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オニコジ! ~鬼神覚醒編~  作者: ジョージ
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2

 十歳というのは、戦国時代の常識から見ても、現代の常識から見ても子供である。


 その観点から見ると、弥太郎は子供であった。


 だが、自分の意志で決めていい事と、いけない事の区別のできる子供でもあった。

 

 その為、――


「村長、アレをどうします?」


 自らが折檻した盗賊達を指さしながら、弥太郎は村長に盗賊達の処遇を尋ねた。


 眉や髭に白髪が混ざり始めた初老の村長である田久兵衛は、ジロリと溜め池に視線を向けている。


 当の溜め池の周囲には、鍬を構えた農民達が取り囲んでおり、盗賊の脱出を阻んでいた。


 気絶から覚めた盗賊達は青ざめた顔をしながら立ち尽くしている。


 どの時代の農民も、怒らせたら怖いのである。


「儂らを襲おうとした奴らじゃ。殺すべきじゃ!」


「そうじゃ!」


「村長、やってしまいましょう!」


「この村に手を出した事、後悔させてやる!!」


 村人達が一斉に大声を上げた。


「まぁ、待て皆の衆」


 村長の田久兵衛は落ち着いた声で村人たちに声をかけた。


「このまま殺しても、我らが得るのは奴らの得物だけじゃ。――どうじゃ、皆の衆? ここは地頭様に差し出す事にせんか? あわよくば、我らに褒美をくれるかもしれん」


 鬚をいじりながら、村長の田久兵衛はしっかりとした口調でそういった。


「しかし、村長!」


 年若い村人が、田久兵衛の決定に不満を出した。


「地頭様に差し出しても、差し出さなくても奴らの首は刎ねられる。なら褒美が貰える方にするべきじゃないか、源三?」


 田久兵衛が強かな笑みを浮かべてそう言うと、源三と呼ばれた村人は納得した顔で引き下がった。


「決まりですな。――ではっ!」


 一連の流れを見ていた弥太郎は、すかさず荒縄の先に輪を作り、ブンブンと音を立てて振り回し始めた。


「とりゃあああぁぁぁっ!!」


 大きな掛け声と共に、弥太郎はブンっと荒縄を放り投げる。


 放たれた荒縄の輪がそのまま溜め池の中にいた盗賊の一人に、スッポリと納まった。


「まずは一人目ぇっ!」


 弥太郎が豪快にそう言い放ち、グイグイと荒縄を引っ張る。


 瞬く間に輪が縮まり、ギュっと荒縄で盗賊の体が拘束された。


「な、何じゃぁ!?」


 当の盗賊からすれば、たまったものではない。


 ただでさえ水の中で逃げ場が無い上に、荒縄で拘束されてしまったのだ。


 が、この程度で弥太郎は止まらない。


「あっ、そ~れっ♪ あっ、そ~れっ♪」


 と、祭囃子を口ずさみ、弥太郎は拘束した盗賊を池から引っ張り始めた。


 その速度は尋常ではなく、馬に引きずられているかのような錯覚すら覚える力であった。


「うわあああぁぁぁっ!」


 ザブザブと水波を立てながら、文字通り溜め池から引っ立てられる盗賊。


 ここまで来ると盗賊に対して、哀れみさえ覚える扱いである。


「あっ、そ~れっ♪ あっ、そ~れっ♪」


『よい♪ よい♪ よい♪ よい♪』


 いつしか弥太郎の言葉に村人達が声を合わせて囃し立てる。


「あっ、そ~れっ♪ あっ、そ~れっ♪」


『よい♪ よい♪ よい♪ よい♪』


 遂に岸まで引っ立てられた盗賊を、弥太郎は容赦なく足蹴にし、荒縄で簀巻きにした。


「源三さん! コイツが逃げないよう、見張っていて下さい!」


「おうっ、任せとけ!」


「ありがとうございます!」


 弥太郎はそう言って頭を下げ、再び先程と同じ手順で荒縄の先に輪を作り、溜め池の中にいる盗賊を引っ立て始めた。


 ものの数分で、弥太郎は全ての盗賊を荒縄で縛り上げた。


「お見事っ、御見事っ、御美事っ! さすが弥太郎じゃ!」


 村長の田久兵衛が快活に笑って、弥太郎を誉める。


 武士のいない村で、少年が一人、丸腰で盗賊十人を捕縛したのだ。


 もはや偉業である。


「村長、ありがとうございます!」


「はっはっはっはっはっ、弥太郎がいれば霞村は安泰じゃの。弥太郎がおれば百人分の働きをしおる!」


「それは言い過ぎですよ、村長。せいぜい、五十人分が限界です」


 弥太郎は浮かれる村長に対して、困ったような声を上げた。


 これが、後に鬼と呼ばれる男が立てる手柄の始まりに過ぎない事を、霞村の人々は知る由もなかった。

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