30 弾丸
今後の更新に関して
この後の展開は蛇足的と言うか幕間のようなエピソードがつづく予定になっているので
いっそのこと分割し、さっさと先に進める話と
交互に更新していくことにします
というわけでサクッと読み進めたい方は、このまま31話まで飛ばしていただいて大丈夫です
内容的にも今後の展開に関係が無いわけではありませんが
読んでいなくても特に支障はありません
一本の軌跡。
空気を切り裂く音響とともに、それは真っすぐに目標へと吸い込まれる。
的代わりに配置された兜が吹っ飛んでいく。
一舜遅れて甲高い音が鼓膜に届き、私は命中を確認した
「命中‥‥」
口の中にこもる程度の大きさのつぶやき。
私は続けて、手の中に握りこんだ弾丸を『射出』した。
* * *
最後の兜が跳ぶのに合わせて、背後から拍手の音。
振り向くと、自分の訓練を一区切りさせた鳴鹿が私に向かって手を打っていた。
「お見事」
「‥‥見事なもんかよ」
そう、全くもって納得できぬ結果だ。
「そうか?」
「ええ。的は5つ…だけど全部命中させるのに15発もかかっちまった。
これじゃあ安心して実践で使えるか」
「1/3がそんなに不満か‥‥プロ野球なら首位打者だろ?」
「お前は33.3パーに命かけれんのか?」
「‥‥」
ため息をつく。
「それは、この距離だってのもあるだろ」
この距離。
現在私たちが立っている場所から的へは、100メートルは離れている。
「拳銃の有効射程は20から50メートルって話だぜ?
それ以上ってんなら、十分誇ることなんじゃないか」
それはまあ、そうなんだろうが。
「でも、これくらいの距離なら『投擲』を使えば百発百中なんだよ。
そう考えると、なんともなあ…」
そう。
現在レベルがカンストした投擲なら、1000メートルぐらいでも余裕で命中させることができる。
「それは、比較対象がかみ合ってないというか。
比べるもんでもないだろうが」
曰く。
ライオンとサメどっちが強いみたいな話だろうと、鳴鹿は言う。
それだったらサメ映画のサメだな。
と答えるとぴんと来ていないのか、呆けた顔をされる。
‥‥伝わらんか。
と、冗談はともかく。
確かに鳴鹿の指摘も一理ある。
これは比べるべきものでもないとは分かっているのだが、それでも気持ちとして比較してしまうのが人情というもの。
そもそも、『射出』は使い勝手が悪い。
というのが、使い続けて私が感じた正直な感想である。
確かに、十分戦闘で使える高い攻撃力や。
『貫通効果』というすさまじい能力と、かなり優秀といえるポテンシャルを持っているが。
かといって私に合うか、と言われれば否だ。
‥‥これはステータスが高くない私にも問題のある話であるのだが。
まず、消費する魔力が多い。
劇的に多くなったというほどではないが、明らか目に見えて燃費が悪い。
以前、他勇者と連戦を行ったが。
あんなふうに長期的、連続的に使い続けることは難しいだろう。
そして二つ目。
そもそもの命中精度が高くない。
先ほど鳴鹿が指摘したように、20~50メートルでようやくコンスタントに命中できるようになるのだが。
…それも「止まっている的」に対しての命中率なのである。
先のイケメンとの戦いでは。
狭い闘技場での戦闘であったことに加え、そもそもイケメンに避ける意思がなかったゆえに命中させることができていた。
しかし、十分に警戒し動き回る相手に対しては…?
ろくに当てられたものではないだろう。
少なくとも、狙って当てることは。
というわけで、消費や実益を加味した結果。
私としては派生前の『投擲』の方が使いやすいという結論に達したのだった。
長いこと威力不足で悩んでいたが、ナイフボーラのお陰で解消ができたし。
消費魔力もコストも低いから、他スキルと併用がしやすい。
もちろんだからといって全く改善の努力をしていないわけではない。
こうやって日々訓練を続けているし。
命中率が悪いならば、速射性を向上させ弾数を増やせばいいと。
新しい武器を作ってもらった。
それが今私が手に持った「擬似弾丸」である。
これはまんま拳銃の弾に似せたような形状の鉄の塊であり。
ピックよりさらに小型のため、手の中に何発も握ることができ。より多くの連射が可能だ。
加え、拳銃はその銃身部分にらせん状の溝を作ることによって弾を回転させ。
軌道を安定させるという知識を思い出し、弾の方にらせん状の溝が彫られている。
実際効果があるのかは分からんが、気休めくらいにはなる。
‥‥。
とまあ、このような努力をしつつも。
結果はあの通りなんだが。
「そこまで悲観することかねえ」
と、ここまで説明しても未だに納得がいっていない鳴鹿に一つ曲芸を見せてやることにした。
彼女に的がわりに使用していた兜(ちなみにこれは古くなって処分するものを騎士さんから貰ったものである)を持ってもらう。
「これを上に投げればいいのか?」
「はい。距離は必要ないので高さ重視の角度で」
「分かった…」
何をするつもりなのかと、疑問に思いつつも指示に従ってくれる。
そして、鳴鹿の手から兜が放たれた。
その瞬間に合わせて私は、あらかじめその辺りから拾っておいた小石を『投擲』する。
「…?」
その小石たちは兜に直接命中することはなく。
その周囲を囲むように配置され。
続けざまに取り出した一本のピックを投げる。
ピックは真っ直ぐに飛んでいき、兜に当たって跳弾した。
と、その先には私があらかじめ投げていた小石があり、またしても跳弾し…。
再び兜に命中した。
その後も石と兜の間を乱反射し続け、
バヅンッ…!
と鈍い音が響くとともに着弾の音が止む。
やがて重力に逆らうわけもないそれらは地面に落下し…。
兜にはピックが深々と突き刺さっていた。
投擲の威力では、せいぜい小さい傷をつけるかへこませるか。
それくらいの影響しかない。
が、
何度も何度も、寸分違わぬ位置に命中させるとこによって。
私のピックは鉄製の兜を貫いたのだ。
「なっ、投擲ならこれくらいのことは余裕でできる」
と、少々得意げに振り向いた訳だが。
その鳴鹿は、私の曲芸に対して。
うわぁ、とドン引き気味に視線を向けているのだった…。




