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2 異世界


「どうかこの世界をお救い下さい、勇者様!」


 ・・・・・状況を確認しよう。


 1.私はユリと学校に戻ってきた。

 2.突然地面が揺れた。

 3.学校の内と外を隔てるような壁ができた。

 4.無意識にユリを中へ。

 5.まばゆい光で視界がふさがる。

 6.気が付けば厳かな雰囲気の聖堂(?)のような場所に。

 7.周りには他にも学校の生徒や教員がいた。

 8.なんか豪奢な衣装を着た司祭様(?)に救いを懇願された。←イマココ


 ・・・・・・・うむ。

 なるほど、わからん。

 箇条書きでは伝わりづらいからやはり一から説明するか。



 * * *



 視界が開けたとき、最初に確認したことは傍らにいる少女の安否だった。

 引き寄せた時のまま手をつないでいたので、そばにいるのはすぐに分かった。


「ユリ、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫・・・・アゲハちゃんは?」


 答えず。私はユリの身体を確認する。

 外傷もおかしなところもない。

 ほっと、安堵の息を吐く。


「どうなってるの・・・・?ここは?」

「さあ。何が何やら・・・・」


 周りには私たちだけではなく、おそらくあの時学校に残っていた人間が集まっていた。

 皆状況が分からずに落ち着かないようであった・・・・いや。


 中には何かを察したように落ち着く者がいた。

 ユリに合わせ分からないと言いつつ、私もそのうちの一人だった。


 場所はおそらく聖堂。体育館並みの広さ。ドーム状の屋根にはかなり豪奢なステンドグラスが張られており。

 そして上座に値するであろう壇上に司祭を思わせる格好の人間が数人立っている。


 あれか、異世界転送というやつか。

 一応漫画やアニメで慣れていたので、その事実を受け入れる。

 他に落ち着いているやつらも明らかに根暗なオタクといったような外見だし。

 そいつらは他に落ち着いている人間と目で通じ合い、奇妙な一体感を生み出していた。

 私と目が合うと不愉快気に顔をそらした。

 一体感ェ・・・・・・。


 チリリン・・・・。


 綺麗な鈴の音で落ち着きのなかった群衆がしんと静まる。

 音源はやはり上座の司祭だった。


 全員が注目したことを確認すると、中でも一番位が高いと思われる白髪の初老男性が口を開く。


「ようこそおいで下さいました、勇者様方」


 どうやら勇者パターンらしい。



 * * *



 司祭(?)からこの状況について語られる。


『この国は危機に瀕している』


『危機を脱するため、異世界から勇者を召喚した』


『勇者とは私たちのことである』


『勇者には世界を渡る際、強大な力が与えられる』


『この国そして世界のため侵略する敵と戦ってほしい』


『了承してくれるなら、この国は私たちを受け入れ相応の待遇と報酬を約束する』


 要約すればこんなところか。



 * * *


 なんかよくあるような設定だなあ。

 ところで何故要約した解説かといえば、話の途中からユリが特殊な状況に対応できず茫然としたところを介抱していたため。私自身、司祭の説明を要点だけ流し聞きしていたからだ。


「どうかこの世界をお救い下さい、勇者様!」


 と、ここで最初に繋がるわけで。


「ふざけんな!」

「意味わかんねえよ!」

「家に帰して!」


 生徒の中から暴言が飛ぶ。


 まあ当たり前だろう。

 私は似たような状況を知ってるからまだ冷静だが。オタク知識とか詳しくないやつだとただ単なる誘拐だもんな。

 異世界転送は誘拐罪に当てはまるのだろうか?裁判で勝てる?

 どっかのドラマで霊能力で犯罪を犯しても罪にならないとか言ってたけど、確か原理はともかく何かしらの不可思議な力で犯罪を犯した証拠と因果関係を証明できれば罪になるらしいよね。


「ご安心ください。戦いを了承されない場合は皆様を元の世界へと送り戻します故。なにとぞ冷静に」


 おや、帰してくれるんだ。

 こういうのって戻れないか、戻すことを条件に無理矢理戦わされるものだと思ってたけど。


 その後も懇切丁寧に戦ってもらうようにと、懇願の言葉が続けられるが。

 正直校長先生の話のようで完全に聞き流していた。周りも同じだろう。


「これより拒否された方のために転移魔法を発動いたします。発動までには時間がかかります故、待つ間今一度ご検討のほどよろしくお願いいたします」


 魔法!そんなのもあるのか!

