自動人形は突然に!~異世界への旅立ち~
西暦2220年、人類は地球を飛び出し幾つかの惑星でコロニーを形成し生活をしていた。その中で月面は最初にコロニーが形成され、様々な研究施設がつくられていく。月面都市は第1クレータから第20クレータの20ブロックにて形成されており、1クレータに約300万人居住していた。月面全部で6000万人が生活している事になる。
その幾つもある研究施設の中で第5クレータ内に【生物広角研究所】は存在していた。世界中から一流の科学者を集められ、生物の進化について研究されている場所である。
その研究所内の一室で電気もつけずモニター画面だけが光を放つ薄暗い部屋の中で一人の男性が、ガラス越しから少年少女たちを見つめていた。
「ち~っす! 明石先輩、またやらしぃ目でユニットみていたんですか? 溜まっているなら、街へ行った方がいいんじゃないですか? かわいい子いる店知っているんで、先輩の奢りなら案内しますよ」
屈託の無い笑顔で語り掛けてきたのは、この研究を共に続けてきた後輩の江本であった。
「違うよ、バカヤロウ! 俺はもうすぐ完成するこいつらの事を思い返していただけだ!」
そう言って火を付けていないくわえタバコを揺らしながら、哀愁を含んだ口調で明石はゆっくりと返答を返した。
ガラス越しの彼等は明石、江本が社会に出てから全ての時間を費やしてきた結晶であった。
それは、宇宙外活動を可能とした、【完全自立型のアンドロイド】と言う建前の戦争兵器の開発であった。
ただ明石は本当に人々の役に立つことを願いながら研究を続けている。
「明石先輩、いよいよ明日ですね!」
「あぁ明日だな!」
明日というのは、起動実験である。このアンドロイドを彼等は、WFシリーズと呼んでいる。WFシリーズは二人の最高傑作であった。
人工体の体は、人間と見た目変わらないが、その秘められた力は同研究者達が完成させて来た個体を遥かに凌駕する性能を発揮している。
そして次の日この物語が幕をあける。
起動実験は無事に成功を収めWFシリーズは実践データー採取の為に様々なミッションをこなして行く。
「アイゼン、シャイン、今回も良くやった。今からメンテナンスに入るから検査室で待機していてくれ」
研究所に戻って来た2人を明石は出迎えていた。
実践経験は1年間続けられている。次のミッションで資料を纏めて上へ報告する。その後、FWシリーズはそれぞれ別の部署に配置されると共に同タイプのアンドロイド生産ラインの作成に移る予定であった。
「明石さんはシャインのメンテお願いします。僕はアイゼンの方をやっときますので」
「ああ、解った。俺は一度、所長にWFシリーズが帰還してきた事を報告してからそっちに行く」
明石と江本はそう言うと、各自の作業へと戻っていく。
報告から帰って来た明石は江本と共にメンテナンス作業を行っていた。
「なぁ、江本、次のミッションでWFシリーズともお別れだな……」
「突然ですね。長かった研究が認められる。いい事ですよ」
「アイゼンやシャイン、ドーガとマックス、俺達が育て上げた最高傑作達だ、少し寂しい気がしてな……。こいつ等の性能だと確実に軍事目的で使用されると思うと、なんだかな……」
「そうですね。それに先輩が開発した思考プログラムは本当に人間かと思う程、素晴らしいですから一緒に居るだけではアンドロイドとは僕でも思えません。そんな彼等が戦闘だけに使われる。なんだか寂しい気もします。
明石先輩、神様に祈ってみたらどうですか? 案外、願いが叶うかもしれませんよ」
「そうだな、今晩酒でも飲みながら神様にお願いしとくよ!」
次の日、ミッションに向かった4名のアンドロイドの内、帰って来たのは3体だけであった。
「シャイン、説明しろ。何故アイゼンが居ない?」
「マスター、アイゼンは任務完了後に姿を消しました。消息は不明です」
