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29 称賛と祝勝会

前話の文章が分かりずらいというご指摘があったので、若干修正しております

ですが、文法を若干変更しているだけなのでわざわざ読み直さなくても大丈夫です(19 10/15)



 その後、いろいろと混乱はありつつも。これ以上特に問題もなく模擬戦は終了した。

 結果として私の勝利という、最良の成果を得たわけだが‥‥。



 その日の夜。

 私はフレイムさんから呼び出しを受けた。

 要件は聞いていないが、場所は私たちが住む城。その騎士たちの詰め所だった。


 はじめて入るそこは、一見どこかの事務所のようだ。

 広さ学校の教室を二つぶち抜いたくらい?


 そこそこ広いスペースには机が並べてあり、壁には地図とか日程スケジュール。

 あとは個人の予定を書き込むボードのようなものがかけられている。


 と。

 詰所の奥にフレイムさんと。‥‥騎士さんたちが全員集まっていることに気づく。。

 どうやら夕礼…というより定時前のミーテイング中のようだ。


 呼び出された立場とはいえ、邪魔をしないように隅っこでフレイムさんを待つことにしよう。



 騎士さんたちは何やら連絡事項なんかを話しているみたいだが…。やはり、部外者がいると気になってしまうのか。

 何人かはこちらへちらちらと視線を向けてくる。


 う…ん。

 邪魔かなぁ、私。


 いったん外へ出ていた方がいいか。

 いやいや、ここで出て行ったら気を使ったこと見え見えだし。

 数分のためにわざわざ動くっていうのも、それはそれで目障りなんじゃあ‥‥。


 と、なんだかよく分からない思考に陥っている間にミーティングは終わっていた。



 ぴりっとした空気が弛緩し、フレイムさんがこちらへ近づいてくる。


「すみませんな、急におよび立てしてしまい」

「いいえ、大丈夫です。‥‥ところで、何の要件です?」

「ああ、それは‥‥ん?」


 フレイムさんは後ろから近づいてくる騎士さんたちに気づく。


 急用かもしれないし、私はジェスチャーで「お先に」と伝え。

 いったん会話を打ち切る。


「団長、すみません。私たちはすでに勤務外ということで‥‥」

「ああ、そうか。‥‥ヤマギシ殿」

「へ? あ、はい」


 騎士たちと話していたと思いきや、急に話の矛先が私へ向いて少々うろたえる。


「ここはまだ城の中ですが‥‥まあ、今日は特別ということで。勤務も終わったということで無礼講でよいでしょうか?」

「え、ええ。いいですけど」


 急に何なんだ?

 フレイムさんが久しぶりに敬語なのは、部下の前だからってことなんだろうけど。


 最近では特に断りとかなく気安い感じになっていたのに。


 眉をひそめている隙に、集合していた騎士たちはゾゾゾッ‥‥と移動し始め。

 あっという間に私を取り囲んだ。


 …え。え? なに何これ?


 以前男子たちにリンチを受けていた経験から、多人数に取り囲まれることには慣れていたが。(嫌な慣れもあったもんだ)

 それでも背筋が震えることには変わらない。


「あの‥‥?」

「無礼講、ということでよろしいですよね」

「え、ええ」


 よって、一人の騎士からの言葉に無条件にうなずいてしまった。


 え、無礼講‥‥?

 まさか、先日の不当労働の不満から肉体的な報復に至ったのか⁈


 そうだとすれば、言葉もない。


 どんな事情があろうと、勤務外でここ数日働きづめにさせたことは事実。(その事情も私怨だし)

 彼らが私に不満を持っていたとすれば、それをぶつけられるのは当然だし。

 それが私への報いだろう。



 そんな風に一瞬で覚悟を決めた私は、一騎士からの打撃を目の端でとらえるも。

 回避しようとはしなかった。


 そのまま男の腕が私の肩へとぶつかる。

 …だが、思った以上に衝撃は少ない。


 手加減された…というより、こちらを痛めつける意思がない?



