28 種明し
私は罠を仕掛けた。
イケメンが立てた推察通り、フレイムさんを通し騎士に指示を出して。
この闘技場には‥‥いや。
この辺り一帯の訓練場。模擬戦が行えそうな場所全てに、あちこち忍者屋敷よろしく仕掛けを施していたというわけだ。
これはイケメンがどこで模擬戦をするのかまで、さすがに予想ができなかったからだ。
まあ、数うちゃ当たるの精神でとにかく設置しまくったのである。
使用した、一定の重さ以上でピンポイントに踏み抜けば跳ね上がる石畳とか。
闘技場の四隅にある、ある角度から叩くとポッキリ折れるようになってる柱とか。
その他、落とし穴。トラばさみ。トリモチ…etc.etc。
実は様々な罠があちこちに設置されている。
そう、これらすべてが。
この戦闘が始まる前から、準備されていたものであるわけだが。
さすがにこれらすべてを3日の内に用意できるのか? と聞かれてしまえば否、と答えるしかない。
この世界の人間が、いくら私たちの世界の人間に比べ個人個人の性能に優れていると言っても。
数日でやってのけるのは無理がある。
では事実どうやってそれを可能にしたのかといえば、簡単な話。作業日数が数日でなかっただけだ。
こんな風に語ると、まるでどこぞの魔法少女が一日を48時間にしたような力を使ったかのように聞こえないこともないが。
もちろん違う。
話を根本に戻し、一連の出来事のきっかけを思い出すと。
それは私がイケメンに宣戦布告をしたことであり、その状況を作り出したのはイケメンが私に襲撃を仕掛けてきたことだ。
‥‥もっと言ってしまえば、私はその襲撃を見越していろいろと準備をし。
その結果、充電したスマートフォンでイケメンの正体を撮影し。今回の模擬戦をこぎつけたのだが…。
つまるところ私は。
イケメンが襲撃を仕掛けてくる以前から、イケメンの行動。および、ここまでの戦闘の流れをすべて想定していたということである。
以前、私は鳴鹿へ「いろいろと準備はしている」と語ったが。
その準備こそ、訓練場への細工のことだ。
つまり私は、この戦闘が行われるきっかけが起こるずっと以前‥‥。
具体的に言ってしまうと、私が複数人の勇者たちと模擬戦をしたあの日。
イケメンが私のことをただならぬ視線で見つめていた時から、こうなることを見越して準備を始めていたのだった。
その時点から今日まで、おおよそ1週間。
イベントごとの準備としては心もとないが、まあやってやれないこともない期間とも言えなくもない。
その間騎士たちには。
石畳を引っぺがしたり、立っている柱を一度折ってもらったりと‥‥結構な重労働を強いてしまったと申し訳なく思うと同時にありがたくも思っている。
もちろん、それ相応の報酬は全員に渡したし(若干足りなかったので、鳴鹿からもカンパしてもらったが)私が作った食事の差し入れもよくしていた。
さすがに私みたいなブスが作ったものでは嬉しくないだろうから、差し入れ自体はユリや鳴鹿に頼んだケド。
‥‥知らない方がいい真実もある。騎士の皆さんだって、美少女が作ったと勘違いした食事の方が一層うまく思えるだろう。
一応言っておくが、騙したわけじゃない。二人には決して自分たちが作ったとは明言しないように言っておいたし。
そんなわけで、備えあれば憂いなし。
という言葉通り、私は入念に準備された備えによって。
憂いなく勝つことができた。
‥‥が。
はたから見ると、まだ不可解…というかすっきりしない点が残されていることだろう。
それは、
* * *
「いいですかな?」
おっと。
私がイケメンを見送りながら、少々ノスタルジック的な感慨に浸っているところへ声がかけられた。
見やると、声の主はこの戦闘を監督していた騎士。
フレイムさんの騎士団の者でなく、イケメンが呼んだ方の人だ。
「先のやり取りを聞かせていただきました。
この状況、確かに不可解ではありますが。この現象とあなたとに何かしらの因果関係を結びつける証拠は皆無です。
よって、あなた様を反則と断定することは私にはできません」
そう騎士は一礼をしながら言う。
「ただし‥‥。
この模擬戦の意義があなた様たちの実力を図る目的であったことから、この結果はいささかその目的を満たしかねると私は判断いたします」
