15 VS勇者(1)
今年初めての投稿です
ある日の朝、私たち勇者は騎士たちに集められていた。
曰く大事な連絡があるとかで・・・。
他勇者たちは眠いとかで文句をブーブー言っていたが(といっても前の世界基準だと午前9時ぐらいだけど)、騎士たちからの宣言を聞きそんな反応は霧散した。
「近日、アゲハ・ヤマギシ様の特別訓練を実施いたします。内容は他の勇者様との一騎打ち、その際ヤマギシ様は使い魔を使用しないことが条件になっております」
一瞬の静寂の後、反感の声を上げたのは鳴鹿だった。
「ふざけんな! なんで今更そんなことをする必要がある!」
「ヤマギシ様は『想いの結晶』という実力を発揮されましたが、今一度彼女の素の実力を確認しておく必要があるという上の判断です」
「それこそ確認の必要なんかないだろうが! 山岸の能力は使い魔を強くするスキルに集約されているから、基礎ステータスが低いってことも分からないのか!」
それは私が立てていた仮説と同じだった。
私たち勇者が持っていたポテンシャルは全て同じ値で・・・人によって、基礎ステータス。スキル。そして特殊能力に割り振られているんじゃないか。
というものだ。
例えば私たち勇者には「10」というポテンシャルがこの世界に来た際与えられているとして。
鳴鹿は基礎ステータスより。おそらくステータス(7)、スキル(3)という割り振り。
ユリはスキルより。ステータス(3)、スキル(7)になっているとする。
そして私の場合は、
ステータス(1)、スキル(1)・・・・・そして残りの(8)を『想いの結晶』という特殊能力に集約されている。と考えられる。
そうなると私の性能が「出来損ない」だった理由が、一応説明できる。
「つまり、そんなことする必要なんかない! こいつ自身の実力が皆無なんてわかり切ってるだろ、無駄に痛めつけるだけだろうが!」
うーん・・・。
鳴鹿。
私をかばいたいのか、けなしたいのかどっちなんだい?
まあ、うれしいけど・・・・。なんか悲しい。
「これはあくまで、国の決定です。もしも、この訓練を拒否した場合。ヤマギシ様は実力不確定という扱いになり、また待遇が悪くなる可能性も・・・・」
「なにい・・・・!」
鳴鹿は今にも騎士に掴みかかるんではないかと、不安になるほどの怒気をあらわにしている。
「おいおい鳴鹿。そんなに文句言うなよ」
と、そこへ声がかけられる。
視線を向ければ、いつかの先生を含めた男子グループが集っていた。
「あ?」
「これは国が決めたことなんだから、俺たちがごちゃごちゃ文句を言うべきじゃないだろ」
先生がまるで不良生徒をとがめるような口調でそう言う。
だが、その顔にはにやにやとでも表現するのが適切な嫌な笑みが張り付いていた。
「仕方ないよなー。このままだと山岸の待遇が悪くなっちまうんだから。俺たちみんなで相手をしてやらなきゃなあ・・・!」
周りの男子たちも賛同するような声をあげる。
「お前ら・・・・・。まだこいつを虐げ足りないって言うのかよ・・・・!」
彼らが乗り気なのは、おそらく・・・・というかあからさま。
ここ最近の私が気に入らないからだろう。
私がこの世界に来て、出来損ないだと発覚してから。
他勇者より明らかに立場が弱かった。
私を虐げても構わないという、暗黙の了解が出来上がっていたし。
他勇者は私という底辺を虐げることで安心し、ストレスを発散させていた。
が、ここ最近では私も他勇者と変わらない力を現し。
待遇が自分たちと同じになったことで、自尊心に傷がついた。といったところだろう。
何であんな屑が自分たちと同じ暮らしをしているんだ・・・!
と、簡単に言えばこんな感じか?
