24 VSイケメン(2)
(くそ‥‥っ)
男は内心で舌を打つ。
(くそくそくそくそくそくそっくそっくそくそっそくそくそくそくそっくそくそくそっくそくそくそっくそくそくそくそくそっくそくそくそくそっ‥‥‥!)
そして憤慨する。
目の前の女。見下している相手にいいようにしてやられている現状に対して。
なによりも気に食わないことは、彼女が自分よりもギャラリーの視線を集めていることだ。
‥‥認められない。
憤慨する。
ともすれば、普段はメッキで覆っている内面が表にもれてしまいそうなほどに。
が。
彼はその感情を自制する。
先の一件‥‥。
この戦闘を生むに至った経緯で、感情に任せた行動を反省した。
目の前の女は忌々しい‥‥が、同時に認めてもいる。
こいつは状況を打開する意思も行動力も持っている。状況に合わせた対応力、自身の能力を最大限生かす応用力もある。
ある意味。
そういろいろな意味で周りから抜きんでた女だった。
以前の世界でも、利用できるかもしれないと囲うことを検討していたくらいだ。
実際に顔を見て、話以上の強烈な顔面に即却下したのだが。
今になって、その判断は間違っていなかったことを強く実感する。
この女は厄介だ。
俺の周りに俺を疑う賢いやつはいらない、俺を崇拝するバカだけでいい。
この時ばかりは、キリストですら殺意を抱くだろう顔に感謝する。
…だからこそ、油断はしない。
目の前の相手は、一瞬でも隙を見せれば的確にそこをついてくるだろう。
厄介な使い魔を封じ、何の工作もない状態での一騎打ち。
この状態でなら、自分に分があると考えていた。
だが、女は男の予想を超える身のこなしで攻撃をかわし。
絶妙なタイミングで一手を加えてくる‥‥。
以前の模擬戦や訓練を観察し、ある程度想像していた実力を凌駕していた。
力を隠していたのか‥‥。
いや、というよりも。
これまでこの女の実力を発揮するほどの敵がいなかった、という方が正しいか。
と、男は分析する。
だとすれば、やはりこの状況は不可解だ。
先は一撃をもらい、確かに憤慨したが‥‥冷静になってみればなんてことはない。
派手な音は出たが、実際のダメージはほとんどない。
ステータスを確認してみても、HPは1割も削れてはいない。
それが相手も分かっていないわけではないだろう。
このまま続けても、らちが明かないことは自明の理だ。
だというのに、なぜ続ける?
目の前の女が無益な行いをするとは思えない。
この戦いが始まったとき。
もっとさかのぼれば、宣戦布告した段階で彼女には何らかの勝算があったはずだ。
とすれば、その勝算とはなんだ?
宣戦布告の後、男は彼女の立場になりその勝算についての思考を巡らせていた。
考えられるパターンは、おおよそ4通り。
1、使い魔を使用する。
2、何かしらの工作を仕掛ける。
3、例の鎖のような特殊な武器を作成している。
4、新しい強力なスキルで対抗する。
こんなところだろうか。
そして前の二通りは、すでに対策している。
使い魔を使用させないようなルールを設定し。
工作をさせないように、訓練の場はこちらが指定した。(それでも念のため何らかの罠がないか確認はした)
残りは3か4。
だが3の可能性は訓練の開始時に消える。
この訓練のセッティング‥‥および監督を依頼した騎士たちに使用する武器を確認させたが、新しい武器を用意しているというわけでもないようだ。
必然、残る勝算は‥‥4。
何らかの新しいスキルを用意している、ということになる。
そのため、訓練の序盤は様子見に徹していた。
彼女が華麗といえるような動作で攻撃を躱せていたのは、男が実力を出し切っていないというところもある。
ここで先の疑問に戻る。
いつまでこんな小競り合いを続ける?
タイミングを見計らっているのか、一向に新しいスキルを使用する気配はない。
ステータスを随時確認しているから、状態異常などのデバフ系をすでに発動している‥‥というわけでもない。
まさか、この可能性も違うのか…?
ただ単に増長した結果、無計画で戦いに挑んだというオチだったのか?
あまりのあっけなさにそんな予想さえ出てきてしまう。
‥‥このままでは、らちが明かない。
もしかすると、こうしてしびれを切らし攻勢に移ることを予想していたのかもしれないが。
このまま現状をつづけていても仕様がない。
男は手に持つ剣を握りなおす。
少し本気を出す。
より強い攻防で、お前の算段を図ってやる‥‥!
