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13 成り上がり開始



 そんなこんなで、勇者でなくなってからあっという間に2週間がたった。


 そのころには微々たる量だが、手元に資金ができ。

 このまま順調に資金をためて、王都で何かしらの事業を始めるか。


 はたまた、モモちゃんがいろいろな芸を身に着けてきたので。

 笛で蛇を操る人みたいに、大道芸でも始めようかなぁ・・・・なんて。


 のんきに考えてた頃だった。





 いつも通り、掃除で出たごみを焼却場へもっていく途中。

 なんだか訓練場の方から歓声が聞こえ、私は気になって見に行くことにした。


 そこには数人の勇者が、一人と一体の魔物を囲んでいる。


「すげー・・・・」

「ドラゴンだぜ、ドラゴン!」

「かっけぇ・・・!」


 囲まれているのはバスケ部。

 そして周りの言葉通り、そばには体長10メートルほどのドラゴンがたたずんでいた。


 どうやら、新しく使い魔を手に入れたため周りに自慢しているらしい。


 ・・・・やってることが金持ちの小学生と変わらんな。


 私はそんな風に冷めた目で、彼の使い魔を確認する。

 おそらく脅威度Bの『ホーリードラゴン』だろう。


 小型でスピード重視の体型だが、聖魔法を得意とし。その威力は大軍をも吹き飛ばすのだとか・・・。


 そんな相手をよく使役できたな・・・・と思い。

 彼の天職である『魔獣遣い』は、私と違って自分だけで魔物と戦う必要はないことを思い出した。


 パーティと協力したり。

 自分が使役しているほかの使い魔で倒しても、使役することができる。


 使い魔で強い魔物を、強い使い魔でより強い魔物を、そしてより・・・・・。

 と、こんな感じに芋づる式に捕まえたのだろう。




「おっ・・・・!」


 誇らしげに周りに群がる同級生を見渡していたバスケ部だが、

 やがて遠巻きに眺めていた私に気が付いた。


「・・・・・・」


 そしてにやにやと嫌みったらしい笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。


「おいおい・・・・こんなとこで何やってんだよ、ブス」

「何って、メイドとして働いてるんですけど。みりゃ分かるでしょ」


 私の返しが気に入らなかったのか、彼は眉間にしわを寄せ。


「うっるせぇんだよ! はっ、役立たずのお前なんか。そんな風にゴミ掃除してるのがお似合いだよ」

「そりゃどうも」


 私も最近。

 戦ってるよりも、掃除したり料理してる方が。よっぽど自分らしいと思ってたところだ。


 ・・・・何気に天職なのかね、メイド。


「・・・・・・・!」


 私のあっけらかんとした反応に業を煮やしたのか。

 バスケ部はついに私へ手を出そうとした瞬間・・・・!


「?!」



 バシィ!


 

 その手は叩き落とされた。


「なっ・・・・!」

「シャアァァァッ!」


 モモちゃんだ。

 瞬時に私の足元から出て、バスケ部の手をその尻尾で弾いたのである。


「なんだ? ・・・・・ああ、オメーの気持ちわりい使い魔じゃねえか」


 彼はモモちゃんを嫌悪するように数歩下がる。


「見てねえから、てっきり逃げ出したのかと思ったが。まだそんなブスのもとに居やがったんだなぁそいつ。

 ま、そんなザコじゃあほかに行き場もねえか。

 てめえも、こんなザコ魔物しか使い魔にならねえ出来損ないだもんなぁ・・・・! ぎゃはははは!