・・・・・なんというか。
別にそっちの生活を脅かすわけじゃあないんだから。ほっといてほしいんだが・・・。
向こうはそうは思ってくれないようだ。
事実、ここ数日。
以前のように襲撃を受けることが何度かあったが。
彼らはモモちゃんに簡単に撃退されていた。
まあ、つまり。
不満を持ちつつも、モモちゃんがいるせいで以前のように暴力に訴えることができず。
フラストレーションがたまっていたところ、今回の訓練ということだ。
彼ら的には。
目障りな私を使い魔に邪魔されることなく、存分にボコボコにできるいい機会ってことだろう・・・。
・・・・・。
まあ。
そう簡単にはいかないけどね。
「鳴鹿、いいよ」
「え?」
私は震わせていた鳴鹿の肩を落ち着けるように手を置く。
「あの、騎士さん」
「何でしょう」
「これはあくまで私の実力を見るだけなんですから、結果がどうこうで不利益を被ることはないですよね」
「ええ。もちろん」
「分かりました。じゃあ、私やります」
「お、おい!」
鳴鹿がこちらに詰め寄ってくる。
・・・だから、私よりも身長高いんだから。威圧感半端ないんだって。
「アンタ何考えてんだ、このままだと・・・・」
「でも、受けなかったら受けなかったで。いろいろ面倒なことになりますし」
「にしたって・・・・」
「大丈夫ですよ、慣れてますし」
「っ・・・・」
「(それに・・・)」
ぼそりと。
鳴鹿にしか聞こえない程度の音量でささやく。
「(私も、ただで終わらせる気はありませんし)」
にやり。
最後に不敵な笑みを見せてやる。
鳴鹿はころころと百面相を見せ、さんざん悩んだようだが最後には。
「分かったよ・・・・・だけど、本当にやばくなったら誰にとがめられても乱入するからな」
と、承諾してくれた。
ありがと、鳴鹿。
「というわけで、私は大丈夫ですよ」
「結構。それでは近日中に、アゲハ・ヤマギシ様の特別訓練を開催いたします」
騎士のその宣言に、他勇者たちはまるで祭りの日程が決まったように歓声を上げる。
その中で先生やバスケ部君など、数名は嫌みったらしい視線をこちらに向け。
まるで、「訓練がたのしみだな」とでも言いたげな笑みを浮かべていた。
その言葉。
そっくりそのままお返ししますよ。
* * *
「おじゃましまーす、っと・・・」
その日のうちに、私は久しぶりにフレイムさん宅へと訪問していた。
勝手知ったる他人の家、というもので。私は教えてもらった隠し場所からカギを取り出して門を開け、中に入る。
フレイムさんはいつもの庭で待っていた。
久しぶりの私服姿である。眼福眼福。
「で、今日はどうしたんだ? こんなに早く来るのは初めてじゃないか」
ナイスミドルとの久しぶりの逢瀬を満喫するのもつかの間、フレイムさんは本題に入ってきた。
「いえ、今日のお礼にと思いまして」
「礼なら不要だ。頼まれたことをこなしただけだからな」
頼まれたことを、ちゃんとこなしてくれたんだから。
お礼を言ってもいいと思うんだが・・・。
「君に言われた通り、
君と他勇者が一騎打ちをするような命令をでっちあがておいたぞ」
「はい。無茶を言ってありがとうございます」
「・・・そこは謝罪なんじゃないか?」
「ごめんなさいよりも、ありがとうの方が気持ちよくないですか? 少なくとも、私はありがとうの方が好きです」
「・・・・・そうか、そうかもな」
そう言って、しばらく二人で笑いあう。
「しかし、なんだってこんなことを?
せっかく立場が安定したというのに。逆にそれを崩すようなものじゃないか」
確かに。
いままで「出来損ない」として虐げられていた私だが。モモちゃんという力を示したことで、周りに恐怖のイメージを植え付けることに成功し。
おかげで一部のバカを除いて、私に絡んでくる輩は減った・・・。
だが、今ここで。再び他勇者にフルボッコにされる姿をさらせば、そのイメージは一瞬で霧散し。
私の立場は再び地に落ちることだろう。
だが。
「うーん・・・・・熱い鉄を打つためですかね」
「・・・・?」
「ああ、私たちの世界では『鉄は熱いうちに打て』ってことわざがありまして・・・・」
私という鉄が熱いうちに、次の布石を打つべきだと思ったのだ。
周りが私に持つ、恐怖のイメージはいいとこひと月が限界だろう。
それを過ぎれば、おそらく使い魔に頼って後ろに隠れる臆病者。なんて言われるんじゃないか?
だから、私は次の恐怖を植え付ける。
「意外だな」
「何がです?」
「いや・・・・そんなに向上心があるとは思わなかった。
もっと無欲というか・・・・、成り上がることに興味はないと思っていた」
「うーん、私個人としてはあんまり上の立場なんかいらないんですけどね・・・・・」
個人的には、一生ヒラでいいと思うし。
ただ。
上に行かないと、守れないから・・・・。
それだけ。
「・・・・・しかし、勝算はあるのか?