「こんな大変な時に江本の奴は何処にいるんだ? 取り敢えず。発信機の信号を探しアイゼンの足取りを追う。シャイン達は場所が確認されしだい、速やかにアイゼンの確保へ移れ」
3名のアンドロイドは一列に並び、敬礼を行った。
「了解!ただちにアイゼンを確保に向かいます」
シャイン達を見送った後、明石は所長へ報告を行った。その後はモニターの前でキーボードを叩きながらアイゼンの反応を探していた。だがモニターには何も表示される事は無く、時間だけが進んでいった。その時モニターの右下に電話のマークが表示された。明石はそれを指で叩くと声が聞こえてきた。
「明石、テレビをつけて見ろ。アイゼンの行方が解ったぞ」
指示された通りにニュース番組をモニターに表示させると、そこに写っていたのは江本とアイゼンであった。
「江本が……。何故だ?」
どうやら、電波に割り込みを入れている様であった。薄暗い部屋にいる江本とアイゼンは2人だけの様だ。そしてモニターの中で江本は喋りだした。
「放送を楽しんでいる人達には迷惑を掛けていますね。用件だけを伝えます。僕は人類が宇宙に出てきた事は間違っていると思っていた。技術も科学も向上し生活水準も高くなった。だが現状に来るまでに無謀な実験や事故で多くの人が命を失いました。
その事に誰も触れようとはしない。僕は宇宙にいる全ての人類を消し去る事で全てを終わりにしたいと思います。
そうですね今から僕が以前住んでいた第2クレータを壊す事にします。それでは第2クレータの人達は逃げるか反撃するか決めて下さい」
それだけ伝えると一般放送に画面が切り替わったが、どのチャンネルでも臨時ニュースが始まりだした。
「シャイン、ドーガ、マックス、アイゼンを発見したぞ! 奴は第2クレータへ向かっている。此処からかなり距離がある。全速力で向かってくれ」
「了解しました」
3人は車へ乗り込み研究所を飛び出していった。
「間に合えばいいが……。江本はどうしてこんな真似を?」
明石はそのままキーボードを叩きだし、何やら調べ始めていった。その後、何かを見つけ所長へ連絡を入れた。明石は部屋を出て行こうと椅子から腰を浮かした時、新しいニュースが放送される。
「第2クレータが壊滅しただと……? 早い、早すぎる。 どういう事だ?」
ニュースの情報によると、第2クレータ内にある研究施設が次々と爆破して行き施設内に研究用に保管されている有害物質が空調設備を通り、クレータ内全体に充満していったとの事であった。
「江本、なんて事を……。早く奴を止めないと」
明石は研究所から飛び出しある廃墟へ向かっていた。目的の場所には、装甲車や運搬車など数台の車が廃墟の前に集結する。そして乗っていた車から武装された兵士が続々と降りてくる。最後に明石が自分専用の車から降りた後、各自廃墟の中へ突入し行き1部屋ずつ中を調べていく。そして一番奥にある部屋で江本を発見する。銃口を幾つも突きつけられた江本も自身が持つ銃を兵士に向けているが怯えた様子も無く笑っているようであった。
「明石先輩、待っていました。最初に来るのは貴方だと思っていました。この廃墟は僕の両親が働いていた場所です。近くにあった研究所の実験が失敗したせいでこの辺りは誰も居なくなってしまっています。
先輩には一度話した事が有りましたよね、きっと来てくれると信じていました。
今までお世話になった先輩だけには謝っておきたかった。先輩が作り出したアンドロイドをこの様な使い方をして、すみません」
江本は銃を構えたまま、頭を少し下げた。
「江本……。何故なんだ? 何故こんな恐ろしい事をしたんだ? 第2クレータの人々がどうなっているのか、お前は知っているのか?」
「もちろん知っています。僕の家族も同じ様に無慈悲に殺されてしまいましたから。地球を飛び出し技術や資源を追い求め、周りの者を省みない人類など滅んでしまえばいいのです。