 どうやらファンタジー的世界観のようで、司祭たちの格好から文化レベルは中世って感じだ。

 話が終わり、他の司祭(話の流れからすると魔術師か?)たちが何やら準備を始める。


 ざわざわと騒がしくなる。

 どうやら仲間内でどうするか相談しているようだ。といっても、大抵さして時間をかけることなく結論が出ているみたい。

 それは立ち位置、転移魔法とやらを準備している魔術師たちの近くに移動していくことから分かる。


 この待ち時間。皆何をしているかは大体4通り。


 すでに帰ることを決めた者。

 今だ相談している者。

 司祭たちに何やら質問している者。

 そして、どんな思惑か何もしていない者。私はここに当てはまる。


「あ、アゲハちゃんどうしよ・・・・」

「ユリ、あのさ・・・・・・私残ろうと思うわ」

「え・・・・・」

「ユリはどうする?」



 * * *



 1時間は経ったか。


 転移魔法の準備ができたようで、床に光を放つ魔法陣が出来上がっていた。

 その周りにいる生徒や教員が帰る者。離れた位置にいるのが残るやつらということだ。


 残る方には根暗な男子や地味な喪女たち。

 おそらく今の生活や環境に不満を持つものだろう。

 中には私の担任教師もこちら側にいた。どうやら普段のやる気のない職務態度通り、教師という職に不満があったようである。


 まあ、それはある意味予想通りとして。


 意外なことにあのイケメンまでが残る方にいる。

 どうやら世界を守るということに使命感を感じ、善意で残ることにしたようだ。

 そのことを聞いた周りの生徒や教員は騒然としていた。

 生徒からすればヒーローが、教員からすれば自慢の生徒がいなくなるのだから何とか説得しようとしていたがイケメンの熱意と決意は動かせなかった。

 女子の中にはイケメンが残ると知ると、とたん真剣に残るかどうか悩む者が出てきたがその中でも残る方に鞍替えしたものはごく僅かだった。


 言い争いの声が聞こえる。

 戻る直前までなにをもめてるんだよ。

 声の方へ視線を向ければ、片方はユリにちょっかいをかけていたバスケ部男子だった。ユニフォーム姿だから部活中だったんだろう。

 相手は短髪に眼鏡の上級生、同じユニフォームを着ているから彼もバスケ部。もしかして彼が例のキャプテンだろうか?


