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1.Outbreak 登壇
夜が更けゆく。人知れぬ郷にも、闇が静かに降りつもる。禍々しく月が垂れこめている。大きな目玉が穴を覗きこむかのように。
ひとりの少年が歩いていた。ずるりずるりと大きな麻袋を引きずりながら、誰もいない、静かすぎる石畳みの通りを。
少年の銀色の髪が夜風に揺れる。深い海の底の色をした切れ長の瞳は、真っすぐ、通りの突き当たりにそびえる王城を見据えつづけていた。
ずるり、ずる……り。背後の麻袋が、急に軽くなったのを少年は感じた。振り返って見てみれば、ここまでの粗悪な道のりで麻袋には大きな穴があき、そこから中身が通りに転がり落ちてしまっていた。
荷は、とある大きな、ひとつの物体であった。
少年はもはやぼろきれでしかない麻袋を見て、それから王城を見やった。王城はもうすぐである。大きなため息をひとつ。
少年は麻袋をそこに投げ捨て、よっこいせ、と言いながら荷を肩に担ぎあげた。とても頑強とは見えない体躯の少年が、けれどしっかりとした足取りで自分よりも大きな荷を担いで、歩いていく。
荷は、とても重たかった。とても。
それは、魂の重みである。