表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

5 初陣

今回短めです


 ・・・・・・・会話がない。


 訓練2日目。昨日と同じ隊列で進む私たちに一言も言葉はなかった。

 理由は単純で3人中、一人は会話をする気がなく。一人はコミュ障。一人はこの状況を作り出してしまった自負の念で反省中であったためだ。

 つまり話し出すやつがいない。

 どんな話でも起がなければ始まらないし、広がらない。

 どんなに上手いツッコミもボケが居なければ突っ込めない。


 こうなってしまえば、もう外的要因に頼るしかない。

 その願いが通じたのか前を歩く鳴鹿が立ち止まり、片手で待ての合図をする。


「魔物?」

「ああ。数十メートル先、ここまで近づいても気づかないやつは初めてだ。かなり強いかも」


 鳴鹿が私の質問に答えてくれる。

 やはり事務的な内容なら受け答えしてくれるようだ。


 『鷹の目』スキルを発動し、前方を確認するとのそのそと歩く熊型の魔物が一体。

 事前に行われた座学で魔物の種類なども説明されたが、おそらくあれは脅威度Cの「シルバーベア」だ。


 脅威度はAからFまで存在する魔物の強さを表したランクである。(定番といえば定番だ)

 Cは確か街規模の危機を起こす脅威度だっけ・・・?


 今更だが、そんな奴らと戦えるのか?

 相手は街単位の兵力で対応する生物なんだぞ。


 緊張からか、思考がネガティブ寄りになっていく。悪い傾向だ。


「どうします?向こうが気付いていないなら迂回してやり過ごすこともできると思いますけど・・・・。個人的には悪手ですね」

「同感。いきなりCクラスと戦うことにはアタシも不安があるが、どのみちアタシたちはもっと強いやつらと戦わなくちゃいけなくなるんだ。あいつぐらいは軽く倒せるくらいじゃないと」


 そう。私たちはもっと強い相手と戦うことになる。

 この世界魔物を相手にするハンター職ではCクラスを相手にできる人間というのは結構ザラにいるらしい。

 Bクラスでも戦える人間がいない訳じゃあない。

 しかしAクラスになると個人で相手にできるものは本当に一握りだ。所謂歴史に名を遺す英雄とかそんな者。

 私たち勇者はそんなAクラスを相手にするために居る。相手にできる力を持っている。


 となればCクラスで怯えている訳にもいかない。


 それに考えようによっては初めてにしてはいいシチュかも。

 敵は一体。こちらが先に気づいたためしっかりと準備する時間がある。そして相手の索敵能力が低いため奇襲もできる。


 それほど時間もかけず戦うことに決まる。


 私と鳴鹿は手早く自分の武装。ピックと短槍を確認する。


 鳴鹿の天職は『重槍兵』。エクストラスキルは『神槍術』。

 その名の通り槍を得意としている。

 レベル効果の構成は流石に重要な情報なので聞いていないが、戦闘スタイルは特殊能力などではなく基本的な格闘に秀でたタイプだ。攻撃もさることながら、防御力も高い。RPGで言うとタンク職みたいな感じだろうか。