明石先輩、アイゼンは人類を滅ぼすまで止まりませんよ。止めたければ、貴方がシャイン達を使って止めればいい。先輩も知っていると思いますが、もっとも優れているアイゼンを止めるのは至難の業です。
先輩に止められるなら、僕も納得が行きます。どうか頑張ってください」
江本はそういい終えると銃を自分の額にあて引き金を引いた。
「バカヤロウ! バカヤロウ!」
明石は倒れている江本を抱かかえ、叫んでいた。
だがすぐに立ち上がると兵に指示を出し、車に乗り込み第2クレータがある方向へ飛び出していった。
車の中で備え付けのモニターを操作し新しい情報を確認すると月面防衛軍が第2クレータへ向かっているとの事であった。廃墟と化した第2クレータに潜むアイゼンを破壊する為に派遣されていた。
キーボードを叩き、コールボタンを押した。
「シャイン、今はどこ辺りだ?」
「マスター、後30分程で第2クレータに到着します。そのままアイゼンを見つけ出し確保します」
「今、ニュースで月面防衛軍が出動している事が解った、巻き添えを喰わない様に俺がそっちに行くまで待機していろ。アイゼンの反応を見つけたら随時連絡を入れてくれ」
「了解しました」
明石が第2クレータ付近に到着したのはその連絡後2時間後であった。シャイン達と合流した明石はアイゼンと月明防衛軍の戦闘について確認していく。
結果はアイゼンの圧勝であった。最初クレータ内に生き残りがいる可能性もあるので、軍は人海戦術にてアイゼンを探しだそうとしたが、各個撃破されて残念する事となった。その後アイゼンを見つけた戦闘機がミサイルにて破壊を試みるが、誘導機能をジャミングされ発射した本人へと返っていく。その後無誘導ミサイルに変更していたが、動きの早いアイゼンに当る事もなく地上からの射撃により戦闘機はことごとく破壊されていった。軍は上空から絨毯爆撃を仕掛けた後、地上から戦車部隊でクレータ内に突撃をかける。
しかしアイゼンは破壊されておらず、戦車部隊を全滅させてしまった。その為、軍は一時撤退する事となった正に完敗である。
「解った、やはりアイゼンを止める事が出来るのはお前達以外居ないだろう。これよりアイゼンを破壊する。各自装備を整え準備に入ってくれ」
明石の指示に従い、シャイン達が乗ってきた車に積まれていた武器を各自が装備していく。
ドーガは両腕にミサイルランチャーを付け、巨大なライフル銃を肩に担いでいる。
マックスはシールドとレーザーソードを持っている。
最後にシャインは細長い剣を腰に装備していた。
明石は各自の傍に行き、装備の確認と細かな指示を与えていた。
「準備は出来たな! それではアイゼンを止めに行こう」
明石はモニターにクレータ内部の地図を表示し様々な指示を与えていった。その後クレータ内へと車を走らせて行った。アイゼンを見つけたのはクレータ内部に侵入してから1時間後の事であった。
「シャイン、奴を見つけたぞ! 前方距離3000! 座標及び予測進路経路図をそちらに送る。 ドーガは無誘導弾を使い遠距離攻撃にてポイントDへ誘導せよ! マックスとシャインは2者同時攻撃にて、敵アイゼンを破壊せよ!」
3名のアンドロイド達はそれぞれの持ち場へと移動していく。ドーガは高層ビルの屋上へと移動し明石から送られてくるデーターを元に空中へ向かってミサイルを発射していく。発射後はすぐに横のビルへ飛び移り場所を変えながら再度ミサイルを発射している。
ミサイルが轟音と共に爆発を繰り返していく。土煙を辺りに撒き散らしながら爆発は自動車が道を走るように道なりに続いていった。
「さすがアイゼンだ。ミサイルだけでは手数が少ない全弾かわしている。こちらの意図にも気付いている筈、攻め方を変更する」
ドーガはそう言ってからミサイルを発射すると同時にライフルを構える。アイゼンがミサイルをかわす前にライフルを発射する。上空からミサイルそして正面からライフル弾が迫ってきている。アイゼンは2方の攻撃をかわす為に方向を変えて移動していく。
