はそういった戦闘用のスキルを習得することができなかった。(『格闘』だけは何とか覚えられたが、相性が悪いようでレベルがなかなか伸びない)
同様に魔法系のスキルもからきしだった。
が、私にとって希望がひとつ。魔法はスキルがなくても使うことができるのだ。
・・・・この辺の説明がややこしいが。
簡単に言えば、きりもみ式で火おこしをするのとガスコンロで火をつける違いだろうか?
スキルなしで魔法を使うのは単純に手間がかかるのだ。
昔話の魔女が動物のはらわたとか、薬草なんかを使って儀式を行っている場面を想像してもらえれば分かりやすいかな?
まあ、実際そんなことをするわけじゃないがおおむねは近い。
この世界は生物が潜在的に持っている力「魔力」が存在する。(チャクラやオーラと言ってもいいかもしれない)
体内で練り上げた魔力を特定の形、量、タイミングその他もろもろの条件(風速、風向、気温湿度、酸素濃度etc.etc・・・)で放出し起こす奇跡。
それが魔法だ。
それはなんだか数式のような話だと、初め私は思った。
とにかくこの世界はその形と量とタイミングその他もろもろの条件で魔力を出すと、『火の玉を飛ばす』、『水の壁を創る』というような結果が起こるのだ。
まるでネイピア数に虚数単位と円周率を自乗すると「-1」になるように、その結果が起こる。
もちろんこれは誰でもできることではなく。
簡単な魔法ならば数個の条件で済むが、強力な魔法では形は精巧に、量は莫大に、タイミングはシビアになっていく。それだけでなくどんどん条件の内容も増えていく・・・。
それは単純に、めんどくさいことなのだ。
それがスキルを使えばプログラムのショートカットを押すように、簡単に発動する。
戦闘などではスキルを使った方が、明らかに効率がいい。
だがスキルを持っていない人間は?
戦闘でなくても、生活を豊かにするために魔法を使いたい人間はどうするのか・・・。
そこで登場するのが先の「魔女の儀式」という訳だ。
アイテムや生き物を魔法の触媒にするのだ。
動物を殺して魔力を大量に用意したり、特定の音声(所謂、魔法の呪文)を出すことでその空気の振動で魔力の形を安定させたり。
その代表格が魔法陣である。
魔法陣は魔力を流しやすい素材を粉や塗料にし、魔法を起こす「特定の形」を描く。
あとは何も考えず魔力を流すだけで、簡単に魔法が発動するという訳だ。
特定の形にはある部分は魔力を多く、またある部分には少なくという繊細な配分が必要なものも存在するが。その部分だけをあえて魔力が流しにくい素材に変えるなど、様々な方法が考えられているらしい。
まるで機械の回路図のようである。
いや、実際そうなのか。
そういった魔法を起こすための処理を何重にも施した道具とその技術を、
「マジックアイテム」と「魔術」と呼び。
それはこの世界の「機械」と「科学」である。
そしてその技術をもった人間はジョブとしての『魔法使い』ではなく、職業としての「魔術師」と呼ばれている。
説明が長くなったが、とにかく魔法はスキルがなくてもなんとかできないこともないということだ。
それを知った私は自力で魔法を使おうと、魔法系統のジョブを持った勇者たちと一緒に訓練していた時期があった。
・・・・そこで私は意外な才能を発揮させることになる。
魔法の訓練では初めに「魔力を練る」という技術を学んだ。
魔力はただ無造作に放出するのでは効率が悪い。酒を蒸留し度数を高くするように、体内の魔力から魔法に使う以外の不純物を取り除き純度の高いものにする。
感覚的には小麦粉をふるいにかけたり、水をろ過するようなイメージだ。
私はこれを人より抜きんでた精度で行うことができたのだ。
私は体内の魔力を他の勇者よりも高い純度に保つことができ、練るための時間も他の半分の時間しかかからなかった。
それ以外にも魔力を身体の一部に集中させることも、他の勇者が数十秒かかるところを私はほんの一瞬(1秒もかからなかった)で出来た。
右手と左手両方に集中させた魔力を、寸分の狂いなく5対5の割合に保ったり。
魔力を体内の中で操ることに関しては、私の右に出る者はいなかった。
この時私は、ついに私のチートが発現したか!と密かに浮かれたものだが・・・・。
ま、今の現状を見れば結果は明らかというか。
オチを言ってしまえば、私は「魔力を体内で操る技術」は非常に得意だが。魔法を発動するために「魔力を体外に放出する技術」が致命的なまでに苦手だったのだ・・・。
体外に放出しなければ、事象として魔法は発動しない。
よってどれだけ純度の高い魔力があろうと、私には魔法は使えない。
それこそ無意味。ショーケースに入れられた高級料理のようなもの。
膨らんだ期待はあっさりとしぼみ、やはり私は出来損ないとさげすまれた。
使えないくせに純度の高い魔力を持った私を、誰かが豚に真珠だと言った。
たしかにこれほど私にぴったりなことわざもなかろう・・・・。
まあ、私に例えられるなんて豚がかわいそうって笑われるまでがテンプレなんだが。
* * *
「向いてないってことは、自分が一番自覚してます。それでも最低限でも誰かの邪魔にならないためにはこれしかないって思ったんです。
自分で、考えて決めたんです」
私は剣も魔法も使えない。
みんなみたいなチートもない。
だったら、今あるもので何とかするしかない。
「それじゃあ・・・・ダメですか?」
「いや、悪くない」
さっきから沈黙を保つフレイムさんに尋ねると、意外にもそんな返事が返ってきた。
「なんだか、昔の自分を思い出した」
「昔のフレイムさん・・・?」
「ああ。私も騎士には向いていないと言われていた」
そうなの?
