10 はじめての使い魔
実地訓練、3日目。
私たちは目的地へとたどり着いた。
森の中にある寂れた・・・・もう何年も人の手が入っていない寺院が、訓練のゴールである。。
話によるともともとこの森は魔物が出ない安全な領域だったらしいが、数十年前から魔物の生態系が変化しこの辺りに住処をうつしたためこの寺院は打ち捨てられたのだとか。
「ごめんくださーい・・・・」
「なんで廃墟に挨拶すんだよ」
いや、なんとなく。
ホコリとカビのにおいにまみれた室内。
だが、天井に空いた穴から光がこぼれ。この空間に何とも言えない神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「・・・・廃墟マニア、ってのがいるのも分かる気がするなぁ」
魔物がいる可能性もあるので3人で慎重に寺院内を散策する。
10分もしないうちに目的のものを見つけた。
「これですよね・・・?」
「ああ」
「・・・・」
祭壇の上に置かれた数十個のブローチ。
これを持って戻ってくることが私たち勇者に課せられた課題だ。
一人ひとつずつ、そのためここには事前に騎士が人数分のブローチを用意しているはずだが。
すでに過半数のブローチがなくなっていた。
「私たちは早くもなく、遅くもなくって感じですかね?」
「ま、早さを競ってるわけじゃないから。別にいいだろ」
そう言って無造作にブローチを手に取る鳴鹿。
感慨ないなぁ・・・・。そんなもんか。
私たち二人も、特に迷うことなく(造形や色も特に代わり映えしていない)自分のブローチを選ぶ。
「これで課題はクリアだな」
「ええ。あとは無事に戻るだけ、ですね」
家に帰るまでが遠足です、ってか。
「んじゃ、ここからは個別行動だな」
「ええ」
この訓練は前半を団体で、後半の帰りを個人で進んでいくことになる。
ここからが私としては鬼門だ。
なにせこれまでの戦闘はほぼユリと鳴鹿に頼り切っていた有様だったのに、ここからは単独行動をとらなければならないのだ。
そしてもう一つ。
・・・・・っと、その前に。
「ユリ。ここからは一人だけど、しっかりな。」
「うん」
「戦闘が苦手なら、迷わず逃げていいんだぞ。返り討ちにするってことだけが戦うってことじゃないんだからな」
「うん」
「あと、一人だからって好きなものばかり食べちゃダメだぞ。少しでもいいからちゃんと野菜も・・・・」
「だーっ、オカンみたいな小言はいい! おめーら、さっさと行くぞ!」
怒られた。
「んじゃ、アタシはこっちから行くから」
「じゃあ私は反対から、ユリは私たちの真ん中を行くといいよ」
「うん・・・・」
私たちは別々の場所から森へと入る。
「三日後にな」
鳴鹿は特に名残惜しさもなく、さっさと行ってしまった。
さばさばしてるなぁ。こういうところは印象通りだ。
「アゲハちゃん・・・・やっぱり」
「ダメ、一緒に行くのは。これは単独行動の訓練なんだから、そういうズルはしない」
「・・・はい」
正直に言ってしまえば、私もユリと行きたい。
でもそれでは意味がないんだ。それじゃあユリのためにならない。
親切心とおせっかいを履き違えちゃあいけない。
ユリは何度も不安そうにこちらを振り向きながらも、いつしか木々の陰に消えていった。
「さて・・・・私も気張っていかないと」
両ほほを軽くたたき、私も自分の道を進んだ・・・。
* * *
歩く人数が減っただけなのに、森は全く違う印象を私に与えてくる。
すぐそばに誰かがいないことがこんなにも不安になるものなのか・・・・。
ユリは大丈夫かな・・・・。
って、人の心配している場合じゃないか。
ユリは戦うことが苦手なだけで、戦う手段がないわけじゃない。
それに、逃げるためにも身を守るためにも使える魔法を豊富に持っている。
ちょっとやそっとじゃ、危険にはならない。
そう信じよう。
・・・・・。
周りに魔物の反応が増えてきた。
そのどれもが、DランクやCランクの魔物たちだ。
正直、私が単騎で相手にできる対象ではない。
多少の「無茶」をすればなんとかなるかもしれないが、最悪なのは1体の魔物と戦っている間に別の魔物が合流して乱戦状態になることだ。
ここは戦う相手、場所、状況を慎重に吟味しないと・・・・。
臆病だと言いたきゃ言え。
私だってまだ死にたくはないし、勇者としてケツに火どころか火だるまになって焼死寸前なんだ。