 クズ同士、なめあってんのがお似合い・・・・・」


「モモちゃんはクズじゃねえよ」

「あ?」


 彼の言葉を遮るように、私は言った。


「撤回しろ。私はいい・・・・でもモモちゃんへの言葉を撤回しろ」




 バスケ部は一瞬何を言われたのか分からないような顔をして、

 次の瞬間には嘲笑を浮かべた。


「はっはははっはは! 何言ってやがる、クラスFの魔物クズ扱いして何が悪いってんだ・・・・!」


 彼はひとしきり笑った後、あおるような口調で言う。


「それとも何か? 俺の使い魔とそのクズを戦わせてみるか? ま、結果は明らかだろうがなっ」


 彼の使い魔・・・・・。


 私は彼の肩越しに、訓練場の方を見る。

 ドラゴンと、バスケ部のように嘲笑の視線を向ける勇者たちが群がっている。


「・・・・・・」


 次に、私は足元のモモちゃんを見る。


 その視線に反応してか、彼女はやる気を示すような鳴き声を上げた。


「ほら、どうだよ。オメーの使い魔はやる気満々だぜ? ま、やめるっつーんなら。今すぐ土下座して・・・・


「いいですよ」


 あ?」





「だから、いいですよ。やるんでしょ? 模擬戦」




 * * *




 そして、あれよあれよという間に私とモモちゃんは訓練場のど真ん中に立たされていた。


 せめて動きやすい格好に着替えさせてほしかったんだが・・・・ま、私が戦うんじゃないし。

 私の格好は別にいいか。



 私たちと、バスケ部たちが向かい合い。

 その周りを野次馬が囲み、やいのやいのと野次を飛ばす。


 中には賭けをしている奴らもいるみたい。

 ・・・・・どちらが勝つか、でなく。私とモモちゃんがどう痛めつけられるか、でだ。


 悪趣味。




「おい、どけっ! ちょっ・・・・何やってんだ山岸⁈」


 と、人垣をかき分けて入ってきたのは鳴鹿だ。

 どうやら騒ぎを聞きつけて、やってきたようだ。


「何って、模擬戦」

「んなこた分かってる! なに馬鹿なことやってるってきいてるんだ!」

「んあー? なんか流れで」

「な・・・・っ、今からでも遅くない中止しろ」

「いやー、ここまで大ごとになっちゃったら。それは無理でしょ」


 なんか、いつの間にか騎士までやってきているし。

 止めるわけでもなく、そいつらも突然の余興に参加して審判とかやってるけど・・・。


「それでも・・・・!」

「大丈夫だって」


 そう言い切って、私は鳴鹿に背を向けた。




 私はモモちゃんを、相手は赤いトカゲ・・・・いつかのサラマンダーを出してきた。


「そっちのドラゴン出さなくていいの?」

「そんなムカデごとき、こいつで十分だっての」


 さいですか。

 そういえば・・・・サラマンダー(こいつ)にもちょこっと因縁があったな。


「・・・・はじめっ!」


 審判の声に合わせて、相手はモモちゃんに向けて火球を放った。

 それは何の反応もしないモモちゃんに直撃し、爆炎を上げた・・・・。


「ぎゃははは! なんだよ、お前の大事な使い魔。あっさり粉々に・・・・?」


 やがて、爆炎ははれ・・・・まるで何事もなかったように平然とするモモちゃんが現れる。


「な・・・・。なにが、お前なにやって・・・・?」




 さあ、モモちゃん。

 長いこと我慢させて悪かったな。


 もう思う存分、





 やっていいよ。


「キィイイイイイイイイイイイイイイ!」


 私の思念が伝わるように、モモちゃんは呼応する。


 そして変化した。





 ビキッ。

 ギチチチチチチチチチチチチチ、と。


 モモちゃんの身体が不気味にうごめく・・・。


 誇大し、展延し、膨張する。




 やがてその全長は50メートルになるかという大きさに、モモちゃんは巨大化した。




「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 その咆哮に、そこに居たすべての人間は動けなくなった。


 まあ、気持ちはわかる。

 さっきまでの、まるで女性声優が声あてしているような可愛いらしい鳴き声が一転。


 野太く加工され、不気味にエコーがかかったような雄たけびに変われば。

 そりゃあぽかーん、だわ。




「な・・・・、そ、そんなのはただの見掛け倒しだ。やれぇ!」


 混乱が解けたバスケ部が、使い魔に命令を出し。

 サラマンダーは次の火球を出すが・・・・・。


 その火はモモちゃんの身体を焼くことはなく、打ち消される。


「なに・・・・?!」


 そして、返す尻尾の一撃でサラマンダーは吹き飛ばされ。


 そのまま戦闘不能となった。



 ・・・・・・・・。


 呆然とする野次馬と、対戦相手であるバスケ部。


「どうしたの、もう終わり?」


 そこへ私が声をかけると。


「だ、だまれぇっ! 今のはそいつがクズだっただけだ! おい、次いけえっ」


 と、次の使い魔を出してきた・・・・。




 なんかポ〇モンバトルみたいになってきたな。



 * * *



 次の使い魔は、冷気をまとったオオカミだった。(脅威度D)


