表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/38

18 VS勇者(4)


「まったくだらしねぇな!」


 お次の相手は、意気揚々と闘技場に登ってきた。

 少々小柄の男子・・・・というより男の子と言った方がいいか?


 それくらい小さく、小生意気な顔をしていた。


「こんなザコにやられるなんてな・・・・。同じ勇者として恥ずかしいぜ」


 担架で運ばれていく、さっきまで戦っていたやつに心底見下した視線をやっている。


「おいザコ。てめーのまぐれもここまでだ。・・・・・なぜなら相手が俺だからなあ!」


 何が面白いのか。

 手に持ったステッキでこちらを差しながらぎゃははは、と笑っている。


「やっぱり戦士系はクズだな。魔法の方が優れてんだよ」


 手に持った杖状の武器や、ローブのような防具を装備しているところからも分かる通り。

 彼は魔法使いタイプの後衛らしい。


 ・・・・というか、典型的に増長したタイプだな。

 彼に何の事情があってこの世界に残ったのかは分からないが、それでもこれはひどい。


 相当抑圧していたのか、勇者となっていろいろと解放されてしまったようだ。

 まるで自分が優れている、特別だと信じて疑っていない。

 だから他人を見下すことに抵抗も・・・・・いや、見下していると自覚すらしていない。


 正直、あんまり好きなタイプじゃない。



 顔や体系はけっこう好みなんだけどなあ・・・・。

 ごめん。

 私ショタは好きだけど、ガキは嫌いなんだ。




 そんな風に、あきれていると。


 男子がこちらに魔法を放とうとするのが分かった。


 っ!



 私は上体をそらし、迫ってきていた火球を躱す。


 あぶな。・・・・というか、まだ「開始」の合図もしていないのに攻撃するとか。


「ちっ、何避けてんだよ」


 いやいや、攻撃されたら避けるでしょうよ。

 なんで私が悪いみたいなニュアンスなの?


「始め!」


 騎士も、何事もなかったかのように始めてるし・・・・。


 こいつらも向こうの味方ですか、そうですか。


 ここで何を言っても無駄だろうから、私は素直に相手と対峙する。





 私は先ほどの試合からほとんど動いていないから、闘技場の端に居る。

 相手はその反対の端・・・・そのため、めいいっぱい距離をとっている状態だ。


 なるほど、近接戦闘力は低めなため近づけない戦法か。


 先の一撃も、私が闘技場の中央に戻るまでに試合を始めるため放ったのだろう。

 やり口は汚いが、うまいやり方だ。



 私のナイフボーラは、近〜中距離の武器に分類される。


 だから、その間合いに入られる前に倒す…と。



 闘技場は、20平方メートルといったところ。

 私の勝機は、この距離をどう縮めるかかにかかっている・・・!



 私は走り出す。


 だが、そんな行動を相手が予測できないわけはない。

 すでに男子は、接近を止めるために魔法攻撃を放っていた。


 先ほどの火球よりも小さい。

 だが無数に分裂したそれが、私に迫ってきていた。



 通常これを躱すのは至難の業だろう。

 ショットガンのように視界を埋めつくす、火球。


 私は―――――、






 正直、この戦いは私にとって至極簡単なことだった。


 なぜなら、私にとってこの男子は相性が良かったからである。






 私は、迫ってきた火球を最低限の動きですべて回避した。



「は?」


 声は聞こえないが、たぶんそうった言ったであろうことが容易く分かる間抜けヅラを相手はかましていた。



 私は走る勢いをほとんど緩めずに、上体を傾けたり。

 走る軌道をわずかにずらすだけで。


 視界を埋め尽くすほどの火球をやり過ごした。


「く、くそっ!」


 もう一度、同じ攻撃。


 だが、一度対応された攻撃が次に通用すると思ってるのか?

