3 出来損ない
最初に言っておく、この小説はラブコメである。
約2週間が経った。といっても、この世界にそんな単位はないんだけれど。
その間分かったことが一つ。
私は本当に「出来損ない」だったということだ。
「はあ・・・・はあ・・・・・」
私は今しがた30キロのマラソンを終えたところだった。
きつい・・・・。
徐々に走る速度を落とし膝に手をつく。
流れる汗が止まらない。髪も服もべたべただ。特に暑い天候ではなかったが長時間走ったことによる体温の上昇でまるでサウナの中なんじゃないかと錯覚する。
「おい、見ろよ。ちょっと走っただけであんなにへばってるよ。なさけねーな」
「おいおい、かわいそうじゃん。相手はなんにもできない『出来損ない』なんだから」
「ていうかなんだよあの顔。汗だらけで余計キモくなってるよ」
私をけなしながらげらげらと笑う男子たち。
周りには他にも生徒がいるが、彼らを咎めることもなく。むしろ私の方に非難の視線を向けてくる。
まあ、仕方ないのかな。
私たち勇者は訓練の日々を送っているが、この2週間にこれでもかと自分の無能さをさらしているのだから。
さっきの長距離走だって他よりも短い距離を走っていた。
周りは私より2倍の距離を軽々走り切り、すごいやつは短距離みたいな速度だった。
これでもマシになったほうなんだけど・・・。
最初は10キロから始めていたし。今も30キロを1時間ちょっと。自分の出せるベストなタイムだった。
ただの女子高生が短い期間で30キロ走れるようになるなんて、『異世界の勇者』の効果はすさまじい。
だが、周りは私が必死こいてやることを鼻歌交じりにでき私と同じ速さで成長しているのだ。
「はへ・・・・・はへぇ・・・・・」
しばらく休んでいると、後ろからユリが追いつきようやく走り終えた。
もともと運動が得意ではなかったユリは、この世界でも苦手なままで。
10キロどころか5・6キロでヘロヘロになっていた。
「大丈夫か?」
「うーん、もうダメ・・・・」
倒れこんで息をつくユリに水筒を手渡す。
ユリの肉体アビリティは出来損ないといわれる私よりも低い。
だが周りからユリを非難するような視線や声はない。(むしろ男子はヘロヘロになったユリをいやらしい目で見てる)
これも仕方ない。
* * *
「えっと・・・・いきます!」
ユリが宣言し手をかざすと、その手から極大の火球が飛び出し前方の的を吹き飛ばした。
・・・・いつ見てもすげえな。
ユリの天職は「魔導士」。
所謂、魔法使いの上位互換でかなりレアな職らしい。
加えてエクストラスキル「魔導の天才」。
これは魔法系のスキルを会得しやすくなり、しかも発動する魔法に大幅な増幅補正がかかるというものだ。
この2つの特性でユリは魔法の扱いに関して勇者の中でも右に出る者はいなかった。
肉体のアビリティに難はあるが、それを補って余りある実力だ。
出来損ないの私とは雲泥の差だな。
「何をよそ見している」
「あ、すみません」
私を監督する騎士に注意される。
私たち勇者は国を守る騎士に訓練の監督をしてもらっている。
基本的に午前には先ほどのような走り込みや筋トレなどの基礎訓練。午後に個人の天職やスキルに合わせた個別訓練を行っている。
剣士系の者は剣などの武器の扱いを、魔法系は魔法の制御法を教わっている。
そんな中私は・・・・。
「よっ」
私が投げたピックが風切り音と共に飛んでいく。
遅れて前方700メートルにある的に命中する音。
私はひたすらにこれを繰り返していた。
この2週間私は何をやってもダメだった。
剣を持ってもろくに扱えず、模擬戦では同級生や騎士にボロクソにやられ。
魔法に関してはうんともすんともいわない。
マッチ火程度の火種を作ったり、コップ一杯の水を作り出す『生活魔法』というものがあるらしいが。
一般人でも(ある程度の適正はいるが)多少の努力で覚えられるものですら私には使えない。
つまり私は一般人以下だったということを証明してしまったわけで。
今では下っ端の騎士が退屈そうに私のそばにいるだけで、ほぼほったらかし状態になってしまっている。
私はもやもやした気持ちを振り払うようにピックを投げた。
「投擲Lv7」。
私が持つスキルの中でまだ使い物になるものだ。
このスキルを使えば700メートル先の的に物を命中させることができる。
私は個別訓練の時間をすべて投擲の練習に使っていた。
「そろそろ距離を伸ばすか」
また「鷹の目Lv3」というスキルで遠くの的、円形のど真ん中に刺さった10本のピックを見て呟く。