…まあ、仕方ないとは思う。
こんなあからさまなことをやって、認められないことは。
「ええ。まあ、そうでしょうね」
私が了承した風な返答を返すと、騎士は安心したように破願する。
「そういっていただき、感謝いたします。
よって、この模擬戦は無効試合といたし…」
「ちょーっと、待ってくれねえか?」
と、ここへ私たち以外の発言がかぶさった。
「「?」」
突然の言葉にそちらへ注目する。
その発信元である人物は、ギャラリーの人垣をかき分けて壇上へ上り。そのままこちらへと歩みを進める。
髪型は鈍い金髪をオールバックにし。
2メートル近いがっしりした体躯に全身鎧を身に着けている。
少し角ばった顔は、ともすれば威圧的だが。
そんな彼が、実はお茶目であることを私は知って‥‥。
って。
「フレイムさん‥‥⁈」
その正体は、お茶目で天然なナイスミドルだった。
全く予想していなかった乱入に、私はつい素っ頓狂な声を上げてしまう。
「おやおや、誰かと思えば。下級騎士団の団長様ではありませんか。
会話を止めたのは。いったい、どのようなご用件で?」
「この模擬戦の判断に異議がある」
と、私たちの間に立つ。
まるで私をかばうかのように。…いや、それは私の妄想か。
「異議‥‥ですか」
「ええ。この模擬戦に武器に関する禁止事項はない。よって、彼女が“偶然にも”持ち上がった石畳を武器として利用したところで無効とする要因としては薄いのではないだろうか」
「なるほど‥‥主張は理解しました。ですが、それは論点のすり替えというものです。
確かにこの模擬戦に置いて、武器に関する規定は存在しませんでした。そういう意味で、石畳を利用するという戦法事態に全く問題はないと言えるでしょう。
ですが、私が指摘する問題とは。彼女が事前に何らかの工作を行った可能性があるという点なのです。
そんな策略を、実力だと認められるわけがないでしょう」
「だから、偶然だと、言っているだろう」
フレイムさんの声色が変わり、有無を言わせぬような強いものへと変化した。
「ほう…?」
「私が‥‥騎士団長の私が保証すると言っている。
彼女が事前にこの闘技場へ何の工作も行ってはいない」
おいおいおい…!
いつの間にかわきに追いやられた私が冷や汗をかいている間も、フレイムさんは堂々とした立ち振る舞いを一貫していた。
なんという面の厚さだ。
工作をしたという事実を知っている私すらも、何の疚しさもないかのように錯覚してしまいそうである。
って、いやいや。
フレイムさん、アンタ自分が何やってんのか分かってんのかよ!
「おやおや、騎士団長様ともあろうものが。そんな理屈が通ると…」
「通すさ。
私の騎士団長という立場をかけて、彼女が潔白だということを主張する」
あんた何言ってんだーーーーーーっ⁈
漫画的演出で言えば、今の私は白目をむいて背景に稲妻のエフェクトがズガーンと表示されていることだろう。
それくらい、今の言葉には重みがありすぎる。
つまり、フレイムさんは私の潔白を認めさせるために。
いざとなれば、自分の立場をかけると言っているのだ。
もしも私の工作が明るみに出れば、フレイムさんが何らかの厳罰。
最悪、降格や辞職も辞さないということだ。
いやいやいや。
何やっとんすかアンタ。
こんな下らないことで、今後の人生をベッドしていいわけないでしょうが。
「…正気か? 貴様」
一転、監督をしていた騎士さんの雰囲気が変わる。
「ああ、大真面目だよ」
「もうちょっと利口な男だと思っていたんだがな‥‥。
ここで俺が詳しくこの場所を調べれば、すぐに分かることなんだぞ」
そう、すぐに分かる。
そのあたりの地面を少し掘り起こすだけで、私が真っ黒であることの証拠なんていくらでも出てくる。
‥‥だというのに、この人は!
「この訓練場、および城を管理しているのは我々騎士団だ。
その報告を受け入れないのは、我々組織を信用しないということになりますぞ」
「黙れ、下級騎士が。
我々の権力ならば貴様らの宣告など無効にすることなど…」
「おやおや、ただの団長補佐が。こんな下らないことで組織の権力を利用するのですかな?