 二人の会話からどうやらキャプテンは引き止めているようだ。

 もうすぐ試合だなどなど様々な言葉を投げかけているが、軟派なバスケ部はそんな言葉右から左。

 挙句にバスケを軽んじるような暴言まで吐いていた。

 結局キャプテンの方も「勝手にしろ!」怒鳴り声をあげ他のバスケ部の元へ戻っていった。

 軟派なバスケ部はその背中にむかって唾を飛ばした。


 ひと悶着はあったものの校舎に残っていた生徒と教員は転移の魔法陣に乗って元の世界に戻っていった。


 200人ほどいた人間の内、残ったのは50人弱といったところ。

 この50人弱が勇者ということか。


 結局。


「・・・・・・・」

「ユリ」


 傍らにいた彼女は、私のそばから離れることはなかった。



 * * *



 勇者となった私たちは聖堂を出て、大きな城に案内された。

 道中はかなり規模の大きい街だ。聞くところによると国の中心、つまり王都らしい。思った通り中世ヨーロッパのような街並みだった。


 王様にでも会うのかと思ったが、謁見や堅苦しい儀式は後日ということで今日はもう休んでいいとのことだった。

 つまりこの城は王宮ではなく、私たちのために用意された施設ということらしい。


 中に入りすぐに夕食となった。

 急じゃないかと思ったが、異常な状況に多少なり緊張していたためか皆空腹を感じていたのは確かだ。


 長いテーブルのある食堂で割と普通な料理が出された。

 なんていうか元の世界で外国の民族料理とTV紹介されれば信じられるくらいは普通だった。

 男子は肉中心。女子は野菜中心のメニュー。

 味の方はまあ・・・・普通?悪くはないがちょっとクセがある。これをおいしいと言うには慣れが必要だな。

 周りの生徒も微妙な顔つきだが、特に文句はない。日本人の性として遠慮があるようだ。

 隣に座るユリも夕食には手を付けていない。


「・・・・・・」

「すみません」


 だが、私は遠慮などしない。

 近くの給仕を呼び偉そうに注文をだす。


「肉を持ってきてください。男子が食べているものより分厚く、香辛料たっぷりで」


 少々の時間で頼んだ肉は来た。

 どうやらあらかじめ、多少のわがままを聞く準備をしていたみたい。


 でか。

 頼んだ通り、極端なくらい分厚くたっぷりの香辛料がかけられていた。


 私は肉が乗った鉄板を隣にスライドする。


「え」

「ほら食べたいもの食えよ。好き嫌いは悪いけど、食べたいものを我慢しろってことじゃないんだから」

「ありがとう、アゲハちゃん」


 ユリは満面の笑みになって、一口大に切った肉にかぶりつく。


「おいしくないけどお肉はお肉だー」


 もごもご言ってて聞き取りづらいけどそんなことを言う。

 なんだろう。代用としては及第ということだろうか?


 入ったコンビニでコーヒーと買おうとしたらいつも買ってる銘柄のモノがなく、仕方なく違うメーカーのを買うみたいな。


「よろしければお代わりもございますが?」


 あまりの食べっぷりに給仕の方も進めてくる。


「ホントですか?じゃあこれをもう2枚ください」

「は、はあ・・・・・かしこまりました」


 さすがの給仕も顔を引きつらせ、結局ユリは肉を4枚お代わりした。

 相変わらず肉限定ですげー食欲を発揮するやつ・・・。


 周りもユリの食欲に驚いているようだ。

 まあ、ユリって内向的な性格だしなにより小柄な女の子だから食が細いイメージがあったんだろう。

 実際は好物が「ステーキ、焼き肉、ハンバーグ」で、嫌いな食べ物が「野菜全般」だもんな。

 初見は驚くだろう。


 女子は明らかにドン引きしているが、男子たちの拒否感はあまりないみたい。

 なんていうかギャップ萌え?みたいな感じで割と受け入れられているようだ。むしろ好きなんて言ってるやつもいる。

 ・・・・美少女って得だね。


「満足?」

「うん。おなか一杯」


 ほんとに幸せそうな顔で微笑むユリ。

 正直、元の世界ほど肉の質が良いわけでもないだろうに(見た感じ昭和のビフテキみたいにゴリゴリ堅そう)本当に満足しているようだ。

 よく一緒に行く焼き肉食べ放題とカルビが一人前1000円するような店(中学の卒業祝いで行った)でもおんなじ様子で食べるやつだからな。


「ほら、野菜も食べなきゃ」

「えー」

「これとかブロッコリーに近いから。ブロッコリーなら食べられるでしょ。これだけでいいから食べなさい」

「うー・・・・あーん」


 私はフォークに刺した野菜を食べさせた。

 眉間にしわが寄る。


「うえー。やっぱりきらーい」


 ・・・・・こいつの死因は大腸がんだな。


 ユリの食事を見ていたため、私の料理はほぼ手付かずだった。

 出されたままのユリの分も合わせて食べ始める。残すのは流石にね。


「うわ何あいつ。二人分食ってるし、キモ」


 私の食事を見て、誰かが言った。


 ・・・・・・外見でここまで変わるかね?



 * * *



 その後、一人一人に使用人が割り当てられた。

 男子にはメイド。女子にはバトラー。

 庶民平民の私たちはかしずかれるような存在に慣れておらず、ぎくしゃくしていた。

 それになんか・・・・みんな若い人ばかりだ。それに美男美女ばっかだし。これがぎくしゃくする要因のひとつじゃないだろうか。

 歴史に明るくはないけど、使用人っておばちゃんとかお爺さんがやるもんじゃないの?それともこの世界は違うのだろうか。


 使用人に城の中を回りながら説明を受け、最後に私にあてがわれた個室に案内された。

 またごーかな部屋・・・。いくらかかってんだ?いや、この世界の金銭感覚分からんが。


 それにしても、何このバトラー。私のこと口説いてんの?

 いやいや。私は些細なことで男が自分に惚れていると勘違いする単純女ではない。(というかよっぽどのことがないと男は私に惚れないだろう)

 確実にこの男は私に気があるようなそぶりを見せている。

 が、私には分かる。長年の経験で自分に向けられる悪意に敏感なのだ。この男がさわやかな笑顔の中に・・・・なんていうか、拒否感が混じってんだよな。いやいややってるっていうか。


 あ。


 私は退出するように勧める。そして自分に『そういうこと』をしなくていいと告げると、明らかに安堵した様子で出て行った。


 遊女みたいなもんなんだろう。


 接待のような感じで遊べる相手をあてがっているってことか。

 いや、多分それだけじゃない。おそらく国としては勇者には他に流れてもらっては困るから(行くところが他にあるのか知らんが)なるべくしがらみを作っておきたいんだろう。

 あるいは交渉しやすいように、負い目を作っておきたいのか。

 何うちの女に手ぇ出してんだゴラア!詫びとして〇〇やれやあ!