700メートルなら百発百中だ。
投げるだけならもっと遠くまで飛ばせる。
試してみると1キロ程度なら余裕で投擲することができた。
だが的に命中させるとなるとこの距離は大分短くなってしまう。
私はピックを抜き、710メートルまで離れる。
最初、命中させることができるのは500メートルだった。わずかにでもしっかり成果が出ている。現状に諦めて何もしなければこの結果はなかった。
「見ろよ。まだあんな無駄なことやってるぞ」
「あんなに必死になったって無駄なのにな」
「言ってやるなよー。あのブスあれしかできないんだからさー」
遠くから私をなじる声が聞こえる。
どうしてほっといてくれないのかな。・・・・下を見下したいって思考は分かるけれど。
先ほどまであった。密かな充実感が霧散するのを感じる。
確かに今の男子たちの言う通り私のやっていることは無駄なことなのだろう。
「投擲」スキルは実用性のある能力じゃない。せいぜい、牽制や敵の注意を引くことにしか使えない。
理由は単純に威力が低すぎることだ。格上相手どころか対等なあいてにもまず通じない。
そして他にも遠距離攻撃に有用なスキル、魔法や「弓術」があることだ。
魔法は威力も申し分なく本人の魔力《MP》だけしか消費しないためコスパがいい。
「弓術」は威力こそ魔法に劣るが魔法以上の正確性、長距離射撃が可能。そしてレベルを上げていけば矢に様々な付加効果を加えることができ汎用性が高い。
以上の理由から「投擲」はいわゆるハズレスキルという扱いを受けている。
そしてそんな「投擲」しかできない私も・・・・。
頭の中にかかる暗雲を払うように、私はピックを投げた。
* * *
「おいおい。なんで出来損ないが俺たちと同じ場所で飯食ってんだよ」
はあ。
今日だけで何回絡まれるんだ私は。
「いきなりなんですか」
「ああ?なにもなんもねえだろ。ここは俺たち勇者が使う食堂なんだよ。お前みたいな出来損ないは来んな、消えろ」
訓練が終わり、夕食の後は自由時間となっているが。
いつも通りユリと並んで夕食をとっている最中、いつかのバスケ部がからんできた。
「いえ、私も一応あなたたちと同じ勇者なんですけど」
「ふざけんな。お前みたいな出来損ないが俺たちと同じ勇者だと?認められるか」
いやいや。まるで勇者であることに誇りでもあるような言い草だが、2週間前に軽くなっただけだろ。
「この際はっきりさせようぜ!こんな出来損ないここにいない方がいいよな。追い出したほうがいいって、みんなも思ってるだろ!」
バスケ部が周りにいる他の勇者たちに賛同を求めるように言う。
「こいつに何ができるんだよ。ちっちぇえ棒切れ投げるだけのブスが人類救えんのかよ、なあ!こんなやついるだけで邪魔だ邪魔」
これは初めてのことではない。
事実、2週間前私にエクストラスキルがないと分かったときもこいつは追い出すべきなんて言いだした。
それ以降も私が何かするたびにそれをネタにしてこんな風に騒ぎ出す。
言っていることは私への不快感を隠そうともしない我がままだが、引き合いに出す理由が正当だからタチが悪い。
周りにもこのバスケ部に賛同して追い出そうと言い出す連中もいる。
それでも私がまだここにいるのは、反対してくれる人物がいるわけで・・・・・。
「また勝手な言い草だね」
食堂に声が響く。
声の主はいつかのイケメンだった。
「お前、またそんなこと言ってたのか」
「うるせぇ!言って何が悪いってんだ。こいつが役立たずの出来損ないっていうのは事実だろうが!ゴミだゴミ!いない方がいいんだよ!」
「何度も聞くけれど、どうしてそう思うんだい?きちんとした理由を聞かせてもらえないだろうか」
「気に食わねえんだよ。こんなやつがいるだけで不快でしょうがねえ。それで十分だろうが」
「それは君個人の意見だろう?そんなもので方針を決めるわけにはいかない。『君と同じレベル』の考えを持っている人が他にいるのなら、話は別だろうけど」
イケメンは『』の中を強調して言う。
「いるに決まってんだろ、なあみんな!追い出したほうがいいよな」
バスケ部が周りに賛同を求めるが、それに答える人間はいない。
ここで賛同してしまえば、この男と同レベルな人間だと思われてしまうから。
それに、いまここでイケメンと面と向かって敵対すれば。同時に女子の大半を敵に回してしまうだろうし。
相変わらず、人の心理を誘導するのがうまいやつ。最初に追い出すと騒がれた時もこんな風に周りの心情を味方につけて上手に納めていた。
いや、それともこの男に人を先導する才能がなさすぎるのか?