今まで散々無能ぶりをさらしてきた私がまだ追い出されていないのは、
私の天職が『魔物使い』だからだ。
読んで字のごとく、敵である魔物を使役し味方にする能力を持っている。
つまり『使い魔』がいない現在では、まだ正確な実力を測れていない(とフレイムさんが進言してくれたらしい)状態であるため。
現在はいわゆる執行猶予といったところ。
この訓練中に騎士を認めるだけの『使い魔』を作らなければ、問答無用で勇者から除名されてしまう。
もう後がない・・・・。
だけどあせって死んでしまえば元も子もない。
とにかく倒せる魔物を探さないと。
魔物を使役するといっても、当然条件がある。
戦って倒すか、対話して信頼を得るか。大まかにこの二通りだ。
といっても、前者の方法を使うのが大多数である。
魔物は動物と同じように言葉を話せない(高位の魔物は人間の言葉を理解するらしいが、会話に応じるかは別である)し、そもそも信頼を得るという行為自体が単純に時間がかかる。
が、屈服させる方法も一筋縄ではいかない。
要は魔物に自分を主であると認めさせるため、戦闘は『魔物使い』が一人で行わなければならない。
つまり必然、この方法で『使い魔』にできる魔物は自身よりも弱い魔物ということになる。
「・・・・・・これ、絶望的じゃないかな」
今の私が単騎で倒せる魔物は、この世界の一般人が倒せるレベルだろうし。
そんなレベルの魔物を連れても、私の実力が勇者足ると認められることはないだろう・・・。
だとしても、何もしないわけにはいかない。
追い出されるにしても、そうでないにしても。実力は必要だ。
調べてみると、この世界も盗賊やら女子供を狙う悪徳な奴隷商が問題になっているようだし。
自分一人で生きていくことになったら、自分の身を守るだけの力は当然必要だ。
え?
私みたいなブスをどっちも狙わないって?
・・・・うるせっ。
* * *
私が単体で倒せそうな魔物は見つからない。
何体かには索敵が遅れて危うくエンカウントしかけたが、『隠れ身』という敵に発見されにくくなるスキルでなんとかやり過ごす。
結局、その日は戦える魔物を見つけられなかった。
あたりが暗くなってきたところで、移動をやめる。
手ごろな木に寄りかかって、休む。
・・・判断に困ったが、火は焚かないことにした。
火が苦手な魔物もいるが、そうでない魔物がいた場合。ただ自分の場所を知らせるだけだと思ったからだ。
一日中歩き続けた足をいたわりながら、干し肉を口に含む。
続いて水を一気に煽ろうとして、もうユリの魔法で手軽に得ることができないことを思い出し。一口分だけ口に入れ、それをゆっくりと数回に分けて飲み干した。
・・・・味気ない。
昨日までの食事は、決して賑やかといえるほどのものではなかったが。
それでも誰かと一緒に食べる食事というのは、それだけで味覚を豊かにしてくれるものだと改めて感じた。
「もっと話しておけばよかった・・・・」
私は『索敵』と『隠れ身』のスキルを同時に使用しながら(コストの少ない組み合わせなら、すでに無意識にも持続できるようになっている)眠りについた。
翌朝、私は眠い目をこすりながら移動を開始する。
熟睡はできなかった。
ほんの物音で、あるいは何の気もなしに目覚めることを頻繁に繰り返し。気付けば空が白んでいた。
・・・・私って、こんなに神経細かったのか。
思えば孤立はしていたが、孤独になったことはそんなになかったと思う。
私の隣には、いつもユリがいた・・・・。
それだけで、どれだけ私が助けられていたか・・・・。
ホント、どっちが守られてんだか分かったもんじゃない。
ユリに会いたい。
これからもユリのそばに居たい。
その思いに突き動かされ、いつしか私は走り出していた。
* * *
しばらく走り続け、私の『索敵』スキルに反応があった。
そちらに注意を向けると、オオカミの魔物が一匹。
・・・・ああいう魔物は、通常群れで行動しているものだが。
周りを見渡しても同種の魔物はいない。
ということは、はぐれか。
魔物だって生き物だ。
それぞれ個体での差を持っているし、場合によっては同種で争う。
時にはこんな個体も出る。
向こうはまだこちらには気づいていない・・・・好都合だ。
私はピックを取り出し、慎重に狙いを定めて放つ。
と、同時にオオカミ・・・・『フェザーウルフ』に向かって飛び出した!