 みたいに不当労働させられたり・・・・・。


 やり口が完全に美人局つつもたせじゃないですかやだー。


 他のやつらはどうなんだろ。

 そもそもこの世界に残ったのは純粋な正義感をもったやつか、元の世界に不満があるやつらかのどちらかだろうから(一握り何考えてんのか分からん奴はいるが)。

 人生ぱっとせずに、モテなかったやつらはころっといってんじゃないだろうか。

 女の方は会ってその日に・・・・ってことにはならないだろうけど(多分)。

 男子は・・・・うん。後々責任問題とかその辺に発展しないことを祈ろう。


 もちろんこれは私の深読みであって、本当にそうとは限らないんだけど・・・・。

 一度考えると不安になってくるな。

 大丈夫だよね?この異世界転送。あかんタイプのやつじゃないよね。


 ま、どちらにしろ私は回避したわけだし大丈夫か。

 回避したというか、関係を迫る側に嫌がられたわけだけど・・・・。

 私の顔はこの世界でも凶悪みたいだな。

 あはははははー。


 ・・・・・・。


 ああ!ない訳じゃなかったよ!

 この世界の美的感覚が元の世界と違うとかそういう期待!

 もしかして私この世界では美人なんじゃね、って思ったよちょっとだけ!

 ホントにちょっとだったよ?!100の内2ぐらいの期待しかしてなかったもん!


 ・・・・・・・・・してなかったもん。



 * * *



 控えめなノックの音。

 何をするでもなく、部屋にいるとそれは聞こえた。


「はい」


 私のところに来る奴なんて、一人しかいないだろうから何の警戒もなく扉を開く。


「よ、こんな夜中にどうしたの?お嬢さん」

「ちょっと、落ち着かなくて」


 その手に枕を持っていることがここに来た目的を語っている。


「まあ確かに。私もこの部屋を持て余してたところ」


 無駄に華美な装飾の部屋。の割に家具などの質は近代の元の世界よりも低い。

 落ち着かない。


 気心知れた相手のところに行きたくなるのも当然か。


「ユリの使用人はどうだったんだ?」

「どうって?」


 私は自分の予想を話す。


「あれってそういうことだったんだ・・・・確かに執事さんにしては強引だなとは思ったけど」


 私がこの世界でもブスの様に、この世界でもこの子は美少女だった。

 バトラーが役目を忘れ迫ってしまうくらいに。


「あのさ。ユリがよければだけど、一緒の部屋使わないか?明らかに一人には広すぎるし」

「え?!いいの!私今日はアゲハちゃんと一緒に寝たくて来たんだけど」

「おうおう。今日だけじゃなくこれからずっと」


 (汚いもの)がいないと、この子いつか無理矢理ヤられるぞ・・・。


「わっ。アゲハちゃんありがとー、大好き」


 話もそこそこに、寝る支度を整え二人でベットに入る。


「ふふふ」

「なに?どうしたの」

「ううん。アゲハちゃんと一緒に寝るのって初めてだなーって」

「あ、そういやそうね」


 言われてみれば確かにそうだ。

 ユリとはもう十年以上の付き合いだけれど、所謂お泊り会だとかはしたことないし。毎日日付が変わるまで出歩いてたけど外泊はしないことにしていた。


 学校行事でも、林間学校は確か私が直前に熱出して休み。私に遠慮したユリも仮病を使って休んだ。

 小学校の修学旅行はそのときクラスが違ってて。班が違うのにも関わらず思い出だからって行ってしまったんだよな。私たちはその頃から嫌われ、周りから疎外されていた。あぶれた私を迎え入れた班から感じる明らかな拒絶。なんでお前がいるんだと肌で感じ、さっさと居なくなれと聞こえない声が聞こえた。