 冷気で地面を凍らせ、敵の動きを封じ。

 氷の魔法で攻撃するという戦法をとったが。


 モモちゃんにはそんな拘束何の意味もなさず。

 力づくで拘束を破壊し、またも尻尾攻撃一発で昏倒した。




 3体目は、鷹型の魔物。(脅威度C)


 高速で空を飛びながら、風魔法で一方的に攻撃するスタイルだったが。


 その魔法を、圧倒的な実力差があるものにしかできない防御法「かあぁっ!」によって打ち消し。

 動揺し止まった隙を逃さず、その無数の足から放ったカマイタチで撃ち落とした。




 お次は鹿(というかヘラジカ)の魔物。(脅威度C)


 見た目通り、物理攻撃特化のスタイルで。

 出るかいなや、一直線に突撃してきた。


 それを真正面からぶつかっていくモモちゃん。

 乗用車はあろうかという巨体を吹き飛ばし、城の壁にたたきつけた。


 もちろん戦闘不能だ。






「くそっ・・・・! どいつもこいつも役立たずがっ」

「どうしますー?もうやめにしますか」

「うるせえ。粋がっていられんのも今のうちだ! お前がいけ!」


 ついに真打登場か。


 最初に見せびらかしていた、ドラゴンが前に出てきた。


「そいつは今までのやつとは違うぞ! なんせBィクラスだぁ」


 ドラゴンは初手から大技、だろうブレスを放った。


 そのまま、モモちゃんに直撃。


 ・・・・・たしかに、今までのやつとは格が違う威力だ。

 普通なら危なかったかもね。





「なんで・・・・・・」



 そ、普通なら。


「なんで直撃したのに平然としてやがるんだぁ!」


 私のモモちゃんは、その場から退きもしない。


「ごめんね、モモちゃんには聖属性への完全耐性があるんだ。相性最悪なんだよ、そいつと」

「か、完全耐性・・・・?そんな、そんなもん国家級の魔物しか持ってないはずだ・・・!」







 その国家が相手にするような魔物なんだよ、モモちゃんは。








 なにせ、脅威度Aなんだから。

 








「グルルルル・・・・・・」


 憎たらしいと言わんばかりに、怒気を込めたうなりを上げる。

 実はメイドとして働いている間も、バスケ部は何かと絡んできた。


 私のそばに居たモモちゃんもその現場に居たわけだから、彼女的にも彼には含むものがあったんだろう。


 だから暴走した。




 バキャア、と。


 モモちゃんの顎が大きく開く。

 その奥から覗く、銃口――――!


「・・・・え? ちょ、まさか・・・!」



 あれをぶっ放す気か⁈


 やがて銃口部分に光があふれる。

 それはドラゴン・・・・・そしてその奥に居るバスケ部へとしっかりと照準があっていた。


「モモちゃん、だめ!」



 もうモモちゃんは私の言葉も聞かない。


 ついに、光が膨張し――――――、一陣の光が放たれる・・・・・!


 瞬間、













「モモちゃんっ、あっち向いてホイ!」







 私はおもいっきり上を指差した。



 何十回と練習した通り、モモちゃんは反射的に顔を跳ね上げ。


 その口から放たれた光は、

 バスケ部たちから照準を大きく外し。





 後方の、城の屋根の一部を吹き飛ばし・・・・




 さらにその奥の、山岳の頂上を消し飛ばし・・・・




 雲に穴をあけながら、彼方へと消えていった・・・・・。






 ・・・・・・・・・。


 ・・・・。


 静寂。


 誰もが何も言わず、ただ今見たことを信じられずに固まる中。



「ふう・・・・。被害が出なくてよかったあ」





 私一人が、ほっと胸をなでおろしていたのだった。



モモ ♀


種族名『セイクリッドセンチペド」

脅威度A


センチペド種の上位個体であり、その存在はもはや伝説

事実、過去には国家を1つ焼き尽くした


数百年に一度ほどしか出現しない非常に稀有な存在


体長は50メートルほどだが、普段は50センチほどに縮小し主人公のスカートの中か

マフラーのように首に巻き着くのが定位置


好物は野菜の皮

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