「やったなぁ、おい!」


 続けざまにかけられた声に、目を白黒してしまう。


「よくやったぜあんた!」

「いやー、試合中はらはらしっぱなしだったぜ!」

「最後の一撃なんか、決まったときには思わず手を上げちまったよ!」

「おいおい、この人がそんな簡単にやられるわけねーだろ。俺は序盤から勝利を確信してたぜ」


 と、称賛の嵐にもみくちゃにされてしまう。


 …? …? …???


 私は、突然のことに訳が分からず。

 ただただ混乱することしかできない。


 なんだ? どうしてこの人たちは、私なんかをほめたたえてるんだ…?

 もちろん、私だって人に褒められたことがないわけじゃあない。


 だがしかし。

 こんな風に、多くの人間から大々的に認められ。尊敬の念を向けられたことがあっただろうか?


 一人一人の顔を見る、けれどもそこに嘘や皮肉なんてものは一切なく。

 純粋な好感しか読み取れない。


 皮肉でも嫌みでもなんでもなく、この人たちは本心で私を讃えてくれていた。


 でも、なんで?








 なんで、私なんか(・・・・)を誉めてくれるんだ? この人たちは…。




 せっかく褒められているのに、私はただただ困惑することしかできず。

 とるべき反応を全く返すことができずにいた。


 助けを求めるように、フレイムさんへ目をやる。

 すると彼は素早く割って入り、周りをなだめる。


「ほらほらお前ら、一気に話すんじゃない。この子が困ってるだろうが」


 その鶴の一声によって、場の興奮は一応の鎮静化をみせる。


「あ、あの。聞いていいですか?」

「なんだ?」

「何で皆さん、こんなに喜んでるんですか?

