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6 修行パート(1)

今回話はそんなに動きません



 実践訓練からちょうど10日前にまで時間が戻る。

 自分の至らなさと無力さを痛いほど実感した私は、これまで以上に訓練に励むようになっていた。


 その様子を周りの人間は無駄なあがきとか、見苦しいだとか言っていたが。特に気にはしなかった。

 今の私は誰かを守れなくても。最低限、誰かに守られることはなくなる力を得ることに必死だったから。


 私は今日もがらがらの訓練場で走り込みを行う。

 周りには数人の勇者と監督する騎士しかいない。


 以前からその傾向はあったが、もうまともに訓練を行うやつはほとんどいなくなっていた。

 今では私と例のイケメンに、ヤンキー然とした外見の女子。毎日ではないがユリも私に付き合って割とまじめにやっている。

 その他の勇者は毎日城下町へ遊びに出かけたり、好きなものを買いあさったり。男子の場合は色を買ったり。栄華の極みを満喫しているようだ。

 まあ、それができるだけの実力があるからお国の方も文句はないようだ。

 実際、私たちを監督する騎士たちは私以外の勇者はすでに十分な実力を身に着けていると判断しているようだし。


 訓練するやる気も意味もないのだろう。


 誰かに絡まれる前に夕食をさっと済ませた後も訓練を行う。

 さすがにここまでになると私以外に訓練場に人はいない。完全に私の貸し切り状態だ。


 ・・・・・。

 訓練を初めて1時間は経ったか?

 さすがにこれ以上続けることはできなさそうだ。本当はもう少しやっていたかったのだが、私を監督する騎士のことを考えるとそうもいかないだろう。


 訓練場の入り口には下っ端の騎士が退屈そうに立っている。

 私たち勇者の訓練時には原則騎士の立ち合いがいるらしく、例え私が自主的に行っている今でも騎士が見ていないといけない。

 そうなると、騎士に余計な仕事を増やしてしまう。

 本当ならとっくに仕事が終わっている時間だろうに、ここに居なきゃいけないし。私の訓練が終わった後はその後片づけまでしなくちゃいけない。

 それくらい私がやってもいいのだが、そうもいかないのが勇者という私の立場である。

 社会人に例えると、会議の後片付けを会社の重鎮にやらせるようなものだ。

 本人が納得していても、他の人間にバレれば厳罰どころじゃあ済まないだろう。

 私の浅い善意でこの騎士さんの立場を危うくするわけにもいかない。


 が、そうはいっても納得できないのが人の心というもの。

 この騎士からしてみれば、上司の命令で理不尽なサービス残業させられ。当の上司は後処理を自分にまかせてさっさと帰宅しているようなものだ。

 うーん、私だったら心中穏やかにはいられないだろうな・・・・。


 もしこれが、実力のあるカリスマ的な勇者だったり。

 ユリのような美人からの命令ならまた違ったのだろうが。

 こんなブス。しかも出来損ないの私じゃあね。


 実際騎士からはイライラした感情が伝わってくるし。

 すいません、もう終わるんで勘弁してください。



「なんだ、もう終わってしまうのですかな?」



 その時だ。この空間に、というか私に声をかけられた。

 その人は入り口からゆっくりと入ってくる。

 下っ端の騎士が慌てて、姿勢を正す。


「ええ。そろそろ」

「ふむ、そうですか・・・・」


 その男性は、残念そうに自分の顎を撫でた。


 デューク・フレイム。

 私たちを監督する騎士団の騎士団長様である。

 2メートル近い大柄な体に全身鎧を着けているためかなり威圧感がある。

 それだけでなく、鈍い金髪をオールバックにし太い眉に切れ目。角ばった顔はかなり強面だ。


 前の世界で会っていたら絶対関わりたくないような容姿の人物だが今は私の方が立場が上で、しかも好きに命令できると思うとやっぱり変な感覚である・・・・。


 フレイムさんは顎に手をやったまま数秒思考し、下っ端の騎士に目をやる。


「私の部下に気を使っているのなら、気遣いは無用ですぞ。勇者様たちの訓練に立ち会うのは我らの役目ですからな」

「あ、いえ。別に気を使っている訳ではなくてですね・・・・」


 この人いつから見てたのか知らないが、絶対下っ端騎士のやる気のない監督態度を知ってるって態度だ。

 このままだと騎士さん、怒られちゃうかも・・・。


 本人もそのことを察しているのか、なんだか青い顔だし。

 ・・・・。


「あ、あー。フレイムさんっ。今からちょっと付き合ってもらっていいですか?」

「何用ですかな?」

「えと、今後のことについていろいろと相談を・・・・」

「かまいませんよ」

「そうですか。あ、あなた後片付けをおねがいしますね」


 下っ端騎士に言い残し、私たちはそろって訓練場を出た。




「気遣いは無用と申しているのですがな。・・・・まあ、勇者様のお心遣いに免じてあの者への厳罰は許してやりますか」


 彼も私の気遣いを完全に分かっているようだ。

 ともあれ怒られなさそうでよかった。過程はどうあれ自分が原因で人が責められるのは、あんまり気持ちのいいことじゃない。


「私の居ない陰で処すのもナシですからね」

「分かっておりますよ」


 くぎも刺しておく。一応、念のため。


「して、相談とは何ですかな?」

「え?」


 ちょ、それは場から離れるための方便だってわかってるでしょ。あんた。


「えっと・・・・」


 まあ、相談したいことはいろいろあると言えばあるが・・・。

 最近この国の上層部が、私のことを勇者から除名して追い出すべきだって言ってるらしいし。

 