私を快く思わない人間は確かにいる。あとはどっちでもない傍観者を味方につけるだけの正当性と方便を唱えればいいだけなのに。言っている言葉は自分の感情しか表していない子供の癇癪と何ら変わらないものだから、傍観者どころか賛同者すら味方できなくなってるし。
どうやら自分に分が悪いと(今更)理解したのだろう。
憎々しげな顔を作り、バスケ部はこの場を去った。
「えっと、どうもありがと助かった」
「礼は結構。さすがにあいつの行動が目に余っただよ」
「とはいっても・・・・」
「同郷のよしみだよ。気にしなくていい」
なんてさわやかな笑みを浮かべながらイケメンは去っていった。
イケメンの正義感溢れる行動に周りは賞賛を込めた視線を向け、その後女子たちは私に向けて非難めいた視線を飛ばした。
・・・・勘弁してくれ。
イケメンに庇われるたびに周りの不満はむしろ増え続けている。
女子は憧れの男子が私みたいなブスをかまっていることに嫉妬と不満があるのだろう。
先ほどのイケメンの行動に賞賛する女子も、その前にはバスケ部の言葉に同意するような態度だった。
「イケメンにかまってもらえるお前は邪魔だ。消えろ」と。視線が語っているような気がした。
「・・・・・・・」
「アゲハちゃん、大丈夫?」
「え?あ、ああ。大丈夫だよ」
心配げにこちらを見るユリに思考を打ち消す。
「ねえユリ。あのイケメンどう思う?」
「え?・・・・うーん。いい人だとは思うよ」
・・・・以前、何度か助けられたことがあるからか。男性が苦手なユリもあのイケメンに対しては悪い感情を抱いてないみたいだ。
「・・・・・ユリも仲良くしたいって思う?」
「え?うーん、そこまでではないかな・・・・」
「そっか。あのイケメンにはさ。近づかない方がいいと思う」
「え、なんで?」
「それは・・・・あー、えっと。やっぱいいや、なんでもない」
あくまで私の勘だからな。
あのイケメンは気のいい好青年にしか見えない。が、私にはあいつがどうもいいやつとは思えない。
顔が悪い側からの妬みとかそういうことじゃなく。
私の顔を見た人間の反応はおおよそ決まっている。
何も思わないか、明らかに不快に顔をしかめるか。
前者はめったにいない。私が今まで会ってきた人間の8割は後者だ。
そして残りの1.9割。
表面上不快感を隠し平気な顔を装うか。
いままでの人生、ずっと悪意に触れてきたと言ってもいい私だ。
相対した人物が自分に悪意を持っているか否かなんとなくわかる。
悪意を隠して近づいてくる3番目の中に碌な人間はいなかった。
そして、あのイケメンは・・・・3番目だと思う。
巧妙に隠している。だがさわやかな笑顔の中に除く不快感を私は確かに感じている。
だからこそ私はあの男への警戒を強めてしまう。
しかめっ面な私を、ユリは不思議そうな顔で見ていた。
* * *
「なんであんたがここに居んのよ!」
・・・・・もう突っ込む気すらおきん。
夕食後、訓練の汗を流そうと浴場へ足を運ぶと今日何度目かも分からない罵声が飛んできた。
目を向けると女子の集団がこちらをにらんでいる。
わお、不穏な空気。
「なんであんたが私たちと同じお風呂に入るのかしら」
「あんたみたいなブス入るとこっちの身体が汚れるじゃない」
「汚いものお風呂に出さないでよ」
いやいや、風呂は汚れを落とすところですから。
というのは建前で、おそらくイケメンに庇ってもらっている私へ嫌がらせする口実だろう。
あとどうでもいいけど、お風呂って言い方がかわいい。
「えっと・・・・あなたたちもあのバスケ部と同じ考えってこと?」
「私たちをあんな低能と一緒にしないでくれる!」
バスケ部、哀れ。
女子に低能って思われてる。
あいつ見てくれはまあまあ良いから、人気でそうなもんなのに・・・。やはり言動と行動か。
「私たちは全体としての主張をしているの。みんなあんたが入るのを嫌がってんのよ」
