14 想いの結晶
その後、大騒ぎになった。
「出来損ない」の私・・・・。
というより、その使い魔が勇者を圧倒的にぶっ飛ばしてしまったのだから。
駆けつけてきた騎士たちに私は連行され、
そのまま説明という名の尋問にあった・・・。
いやね。
自分でも不可解というか、怪しいことやったという自覚はある。
でもあんな扱いはあんまりじゃないっすかね。
別にいいけど。
とにかく、私は自分が何をしたのか。
説明することになったのだが。
正直、私・・・・・ないしはモモちゃんが何をやったのかよく分かっていないのだ。
ふざけているとか、そういうことじゃなく。
本当に。
* * *
勇者でなくなってから3日ほどたったある日、私は初めてその異変に気が付いた。
新しい日課であるモモちゃんのブラッシングをしてあげていた時。
モモちゃんの体色が微妙に変化していたのだ。
モモちゃん・・・・というか『ウィークセンチペド』は黒い甲羅が特徴だ。
その甲羅に若干の白さが混じっていた。
最初、モモちゃんが何かの病気になってしまったんじゃないかと思い。
すぐにステータスを確認した。
すると。
「なにこれ・・・・」
モモちゃんは『進化』していた。
魔物にもステータスがあり、レベルがある。
一定のレベルに達した魔物は、上位の個体となり脅威度も上がる。
その時のモモちゃんは、脅威度Dほどになっていた。
だが不可解だ。
どうしてモモちゃんは進化・・・・というかレベルアップをしている?
だってモモちゃんは誰とも戦っていないのに。
戦って、生物の命を奪わなければ経験値は入らない。
つまりはレベルアップなどしようはずがない。
だがモモちゃんは進化し続けた。
実際、その次の日には脅威度Cとなり。
私の中で懐疑の念が増えた。
もしかしてモモちゃんは特異個体という奴か?
と自分の中であたりをつけてみる。
育成ゲームなんかだと。
育てるモンスターなどは、同じ種類でも個体によって育ち方が全く違う。
・・・・なんてものがあるけど。
そのまた次の日には、脅威度がBになっていた。
そのころには、もう驚かなくなっていたが。
とにかく何かが起きていることは確かになった。
何かとてつもない・・・・・。
特異個体とかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。
チートのような、突拍子もない何かが。
だが、一人悩んでもその正体に思い当たることもなく・・・。
勇者でなくなってから1週間。
そのころにはモモちゃんの甲羅は白寄りの灰色になり。
脅威度はAになっていた・・・・。
* * *
「じゃあ、さっさと報告しろよ!」
と。
このことを後に鳴鹿に話し、開口一番にもらった怒鳴りである。
まあ、確かに。
そのことを考えなかったわけではない。
Aクラスの魔物を使役する『魔物使い』。
勇者として、十分な戦力といえよう。
このことを報告していれば、私はあっさりと勇者として返り咲ける。
・・・・・・・・・でも。
「それじゃあ、おもしろくないんだよねー」
例えば、
漫画やアニメなんかで。
初期から登場していて主人公たちにとって頼れる仲間だったはずの人物が、後半実はすべてを仕組んでいた黒幕だった。
なんてシナリオがあったとする。
だが、その衝撃の事実を何の前置きもなく。
そのキャラクター自身に「自分実は黒幕だったんだよー」なんてあっさり語らせたら、
「は?」
みたいな反応の後。
それが事実であると確信するに至れば。
「あー、本当にそうだったんですねー・・・・」
と、全くもって盛り上がらないリアクションになるだろう。
もし私が、モモちゃんが進化したことを近くの騎士に報告していたとしよう。
騎士がその事実を確認し、すんなり勇者として復帰。
当然、周りはそのことをいぶかしげに思い質問してくるだろう。
それに対し、私はモモちゃんが進化したことをまずは口で説明する。
いぶかしげに思いつつも、一同は私が勇者に戻っている事実からとりあえずは納得。
後日、訓練などでモモちゃんの実力を見せたとしても返ってくる反応は・・・・。
「わー、本当だー・・・・」
こんなもんだ。
・・・・・・つまらん!