 だとすればかなりのヌケサクだな。


 私は先ほどと何も変わらず、火球を回避しきる。


 偶然だとでも思っていたのか、相手に見て取れる動揺。


 だが、そうじゃない。

 私は彼の放つ火球、その軌道が全てわかったうえで回避した。






 そう、私は相手の攻撃の軌道を予想できる。


 スキル『投擲』、レベル10効果『見切り』。


 読んで字のごとく『投擲』を使用している間。

 相手の攻撃、その軌道を予測して可視化する能力だ。



 先ほどの火球、それが放たれる前に私の視界には火球が通る軌道が線のように見えていた。

 あとはそれを参考にしながら、当たらないルートで走るだけである。



 すさまじい能力だが、もちろん弱点もある。

 そもそも『投擲』の効果だというのが最大のそれだ。


 この能力を使用している間、私は他の攻撃スキルを使用できない。


 威力に期待できない『投擲』。

 以前であれば(・・・・・・)、決定的な弱点だった。






「クソがぁっ!」


 私は、魔力の流れを察知する。


 先ほどよりも強く、規模が大きい・・・!



 次の瞬間、私の視界には。

 自分が立っている範囲がまとめて攻撃される予測が表示されていた。



「くぅらぇえええええええ!」


 という、相手の雄叫びとともに。

 闘技場に広範囲の爆破が起こった。



 避けられてしまうなら、避けられない規模の攻撃を・・・・。


 短絡的とはいえ、効果的な戦法を使う。


 これが『見切り』の二つめの弱点といえる。

 いくら攻撃が予測できても、あくまで避けるのは私。



 私が避けられないほどの猛攻を受ければ、攻撃は当然当たるし。


 物理的に避けられない攻撃には無意味だ・・・・。





 ま、今回は避けたけど。


 危なかったけどね。

 服とか、髪の毛の先とか焦げてチリチリしてるし。



 範囲攻撃が来ると分かっていた私は、離れた位置の地面へとナイフボーラを投擲していた。


 ナイフが石畳へと突き刺さると、使用するスキルを切り替える。

 『重量操作』と『加速』の同時使用。


 私自身の体重を軽く、刺さったナイフを重くする。

 その状態で鎖をぐんっと引けば、移動するのは私の方だ。


 その動きを『加速』で速くし。

 私の身体は弾かれたようにナイフの方向へ飛んでいく。


 固定されたナイフに近づいたところで、もう一つのナイフボーラを『投擲』し・・・・また引く。


 あとは最初からの手順を繰り返すことで、瞬時に移動することができる。

 地面で刺さったナイフがブレーキにもなるので、止まれずにすっ飛んでいくこともない。


 私流高速移動術である。




 この移動方法で、魔法の範囲外まで移動したのだが。

 若干間に合わず、爆風を受け闘技場から吹き飛ばされた。



 このままだと場外負けになる。

 そこで私はナイフボーラを飛ばし、前回も使用した柱に固定する。


 これで闘技場の外に飛ばされることはなくなった。

 あとは吹っ飛ばされた勢いのまま、固定されたナイフを支点に回転。


 某クモをモチーフにしたアメコミヒーローのような格好で壇上へ復帰した。


 ちょうどよく、その動きの延長線上に相手がいたから。

 自由な足で蹴りをくらわせておいた。

 

「ぐうっ⁈」


 どうやら爆炎に目がくらんで、私が回避していたことに気づいていなかったらしい。

 無防備な脇腹への不意打ちに、目を白黒させていた。



「て、てめぇ・・・・なんで?!」

「ドーモ、親愛なる隣人です・・・・なんてね」


 ようやく近づいた。

 これで私の攻撃も届く・・・!



「なめるなあああああああああっ!」


 私が攻撃を仕掛ける前に、相手が魔法を発動する。


 足元から炎が火山のように噴出した。

 それは壁のようで、どうやら私を近づけないための防御のつもりらしい。


「はっはあっ! 近づいたってどうってことねえよ! これでお前は・・・・ぷげっ!」




 確かに、私自身はこの壁を突破できないけど。

 私の攻撃が届かないわけじゃない。


 私はナイフボーラをほとんど真横に『投擲』する。

 先端のナイフは、壁の端に到達した時点で大きく軌道を変える。


 ちょうどU字のような軌道で、鋭く切り返し。

 壁を回り込んで男子の横っ面をぶったたいた。



 さあ、どうする?