と、代表の女子が言う。
さすが女子。派閥を作ってハブれ物を切るやり方を熟知している。
女子の世界は政治と同じ、数が力になるからな。数が多い、意見が多いほうが問答無用で正しいことになる。女子の中で孤立するってことは命取りだ。
ここは反論も抵抗もできんな。
おとなしく引き下がろう。
形だけの謝罪をし浴室から出る。
ユリは特に拒絶されたようなことは言われていないけれど、あの雰囲気の中入浴する気はないようで一緒に退室していた。
それにしても人間って面白いな。
さっきの女子たちはもともと学校で女子グループなんかからあぶれて孤立していたような人たちだったのに。
それがこっちの世界でまた新しい派閥を作ってハブれ物に威圧している。
人間立場が同じならやることは同じってことなのかな?
なんの法則って言うんだっけ?こういうの。
「仕方ない。お湯もらって清拭だけするか」
「うん」
「私、お湯もらってくるから先部屋に行ってて」
「大丈夫?」
「大丈夫だって」
ユリと分かれ、回廊を歩く。
この城の間取りも覚えてきたけれど、やっぱり広い。
そして暗い。よって回廊は人が近くにいても気づかないほどの闇がところどころ出来ている。
そう。まるで誰かを待ち伏せすることが出来そうな・・・・。
「ぐっ・・・・!」
横から来た衝撃にうめく。
気配は分かっていたから、身構えていたけれどやっぱり痛い。
「よう」
陰から出てきたのは、バスケ部とその他の男子が数名。
「あらら。みなさんこんな時間にどう・・・・がっ!」
喋ってる途中に顔面殴らないでよ。
舌噛んだじゃん。
「さっきはよくもやってくれたな」
「・・・・なにが?」
「るせぇ!大勢の前で恥かかせてくれたな」
いや、それはどっちかというと私じゃなくてイケメンの方じゃないかな。
もっと言えば、からんできたこいつの自業自得だけど。
ま、イケメンは勇者の中でも実力者だから。中途半端な実力のこいつらじゃあ太刀打ちできないだろう。
だから勝てる相手に狙いを変えたって訳か。
「てめえなんか、いらねえんだよ‼」
バスケ部の蹴りが腹部にめり込み、胃の中の物が逆流する。
「う、げぇっ!」
「きったねえなあ!」
それでも、バスケ部は手を止めない。
周りの男子も加勢して、私は猛攻を受ける。
このバスケ部。こっちの世界に来てから、さらに行動に考えがなくなっていた。
前の世界では流石に手をあげることはなかった。
こいつも学生として停学や退学といった罰則は怖かったのだろうし、女性を尊ぶような社会だったからだ。
だが、この世界は違う。
私たち勇者はこの国の中でかなり高い地位に立っている(らしい)。
そして一応監督をしている騎士も実際には勇者を罰したりという権利はない。
だからよっぽどすぎたことをしない限り罰されることもない、咎められることもない。
つまり、このバスケ部を抑えるものはないということだ。
実際、このようなリンチ行為は初めてではない。
この男だけでなく他の勇者にも。
ほとんどの者が元の世界に不満があって、ここに残った。
勇者としてもてはやされることを期待して。事実、この国は私たちに過剰な待遇を与えてくれている。金、色、名声。人が求めるものがすべてそろっていた。だが、人は贅沢に慣れる。最初は満足しても、もっともっとと求め続ける。そうなると次は不満が出始める。
勇者の中でも優劣があったのだ。あのイケメンはこの世界でも実力を発揮し周りの賞賛を集めていた。
そこに待遇の差などの明確な優劣があったわけではない。
いや、だからこそなのだろう。イケメンには賞賛が向く、だけど自分には来ない。そんな表には出ない内面的な不満がふつふつと沸き上がり、フラストレーションがたまった勇者の払しょく方法がより下の者への八つ当たりだったのだ。
そんな奴らに、出来損ないの私はちょうどいい発散対象だったのだろう。