やっぱりこう、「衝撃の事実!」みたいなことには。
「なっ、なんだってーっ!!!」というような、感嘆符がみっつぐらい付けられた反応が欲しい。
つまり。
衝撃の事実や設定が開示される瞬間には、それ相応の演出があってほしい。
個人的に。
というわけで、ここ一週間はその「衝撃の事実」を発表するタイミングを計っていたのだった。
時間がたちすぎて、メイドの仕事に妙になじんでしまい。
このままでも別にいいんじゃないかなぁ。なんて思い始めていたくらい。
と、そんなとき。
一人の男子がちょうどよくイキっていたので、これ幸いにと体よく利用させてもらったというわけだ。
ちょっと挑発すれば、あいつなら特に考えずホイホイ乗ってくると思ったし。
結果として大成功といえるだろう。
みんなぽかーん、って顔だったし。
・・・・・ここまで説明した時の鳴鹿の、心底あきれたような。
なにかうすら寒いものを見るような表情は、けっこう印象に残っている。
* * *
話は戻り。
私自身、モモちゃんが急に強くなったことはよく分かっていないということを長い尋問を経てようやく理解してもらえた。
もはや拷問っぽかったけど、それはいい。
そこで、私のステータスを再度確認することになった。
だが、すでに自分でさんざん確認したが。
私に超絶なチート能力は備わっていない。
何度調べても、やはりそこは変わらなかった。
そこで、もっと深く調べる。
ということになり。私は急遽、王都の中心部・・・・王宮に連れてこられた。
なんか、最初のステータス確認の時以来だな・・・・。
そんなに前のことではないのに、なんだか感慨深くなる。
周りを国の重鎮たちが囲い、緊張感があふれる中。
私の前に・・・・なにやらハンドボールサイズの宝玉が出される。
どうやらこれはマジックアイテムで。
『真実の宝玉』という、あからさまな名前がついているらしい。
効果はざっくり言ってしまえば、『鑑定』なのだが。
その情報量は段違い。
通常、相手のステータスと所持スキルを確認するだけなのだが。
この宝玉は、対象の情報がすべて知ることができるらしい。
えー・・・・なにそのプライバシーもあったもんじゃないアイテムは。
なんて心配したが、これが使われることはめったにない。
聞くところによると、かなり貴重なものらしく。
それに加えてこのアイテムには使用回数に制限があり、一定回数使うと砕け散って使えなくなってしまうのだとか。
とにかく、その道具が私に使用された。
私の周りをディスプレイのような半透明の板が無数に囲む。
そこには細かい文字で、私の情報がびっしりと記載されていた。
年齢、身長、体重、血液型、etc・・・etc・・・・。
確かにステータスには表示されない情報だ。
だが生理周期や自慰行為の頻度まで記載されていた時は、さすがの私も顔から火が出る思いだったケド。
自分のことでも、自分で知らないことってけっこうあるんだなあ・・・・なんて。
興味深く表示される文字を目で追っていると、
確認していた騎士にあまりじろじろ見るな、と怒られた。
なんだよ。
まるで見られるとまずいものでもあるみたいに・・・。
やがて、それは見つかった。
『想いの結晶』
それが私に隠された、チート能力だったらしい。
効果は、使役する魔物に与える感情がそのまま使い魔の経験値となる。
つまり、使い魔を愛情をもって育てれば育てるほど。
その使い魔が強くなる、ということだ。
その結果を、私はすでに掲示している。
最弱種であるFクラスの魔物を、たった一週間足らずで国家級のAクラスへ進化させてしまった。
すさまじいという言葉がふさわしい。
周りの騎士や重鎮たちは、その事実におののいているし・・・・。
それは確かなんだが・・・・・・。
だが、一つ言わせてもらえれば。
・・・・・もうちょっと分かりやすくしといてもらえますかね!