放ったピックはオオカミから大きく軌道を外れ、後方を通過する。
そのまま地面から露出した岩と接触し、甲高い音を立てた。
フェザーウルフが私とは逆に位置する岩に気を取られている間に肉薄し、蹴りの一撃を加えた。
「キャン・・・!」
ボールのように転がっていくオオカミに、一瞬だけ同情的な感情を覚えるが。
歯をむき出しにしてこちらを睨む様子を見て抑える。
続けざまに牽制のピックを数本投げつけるが、軽くかわされる。
速っ・・・⁈
瞬きする間に肉薄され、気づけば大きく開けた口が目の前に。
「うおっ!痛ってっ‼」
慌てて眼前に腕を差し込みガードに成功するが、その腕に思い切り食いつかれた。
グローブをはめているとはいえ、するどい痛みがやってくる。
「こんのっ、離れろ!」
逆の手で殴りつけるが、まったくひるまない。
どころか爪で追撃まで仕掛けてくる。
「お、らあっ!」
半ばやけくそ気味に握ったピックの先端をオオカミの目に突き入れた。
さすがにこの痛みはこたえたようで、私の腕を開放する。
互いに距離をとった。
ちらりと食いつかれた方の腕を確認するが、外傷はない。
先の攻撃では私のHPを全損させられなかったようだ。
『フェザーウルフ』は名の通り羽毛のように軽い身体が特徴の魔物だ。
そのため敏捷性が高く、熟練の騎士でも動きを読むのは難しいが対照的に攻撃力は低い。
群れで遭遇すれば厄介だが、一個体ごとの強さはそうでもない。
脅威度も群れ単位ではDだが、一個体ではE。一般人数人レベルである。
こいつ1匹じゃあ私に決定打は与えられないが、それは私も同じ。
オオカミの片目は健在。
まだHPが全損していないため、外傷ができない。
泥仕合になりそうだ・・・・。
それを向こうも感じているのだろう、オオカミの佇まいが変わった。
離れているのに足を開き、どっしり構えるような体勢へ。
やがてその身体が光りだした・・・!
魔法!
そう認識した瞬間には横に飛んだ。
さっきまで私がいた空間を、見えない何かが通過していく。
どうやら風魔法で、カマイタチの様なものを出したみたいだけど・・・・。
これ以上の追撃は来ない。
どうやら打ち止めらしい。
群れからはぐれるあたり、あまり賢くはないようで。
たった一発の切り札を使い切ってしまった。
・・・・・使い魔にしたら、この辺よく教育しないとな。
私は、やけくそになったのか真っすぐ突っ込んでくるオオカミを迎え撃つため拳を構えた。
* * *
「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・勝ったっ・・・」
真上にあったはずの日が傾き、空が茜色になるころ。
ようやく私たちの泥仕合に決着がついた。
私の傍らには、HPが全損し戦意を喪失しているオオカミ。
っと、いつまでもへたり込んでいる場合じゃない。
私はオオカミに視線を向ける。
とどめを刺されると思ったのか、オオカミは弱々しい鼻声を出しながら後ずさる。
そんな様子に心痛めながら、私は安心させるように能力を発動させた。
『使役』
スキルとは違う、天職ごとに使える個別能力。
私は祈るようにオオカミからの返答を待つ。
『使役』は魔物に対して、自分の仲間になるよう要請する能力である。
要請を受ければその魔物は使い魔となり、操ることができる。
もちろん魔物が拒めば操ることはできない。
さあ、どうだ・・・!
祈るようにオオカミを見つめる。
やがて、観念するようにオオカミが短く鳴き声を上げると。
目の前に文字が表示される。
『個体、フェザーウルフの使役に成功しました』
やった・・・!
私は両手を挙げて喜んだ。
私はついに・・・・!
