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30.3 姦しい、が仲良くない

約一年二ヵ月ぶりの投稿です

申し訳ございません


 結果的に言えば、彼女たちは私の誘いを断らなかった。


 そのまま私たちは談話室のテーブルを囲み、お茶とお菓子をたしなむ。

 …正直、楽しげな雰囲気ではなかった。


 当たり前だ。

 学校なり会社なり、何かしらの組織やグループに所属している人間ならば。自分の意とは関係なく、特に親しくもない人間と関わりを持たされる気まずさを察していただけるだろう。

 最終的に了承したのは彼女たちとは言っても、その主催は私なのだからそう感じさせてしまったことを申し訳なく思う。


 その償い…というほどではないが。

 私はこのお茶会が始まったときから終始、私は周りの会話をつなげることに尽力していた。

 少しでも居心地の良い空間になってくれるように。


 無難な話題を均等にふり。返ってきた返答にも大げさすぎず、かといってそっけなさ過ぎず。その人物に適切であろう反応を返す。そして、話題を広げる。


 その間も、遠慮してあまりお菓子に手が伸びていない人にこちらから取り分けたり。

 甘いもので胸やけを起こしかけている方には、消化にいいフルーツなどを進める。


 そういった努力のおかげか、最後の方は多少場が和やかになっていたと思う。



 お開きとなった後、明日も同じ時間にお茶会を開くことを告げると。

 全員から多少意欲的な参加の返事も得ることができた…。



 そして次の日。

 また次の日と場をセッティングし続け。

 やがて向こうから積極的に参加してもらえるようになり。


 一週間もするころには、それはすっかり日常となった。


 最初はぎくしゃくとしていたこの集まりだが。

 今では女子特有の騒がしさにあふれている。


 3人寄れば姦しいとは、よく言ったもので。

 本調子を取り戻した彼女たちは喋る喋る。


 やれ、王都の店に置いてある服のファッションは前時代的でダサいだの。

 やれ、以前行ってみた食事処の店員の接客態度が最悪だっただの。

 やれ、街を歩いていた時に話しかけてきた男のしつこい絡みにうんざりしたからいい対処法がないかだの…。


 日常の愚痴が出るわ出るわ…。


「ねえ、山岸さんどう思うよこれ」

「はいそうですねー、ちょっと古く感じますよねー」

「山岸さんもそう思うよね」

「そうですねー、私も同意ですー」

「山岸さんなら、こういう時どうする」

「そうですねー、私ならそもそも絡まれないですねー。でもそういう時には…」


 と、まあ。

 今ではこっちが聞き役である。


 左右から、次々とかけられる言葉に応答していく。

 気分は聖徳太子だ。




 ちろりと。

 ユリと鳴鹿の二人へ視線をやる。


 やはりというのは失礼だが。人見知りでは、この姦しい雰囲気に適応できないようで。

 どちらも特に会話に入ろうとはせず、テーブルの端で勝手にちびちびやっているようだ。


 完全に学祭とかの打ち上げで、同じクラスって理由だけで誘われたけど。

 いざ参加したら。全く輪に入れず孤立してしまい早くお開きになるのを待っていることしかできないみたいな状況であった。


 …解説しているこっちが悲しくなる。


 他の女子も二人とかかわる気はないようだし、どうにかしたいなら私が動くべきなんだろうが…。

 正直に言ってそれは愚策であろう。


 そもそも、双方ともに「仲良くしよう」という気が希薄なのだ。

 むしろ何の不平不満を口にせず、一緒の場に居ることを許容しているだけ十分に譲歩してもらってるくらいじゃないだろうか。


 関わることを強要されるのは…まあ仕方ないとして。

 関わり方に口を出されるのはあまりいい気がしないだろう。


 クラスの班行動で、一人だけ孤立している生徒を無理矢理輪の中に入れる無神経な教師のようなものだ。

 ‥‥思い出したら腹立ってきた。



 とにかく。

 ここで彼女らの会話をぶっちぎって、ユリや鳴鹿に会話の主軸を持っていくのは集団の雰囲気としても個人の心境的にもよろしくないという話だ。


 人と会話するのが苦手な二人が、上手い話題を出せるとも思えんし。

 発言を待つために、とつとつとした声しかない地獄のような空間が生成されてしまうだろう。


 そうなれば、二人へ非常に重いストレスを与えてしまうことになるし。

 せっかくこれまで和やかな場を提供していたというのに。そんな空気を作ってしまえば、集まってもらっている彼女たちの信用に傷をつけることになるだろう。


 私の中で、二人への情と。

 今後のために、このコミュニティを維持することを天秤にかける。


 ‥‥。



 心苦しいが、いまは手助けをしてやるべきではない。

 この子たちにはもうしばらく居心地の悪さに耐えてもらうとしよう。



 * * *



 お茶会が終わり。

 使った食器を洗い終わった私は、鳴鹿と訓練に勤しんでいた。


「っ‥‥!」

「そこっ!」


 ナイフボーラを槍の柄と石突でいなされ、回避も間に合わず私はどてっぱらに一撃をもらう。


 ‥‥。


「ふぅー…」


 模擬戦の後、私は訓練場の端にやや乱暴に腰を下ろす。

 腹には先ほどの痛みがまだじんじんと残っていた。


「大丈夫か?」


 私を心配するように鳴鹿が顔をのぞく。

 しかし、その顔には隠し切れない喜びの色があった。

 私に勝ったのが、相当うれしいらしい。‥‥私をボコボコにしたことなんて初めてじゃないだろうに。

(私がまだ「出来損ない」扱いされていた時も、鳴鹿と模擬戦をしたことはあった。もちろんその頃もぼろ負けだったが)