 『槍術』にも属性剣のような特殊なレベル効果が生まれることがあるが。彼女が模擬戦でそのような技を使ったことはない(奥の手として隠しているのかもしれないが)。

 本当は自分の背よりも長いビッグランスを使っているのだが、今回は森の中で戦うことを意識して取り回しと携帯性の高い短槍を装備している。


 確認が終わると、次はユリにバフ魔法をかけてもらう。

 これで準備完了。


 私と鳴鹿は互いに顔を見合わせうなずいた。

 事前の打ち合わせ通りに。


 私たちは同時に飛び出した。



 * * *



 私の戦闘での役割は陽動だ。敵にちょっかいを出しヘイトを集め、私にかまっている間に横から槍や魔法で攻撃するという手はずになっている。

 終始魔物に狙われる役回りだが、文句はない。正直私にはこれくらいしかできることがない訳だし。


 はっきり言ってしまえば私は戦闘においていらない子なのだ。

 防御寄りの前衛に、攻撃もサポートもこなせる後衛。非常に相性がよく無駄がない(人間として合う合わないは別にして)、構成としては十分である。


 だが、私に全く意味がない訳でもない。


 天職にはそれぞれ特殊な技や能力が一つ存在する。所謂必殺技のようなものだろう。

 『重槍兵』、というか槍兵系の天職には『チャージ』という特殊技がある。

 文字通り力をため、強力な突き技を放つものだ。シンプルだがそれゆえに強力。熟練者になると一突きで龍を狩るのだとか・・・。


 もちろんデメリットも存在する。

 一つはタメが長い。数秒ほど構えて力をためなければ放つことはできない。

 そして二つ目が技を放った後に硬直があることだ。


 タメが長いと1対1ではまず通用しないし。多人数を相手にしていたとすれば一人をチャージで倒しても他の敵に硬直時を狙われる。

 こう聞くと鳴鹿がたいして親しくもない私達と組むことにしたのかが分かる。槍兵は団体で戦闘を行うのが基本ということだ。


 デメリットは大きいがそれでも効果はすさまじい。

 勇者には他にも槍兵系のジョブを持つやつがいたが、チャージで騎士を吹き飛ばしていたし。

 中でも鳴鹿は別格だったと思う。並の的じゃあ威力を測ることもできず、試しに城の壁に放つと特殊な造りなっている壁に大穴を空けていた。

 騎士から仲間に向けて使わないことを注意されていたっけ。


 とにかく私は鳴鹿がチャージを使える隙と、チャージを放った後のヘイトを作ればいい。


 走っていると私の方が前に出た。

 鳴鹿は鉄のプレートメイルを装備しているし、短槍とはいえ鉄鋼の塊だ。重量はかなりあるだろう。

 対して私は革装備のみ、しかも武器と言えるものはピックと小ぶりなナイフだけで身軽だ。短距離走なら私の方が早い。


 シルバーベアに対して数メートルまで近づいたところで、相手もこちらに気が付いたようで立ち上がり顔をこちらに向ける。

 私はその動きを予想し、熊の目が来る場所を狙ってピックを投げていた。

 放たれた針は寸分の狂いなくシルバーベアの両眼に命中する。


 野太いうめき声をあげ、痛みで目を抑えている熊。

 その隙を逃さず下あごを蹴り上げるように飛び蹴りを食らわせた。


 ゴキィ!


 という音が響き。足に手ごたえを感じる。

 そのまま蹴り反動を利用しバック転で距離をとった。


 このままでは邪魔になる。

 後ろから抜き出た鳴鹿が熊の視界が回復する前にするどい突きを3発連続で放つ。

 かなりのダメージだろうが、それでも熊のHPを全損させるには至らぬようで傷はついていない。


 鳴鹿は追撃はせず、熊からは離れた。

 どうやら視力が回復するのを見極め、反撃を食らう前に下がったようだ。

 冷静だ。初めて戦闘を行うとは思えないほど、しっかりと判断を行っている。


 シルバーベアは完全にダメージを回復させた様で、両眼をギラギラさせ私たちをにらみつける。


(やっぱり投擲だけじゃキビシーか・・・・)


 心の中でぼやく。

 投擲がクズスキル扱いされる要因の一つがその威力の低さだ。

 今の攻撃も実際なら両目を失明させるか、当たり所がよければそのまま脳に達して絶命させることもできただろう。

 だがこの世界の生命はHPという値に守られ傷がつかない。急所を狙っても致命的な一撃にならない。


 でも、痛みがあるから数秒は動きが止められる。

 それだけでも結構やりようはある。


 私はもう一度突っ込みながら目を狙って投擲する。

 ピックは熊の手で防がれ、命中しなかった。


 ・・・・よし!

 予想通り、魔物にもある程度学習能力がある!