小さな結果だが、ついに私の努力が報われたような気がした。
この子は大切にしよう。
ちょっとお馬鹿で、群れから追い出されちゃう子だけど。その分私が・・・・。
私はオオカミに手を伸ばした。
私が殴って傷つけてしまった身体を謝罪の意を込めて、撫でようと。
した、瞬間。
オオカミは爆散した。
彼方から飛んできた、火球により。悲鳴もなく、一瞬で吹き飛んだ。
「へ?きゃあっ!」
私自身も、強烈な爆風に吹き飛ばされる。
・・・・・何が。
「ぎゃはははははっ!」
笑い声に、はじかれる様にそちらを向く。
そこには、
「よーう、ブス。ひさしぶりだなぁ」
傍らに赤い、燃えるような色のトカゲを引き連れたバスケ部男子が立っていた。
「なんで・・・・ここに」
いや、そういうことじゃない。
そんなことを聞いてる場合じゃない。
バスケ部の傍らにいるトカゲの魔物はCクラスの『サラマンダー』だ(そういえばあいつの天職は私の上位職である『魔獣遣い』だった)、先の火球はこいつの魔法か何かだろう。
つまり・・・・。
つまり・・・・!
「あ?あー、いつの間にきたのかってこと?そんなの最初からだよーん」
最初から・・・・。
戦闘のってことか?
戦闘中は『索敵』を切っていたが、ほかの魔物と混戦にならないよう事前に辺りに魔物がいないか確認していた。
もちろん人間もいなかった、ハズだ。
「もういいや、出て来いよーお前ら」
バスケ部が後方の誰かに声をかける。
すると、誰もいなかった空間から一人・・・二人と次々人影が現れはじめ。
やがて十数人の勇者がその場に姿を現した。
その中の一人には、以前は私の担任だった先生がいた。
そうだ、たしか先生は自分と味方を完全に知覚できなくする隠密能力を持っていたはずだ。
先生の力で、全員を隠して付いてきていたってことか・・・!
「よう山岸・・・・。みんなで見てたぞお、お前の勇姿。あんなにザコの魔物に必死になって戦うところを・・・・・みんな感動したよ。こんなにも無能な奴がいるのかってなぁ!」
先生がそう言い放つと、周りの勇者たちは一斉にゲラゲラと笑いだす。
様々なヤジや暴言が私に向けて飛ばされる。
「いやあ・・・お前の顔ってホント気持ちわりぃよな・・・・。想像してみろよ。仕事とはいえお前みたいな汚物と毎日毎日顔を合わせて、平気な顔して接さなきゃいけない俺の気持ちをよぉ・・・・」
先生はけだる気な様子で話し始めた。
「したくもない仕事から解放されたって言うのに・・・・・なんでオメーみたいな屑がそばにいることを我慢しなきゃいけねーっつーんだよ。
いい加減に消えろ、お前。目障りなんだよ」
「・・・・・聖職者とは、思えない発言ですね」
「もう教師じゃねーってんだろうが。もう下らねーガキの相手なんかする必要ねーの、俺は!」
先ほどの不機嫌な態度から一転、げらげらと上機嫌に話し出す先生。
「というか何?今の質問。いつもの軽口の勢いはどこ行ったんですかー?さすがの汚物ちゃんも、出来たばかりの使い魔殺されてこたえてるのかなー?あっはははははは!」
「そうそう、センセーってばナイスなアイディア出してくれてさあ。最初待ち伏せしてボコろうって話だったんだけど、使い魔を作って喜ばせた瞬間にその使い魔殺そーって。いやぁ俺にはでねーっすわーそんな発想。マジリスぺっすわーセンセー」
「もう教師じゃねーつってんだろ。あだ名みたいに呼ぶな。・・・・ま、その様子だと相当こたえたみてーだな!あんなに無様に必死こいて作った使い魔をすぐに殺されちまったんだからなぁ!」
確かに、いつもの私なら皮肉の一つや二つは溢していただろう。
『単独行動の訓練、フツーに違反してんじゃないよ。どんだけ群れるの好きなんだミーアキャットかオメーらは』とか
『聖職者として、その発言どうなんすか? 炎上モンっすよ。まとめサイトの格好のネタっすよー』なんて言い放っていたかもしれない。
それができないくらい・・・・・。
それくらい、切れていた。
「とにかく、これでお前も終わりだな。使い魔一匹も作れない能無しじゃあ、追い出されちまうな。ようやく目障りなものがいなくなってせいせいするぜ。あ、そうだ。ブローチもよこせ。それで決定的だろ」
「・・・・・・いやだ」
「あ?」