なんでこんな隠された形にしてあるの⁈
そのせいで私がどんだけ苦労したと思ってんの‼
と、心の中に誰に対してかもわからないボヤキをしつつ。
私は無事、周りに認められる形で勇者へと返り咲くことになったのだった…。
・・・・。
「くそ・・・・なんであんなブスなんかと同じ立場で暮らさなくちゃならねーんだ」
「あの汚物と一緒のスペースで過ごしてると思うだけで吐き気がしてくるぜ・・・・」
・・・・・。
「くそがっ! やっとあの邪魔者を排除できたと思ったのに・・・・・! 想いの結晶? ふざけんな! あんな汚物にそんなたいそうな能力があっていいわけねえだろうが・・・・!」
「たしかに、センセーの言う通り。あれってあいつの力じゃねえよな」
「そーそー。結局使い魔が強いんじゃん。あいつ優遇する必要ないだろ」
「使い魔いなきゃザコだもんな・・・・」
・・・・。
「ねえ、あのブスどう思う?」
「あー、しらね。私たちに関係ないし」
「でも調子に乗ってそうじゃない? 今のうちに一回シメとく?」
「でも・・・・山岸さん・・・・ッ! あ、いや。ブ、ブスの・・・・使い魔、強そうだったし・・・・」
「あー確かに・・・・てか、ムカデとか私きもくて無理だわー。見るのも無理!」
「わかるー。私正直かかわりたくないもん」
「じゃあ、無視ってことで」
「うーい」
「意義ナーシ」
「・・・・・・っ」
・・・・。
「どうすんのよ! あのガキ、勇者に戻っちゃったし。アタシたち何されるかわかんないよ!」
「うるさい! あたいじゃないよ、あの子をいじめようって言ったのは」
「この期に及んで言い逃れかい! 誰から初めてようが、アタシたち全員あのガキを痛めつけてたじゃない!」
「その責任を、あたいにもってくるんじゃないよ! おいあんた! メイド長なんだから、あんたが責任を取るのが筋ってもんだろう!」
「上司に向かってなんて口の利き方だい!」
「そんなこと言いあってる場合じゃないですよ! どうにかあの子の怒りを買わないように・・・・」
「そんなの既に無理でしょ。だから言ったんだよ、元勇者だからって虐げるのはやめようって」
「あんた何他人事みたいに・・・・!」
「他人事さ。私はアンタらみたいにあの子になにもしてないから。・・・・・ま、助けることもしなかったし。同様に恨まれていたとしても仕方ないと思ってるけどね」
「ぁぁああっ! どうにかしないと、どうにか・・・・・」
「そうだ・・・・! あの下っ端のメイドを使ってやればいい!」
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「とまあ、こんな感じにこの城の中はしっちゃかめっちゃかになっているみたいだぜ?」
「まあ、そうなるでしょうねぇ」
食事中、私は鳴鹿に頼んでいた情報を聞いていた。
というもの、使用人に落ちて。また勇者へと返り咲いた私は一種の時の人というやつで。
はっきり言ってしまえば、私は現在(以前とは違う意味で)敬遠されてしまっている。
結果、周りの情報が入りづらくなっているためこうして鳴鹿に情報収集を頼み。
私、ユリ、鳴鹿と。
最近はこのメンツで固まることが多くなった食事中に、その成果を聞いていたのだった。
「下剋上というか、天変地異というか。お前を虐げてたやつらは今さら大慌てだ」
「楽しそうですね、鳴鹿」
そんなククク・・・・って悪役みたいに笑うキャラだっけ?
「当たり前だろ。こんなに痛快なことがあるか? あんたを馬鹿にしていたやつらをまとめて見返して鼻を明かしてやったんだぜっ」
鼻を明かしてやった・・・・ね。
「それは、まだ早いんじゃないかな・・・・」
「あ?」
ただの一人言のようなつぶやきだったのだが、
意外にも鳴鹿に拾われてしまう。
見ると隣で分厚い肉を食べるのに夢中だったユリも、興味深げにこっちを見る。
「んー、鳴鹿の聞いた話でもあったように。私が認められた力って、はっきり言ってモモちゃんの力なんだよね」
私は足元で野菜の皮をシャリシャリと食べているモモちゃんをなでる。
食事を邪魔されたにもかかわらず、モモちゃんは嬉し気に「キュイッ」と鳴く。
あのバスケ部の使い魔を倒したのも。
騎士たちに私が勇者に戻ることを認めさせたのも。
不満を持っているはずのほかの勇者が、私に直接的に不満をぶつけてこないのも。
ぜーんぶ、モモちゃんのおかげだし。