 それに、私なんかを誉めて…」

「なんかじゃねーよっ」


 私の言葉は、誰か。

 少なくとも、ここに居る人間の誰か遮られた。


「あんたはずっと頑張ってきたじゃないか。

 それが報われたことがうれしくないわけないだろ。なあ、みんな!」


 そしてその言葉にこの場の全員が同意した声を上げる。


「不思議なことじゃない。あなたたち勇者の訓練には我々騎士が必ず監督することになっているんだ。

 つまり、ここに居る人間は君がずっと努力してきたこと間近で見ていたのさ」


 フレイムさんも、肯定的なことを言ってくれる。

 私は‥‥。



「あ、ありがとうございます」


 と、ぎこちなく言葉を返すしかなかった。


 だけど、困っているわけでも不快なわけでもない。

 今私が感じている感情を表現する方法をよく知らないだけで。


 私の胸の中には切なさにも似た情動が宿っていて。


 私はそれが、とてもうれしかった。



 なので、決して見れたもんじゃないだろうひどい顔だが。

 私はしっかりと笑みを返し。


 彼らも、同じ表情で答えてくれた。


 そういえば。

 使用人やってた時も、この人たちには不当な扱いを受けてなかったなあ…。と。




 そんな重要なことを今更思い出した。






 夢うつつ、というようになんだかぼんやりとした私を置いてけぼりにして騎士たちはヒートアップしていく。




「な、このまま酒場にでも繰り出そうぜ。あんたの勝利を祝うのにこんなとこじゃ味気ねえだろ」


「なんて言って、オメーはただ飲む口実が欲しいだけだろーが」


「うるせー。なあ、あんたに一杯驕りてえ気分なんだ」


「お、いいねぇ。俺ももごるよ」




 次々に、「俺も、俺も」と声が上がっていく。




「‥‥えっと」


「いいではないですか。そうでもしないと今日のこいつらは収まりませんし。


 せっかくの酒の肴をお預けにする必要もないでしょう」




 どう答えていいものかと、フレイムさんに視線を投げると。


 そんな肯定的な意見をもらう。




 そっか‥‥。




「よしっ行きましょう!」




 私が宣言すると同時に、場が沸き立つ。




「ですが。


 今回私が勝てたのは皆さんのおかげだと思っています。ですので‥‥




 今日は私の驕りで‥‥!」


「いや、君こいつらに金払って無一文でしょ」




「‥‥あ」




 忘れてた…。


 それに加えて、鳴鹿に借金すらあるし。




 そのような醜態をさらしても、騎士さんたちはやさしかった。


 飲みの代金は彼らが払ってくれるというというが、やはり私としてはお礼の気持ちとして何かを返してあげたかった…。




 すると、フレイムさんから。




「では、料理はどうでしょう?」




 そう提案される。




「料理…ですか?」


「ええ。あなたがご馳走を作ってふるまえばいいんですよ。そしてともの酒をこいつらが持ち寄ればいい。誰も文句のないなりゆきじゃないか?」




 いや、そういったって私の料理なんか…。




「おお、いいっすね!」


「なるほどそいつぁ名案だ!」


「意義ナーシ」




 が、私の予想に反して反対意見はない。


 というか喜んですらいる。




「え…ええっ⁈ いいんですか皆さん? 私の料理なんですよ…」


「悪いわけあるか。あんたの腕が確かなことはお墨付きだからな」




 え?




「おうよ。みんなあんたのメシの味を覚えてるからな文句なんかあるわけねえ」


「そーそー。ここ最近じゃ差し入れが日々の楽しみだったしな」


「むしろ、酒盛りより断然そっちの方がいいくらいだぜ」




 いや、いやいや。




「え、みなさん。あれを私が作ってたって知ってたんですかっ⁈」




 嘘。


 絶対嫌がられると思って、そこらへんは守秘するようにしておいたのに…。




「差し入れに来てたあんたの友人様たちがあっさり喋ってたぞ」




 ‥‥あの役立たずどもめっ。


 絶対言うなと口酸っぱく言っておいたというのに!




「えーっと、それはそのー‥‥」




 今まで騙していたことがバレバレだったということを知り、途端に気まずくなってきた。




「ははっ、そんなこと俺たちゃ気にしねえよ。…なあ?」




 一人の騎士が私の不安を笑い飛ばす。


 その言葉を、この場の誰も否定しない。




「それでも…だましてたことは事実ですし…」


「差し入れに来てた、あの子たちが料理を作ったなんて一言も明言はされてなかったですよ。


 どこにだました要素があるって言うんですか?」


「だとしても、ともすれば不快にさせる行為でした」


「律義だねえ…」




 というより頑固か。という軽口に笑いがあふれる。




 やはり困惑してしまう。




 笑われている。


 それは私が今まで経験したものとは根本的に異なったものだった。




 彼らの笑みには、全く悪意が含まれていない。


 そんな温かい笑顔に自分が囲まれているこの状況が、果てしなく不可解だ。




 ともすれば夢を見ているんじゃないかと思うくらい。




「優しすぎでしょ、みなさん…」


「あなたほどじゃあないっすよ。‥‥と、話したご友人を責めないでくださいよ。


 こっちが無理矢理聞き出したようなもんなんですから」


「そうなん、ですか?」


「ええ。悲しいさがってやつかな。


 こういうむさくるしいところで働いてるもんだから、年頃の娘っ子と話したいって思っちまって。


 いろいろ話しかけても友人のお方々は、どうもそっけなくて」




 うん。


 そこはあのコミュ障どもに頼んだ私の人選ミスだ。




「ですが、二人ともアンタの話をふると途端に饒舌になるんですよ。


 頑張ってる言うと、自分のことのように喜んでね」


「‥‥」


「料理のことも、そんな調子で口を滑られたみたいで。


 あんたに怒られるってあわててた」


「…ちなみにどっちが?」


「それは言わない約束になってますから」




 そうかい。


 まあ、いろいろお世話になった騎士さんに免じて許してやってもいいのだが。




 その慌てようを、実際見てやりたくなった。




「例えばなんですが‥‥私が皆さんにフルコースをふるまったとして。


 その固い口は柔らかくなりますかね?」


「おーっと、あんたにそこまでされちゃあ。


 かってえことで有名な俺たちの口も、もしかしたら何かを思わず溢しちまうかもしれねぇなあ…」




 一人の騎士の同調するように、次々と肯定の言葉があがる。




「よし、分かりました。‥‥私が料理しましょう! 酒のつまみからデザートまで!」




 サムズアップしながら宣言すると、騎士たちは湧き上がってくれた。


 そうかそうか…!