「よし! ドーガの誘導でアイゼンはポイントDへ向かっている。シャイン、マックス後は頼んだぞ。ドーガはそのまま誘導を行い。シャイン達が戦闘に突入後ライフルで援護を行え」
モニターで戦闘を確認していた明石は、次の指示を与えていく。ポイントDは普段は球技大会や陸上の大会など行われる競技場であった。
「ミサイルも残していても仕方ない。全弾放出してやる」
ドーガは両腕を前にだし腕に取り付けられたミサイルランチャーから大量のミサイルを発射させていく。アイゼンは弾幕をかわすべく大きく前方にジャンプを行い。競技場へと入っていった。
「シャイン、マックス、アイゼンは競技場へ入っていった。後はお前達に掛かっている俺も今から援護に回る」
ドーガは体内に設置されている通信機でシャイン達に状況を報告した。
「ドーガ、了解した。後は任せてくれ」
シャインは返信を行うとシャインとマックスは壁を越えて来る黒い影を確認し、行動へと移していった。
競技場の中央に着地したアイゼンにシャインはすかさず近づき剣を振るった。アイゼンは自分の長く黒い髪を自在に操りネットが衝撃を吸収する様にシャインの剣を受け止める。だがその髪の幾つかは短く切り刻まれていた。アイゼンも腰に吊っていた剣を抜き
「アイゼン、マスターの命令です。抵抗は止めなさい」
「シャインは何を言っているの? 私のマスターは江本様だけです。シャインも解っているでしょ? 私達はマスターから与えられたミッションを私は遂行するだけ、邪魔をするなら破壊します」
シャインは目で追う事が出来ない程の速度でアイゼンを切り刻んでいく。アイゼンはそれを同じ速度で剣を受け止め攻撃を返していく。互角に見えた戦いだが徐々にシャインが押されていく。アイゼンは剣での攻撃の合間に自分の髪で突きなどを織り交ぜ、手数で勝り優位な状況を作り出していた。だがシャインも剣で髪を受け止めそのアイゼンの髪に代償を支払わせていく。
「超高周波ブレードですか……。私の髪を切り裂く剣、本当にやっかいな能力です。私の剣も長くは持たない、それでも私には勝てない」
アイゼンはその場から移動しグランドの脇に置いてあったベンチを髪で掴みシャインに向けて投げつけた。シャインはベンチで一瞬アイゼンの姿を見失う。飛んでくるベンチを2つに切り裂いた。目の前にはアイゼンが突っ込んできていた。斬った剣を戻すより速くアイゼンは斬りかかろうとしていた。シャインは攻撃に対して後方へジャンプを行いかわそうとした、だがアイゼンの髪がシャインを包むように両サイドから同時に襲い掛かっていた。かわす事の出来ないタイミングでありシャインは防御の体制をとる。
「ドガッ!」
しかし衝撃音と共に弾き飛んでいたのはアイゼンであった。アイゼンがベンチを投げた辺りからマックスがサイドよりスタートを切って突進してきていた。アイゼンの攻撃がシャインに当たる前にショルダータックルをヒットさせ、アイゼンを10m以上離れた壁に激突させていた。壁には亀裂が走り、アイゼンの体は壁の中へ食い込んでいる。
「マックス助かりました」
「ずっとスキを伺っていた。このまま一気にアイゼンを破壊するぞ」
アイゼンに突撃を掛ける。マックスとシャインに連絡が入る。
「ドーガだ。今配置に付いたこれから援護を行う。俺の居る座標を送信するから、出来るだけ射線上は空けておけよ」
アイゼンが壁を破壊し、壁を背にした状態で突っ込む2人を待ち構えている。シャインとドーガは二手に別れ、両サイドから同時に攻撃を仕掛けた。素早いシャインの攻撃は剣で対応し、力強いマックスの攻撃を髪で勢いを吸収するようにアイゼンは受け止めた。そして顔に笑みを浮かべる。
「貴方達が知らない私の技を受けなさい」
「ぐぁああ!」「つぅぅ!」
そう言うとアイゼンの体が光だしたその瞬間シャインとマックスは片膝を付いた。
「私は高電圧を体から放電する事が出来るの。知らなかったでしょ? じゃあ私の勝ちね」