 このままだと今度は私から一方的に攻撃を受けることになるけど・・・。



「があああっ!」


 そうそう。

 そうならないために、私を攻撃するしかない。


 だけどスキルを使用した魔法は一度に一種類しか使えない。

(私のようにスキルを複数使用するか、スキルを介さず自力で魔法を使えば話は別だが)


 ・・・・だから、私に向かって火球放てば。

 必然的に壁は消滅する。


「がはぁっ!」


 私は『見切り』で軽く回避して、男子の顔を殴りつけた。

 現在は『投擲』を使用しているので、この拳の攻撃力は低いのだが。

 相手は魔法特化タイプのため、物理的なパラメータが低い。


 だから私の攻撃でも十分にダメージが与えられる・・・!


 右、左・・・・連撃をくらわせる。


 相手は私を離すために、もう一度壁を出現させるが。

 私はそれを予測し、あらかじめ飛びのきナイフボーラで壁を避けるように攻撃した。




 こいつとの相性はいい。

 遠距離攻撃はこちらに到達する前に、若干の時間があるから。

 近接での『見切り』でも対処できないほどの猛攻よりは比較的余裕がある。


 そして私は魔力の流れを感知する能力に長けているから、

 『見切り』での予測の、さらに先に魔法の発動を感知できる。


 つまり、私はこいつの攻撃に一歩・二歩も先の対処ができるということだ。




 そこからは一方的だ。

 火球で攻撃してくれば、近づいて殴る。

 壁を作れば、ナイフボーラ。


 相手はこのパターンを崩すことができない。

 それどころか私の猛攻に、どんどん対応が遅れていく。


 もともとこいつは、今まで前衛がいて安心して魔法が使える状況か。

 遠距離からの火球で一方的に攻めるような戦いしかしてこなかったのだろう。


 だから近距離に近づかれた時の対処法を考えてはいても、

 体が対応しきれていない・・・・。



 まあ、端的に言えば。


 単純な訓練不足だ。




「クソーーーーーーーーーーーッ!」

「っ⁈」


 私は大きな魔力を感知する。


 これはさっきの範囲攻撃だな。

 この距離でそんなもの放てば自分もろとも吹っ飛ぶのに・・・・。


 私に負けるくらいなら、もろとも・・・って考えなのか。

 単純に魔法の抵抗力は向こうが上だから、もろとも吹っ飛んでも相手は耐えれるかもしれないけど。



 このまま押し切れれば、それが一番よかったんだが。


 まあしょうがない。


 私はナイフボーラを相手の首に巻き付け、グンと引っ張る。

 床にたたきつけられれば、あとは踏みつけるだけで勝ちなんだけど。


 相手もそれが分かっているようで、必死に抵抗する。

 魔法特化型のパラメータと互角な自分って・・・・。


 悲観している場合ではない



 この状況でも、魔法の発動を止めていない。

 その辺で意地はあるらしい。


 ・・・・・だが、強力な範囲攻撃はそれ相応の魔力を消費するし。

 発動までにそこそこ時間がかかる。




 それまでに、


「ぐっ・・・・?!」


 こいつを倒せば私の勝ちだ。




 私は素早く相手の後ろに回り込み、背中を足で抑える・・・・。


 そして、



 首に回した鎖を、思いきり引き。

 絞めた。




「がっ・・・! あぁぁ・・・・!て、めぇぇ・・・・」


 苦し気なうめき声が聞こえるが、締める力は緩めない。


 傷がつかなくても、衝撃が通るように。




 首を絞めれば、動脈が止まる。




 動脈が止まれば、失神するし最悪死ぬ。



 このまま気絶させる・・・!

 だが、相手も魔法の発動を止めていない。


 魔法が発動するのが先か・・・・。

 こいつがオチるのが先か・・・・。



 さあ、どうだ!





 ・・・・。



 数秒後、抵抗が弱まり。

 相手の身体がだらりと弛緩した。


 魔法の発動も止まっているから、気絶しているのだろうが。


 念のため、床に転がした後1トンキックをくらわせておいた。




 こうして、私は通算3勝目をあげたわけだが・・・・。





 さて。

 そろそろ、いちゃもんをつけられるころかな?


ふと気づきましたが

主人公の決め手がエグすぎる・・・


1トンの足で頭部を踏みつけるか

鎖で首絞めて気絶させるかって・・・・・


まあ、そうでもしなくちゃ勝てないんですけど

それを特に躊躇もなく行うのって、主人公としてどうなんですかね?w

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