 ユリの方もそうだったらしくストレスで体調を崩し、私も二日目でギブアップ。二人で自主送還した。

 中学の時にはそもそも行かなかった。


 高校でも休むことになるだろうと思ってたんだけど・・・・。


「なんか修学旅行みたいだね」

「そんな気楽なもんでもないだろう。私たちは戦わなくちゃいけないんだし」

「・・・・・・やっぱりそうだよね」

「ユリ?」

「戦うのって、怖いよね」


 ようやく気付く。

 ユリがここに来たのは落ち着かないからでも私と寝たかったからでもない。

 不安だったのだ。

 当たり前か。むしろ私が能天気すぎだ。


 小刻みに震える肩を抱く。


「!」

「大丈夫、心配ない。もしもお前が危険にさらされても、私が守る」

「アゲハ、ちゃん・・・・・」

「私が守る」

挿絵(By みてみん)

 寝つきいいな、こいつ。


 あんなに不安がってたのにもう寝息をたてている。

 私はほつれた髪を直し、頬を撫で、背中をさすった。

 寝顔が比較的安らいだような気がする・・・・。


 意識が闇に落ちるまで、私は彼女の背中を撫で続けた。



 * * *



 翌日、私たち勇者は国の国王に謁見しそのまま昨日の聖堂で儀式に移った。


 儀式、といっても確認作業といった方が正しい。

 私たち勇者は特別な力が与えられるが、肉体に定着するまでに一晩ほど時間がかかるらしい。


 今回はそれを確認するようだ。


「それでは皆様、確認を」


 私たちは一斉に唱える。


『ステータス』


 おおっ。


 私の視界に四角い窓のようなものが表示される。

 あらかじめ聞いてたけど、ほんとゲームみたいだな。


 この世界の人間は皆、ステータスをもっており先の呪文でいつでも回覧できる。この世界の常識。

 これは自分にしか見えないもので、他の人間のステータスを見るには『鑑定』スキルがいるらしい。

 なんていうか、ここまでお約束なのかよと突っ込みたくなってしまうくらいテンプレだ。


 ステータスは大まかに4項目。

 天職。

 アビリティ。

 スキル。

 称号。


 天職はその人間の生まれ持った才能。天職によって上がりやすい能力、上がりにくい能力がある。

 アビリティは生命力《HP》とか魔力《MP》。腕力や敏捷性などの基礎能力の値。RPGらしくレベルなんで値もある。

 スキルは個別に使える特殊な力で、『火炎魔法Lv1』とか『回復魔法LV1』みたいな便利な力の事。スキルのレベルは使えば使うほど上昇していくらしい。ほとんどのスキルは誰でも覚えることができるが、中には特定の天職にしか習得できないスキルがある。

 最後に称号。これはこの世界で行った行動や、自分の立場に反映して与えられるものらしく。一定の功績で追加され、称号によって様々な効果がある。


(これが強大な力ってやつか)


 私の称号の欄には、『異世界の勇者』という称号がある。


 『異世界の勇者』

 効果 成長補正 言語理解 識字


 成長補正の能力ね。ゲームによってはかなりいい効果だろう。


「では一人ずつ前へ」


 勇者は一人ずつ壇上に上がり、『鑑定』スキルでステータスを確認され読み上げられていく。

 なんていうか身体測定みたいだな。他の生徒たちもそれに似たような気恥しさを感じている。


 あれ?


 割と早く私はその違和感に気づいた。

 先ほどから読み上げられるステータスは私のモノとは違い。アビリティはどれも倍近い差があり、そして『エクストラスキル』という稀有な能力まで周りの人間は当たり前に所持していた。


 もう一度私は自分のステータスを確認する。

 変わらず周りよりも格段に劣った数値が表示され、エクストラスキルなるものはどこにも表示されない。


 そして、ついに私の番になった。


「山岸 アゲハ。天職は『魔物使い』。―――――――エクストラスキルは、む。あ、ありません!」


 この場所にいる人間すべての視線が私に注がれた。


「・・・・・・出来損ないか」


 やがて、司祭の口から呟かれた言葉が妙にこの空間に響く。


 視線の種類が変わった。


 出来損ない?

 出来損ない。

 出来損ない。

 出来損ない。

 出来損ない。

 出来損ない。


 嘲笑と失望の混ざった呟きがあたりを満たす。


「何をしている、さっさと退け!」


 司祭は先ほどまでとは打って変わった、粗野な態度で言う。


 私は、



 出来損ないになった。



「まじかー・・・・」


活動報告にてキャラの設定画(二人だけ、かなり荒い)を公開しています

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