 そんなことこの人に話しても、って感じだ。

 迷惑極まりないだろう。


「ふむ」


 そんな私の様子にフレイムさんは何事か納得したようにうなずく。


「では勇者様、これから時間はおありですかな?」

「え?まあ、はい」

「では、少々外へお付き合いくださいませんか?」

「は・・・い?」


 え?



 * * *



 まさか私が男性と街中を歩くことになるとは・・・。


 騎士団長さんと肩を並べて王都を歩きながら、なんだか感慨深くなる。

 前の世界でも男友達と遊びに行ったことは何度かあったけど、あれはノーカンていうか・・・。

 2人で映画見て、一緒に飯食った後ド〇キでジョーク商品冷やかしながら馬鹿笑いしてただけだったからなぁ。

 あれを男性と出かける(デート)とは言わないだろう。うん。


 対してフレイムさんは、エスコートしてくれるというか。

 女性に対する扱いが慣れている感じだ。

 私が外に出る前に先に扉を開けてくれたり。自然に車道側を歩いてくれたり・・・。

 かといって、軟派という訳でもなく。一挙動一挙動に誠意が感じられる。

 まさに紳士って感じ。・・・・というより騎士ナイトかな?


 なんというか、女性扱いされてるみたいでうれしくなるなぁ・・・。

 たとえそれが仕事だったとしても。

 やる気がなくイヤイヤやっている仕事と、真摯に行っている仕事では同じでも感じるものは全く別物だ。


「ふう」


 と、勇者たちの城から幾分か離れたとき。フレイムさんが気を抜くように息を吐いた。


「もうそろそろいいだろう」

「?」

「私はもう勤務外だ。だから君への敬語も態度も普段のものにするということだ。いいかね?」

「はあ、かまいませんが」

「そうか。じゃあそうさせてもらうよ」


 あー、つっかれたー。とでも言うように肩をほぐすフレイムさん。


「あの、いいんですか?そんなに肩の力抜いて」

「もちろんだめだが?」


 おい。


「なあに、君が黙っていてくれればお咎めはないさ。無礼講無礼講」


 なんて、あっけらかんとしている。

 無礼講をしてもらう立場から持ち出すパターンは初めてだわ。

 何というか。公私で大分態度が変わる人だなあ・・・。


 さっきまではやり手の社会人っていうか。堅物刑事みたいな印象だったが。

 急に雰囲気が変わって。朗らかなおじさんって感じになった(顔はいかついままだが)。

 メリハリがあるというか、そういうところで柔軟性がある人柄らしい。


「それに、君もこちらの方がやりやすいのではないかね」

「まあ、そうですね」


 はっきし、年上に敬語を使われるとかむずむずして落ち着かない。

 こっちから頼んでやめてほしいくらいだ。


「でも、私以外にやっちゃだめですよ。最近のあいつら増長してますし」


 勇者という立場と権力に慣れっちゃって、同級生たちはすっかり偉そうになっちゃってる。

 最初の日本人らしい遠慮はどこへやら・・・。


 今だと「無礼者!」とか素で言いそう。


「大丈夫だ、その辺りの区別はつく」

「そうですか・・・」


 それは私が雑な態度でも怒らないちょろい人間だ、という訳でなく。

 袖を開いて話せる人ってことなんだろう。

 ・・・・多分。



 しばらく歩いていると、フレイムさんは一軒の家の前で立ち止まった。


「ここは?」

「私の家だ」

「え゛え゛っ⁈」


 驚く。私、いつの間にかお持ち帰りされちゃった・・・。


「おっと、先に言っておくがそういった目的で家に連れてきたわけではないからな」


 でしょうね。

 ちょっと動揺したけど、冷静に考えれば私なんかを連れ込む理由なんかないよな・・・。

 だが男性の家に招かれるのは完全に初めてだ。

 ・・・・。

 まずい。なんか興奮して顔がにやけそう。自重しろ私の表情筋っ。私の顔は笑うと余計に気持ち悪くなるんだから。これは周りによく言われることだし、私自身自覚することだ。


 しかしフレイムさんはどうして私を自宅に呼んだのだろうか・・・?