 鳴鹿もしっかり私への対策を作っているから、最近の勝率は五分五分というところだ。


 ここのところは、鳴鹿の対策に私がさらに奇策をうったり。

 鳴鹿がそのさらなる秘策を立てたり…。

 シンプルに力負けしたり、完全な運で勝ったり、色仕掛けしたり…。


 と、いたちごっこみたいな様相になっていたりする。


 勝ち負けでどうなるとも、特にないんだが。

 確かに、勝っていた方が気分がよかったりはするかもしれない。


「どうする? もう一戦やるか」

「いや、遠慮しとく」


 せっかくの誘いを断ったというのに、鳴鹿は特に意に介したという様子もなく私の隣へと座りこんだ。

 そのまま大の字に寝転び、うーんとのびをする。


「すみません、やっぱりお茶会の間は窮屈ですかね」


 なんだか晴れやかというか、自然体な様子に。

 そこまでストレスだったのだろうかと、なんとなく謝罪を口にするが。

 以外にも返ってきたのは否定の言葉だった。


「いや、そうでもねーよ。あの集まりはあれはあれで好きだ」


 …ろくに会話もできねーくせに。

 と思ったが口にはしなかった。


 というか、やっぱり鳴鹿は鳴鹿で楽しんでいたらしい。

 以前騎士たちとの宴会でも誰とも絡まずに一人壁の花みたいな状態だったが。

 鳴鹿はイベント事に参加するより、見る方が好きってタイプのようだ。


 もうちょっと砕けて言うと、ゲームはやらないがゲーム実況動画はよく見る。ってタイプじゃないだろうか。

 ‥‥これも鳴鹿には伝わらなさそうだな。



「菓子もうまいし、わいわいやれてるし。なんか、こっちに来て一番充実してる感じがする」


 そのわいわいの中にお前は含まれてないけどな。

 と口にしかけたが、慌ててつぐんだ。


 鳴鹿なら言わなくても分かってると思うし。


「で、どうなんだ。首尾は」

「んー、ぼちぼちですかね」



 もちろん、私がお茶会を開いているのには目的がある。


 といっても大層なものではなく、以前言っていた通り仲間を増やそうとしているのだ。


 集団生活の中で、数は力だ。

 多い方が絶対的に正しい…とまではいわないが。意見に対しての同意が得やすい状態というのは圧倒的なアドバンテージである。


 そして多勢に対して意見を言おうとするものは少ない。

 これは先のように、数の力で意見自体が通りにくいから。ということもあるが。

 単純に大勢というのは恐ろしいものだ。


 人見知りしないような人間でも、大勢の人目にさらせれると委縮してしまうことが多いだろう。



 つまるところ、ユリを集団という抑止力で守ろうということだ。


 ユリが常に数名の女子に囲まれていれば、軽薄な男どもも声をかけづらくなるだろうし。

 たとえユリが一人になったとしても、今まで通りの孤立した人間でなく。

 グループの一メンバーだと知れ渡れば、彼女を害したことで所属する集団からのまとめた害意を受けるかもしれない。という恐怖心が生まれる。


 結果、魔の手の抑止となり。

 ユリの安全な生活に近づけるかもしれない。



 そのための下準備はできた。


 ‥‥できた、んだが。



「肝心の下野が、集団に全く馴染めてねえがな」

「‥‥」


 お前が言うな。

 同じく馴染めていないお前が。


 そう思ったが、嫌なところを付かれすぎて何も言い返せなかった。



 言葉通りというか、ユリは私が現在作っているコミュニティに馴染めていない。


 ユリは長年の経験から男性が苦手だが。

 いじめを受けていたことから女子も苦手としている。


 もっと細かく言うと女子の集団が苦手だ。



 女子グループが苦手。

 というのは私も共通しているため、気持ちはわからなくもない。


 それが全てではないんだろうが、女子の集団は同調圧力とオポテュニズムの塊である。

 女子が集まるのは数の力を得るためか、長いものに巻かれるためだ。


 その方が圧倒的に集団生活が上手くいきやすくなるし。

 コミュニティの中で孤立する、というのはかなりの不利益を被るものだ。学校のような閉鎖的な状況ではなおのこと。


 合理的、といえば聞こえはいいが。

 群れることが優先で、関係性や人間として合う合わないが無視されているような状態は本末転倒というか。結果と過程が逆転しているようで呆れてしまう。


 要するに利己的な信用はあるが友情は存在しない。

 互いが互いを利用し合っている関係に、私は魅力は感じない。



 単純に、私やユリのような集団の関係を壊しかねない存在は排斥されてきたから。

 経験的な苦手意識があるだけかもしれんが。



「…なのに作るんだな」