「お前らなんぞに渡すか」
「そうかよ・・・・・・じゃあ、死ねや」
それが合図かのように、一斉に魔法や弓矢が。
私に放たれる。
轟音。
彼らは上がる爆炎をにやにやと眺める。
だが、収まったそこに私の姿はない。
「あ・・・・?」
「ここだ」
数十メートル離れた位置にいる私を見て、彼らに混乱が広がる。
スキル『加速』だ。
自分の動きを早くするが、その速さを制御できるだけの力は出ない外れスキルの一つだ。
だが、ブレーキをかける瞬間『加速』を切り『重量操作』で体重を軽くし反動を減らせば。
こんな風に一回限りの回避くらいには使える。
「くっウテェ! 今度は避けられないように範囲攻撃だぁ!」
さすが年長者。
誰よりも早く混乱から抜け、的確な指示を飛ばす先生。
今度は私の位置だけでなく、その周辺に分けた攻撃が来る。
が、それも私を捉えることはなかった。
「なっ⁈」
今度は私の姿を逃さぬように注視していたようで、私の動きを見て驚愕する勇者たち。
『重量操作』、『立体歩行』の同時使用で上空へ跳び。手ごろな木の幹へ着地。
だが、そこで動きは止めない。
彼らが次の攻撃に移る前に別の木へ。跳ぶ。
跳ぶ。
跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ。跳ぶ―――――――――!
「な、なんだアイツの動き⁈」
「馬鹿か! なんかのスキルだろっ」
「ちくしょう、ちょこまか・・・・!」
「へたくそが! オメーらちゃんと狙え!」
「そういうテメェも当ててないだろうが!」
やつらが私の動きについてこれなくなった瞬間、私は木をへし折るほどの気持ちで蹴り。
急降下。
使用するスキルを切り替える。
『加速』、『重化』、『格闘』の三重同時使用!
今の私が放てる最大の一撃は、私のことを見失った先生の喉元に突き刺さった!
「びゃっ!」
カエルがつぶれたような声を出し、転がっていく先生。
「う・・・・げぇええっ!あぁぁぁぁっ・・・・!」
のたうち回るほどのダメージを無能である私が与えたことに、周りは驚愕し動揺している。
その隙に・・・・。
―――私は逃げた。
「あっ、逃げたぞ!」
「追えっバカ!」
「で、でも・・・・センセーは?」
「ほっとけ!」
「くそっ、速えぇアイツ・・・・!」
「木をぴょんぴょん・・・・ゴリラかあの女!」
・・・・・・・・・・。
はっ・・・・はっ・・・・・は。
必死に木々を跳び、移動する。
あのままでは袋叩きになるだけだ。
一泡も吹かせたし、これが判断として最適だ。
でも・・・・・。
「うっ・・・・!」
勇者たちの気配が消え、ひとまず安堵し怒りからの脳内麻薬が切れたためか。
私に鋭い頭痛が襲ってきた。
「あ、がぁぁっ・・・・!」
落下しないように枝にしがみつきながら、痛みに耐える。
3つのスキルを同時に使用すると、必ずこの痛みが襲ってくる。
多分二重使用以上に脳に負担がかかっているため、脳細胞が悲鳴を上げているのだろう。
「くそう・・・・・!」
私は歯を食いしばる。
痛みに耐えるためではない、悔しさをこらえるために。
何もできずに、殺されてしまった・・・・。
やっとできた、使い魔だったのに・・・・。
大切にしようと思っていたのに。
正直、完全に愛着がわいていたわけではなかった。
大事な存在になっていたわけでもなかった。
でも・・・・。
「ちくしょう・・・・!」
身を切られるほど悲しくて。
それでも何もできずに、逃げる自分が悔しくて。
ただ、歯を噛み締めた。
同級生たちの悪意によって、
私は・・・・はじめての使い魔を
とんでもなくあっさりと失ってしまった。
ダイブアタック(名称未定)
『加速』 『重化』 『格闘』+位置エネルギー
スキル三重同時使用の現在、主人公が使える最も威力の高い技
だが、高所から落下するという特性上
二度使えばたやすく対処されてしまう(相手によっては初見で対応される)
そして、三重同時使用は脳に過度な負担がかかるため
使用後、鋭い頭痛により行動不能に
そんなリスクと代償のわりに
実は他勇者の通常攻撃程度の威力しか出せていない
よろしければ、
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