「すこしここで待っていてもらってもいいかな?」

「はい、かまいませんよ」


 そう言い残し、中に入っていく。

 手持ち無沙汰になった私は、失礼だがフレイムさんの自宅をじろじろと眺めて時間をつぶす。


 けっこう普通の家だな。日本人の感覚で言えば十分豪邸なんだが。この世界の基準としては平民でもがんばれば住めないこともないって感じだ。


 そういえば噂として聞いたことだが、デューク・フレイムという騎士団長は平民出身らしい。

 この国でも家柄というか出生から立場を決める文化が根強いらしい。所謂貴族制ってやつだ。

 そんな中、フレイムさんは自分の学と仕事ぶりで一代で騎士団長にまで成り上がった。


 が、こういう成り上がりものの宿命というかテンプレというか。

 貴族たちにはいい顔をされていない。

 根回しをしてフレイムさんへの金回りを悪くしたり、地方に左遷されかけたり。いろいろやられたらしい。

 現に今だって重要度の低い『勇者の監督』なんて仕事をやらされてるし。

 今も没落させる機会をうかがわれてるとかなんとか・・・・。


 そういう事情もあって倹約しているのか?・・・それとも単に大きい屋敷の暮らしが落ち着かないとかかな?

 フレイムさんの住宅事情に関して考察していると、家主が出てきた。


 先までの正装ではなくラフな平服だった。


「待たせたな。悪いが先に着替えさせてもらった。いつまでも正装には慣れなくてね。帰宅したら一刻も早く着替えたくなる」

「大丈夫ですよ、そんなに待ってないですし。自宅なんだから楽な格好が一番いいですよ」


 大企業の重鎮だろうと政治家だろうと、家ではスーツ脱いでスウェットでゴロゴロしたいだろう。


 平服は変哲もないパンツに半袖シャツだからそこまでだらけた格好って訳でもないし。

 というか、平服姿がそこはかとなく・・・・。


 エロいっすね。


 若干開けた襟元からのぞく鎖骨とか。

 半袖から見える太い二の腕の肉の筋とか・・・・。

 いいっすわぁ・・・。

 眼福っすわぁ。

 先ほどまで全く露出のない格好だったため余計そう感じる。


「どうかしたのか?」

「・・・・はっ。イエイエイエナンデモナイッスヨー」


 いかんいかん。あまりのエロさについ邪な目線全開でみてしまった。

 私は無害なブスなんだ。

 街中でイイ感じの男性がいたとしても、関わらないし。逆痴漢はしないのだ。


 ただ、ちょーっとアレな妄想をするだけで・・・。


「まあいい。こっちについてきてくれ」


 フレイムさんに案内され、庭にやってきた。ここもそこそこ広い。

 庭、と言ってもガーデニングもなければ魚が居そうな池もない。ただ広い空間といった場所だ。


 ただ、片隅に木剣やらダンベルやらトレーニング器具類が置かれている。


「ここってもしかして」

「ああ、私が普段訓練するための場所だ」


 やっぱり。


「訓練する時間が足りないと思っていたのだろう?ここを好きに使ういい」


 その申し出は素直にありがたい。

 ありがたいのだが・・・・。


「なんで私にそこまで・・・?」

「ふむ・・・。個人的に腹の探り合いは苦手だから率直に言えば、恩を売っておきたいというところだ。

 知っているだろうが、私は平民出のために少々立場が弱くてね。後ろ盾がほしいと思っていた。

 そこに手軽に恩を売れそうな相手が居ただけ」

「なるほど。でも私・・・・」


 近々追い出されそうなんですけど・・・と言おうとした私を遮る。


「特に問題はない。私は訓練の場を貸すだけだ。例え君がこのまま落ちぶれようと特に損害はない。それに、落ち目の時に受けた恩は誇大する。恩が帰ってくる場合には大きくなる。

 少ないリスクで、できるだけリターンを大きくするのが投資というものだ」


 たしかにそう言われれば、理にかなっているようにも思える。


 ・・・・。


「分かりました。願ってもない話です。庭をお借りします」


 私はフレイムさんに深く一礼した。


 彼は若干口の端を上げると(笑ったのだろうか?)、そのまま家の壁持たれるように地べたに座った。


「一応勇者の訓練には立ち会わなければならないから、ここで見させてもらうぞ」

「はい」

「あと、ここを使う上で守ってもらうことは。準備と片づけは自分でやれ、そして家には絶対に入るな。さすがに妻と子がいる家に女はあげられん」


 そういえば妻子持ちでしたね、あなた。

 庭にあげるのも若干グレーゾーンのような気もするが・・・。

 ま、その辺私が気にすることじゃないか。


「はい、それくらいはかまいません」


 私はいそいそと木人を用意して、『格闘』スキルを発動した。


「ふっ」


 短く息をつき、木人へ向け正拳突きを放った———。




 こうして私は、気兼ねなく訓練できる場を得たのである。



新キャラ登場。

主人公の男友達。バイト先で知り合った元同僚。

気が合い、バイトをクビになった後も休日によく遊ぶ。

ちなみに主人公へ妙な感情があったりなかったり・・・・

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