アイゼンは髪を槍状にしてシャインとマックスの頭部に向かって突き刺そうとしていた。
だが、前方より高出力のレーザーがアイゼンを襲う。アイゼンはそれに気付きジャンプでその射撃をかわすが、ジャンプ中を再度狙われ発射される。アイゼンは髪を壁に突き刺し空中で急停止を行う。グラウンドに着地したアイゼンを連続して襲う射撃に対してジグザクに走り攻撃を掻い潜りながらドーガへと近づいていく。
「俺は接近戦じゃアイゼンに勝てない。一度、引いて体制を整える」
ドーガはライフルをその場に残し退避を開始する。
「ドーガ、退避が遅い」
アイゼンがドーガの目の前まで、接近していた。ドーガは諦めたのか、体を大の字にしてその攻撃を受ける様な形だ。ドーガに向かって剣を振るうアイゼン。
「喰らえ!」
ドーガはそう言うと体の数箇所から銃口が現れ、幾つものレーザーが発射される。レーザーの直撃を確信したドーガの顔が苦渋の表情へと変わった。
アイゼンは自分の前方に髪で網状の幕を作っていた。高圧の電気を帯びた幕にレーザーが直撃をしていたが、アイゼンを避けるように曲がりそれぞれ違う方向へと散っていく。
「ドーガ残念でした。これで終わりです」
ドーガの腹部にアイゼンは剣を突き刺した。ドーガは崩れるように倒れる。だがその直後アイゼンの表情が苦渋に滲む。アイゼンの背中には金属で出来た注射器の様な物が刺さっていた。先ほどの攻撃の際に一緒に放っていたようであった。
「ドーガ……何をしました?」
ドーガは小さく笑みを浮かべ小さい声で語った。
「それはマスターから託された、お前へのプレゼントだ。お前の体を蝕み、ウイルスを撒き散らし。行動不能にしていくそうだ。マスター任務完了しました……」
それだけ伝えるとドーガは動かなくなった。
アイゼンは周囲に2つの反応を確認した。勿論シャインとマックスであった。
「ドーガは任務を遂行したようです。私達もそれに続きましょう」
「解っている。今のアイゼンは全力を出せない筈だ。破壊するなら今しか無い」
シャインとマックスはアイゼンに攻撃を仕掛けていく。アイゼンの動きは最初の鋭さは無くなっており。素早い動きで多彩な攻撃を仕掛けるシャインと盾に身を隠し一歩ずつ確実に近づき強烈な一撃を繰り出すマックス達にアイゼンは防戦一方となっていた。
正面から連撃を繰り出してくるシャインに手間取っている間に、アイゼンは後方からマックスに脚を掴まれ、そのままジャイアントスイングの要領で回転させられ壁に叩き付けられる。その後再度振り回され、今度はグラウンドの中央へ叩きつけられた。巻き起きる土煙の中で立ち上がってきたアイゼンは既にボロボロの状態であった。マックスとシャインは再びアイゼンを挟み込む陣形を取っていた。
「アイゼン、貴方の負けです。体も思うように動かないでしょう。投降し再度調整を受けるか、ここで破壊されるかどちらがいいですか?」
「シャイン、もう勝ったつもりですか? 私達はマスターの願いに全力を尽くすのみ、貴方も理解している筈です」
「そうでしたね。これで終わりにしましょう……」
シャインは握っている剣に力を込めマックスと同時にアイゼンへと斬りかかって行った。当初の様にかわす事も出来ないアイゼンは動いていない。
「なっ!」
シャインが驚きの声を上げた。
「高周波ブレードが溶けている?」
「俺のレーザーソードも効いていない!」
その時、明石から連絡が入る。
「マックス、シャイン、アイゼンは自爆する気だ。彼女の体内でエネルギー炉が暴走を始めている。
もし爆破すれば月に甚大な影響がでるぞ! 自爆する前に破壊するしかない。」
目の前には動かないアイゼンの人口筋肉や肌などが溶けだし、その下にある金属の躯体が晒しだされる。
「時間がありません。触れない相手に一体どの様な攻撃をしかければ……」
シャインの独り言に返事を返す者がいた。
「お前達は退避しろ。アイゼンは俺の子供だ。責任は俺が取る!」