 目を攻撃されたら痛い。だから目を守る。


 しかし、目を防御すれば視界がふさがるんだよ。


 熊が自分から死角を作っている間に懐に潜り込み、がら空きになった腹に拳を叩き込んだ。

 やっぱりいつもより威力が高い。ユリのかけてくれたバフ魔法のおかげか手ごたえを実感する。

 劇的な変化はないが、この小さな差が生死を左右することもあるだろう。素直にありがたい。


 相手も木偶じゃない。

 懐に入り込んだ私に爪で攻撃を仕掛けてきた。


 右。左。

 一度目は上体をそらして。二撃目は飛び引くように躱す。

 三撃目は躱せないかもしれないが・・・・。

 それは来ることはない。


 私がシルバーベアの相手をしている間に回り込んだ鳴鹿が横から槍で攻撃を仕掛けた。

 完全な不意打ちでたたらを踏む熊。


 その隙に態勢を整えて、離れる。


 シルバーベアはどうやら私たちの中で脅威となるのはどちらなのかを見極めたようで、こちらには目もむけず鳴鹿に注視していた。

 その判断は当たりだ。この戦闘で私が熊に与えたダメージは鳴鹿の10分の1にも満たないだろう。


 だけど、完全にノー眼中っていうのはいただけないと思うぞ。


 またも熊の目に向けてピックを放つ。

 それはもう見たと言わんばかりに、こちらを見ずとも弾き飛ばされる。

 が、それは囮。

 本命の二本が、シルバーベアの耳の穴と鼻腔の先に突き刺さる。


 ぎゃっと叫ぶ間に、今度は口の中と足の指先に当てる。


 うん。我ながらいやらしいところを狙ってるな・・・。

 鳴鹿なんかうわあ、と引いた顔でこっちを見ているし。

 うるせえ。実戦にきたねーもいやらしーもあるか。


 シルバーベアが完全に怒り狂った顔でこちらをにらみつける。

 そうそう、羽虫っていうのはなまじ害がないからこそ。うっとおしくてイラつくものなんだよな。


 歯をむき出しにした熊がこちらに跳びかかってくる。

 まるで弾丸のようなスピードだ。後ろに逃げることはできないだろうし横に両手を広げているため左右へも逃げられない。


「山岸!」

「アゲハちゃん!」


 ガチンッ!


 熊の咢が閉じる音。

 しかし私をとらえることはできなかった。もちろん両手で捕らえられたわけでもない。


「??????」


 完全につぶしたと思った虫が手を開いてもいなかった時のように、熊はいきなり消えた私に混乱しているようだ。


「こっちだこっち」


 そんな熊に私は上から声をかけてやる。

 はっと、顔をあげる熊。


 その視線の先には、木の幹に立っている私がいた。

 私の姿を確認したシルバーベアは上空に飛びあがりこちらを攻撃する。


 さすが異世界。現実感を丸無視した動き。

 それは私も同じだけど。


 私は熊の攻撃をひらりとかわし、別の木の幹に足だけで着地した。

 空振りし地面に落ちた熊にピックで追撃。そしてまた別の幹に跳んで攻撃。

 跳んで攻撃。跳んで攻撃。跳んで・・・・。


 やがて私の動きをとらえきれなくなった熊に向って急降下。


「はあぁあああああっ‼」


 魔力が宿り、仄かに発光した足で繰り出されるかかと落とし。

 それがシルバーベアの脳天にさく裂した。


 今までと違いはっきりとダメージを与えた。

 そして脳震盪を起こしたのか棒立ちの熊。


「今だ!」


 と、着地しながら叫ぶ必要もなくすでに「タメ」を終わらせた鳴鹿がシルバーベアの喉元にチャージを放つ。

 その強力な一撃は一瞬でHPを全損させ、大穴を開けた。



 * * *



 終わった・・・・・。


 ふーっと、長い息をつきその場にへたり込む。

 時間にすれば10分と経っていないだろうが、それでも緊張の連続でひどく疲れた。

 これをこれからも続けていくと思うと気がめいってくる。


 とはいえ、初陣にしては上出来とひとまず楽観しておくか。

 私たち3人とも無傷で危なげなところも一切なかったと思う。

 上々だろう。


 と、鳴鹿が私のそばまでやってきた。

 へたり込む私に手を差し出すから、てっきり引き上げてくれるのかと思ったらいきなり胸ぐらをつかまれた。

 ぐえっ。


「おい。お前今何やった?」

「え?」

「とぼけんな。さっきの一撃は『格闘』スキルの技だろ。はたから見てても分かった。だが木の幹を跳びまわっていたのも何かしらのスキルだったが、お前は同時に投擲まで行っていた」


 鳴鹿は険しい顔で私に向ってくる。ちょっと怖い。

 近寄ってきたユリもどうしていいか分からず、あうあう言ってる。


「どういうことだ。()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()はずだ。お前・・・・・何したんだ?」


 あー、やっぱり気付かれてたか。

 まああんなにあからさまにやってたら気づくか。


 鳴鹿の怒りも納得だ。

 事前にスキルとかの構成は話し合っていたが、このことを私は言ってなかったわけだし。

 でも言い分を聞いてもらえれば、やっぱり切り札は隠すもんだと思うんですよね。


「あーっと。説明するのにしばらくかかりますけど、いいですか?」


 とはいえ、ここまできて秘密ということで許してはくれないだろう。

 心なしかユリも興味ありげな視線を向けて来ているし。


 私はぽつぽつと話し始めた・・・・。



定期的に更新するとなるとこれくらいの文字数がちょうどいいんですよね

短い、読みごたえがない等を思った方はぜひ感想でご指摘ください



そして前回からの新キャラ、鳴鹿さんの設定画です

あくまでこんな感じという目安だと思っていただければ

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