騎士団長がお許しになるでしょうか」
「ぐっ‥‥!」
あ、この人団長補佐だったんだ。
てっきり下っ端かと。
「加えて…最近、あなたの成績が不自然に伸びているようですが‥‥。
まさか、懇意にしているという噂の勇者様の力を使い魔物を討伐している‥‥というわけではあるまいな」
「な、なにを事実無根なことを」
「それも、調べればすぐに分かることではありませんか?
あなたが管理する部隊が王都から出立する際、騎士団員でない人間がいなかったかどうか…」
「‥‥!」
「勇者の力を利用してはいけないことは、騎士団の原則にしっかりと明言されていますぞ。
これが明るみになったとすれば、あなたの立場は‥‥」
「き、貴様…!」
「まあ!」
パン! と。
重苦しい空気を打ち消すように、フレイムさんが手を打ち合わせる。
「あなた自身が事実無根だと言っている通り、これは事実でなく利口でない下級騎士の的外れな推察でしょう。いやあ、失礼失礼」
明るく朗らかな様子でフレイムさんが言うが、団長補佐さんへ顔を寄せ。
「ですので、お互いに痛くもない腹を探りあうのはやめにしましょう」
そうささやいた。
「っぐ‥‥!」
「構いませんね、騎士団長補佐殿?」
* * *
結局、団長補佐殿は不正の有無を確認することなく。
部下を引き連れ去っていった。
こうして、試合は無効になることなく。
私は対外的に認められる形で、イケメンに勝利したのだった。
それはともかく‥‥。
「いいんですか? あんなことやって」
「あんな、とは?」
私は隣に並んだナイスミドルを見上げながら訪ねた。
「いや、あの人上司なんでしょ? あんなあからさまに敵対しちゃうようなことしちゃって大丈夫なんすか?」
「全く大丈夫でないが?」
‥‥おい。
「冗談だ」
「ぅえ? ‥‥シャレにならない冗談やめてくださいよっ」
「はっはっは、失礼」
なんというか、この人のことを茶目っ気があると思ったことがあるが。
今はなんだか子供みたいである。
ほんと、外見と内面にギャップがありすぎんだよ。
このままだと、チキンライスに旗を立てたお子様ランチが好物でにんじんが嫌いなんて萌え要素をかましそうだ。
「それと、やつは上司ではない。元同僚だ」
「そうなんですか?」
「同級生でもある」
「同級‥‥せい?」
一瞬単語が理解できなかった。
「私が平民出身だということは知っているな」
「まあ、噂程度には」
「元々ごろつき同然だったんだが、先代の騎士団長に拾われてな。その後、雑用から正規の騎士として働くようになり…今後のために学校に通うことを勧められたのだ」
ああ、そういえば貴族とか金持ち用の学校はあるんだっけこの国。
「だが、その時にはもう20代後半だった私は周りの生徒よりも遥かに年上でな。
平民出身ということも相まって孤立していた。
そして、あいつは騎士団長の息子だったんだが。肝心の実力がなかった。
それを努力と文才で補おうとしていたんだが、認められることはなかった。
結果、騎士団長そして副団長も兄弟が継ぐことになり。しかし身内が何の役職もなしだと対面が悪いと…」
ああ、だから団長補佐って聞きなれない役職だったのか。
「今回のことも、功を焦ったゆえの行動だろう。あいつはいつだって、家に認められようと必死だった」
「‥‥」
「そんなわけで、奴も私とは違う意味で浮いていたんだ。
だが当時は私も青く、彼は若かった。…ともすれば手を取り合うこともできたはずなんだがな」
そう語るフレイムさんは、なんだか寂しそうにも。
後悔しているようにも見えた。
「へえ、結構関わりがある人だったんですね」
そう思うと、さっきのやり取りもなんだか感じ方が変わってくる。
「仲良くはなさそうでしたけど、昔何かあったとかですか?」
「いや、言うほど関係があったわけでもない。特に因縁があったわけでもな」
「そうなんですか」
まあ、聞いた感じお互いにボッチだったって話だろうし。
仲良くできなかったってだけで、別に喧嘩してたってわけでも‥‥。
「ただ、ちょっと今の妻をめぐって争ったことはあるが…」
「めちゃくちゃ因縁あんじゃねーか」
恋敵じゃんあんた。
やっぱり、天然というかどこかズレてんなこの人…。
私は頭痛を抑えるように頭に手をやり、ため息をつく。
「そうなるとますます不味いんじゃないですか? その顛末を聞くと、あの人あなたを目の敵にしてそうですし。
今回はいいとして、今後は‥‥」
「なあに、それも心配ないさ」
そう、能天気なこと言ってこちらに笑いかけるフレイムさん。
「なぜなら、君が後ろ盾になってくれるだろうしな」
「――――――――――――」
それは、以前どこかで言っていた言葉。
しかしそれは建前であって、彼自身そんなこと期待は‥‥。
「あ」
まさか。
この人にとって、それは全部本気だったのか…?