声の主は明石であった。いつの間にかシャイン達が乗っていた車に乗り換えグラウンドに侵入して来ていた。そしてそのままアイゼンの方へ全力で突っ込んできている。
「マスター、一体何をする気ですか?」
「エネルギー炉が爆発する前にこの車をぶつける。この車には武器弾薬が大量に搭載されている。今のアイゼンなら仕留められる筈だ。 心配するな。エネルギー炉を保護している金属は強固だ。持ち堪えてくれるさ」
「マスターは死ぬ気ですか」
「俺はこんな殺戮をする為にお前達を作り上げた訳じゃない。もっと人の力になれると信じて頑張ってきた。だが間違っていたようだ……。お前達の思考プログラムは俺が事故で失った、家族を元に作り上げている。家族をこれ以上失いたくない」
そう言うと通信が途絶え、装甲車とアイゼンが接触する。装甲車の甲車は強固でアイゼンを壁へ押しながら進んでいった。表面の色が赤くなってゆき表面が溶け出すのが解った。
シャインはアイゼンと装甲車が接触した瞬間から行動に移していた。すかさず装甲車に手を掛けそのまま上に上っていた。そして上部ハッチに高振動の手刀を使いこじ開け、手を差し込み、明石を引っ張り出す。そして明石をマックスへと放り投げた。
「マックスはマスターの保護を! 後は私がやります」
マックスは一瞬だけシャインと目を合わせる。シャインの目は力強く顔は穏やかであった。
「任せろ!」
マックスは自分と盾の間に明石を挟みこみ退避行動を取る。明石は隙間から手を差し出し大声を上げ叫んでいた。
「シャインお前は自由だ! もし生きていたなら自由に生きてくれ!」
シャインはそれを聞き終えると、アイゼンへと顔を向ける。アイゼンは動けない筈であったが装甲車の突進から逃げ出そうとしていた。
「アイゼン、まだ足掻きますか! 私も共に行きます。観念して下さい」
壁と装甲車に挟まれているアイゼンの首元をシャインは左手で押さえつけていく。高温の為シャインの左手が溶け出していく。シャインはそれでも構わず力を込め続ける。その直後、装甲車から爆発が巻き起こった。競技場全体を包むほどの大爆発であった。
「シャイン!」
明石の声は爆音でかき消されて行く。
後日この事件は【第2クレータの悪夢】と呼ばれる事となる。
明石も長期拘束を受け調べられたが、兵士の証言や江本が自殺した時の映像データーなどにより釈放されている。だが、WFシリーズは凍結となり。宇宙全体でアンドロイドや兵器の開発の中止を求めるデモが巻き起こる事となる。
明石は今、第2クレータの競技場にマックスと修理を行い再起動させたドーガと共に来ている。
「マックス、ドーガ、何か見つかったか?」
多数の瓦礫が点在するグラウンドを見つめながら明石は問いかける。
「いえ、何も発見出来ていません〕
「どういう事だ。確かに爆発は大きかったが、部品の1つも見つからないとは……。一体何が起こったんだ?」
それから数時間捜索を続けたが成果は得られず。明石は帰路に着く。帰りの車内で明石はマックス達に話し出した。
「俺にはシャインが今もどこかで生きていると思っている。可笑しいだろ? でも……もし本当にそうだとしたら。今度は自由に生きていて欲しいと願うよ。お前達も自由にしてもいいんだぞ。マスター権は解除しただろ?」
「マスター、俺達のマスターは貴方だけだ。俺達もマスターを家族だと思っています。これからも宜しくお願いします」
2人のアンドロイドはそう言いながら笑っていた。
「自分で作っておいて変だが、何故WFシリーズはこんなに人間染みているんだ? まぁ好きにしろ、これからは仲良く新しい事に挑戦でもするか」
3人はそう言い合いながら研究所に戻っていった。まさかシャインが異世界に飛ばされていると考える者は1人もいなかった。
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