「それは・・・・モモを強くしたのはアンタの力だろ」
「そうだよ、アゲハちゃん」
「いや、この場合。私自身の力じゃないっていうのが問題なんだよ」
「「・・・・?」」
わからない。
という顔をしている二人に間接に説明する。
つまりは、私の示した力は純粋に称賛されにくい力ということだ。
例えば、どれだけ実力のあるタレントでも。
人間関係や不祥事などであっという間に地に降りるなんて場合があるように。
力を示したとして、
そこにいちゃもんを付けられるようなほころびが見えれば、そこに付け込まれる。
狭いコミュニティではそれが顕著だ。
記録や数字よりも、周りの・・・・発言力が強いものの印象によって結果を操作される。
加えて、私は最初から嫌われていた。
そんな人間が何か成果を出したとして。
周りがそれを素直に認めるわけがない・・・・・。
それは私自身の力じゃない・・・・という風に。
「というわけ」
「なるほど・・・・」
「・・・・・」
「アニメってだけで中身も見ずに悪影響だの、犯罪者が好んでいただの。酷評するマスゴミみたいなもんだよ」
「いや、それは分らんが」
・・・・・伝わらんか。
「それなら、どんどん使い魔を増やせばいいんじゃないか。モモみたいな強力な魔物を作っていけば、それが何よりの結果だろ・・・・」
「あー、それは考えた。というか騎士たちにもそうしろって言われたけど」
「・・・・しないのか?」
「うん・・・・。たぶん、そんなにうまくはいかないと思うし」
私が持っている能力、『想いの結晶』は使い魔に与えた愛情が力になり進化させる。
だから、そんな風に「結果を示したい」だとか。
「強い手ごまを増やしたい」みたいな動機では駄目だと思うのだ。
あくまで、使い魔に与えた愛情が力に変わるのだから。
打算や見返りを求める気持ちは、愛とは言えないだろう?
そして単純に、使い魔が多くなれば。
1匹1匹にかける時間が分散され少なくなってしまう。
結果として、モモちゃんほどの進化は望めないだろう。
「まあ、今の状況も特に不満はないですよ」
「アンタは・・・・・・ま、それがアンタらしいのかもね。邪気がないっつーか」
どういう意味なんだろ・・・。
「本当に何にもないのか? 不満というか、困ったことっつーか」
「あ、あるといえばあるかな」
「なんだよ」
「使用人たちのこと」
使用人としては、自分たちよりも下の立場になった私に安心して危害を加えていたのだが。
その状況があっという間に逆転し、気が気でないようだ。
「それは自業自得だろ・・・・」
「でも、たまにすれ違うだけでびくびくすんのはやめてほしい。別に何にもしないんだから」
腫物扱いというか。
爆発物扱いというか・・・・。
「最近は人柱とか送ってきてるし」
「人柱・・・・?」
「うん。メイドさんたちは私が怒ってると思ってるみたいで、その怒りをぶつける対象として私の次に新人だったメイドを私の前に送ってくるんだよ」
「心底クズだな、そいつら・・・」
「その子も先輩のメイドからきつく言われているみたいでさ、この世も終わりみたいな顔で私の前に来るんだぜ? 勘弁してくれって感じ」
「追い返せばいいじゃねーか」
「そうもいかないらしくて、その子が私に何かされたってことを確認しないとほかのメイドが安心できないらしくて。追い払っても、ほかのメイドに折檻されて泣きながら戻ってくんだもん」
「・・・・・・」
「とりあえず、最近は部屋の掃除とかさせてんだけど。うっかり私のものを落としたりしたら泣きじゃくりながら土下座して許しを請うんだもん・・・・。こっちが気が気じゃないって。チップを渡そうとすると半狂乱になりながら拒否るし・・・・」
「なんつーか、おつかれ・・・・・」
鳴鹿に心底同情されてしまった・・・。
主人公は自身の能力について勘違いをしています
『想いの結晶』は愛情だけでなく
使い魔に与えた全ての感情が、使い魔の経験値となります
つまり、怒りや憎しみという愛憎も使い魔を強化させる要因となりえます
そして、これがこの能力がいわゆる隠しステータス扱いになっている最大の理由という訳です
愛憎を一身に受けた使い魔はやがて、主人よりも強くなりその使役から逸脱し、暴走します
その結果…
という訳で、ある意味これがこの能力のデメリットであり
持ち主の最大の試練という訳です
主人公は無意識のうちにこの試練をクリアしていました




