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早朝。
弥太郎の住む家に、霞村の村長である田久兵衛がやって来た。
「弥太郎、大変な事になった」
「また盗賊ですか?」
家の中で荒縄を作っていた弥太郎が肩を回しながらそう言った。
「いや、違う。――少し、お前の父親と母親に話があるので、外で待っていなさい」
「はい、解りました」
今までにない切迫した物言いの田久兵衛村長を訝しく思いつつも、弥太郎は言いつけ通り外へと出た。
「あの、村長。うちの弥太郎が何か?」
母親の梢が、不安げに尋ねる。
力が強すぎる弥太郎が、加減を間違えて村の農具を壊してしまう事も一度や二度ではなかった。
その都度、弥太郎の父と母が村人達に頭を下げて謝罪して来た経緯があるので、村長が深刻な顔をされると、悪い予感を察してしまうのも、無理のない話だった。
「うむ。……実は昨日、地頭様の御屋敷に赴いたのじゃ」
「それは、弥太郎から聞いておりますが……」
「地頭様より留守を預かる小島 昌継様より、盗賊退治の詳細を伺われた。それを聞いた昌継様は弥太郎を息子にしたいと申されている」
「な、何ですと!?」
この時代、養子縁組という仕組みはもちろんある。
だがそれは、身分が同じで初めて成立するものだ。
武士の家へ農民の子供が養子に出すとは、この時代の常識では有り得ない申し出である。
「何を申されます、村長! 弥太郎は農民ですよ!?」
流石に常識外れの申し出に、弥太郎の父である長介も驚きの声を上げた。
「解っておる。先方も承知の上じゃ」
「では何故です!?」
「弥太郎のあの力じゃ」
「まさか、弥太郎を武士にして戦働きをさせるとでも?」
「恐らく。配下の村の人間が立てた手柄よりも、自分の息子が立てた手柄ならば主君であらされる長尾様の覚えもめでたいであろう、との事と思われる」
「私達夫婦の気持はどうなります! あの子は、私達夫婦が大切に育てた子供なんですよ!?」
父である長介はここぞとばかりにそう言った。
実際、夫婦の間には子供が生まれず、弥太郎だけが夫婦の子供であった。
「長介、解ってくれ。村の為じゃ」
「しかし!」
村長と長介の話し合いは続いた。
外で待っていろと言われても、弥太郎も暇を持て余せば動きたくなる子供である。
そんな理由から、弥太郎は両親が耕している田んぼへ赴き、雑草の除去や、イナゴ退治を行う事にした。
「おーい、弥太郎!」
雑草を除去していると、田畑に面した道から村の子供達が弥太郎を大声で呼んだ。
「どうしたー、長次!」
「大変だー、隣村の奴が攻めて来たんだー!」
「何だって!?」
弥太郎に、更なる戦が待っていた。