この世界でもフレイムさんは大柄な体系だし。身体も引き締まっていてまさに騎士って風体だが。
もしかして昔は病弱だったとか?
「私も・・・・戦闘系のスキルを使えないんだよ」
「・・・・!」
うそ・・・。
「だから、君と一緒なんだ」
・・・・・!
今、分かった。
この人は私に恩を売りたかったから、こうして手助けをしている訳じゃない。
もっとシンプルな理由。
ただ、今の私が昔の自分に重なり。導きたくなったのだ。
この人はお人よしだ。
縁もゆかりもない、生まれた世界すら違う私なんかをただ境遇が似ているという理由だけで手助けするなんて。
なにより、この人からは感じない。
常に私に向けられている、嫌悪の感情が感じられない。
それだけでも、私にとって信用するには十分な理由だ。
この人は私にとって0.1割に含まれる人だ。
「なんだか、今日はやけに優しいですね・・・」
「大切な投資相手だからな。つぶれてしまっては困る」
まだそんなこと言ってる。
お人よしだが、素直ではない。
「ふふ、こういうことあんまりやっちゃだめですよ。じゃないとこんなブスに惚れられちゃいますよ」
なんというか、私はちょっと浮かれた。フレイムさんの人となりを知ってうれしくなったから踏み込んでしまったのだった。
だからこれはただの軽口だったハズなのに、
「むう。それは困るな」
この人は大まじめにそう返した・・・。
「私には妻子がいるからな。君に思いを寄せられるのは妻にも君にも悪い・・・」
はい?
フレイムさんの顔には冗談や嘘をついている気配はない。
つまり、フレイムさんは本気で言っている。
私というブスに迫られることが困るんじゃなく。
妻子がいるから他の女性に好意を寄せられるという『事実』が困ると言っている・・・。
「・・・ぷ。ふふっ。あはは、ぶあははははははははははははっ!」
「ど、どうした・・・?」
あ、ちょっと引いてる。
「だ、だって・・・私にそんなこと言った男初めてですよ・・・!」
あーまずいなぁ・・・。
長身で筋肉質な体型。少し年齢は上だがダンディなナイスミドルな外見・・・。
奥さんいなかったらガチ恋してたかも。
いやいやいや、さすがに私も略奪愛はしないからね。
そんな気概はないし。
勝ち目ねーし。
「ヒー・・・・ヒー・・・・・!」
「落ち着いたか・・・?」
「は・・・・はい・・・・」
いやー笑った笑った。
ここまで笑ったのは、お笑い番組の年末スペシャルを見たとき以来かな・・・?
・・・・割と最近だな。
「ところで、私に放った攻撃って・・・」
「ああ、これか?」
フレイムさんは左手に装備した盾を挙げる。
「私に使えるのは、これだけだ」
『盾』スキル・・・。一応戦闘系に属してはいるが、私の『投擲』のように役立たず扱いされているハズレスキルだ。
理由は防御するだけで汎用性が高くなく、攻撃の手段がほとんどないからだ。
そういえば私を攻撃したあれは『盾』の唯一の攻撃用レベル効果、『シールドバッシュ』だった。
だがそれはあくまで敵を弾き飛ばして距離をとるための効果で、ダメージはほとんどなかったと思う。
手早くステータスを確認すると、確かに先ほどの攻撃で私のHPは1割も減っていない。
痛みに反して私の身体には何の異常も起きていない。
どうなってるんだ・・・?
私の疑問を読み取ったのか、
「だから言っただろう?どんなに不利でも、やり方次第でどうとでもなる。とな」
フレイムさんは、私にわかる形で笑いながら言った。
その顔を見ながら。
あー・・・・妻子持ちじゃなかったら、本当に惚れてたかもなー・・・・と私は思った。
後々・・・本当に後々分かったことだが、この時フレイムさんはかなり危ない橋を渡っていた。
ともすれば自分の立場どころが、人生すらおシャカにしかねないほどの危ない橋を・・・・。
私はこの時、自分のせいでフレイムさんの立場を危うくしていることを理解していなかったし。
理解したときには、私もフレイムさんも。
すでに手遅れな状況だったけれど・・・・・。
百合を目的に訪れた方
ご安心ください、フレイムさんは百合的無害な男性キャラです。