 よっしゃー、それじゃあいつも以上に張り切って作るとしますかっ。




 そうなると場所をどうするかなんだが…。




「場所なら私の家を使えばいい。


 庭にテーブルを並べれば、宴会の会場としては十分だろう」


「いいんですか?」


「ああ。こんな雰囲気に水を差せるはずがないだろう。


 それに、今日は無礼講だからな」


「よっさすが団長!」


「珍しく太っ腹!」


「珍しくは余計だっ」




 と、どつき漫才が始まり皆が笑いあい。




 私も笑った。






 * * *






 宴会兼、私の祝勝会は。


 予定通りフレイムさん宅の庭で行われた。




 ちなみに、ユリと鳴鹿も誘ったところ。二人とも特に抵抗はなくついてきた。


 人見知りだが、こういったワイワイさわぐ集まりは嫌いじゃないらしい。


 そういうところ、こいつら微妙に似てるんだよなぁ…。






 みんなが庭で酒盛りをする間、台所を借りて調理をする。


 そこはフレイムさんの奥さんも手伝ってくれた。




 以前ご馳走になったときからわかっていたが、やっぱり料理上手だ。




 お互いにいろいろと発見があり、後日お互いに教えあう約束もできた。


 そういう意味でも楽しい時間だったといえる。






 作った手料理を、テーブルに運ぶ。


 お肉とか煮込み魚と味の濃いものが多いが、酒の席だしこっちの方がいいだろう。




 私が皿を置くたび、「待ってました」と歓声があがる。




 みんなが私の作ったものをうまいうまいと食べてくれる。






 こんなにうれしい時が今まであっただろうか。






 一通り作業が終わったところで、私も酒盛りに参加する。




 みんながやいのやいのと私をもてはやし、私は困惑し恐縮する。


 そんなやり取りでみんなが笑う。




 ユリと鳴鹿も、輪に入るわけではないが。


 それでも居心地が悪そうにはしていない。




 フレイムさんと、その奥さんも楽しそうに参加する。




 ‥‥と。


 てっきり奥さん美人だから、酔っぱらった騎士さんたちに絡まれるんじゃないかとちょっと心配していたがそんなこともなくみんな紳士に接している。




 考えてみれば上司の奥さんなんだから当たり前か…そうなんとなしにフレイムさんに伝えると。


 いきなり爆笑し始めて、




「それはここに居る奴らが、妻の過去を知っているだけですよ。


 君もあいつの本性を知れば納得するはz‥‥ぶっ!」




 一瞬だった。




 少し離れた位置にいたはずの奥さんが、目にもとまらぬ速さで移動し。


 気づいた時には、フレイムさんの水月にその拳が突き刺さっていた。




「‥‥!」


「あらあら、この人ったら。雰囲気に当てられて酔いつぶれちゃったのかしら…?」




 う、動きが全く見えなかった…!




 心底心配するようにうずくまったフレイムさんを介抱している。


 と、満面の笑みのまま視線がこちらに向き。




「ところで、この人から何か余計なことを聞かなかったかしら…?」




 もはや尋問ともいえるような迫力の質問に。


 私は高速で首を横に振ることしかできなかった‥‥。




「そうですか、それはよかった」




 表情と物腰は何も変わっていないはずなのに、その背後には陽炎のような揺らぎが起こっているように錯覚してしまう。




 とりあえず、料理を教えあうときには一層粗相がないように気を付けることにしよう‥‥。








 後々聞いた話だが、実は奥さんも過去に騎士をしていたらしく。




 現在もその名を聞くだけで恐れられるほどの猛者だったとか違うとかって話だ。




 荒唐無稽な笑い話のようだが。


 あのボディブローの身のこなしと迫力から、笑い飛ばせない圧力を感じてしまう…。






 * * *






 そんなこともありつつ、祝勝会はおおむね楽し気に終了した。




 またこんな風に宴会を開きたい。


 また料理をふるまってほしいという要望が多数寄せられ。




 心底楽しかった私も、いつかまたやろうと騎士たちに約束した。










































 だが、結局その約束が果たされることはなく。








 こうして彼らと過ごすのは、




 ‥‥これが最期になった。


というわけで、主人公がようやく報われ始めました…


作者的にも…ここまで長かった

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