* * *
‥‥。
的なこと考えてんだろーなー。
一撃をくらわせてから、攻撃の勢いが増したイケメンの思考を私は予想する。
頭の中ではなんのかんのと、攻勢に移る理由を論理的に考えていそうだが。ただ単に一撃もらったことにイラついているような感じだ。
攻撃はまだ躱せる。
余裕はなくなってきたが、ナイフボーラで攻撃の打点をずらしたりして何とかさばいている。
が、イケメンの思考通り。このままではらちが明かないことも事実だ。
この男もいろいろと私の思考を予想していたようだが、それはある程度当たっている。
私は未だ誰にも見せていない『新しいスキル』を用意している。
だが、これだけでは勝算足りえない。
ただスキルを使用しただけでは、私はこの男には勝てない。
この男が私の策を警戒し、膠着しているこの状況‥‥。
私の勝機は、この“時”にある‥‥!
* * *
数刻の攻防…。
私が避け…彼が捌く。
らちが明かない‥‥、終わりが見えないような打ち合い。
秒針の動きが数倍に引き伸ばされたような戦い。
だがその最後は、とんでもなくあっさりと訪れる。
必然ともいえる結末だった。
一閃。
イケメンの剣撃を鎖で受けた瞬間、ひときわ大きい…甲高い音がその場に響く。
「「っ!?」」
その異常な事象に、私たちは互いに飛びのき距離をとる。
一方は正解で、一方では間違った判断だった。
私は首をつなぎ、イケメンはチャンスを逃した。
「あっ…!」
大きな声でもなかったがギャラリーからの声が聞こえる。
周りの誰もが状況を理解した。
その音の原因、事象はだれの目から見ても明らかであったからである。
私の手元…。
ナイフボーラの鎖がその途中から砕け散っていた。
当然と言えば当然な結果だ。
本職の武器職人に作ってもらい、自作するよりは頑丈なものになっていたが。それでもイケメンが使っているような業物の剣よりも断然に耐久力が低い。
それに加え、重い攻撃を受け流すためにかなりの負荷が連続でかかっていたのだ。
自明の理、ともいえる。
数舜遅れ、舞った鎖の破片がその場にカラカラと散らばる。
「っは‥‥!」
離れたことで生まれた間。
その隙に、ひときわ大きな息を吐く。
今までの戦闘での疲労。
酷使した脳細胞の苦痛。
そして、ここからの自分の劣勢をすぐに理解してしまったことへの苦悶。
様々な要因によって、一瞬で体から汗が噴き出してきた。
(昔から、運動してる最中じゃなくて。運動が終わった後、一気に汗が出るタイプなんだよなー私)
現実逃避なのか。カラ元気か。
場違いな思考が頭をめぐる。
「これで、勝負あった。‥‥じゃないですか?」
間をおいて、イケメンが声を発する。
私の降参を促すような言葉。
ともすればその勝手な物言いに怒りを覚えそうなものだが。
正直、それは的を射ている。
ここまで私はイケメンと互角に打ち合い。
ある場面では翻弄しているようにも見せていた。
イケメンの怒涛の攻撃にも、ギリギリの動きで。
ギャラリーを魅せるような動きで躱していた…。
そう、「ギリギリ」なのである。
ここまでのイケメンとの攻防は、私が私の持つすべての実力を余すことなく投入してやっと実行できたことだ。
『投擲』の『見切り』効果によって攻撃を予知し。
ナイフボーラを牽制とともに、攻撃の打点をずらすことでの回避でも併用し。
『重量操作』や『空中歩行』などを使い攻撃をかわす。
綱渡りという例えも良いところである。
何か一つ…例えば武器一つ失っただけで瓦解してしまうような状況だったのだ
しかも、その一連の動作を可能にするには様々なスキルを同時使用し、しかもその組み合わせを状況に合わせて瞬時に判断し切り替えなければならない。
…はっきり言ってしまえば、脳のキャパオーバーだった。
脳細胞は悲鳴を上げ、すでにじんじんとした頭痛に襲われている。
武器が破壊されなかったとしても、状況が傾くのは時間の問題だっただろう…。
「どうします?」
またも、降参を促す言葉。
平和的に解決することで、フェミニストをアピールしたいのだろうか。
それでも、その提案は…まあ。ありと言えばありなものだろう。
対戦相手から差し出された選択肢、「降参」。
私は一応、その是非を考える。
このまま続けても、私の苦戦…いや惨敗は目に見えている。
だがここで身を引けば、私は特に見苦しい様を晒すことなく試合を終えることが出来る。
ここまで奮闘してきたことも考慮して、負けという結果になるにしても。
周りからの印象はそう悪くないものになるだろう。
囲碁や将棋などでも、早すぎず遅すぎず。
ちょうど良いタイミングで投了することも重要だというような言葉を、確かどこかで聞いたことがある。
いま私の前に掲示された選択もそれだ。