人目のないところで殴る蹴る。
傷がつかないというこの世界の特性も行動の過激化の一因だろう。
この世界ではケガをしない。
ステータスにあるHPという値。これは生命力や体力を数値化したものではない。この世界の生物は不思議な力に守られ、たとえ攻撃されても傷つくことはない。
代わりにHPという値がダメージとして減っていき。0になって初めて傷がつく。
つまりHPが残っている間は剣で切りつけられても、高所から落下しても怪我をすることはない。
だからだろう、暴力を振るっているという感覚が薄い。
どれだけ殴っても痣もないし、はれもしない。ゲームのキャラを延々攻撃している気分にでもなっているのだろうか。
こいつらには暴力への抵抗も戸惑いも感じられなかった。
あるのはただ、弱者を虐げたことに対する下種な歓喜だけだ。
「おいおいどうしたよ?いつもの威勢はどうした、ああ‼」
私も前の世界でこの男に何かと口答えをしていたが、それは私が女という立場とルールに守られているという前提と打算があったゆえの行動だ。
「うるせえよ、ガキ」
だが、言う。
言ってやる。
今の私を守ってくれるものは何もない。
だけどこんなクズに黙ってるほど、私は人間できちゃあいない。
「人の事出来損ないだの雑魚だの言っておいて、手を加えるときは男数人がかりかよ」
「あ?」
「結局一人じゃ何にもできない腰抜けか?というか臆病者か。うひひ・・・・うげっ」
言い終わると同時に拳が飛んできた。
見ると男子たちは分かりやすく顔を真っ赤にしていた。
中でもバスケ部は湯気でも出しそうなくらい分かりやすく頭に血が上っている。
暴行が過激になり、一人の男子のつま先が私の眉間に突き刺さり後頭部が壁にぶつかるとブザーのような警告音が頭に響く。
私の頭から血が流れ落ちて、ようやくHPが0になったと理解した。
「お、おい。さすがにやばくねえか・・・」
血を見て明らかに狼狽し始める。
・・・・やっぱりヘタレかよ。
「き、今日はこれくらいにしといてやるよっ」
「なんだ、ビビったか?」
不敵に笑ってやると、案の定去勢をはったことが丸わかりな笑みを浮かべ始める。
「せ、せいぜい言わせといてやるよ、虫けらにはそれぐらいしかできないだろうからな」
ひきつったような声で私をあざ笑い、男たちは逃げるようにその場をあとにした。
(虫けら・・・・ね)
いいさ、虫けらで。
虫らしく、しぶとくやってやる。
(虫けらなめんなよ。指先ほどの小さな虫が人を殺す時だってあるんだ。いつか絶っ対噛みついてやる!)
男が消えた闇の先に向って、中指をたてた。
* * *
「・・・・・・痛」
去って行った後も、私は痛みで動けなかった。
傷がつかなくても痛みはちゃんとある。数人がかりで与えられた「痛み」はしばらく治まることはないだろう。
頭の傷の方は・・・。出血は派手だが、そんなに深いものではないと思う。
とにかく手当てしないとごまかせなく・・・・。
「アゲハ・・・・・ちゃん?」
!
「ユ、リ・・・・・」
「どうしたの⁈待ってても来ないから、探しに・・・・。なんで、こんな・・・!」
あちゃ。ばれちゃった。
この現場を見れば、何があったかなんて一目同然だろう。
今まで暴行を受けていたことは隠してたんだけど・・・・。
「ひどい・・・・・」
ユリ。悲しい顔しないでよ。
見たくなかったのに。
「待ってて・・・・・・『ヒール』」
ユリのかざした手に光がともり、私を照らす。
・・・・・すごい。
痛みが消えた。ステータスを確認するとHPが全回復している。
「ははっ」
「・・・・アゲハちゃん?」
何が私が守る、だ。
守られてるのは私の方じゃないか。
私はユリに見られないよう、目元を隠した。
ほんと、
「・・・・・なっさけな」
正直、バトル要素はおまけなので。
スキル、魔法等の設定は流していただいてかまいません。