あの時、私は何の力もない「出来損ない」で。
私が何かをなす希望なんて、はたから見たらひとかけらもなかったはずなのに。
彼はずっと、私に期待してくれていた。
いつか、他を抜き去るだろうと。
苦境を乗り越えるだろうと。
ただ、信じてくれていた。
「ふ、ははっ」
敵わない。
どんなに策を巡らせても、人の裏をかこうと。
こういう天然には。
「くくっ…ああ、いいっすよ。まあ、考えてみれば今回で私。勇者中最強ってことにならなくもないですし。見返りは期待してくれれば」
「ほう、それはありがたいな。手始めに、部下が食ったという旨い手料理をば」
「ええ、ええ。立派な働きをする騎士団長様に特性フルコースを進呈してしんぜようっ」
「はは、ありがたき幸せ」
そんな小芝居をしてるうちに、どちらともなく噴出して一通り笑った後。
私はフレイムさんに拳を突き出した。
ともすれば幼稚で、恥ずかしい真似だが。
なんだが今は、無性にこういうことがしたくなったのだ。
そして、
フレイムさんは嘲笑することも、あきれることもなく。
しかし、その口には不快でない微笑を浮かべ。
そして、私たちは拳を打ち合わせた。
「と、いっても。これは余計なお世話だったかな?」
フレイムさんは少々はにかむような、表情をする。
「いいえ。最良の結果になったわけですからうれしい誤算です。
ただ…今後こんなことで無茶しないでくださいよ。自分のせいでフレイムさんが路頭に迷うことがあったら、責任感じますからね」
「無茶するな、と。君に言われても説得力なんてないぞ
自分の今の格好分かっているのか?」
あきれたような指摘に私は自分の身体を見下ろす。
服はところどころ砂や血で汚れ、イケメンに切り付けられた箇所は無残に裂けてしまっている。
う…ん。よく洗って補修すれば、また着れないこともないか…?
破れた服の隙間から覗いた地肌は、切り傷や打撲で無事な部分を探す方が難しい。
これだと、あれだけ踏みつけられた顔面はよりひどいことになっていることだろう。
あとで鏡を見るのが怖い‥‥。
あ。
それはいつもか。
「まあ、それはともかく。勝手な真似してすまなかったよ。
でも、やっぱりどうしても。君に勝ってほしかったんだ。
判官びいき‥‥というやつかな。
君自身は、勝利なんて微塵も興味がなかったというのにね」
* * *
そう、あのイケメンは根本的な部分から勘違いをしていた。
そのそも私は、この試合に勝つ気なんてさらさらなかったのである。
これが種明しの際に残っていたすっきりしない点である。
私がなぜ活用できる可能性の方が低い罠を用意したのか。
別に活用できなくても、それはそれで別によかったからだ。
イケメンに宣戦布告をした夜。
私は鳴鹿に、勝負をする理由を「八つ当たり」と語ったが。
その言葉通り。
私はこの戦い、あの男にある程度の仕返しができればそれで満足だったのだ。
私が持っていた目標は、大まか3つ。
1、イケメンを出し抜いて、プライドをズタズタにすること。
2、イケメンの本性を暴き出して、社会的な評価を地に落とすこと。
3、肉体的に屈服させること。
1と2に関してはどちらかを達成できればいいと思っていたし。
3に関しては一応の目標という感じで、ほぼほぼあきらめてはいた。
が、ふたを開けてみれば。
目標すべてを実現できたし、全く念頭に置いていなかった試合としての勝利も…フレイムさんの尽力によってもぎ取ることができてしまった。
案ずるより産むがやすしというか。
棚から牡丹餅というか‥‥。
想像以上の成果に‥‥というか想定外の吉事が起きて逆におののいてしまう。
とにかく、私はイケメンに嫌がらせができれば満足だったという話だ。
一つ目のプライドをズタズタにする方法は簡単だ。
あの男が『速度を操る能力』を隠し、普段実力を出していなかったことからその性格をある程度予想できる。
彼は実力を抑えた状況で勝利することで、より一層の優越感を得るタイプだ。
よくいるだろう? テスト前とかに「全然勉強してない」なんて宣言して、そこそこの点数をしっかりとるやつ。
あれのセルフ版とでもいえばいい。
あいつは切り札を使わずに勝つことで「本気を出すまでもなく、余裕で勝つ自分カッコイイ」という虚像に酔っているのだ。
そのうえ、切り札を出さないで負けたとしても。
それは「奥の手を使わなかったから、負けただけであり。使っていればこちらの勝ちだった」という自分への言い訳にもなる。
そんな人間が一番嫌がることは何か?