「ま、苦手がどうとか言ってる場合じゃねえからな。

 私の個人的な感情はともかく、利己的っていうのも悪いことばっかりじゃない」


 利己的、つまり損得勘定は操りやすい。

 得だと思わせれば、勝手に従ってくれる。


 もちろん関係が崩れやすいという点もあるが、それでも一から信頼を築いていくより遥かに手っ取り早いし。

 それも得を与え続ければいいだけの話。




「そう考えると、スイーツにつられたあいつらは単純に思えてくるな…」

「いや、それはグループに誘うダシに使っただけで。彼女たちへの「得」ではないですよ」

「は? あいつらお前の菓子目当てで毎回集まってるんだろ?」

「お菓子で釣れるのなんて小学生くらいですよ」


 というか、今時小学生もお菓子ではつられないだろう。


 集団を作るのは数の力を得るためか、長いものに巻かれるため。

 つまり。


「みんな私、っていう長いものに巻かれたいんですよ」

「??? あんたがあいつらの得ってことか? でも前は排斥されてたって自分で言ってただろ」

「前は、ね。でも今は違う」


 以前のグループは、いわゆるスクールカーストという基準によって作られていたと言っていい。

 学校の中でもてはやされる人間の特徴は、勉強かスポーツが得意な者。

 あとは集団を盛り上げられるコミュ力を持ったモノか、単純に顔がいい者…というところだろう。


 私は顔が悪く、ユリはコミュ力がなかった(あと両方とも厄介ごとの種だった)ため集団から見向きもされなかった訳だが。


 しかし、それは学校という狭い環境の中での話だ。

 進学なり就職なりで環境が変われば、もてはやされる人間の条件も変わる。


「異世界転送も、環境変化って言えるだろ?」

「確かに…ここじゃ成績とかそういうステータスも意味がないわけだし」

「なおかつ、周りは私に追い風が吹いてる思ってるしね」


 追い風。流れとも言っていいかもしれない。


 私はこの世界に来た当初、「出来損ない」扱いされ冷遇を受けてきた。

 しかしそこから徐々に巻き返していき、他の勇者たちを打倒し。

 ついにはカーストトップのイケメンをもしのぐこととなった。


 その流れは、ある種のカタルシスというか。

 判官贔屓的な思考から、人心を引き付けやすかったんだと思う。


 あいつはこれからも何かやるかもしれない。

 この流れのままどんどん上に行くかもしれない。


 口外に認めはしないだろうが、水面下でそんな期待にも似た予想を立て。

 その際、周りにいて媚をうっていればおこぼれを頂戴できるかもしれないと考えるのも無理からぬこと。



「ようするに、みんな私の快進撃にあやかりたいんだよ」


 お茶会はそのあと押しだ。

 いままで排斥していたやつの下につくのはプライドが許さないだろうが。


 それ以外の形で理由を作ってやれば「言い訳」にはなる。

 それらしい言い訳ができれば、人は存外簡単にプライドに目をつむってくれるものである。



「こっちも同じさ。

 目的のためにつまらない意地なんか捨てりゃあいいんだよ」


 私も、ユリのためにつまらないグループの旗印にでもなってやる。


 …あとは、ユリに妥協してもらうか。

 あるいは普通になじんでもらうだけなんだが。


 まあ、これはあいつ自身の心の問題だし。

 外堀はちゃんと作った。



 少なくとも以前のように排斥されることはないだろうし。


 現在、あのグループをまとめているのは私である。

 協調性を重んじる女子が、グループのリーダーが懇意にしている女を分かる形で邪険に扱うことはあり得ない。

 私の見えないところで危害を加えるということもない。


 そりゃあ、ユリの口から告げ口されれば一発でバレるんだし。

 そんな単純な因果関係が分からないわけはないだろう。


 あるとすれば、ユリを口封じするか。

 誰がやったか特定が難しい嫌がらせをするかってところか。


 女子の悪意って陰湿だからなぁ。

 正面から文句言ってくる分、バスケ部君たちの方がよっぽど好感が‥‥うん持てねーわ。

 まだマシに感じるってだけで。



 ともかく、当面の目標は順調だ。

 あとはユリが彼女たちとの関係に慣れてくれるか。

 彼女たちの意識を改善していくだけだ。



 それまでは。

 この姦しくも、仲良しじゃない関係を続けていくことにしよう。



 いずれこれが保険になると信じて。



サブタイトルを

「姦しいが、仲良くない」にするかで結構迷ってました

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