勝てなければ、みすみす今の立場を捨てるだけだぞ」
「フフ・・・・、フレイムさん。私があなたから何を学んだと思ってるんですか」
無謀な戦いなんか挑まない。
「勝つためにはなんだってやりますし。彼らは勝負を受けた時点で、罠にかかってますよ」
いわば、そのためにフレイムさんに命令という形で一騎打ちをするように頼んだのだ。
私から、モモちゃん抜きでの一騎打ちを提案すれば。
さすがに違和感がありすぎる。
誰が好き好んで、不利な勝負を提案するというのだ。
だから、私は私の本意ではないという形式にする必要があった。
こちらは準備万端だと、彼らに悟られないように・・・・!
「そうか、ならこっちとしても憂いはない。おもいっきり鼻を明かしてやれっ」
そう言ってフレイムさんは、サムズアップを私に送ってくれた。
彼の顔は、普段の仏頂面からは想像できないくらいの笑顔だ。
そんな彼の激励に、胸がキュンとしながらも。
私も同じ仕草を返した。
・・・・。
「ところで・・・・」
フレイムさんは私から視線を外し、私が最初から持っていた傍らの木箱に注目する。
「さっきから抱えているそれは何なんだ?」
「ああ、これがさっき言った万端の準備ってやつですよ」
実はここへ来た本命の目的は、これのお披露目だったりする。
私は地面に木箱を置き、フレイムさんに見せるように蓋を開いた。
「おー・・・・・おう? なんだ、これは?」
「こっちにはこういう武器、ないんですか?」
「ああ。少なくとも、俺は見たことも聞いたこともない」
そっか。
まあ、これって正確には武器っていうより・・・・・・。
「なるほど。勇者専属の鍛冶師に依頼して作らせたのか」
「はい。作ったことも秘密にさせるために、結構料金を上乗せすることになっちゃいましたけど・・・・」
「用意周到だな。・・・・・にしても、奇怪な見た目だな。意味があるのか? こんな形状が」
「はい。私の力を最大限生かすことができる武器。
・・・・・構想自体は前からあったんですが、私出来損ないだったから、鍛冶師さんが依頼を受けてくれなかったんですよねー」
自作してみたこともあったが(構造自体は単純だし)、
やはり素人の工作じゃあ1度、2度の使用で壊れてしまう失敗作しか作れなかった。
「どうです? こいつで一つ私と手合わせなんて」
「・・・・それは、勇者としての命令かい?」
「ええ、もちろん」
「そうか。ならば、しょうがない」
フレイムさんが、隅に用意されている木剣と盾を手にする。
「あ、今回は鎧も付けた方がいいですよ。危ないですし」
「・・・・なるほど。助言には従っておこう」
私の指摘に、フレイムさんは怒ることなく。
職務中に着けている鎧を身に着けた。
「今回、ハンデは・・・?」
「いらないです」
「では、お言葉に甘えるとしよう」
お互いに、武器を構える。
一瞬の静寂、そして。
「・・・・・・っつぁあ!」
「はあっ!」
気合とともに、試合は始まった。
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「ぐうっ・・・・!」
がくっと、膝をつき。
勝負の決着がつく・・・・。
「大丈夫ですか・・・?」
私はうずくまるフレイムさんに駆け寄り、顔を覗き込んだが。
すぐに手で制された。
「心配ない。・・・・・しかし、なるほど。よく考えたものだ」
そしてゆっくりと立ち上がる。
「君の助言通り、鎧を着ていなければこの程度では済まなかっただろうな・・・・
それの恐ろしさを、身をもって実感したよ」
フレイムさんは私の武器を見て、にやりと笑った。
「確かにそれなら・・・・・勝つことも不可能ではないだろうな」
「・・・・・ふふん、でっしょー」
私は得意げに、手の中のそれを、
「ジャラリ」と鳴らした。
* * *
そして、そのあと。
私はフレイムさんの家で夕食をご一緒させてもらった。
フレイムさんとフレイムさんの奥さんの3人でだ。
どうやら娘さんも騎士をしているらしく、現在は遠方に出張中なのだとか。
フレイムさんの奥さんは、気立てがよく。
こんな外見の私が突然訪問しても、不快感を示すことなく丁寧に応対してくれ。
料理が得意だ、と。フレイムさんが紹介していた通り。
手料理の夕食は絶品だった。
・・・・・ちなみに、めっちゃ美人でした。
ちくせう。
勇者の前に、フレイムさんへのリベンジを果たす主人公
ちなみに
騎士をしている娘さんは、今後登場する予定があったりなかったり…