観客から拍手を受けるような潔い負けを認めるか。
はたまた、意地を通して無様な醜態をさらすか。
ともすれば…普通ならば迷ってしまうような選択だった。
そう、普通なら。
私は腰のポーチからピックを取り出し、右手で構える。
ナイフボーラは鎖の両端に短剣が装備されているので、1本でも手数を維持はできるが。
その場合、必然的に間合いが狭まるため。攻撃をかわし切れなくなると判断した。
そう、私はあきらめが悪いことに定評があるんだ。
…どこの評価かは知らんが。
「だめですか…」
イケメンは残念そうに嘆息する。
だがその悲し気な表情の奥…その瞳の中には。
明らかな嘲笑と、
いたぶる対象を見つけた歓喜の色が浮かんでいた。
* * *
そこからの展開は一方的だった。
明らかに被弾が増える。
最初は掠る様に、しかし徐々に直撃が増えていく。
その原因は片方のナイフボーラがなくなったために、イケメンの攻撃を受け流すことができなくなったことでの回避行動への負担の増加。
そして、代わりにピックを使い攻撃しているがダメージを期待できず。そのうえイケメンは鎧を装着しているため関節部の隙間ぐらいにしか有効な部分がない。
そもそも、イケメンはピックを防御すらしていない。
関節に鉄の棒が直撃しているのだから、結構な痛みになっているはずだが。
この世界では生易しい攻撃では外傷にならない。
そのためある程度の痛みは無視してそちらに攻撃してくる。
つまりナイフボーラでの牽制が減少した結果、対照的にイケメンの防御や回避の負担が減って手数が増えたのだ。
それでも粘っていられるのは、私の回避力が優れている…というわけではない。
遠距離の魔法。
数発が同時に襲い掛かってくるその攻撃をかわし切れなくなってきたが。
当たるのは足や腕などの末端であり、致命的なダメージには至っていない。
いや、足や腕の末端に「当てられている」。
私の回避に合わせ、ギリギリ当たったように見せかけて当てている。
ということは私の回避運動を見切っているということなんだろうが。
…ジワジワいたぶるつもりか。
陰湿な性格がにじみ出てんな、チクショウ。
そのまま私の劣勢が続き、ついにその時が訪れる。
もう一度、甲高い音が響く。
二本目のナイフボーラもおしゃかになったのだ。
次の私の行動は早かった。
ピックを面的に投げ、距離をとるために後ろに下がった。
が、そんなものにひるむわけもなく。
イケメンはピックが直撃することを意にも介さず距離を詰める。
ナイフボーラで妨害しない場合での、直線距離の移動速度はむこうの方が速い。
そして、その手の剣を振りぬいた。
「ぐっ‥‥がぁっ!」
この戦い、初めて胴体への直撃を受ける。
脇腹に吸い込まれた剣戟は、そのまま私を吹き飛ばした。
石ころのように転がり、闘技場の端でようやく停止する。
「げほっ、げほっ…! げえっ!」
重い衝撃にのたうちそうになるが、歯を食いしばりイケメンに正対する。
まだ片膝をついたままだが、それでもピックで必死に投げる。
(まだか…)
だがそんな悪あがきのような攻撃、イケメンは意にも介さない。
ピックを身に受けながら、イケメンはゆっくりと近づいてくる。
(まだか…?)
「ふん、拍子抜けだったよ。お前のことを多少は認めていたんだがな、どうやらそれは過大評価だったようだ」
そういって、彼はその手の剣を振りかぶる。
目の前には、未だに立ち上がれない私。
「無様だな…だが、お前はそうやっているのがお似合いだ。
調子に乗って自分の実力を過信した愚か者にはな」
(まだか…っ!)
そして。
決着をつけるべく、剣を振り下ろすために足を踏み込んだ…。
瞬間。
「‥‥‥あ?」
ガクン、と。
彼の膝が沈み込んだ。
「なんだ‥‥?」
思い通りに動かせないのだろう、けげんな顔で自分の脚部を見下ろす。
膝はかくかくと震えるのみだ。
(―――――――来たっ‼)
私は痛む身体に鞭を打って立ち上がる。
そのままの足のバネを利用して、イケメンへと突っ込み。
腕を振りかぶった。
だが私の動きを察し、防御しようとした彼の身体にまたしても異変が起こる。
「?!」
足と同様に、腕が満足に動かせずにだらりと垂れたのだ。
「な、なんだ‥‥?これはなんだ⁈」
驚愕に顔をゆがめるイケメン。
その疑問に対する回答はどこからもない。
その代わり。
私はその無駄に整った顔に。
「ぁあああぁっ!」
拳を叩き込んだ。
イケメンの容姿については、「男の父上」とギルを足して2で割ったような感じだと思ってください…
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宜しければみてください