簡単な話、その自分で作ったルールを自分で破ることだ。
私が『射出』で一時的に追い込んだ時、あいつは負けることとルールを破ることを天秤にかけ。
隠していた能力を出した。
この時点でイケメンのプライドはズタズタであっただろう。
誰にも見せたことのない実力。
それはすでに、矜持(‥‥というのはよく言いすぎか)の域に達していたであろうからだ。
縛りプレイを達成できなかった時のイライラってすごいからなー…。
現に、イケメンは人前であるにもかかわらずその本性をむき出しにしてきたくらいだ。
相当おこだったってことだろう。
その時点で、私は二つ目の目標も達成していたことになる。
あの外面ヤローにとって、周りから称賛されもてはやされることが何よりの愉悦であろう。
そんな奴の、周りからの評価を大暴落させることが。
精神的に追い込む、一番の方法であるからだ。
彼がこれ以降どうなるのかは知らない。
案外、うまく取り繕って今までのような人間関係を構築しなおすのかもしれない。
だが、今この時。
失敗してしまった直後はかなり精神的に追い込まれていることだろう。
一時的な苦痛であっても、深刻な痛みを与えられたということで私は満足だ。
そして3つ目。
これに関しては、全く達成する気はなかった。
一応目標として上げはしたが、できればいい。
というような消極的なモチベーションだったと思う。
そう、結果的に。
奇跡的にすべてがうまくいった結果、イケメンを倒すことができたわけだが。
もちろん、そうならない可能性だって十分にあった。
最後の局面、私が用意していた罠が試合の決め手となった。
が。
あの時、イケメンが慎重に事を運び。スキルを切らないことだって十分あり得た。
加え、チャンスがあったところで。その時罠が有効な位置に陣取れるかどうかは完全な運だったし。
そもそも、罠を仕掛けたこともちょっと調べれば簡単に分かることだった。
そういう意味で、敵であるイケメンの驕りに支えられるという本末転倒な策といえよう。
イケメンが試合の場としてここを決めた際、もう少し壇上を入念に調べていれば。
私の万に一つの勝ちの可能性は、完全に潰えてしまったであろう‥‥。
が、そうはならなかった。
否。
正確に言えば、ならないであろうことを予想していた。
なぜなら。
あのイケメンの中で、「私がイケメンに勝利する」という結果はかなり重要な事柄だからだ。
私自身は、イケメンに勝利すること自体になんて微塵も興味がなかったというのに
あの男は私が周りに“認められる形で”自分に勝つことを目的にしていると勘違いしてしまったのだ。
とまるところ、「絶対的に強い自分」に勝つことがかなり箔が付くことだと考えていたからだ。
だから、彼は油断した。
というより、高をくくっていた。
私が使ったような、あからさまなイカサマは仕掛けてこないと高をくくっていたのだ。
そんなことをしてしまえば、例えイケメンを倒したところで。すぐに無効になってしまうから。
彼にとって、誰しも名声のために勝利を目指す。
という理屈は絶対的に正しいものであり、それが当たり前だと信じていた。
が。
その想定を超える…いや、想像の外まで考えを巡らせることはなかった。
頭脳に置いて自分を超えるものは居ないとどこかで驕りがあったからだ。
時にはそんな想定や定石を無視した‥‥。
私のような愚者がいるというのに。
人間は誰しも上に行きたい。
ひいては強い自分にまっとうに勝ちたいと。
そして、周りの人間に。
自分の想定は超えられないだろうと。
結局のところ、
「自意識過剰」
それが、彼の最大の敗因だった。




