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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

刺身の短編集

食べたいンだモン

作者: 彼方の旅路

変態交響曲でボツになったキャラクターがあまりに強烈だったので、わざわざ短編を制作して登場させました。

「おかしいと思わない?」


チェーンソー片手に、彼女は呟く。貴女の行動の方がおかしいです。なんて事は言えない。何故なら、僕の口にはガムテープがぐるぐる巻きに貼られていて、口を開く事ができないから。


「なんで人間は人間を食べちゃ駄目なの?」


ちなみに口だけでなく、手足もガムテープでぐるぐる巻きにされていて、手錠も掛けられていたりします。動けません。


「キミの事をずーっと見てたんだ。いつも、いつもいつもいつもいつも可愛くて、愛らしくて、綺麗な肌で、華奢で、食べちゃいたいくらい好きだった。」


彼女との出会いは、一年程前の出来事でした。

暇潰しに近所の本屋に足を運び、大好きな文庫本を購入しようと思っていたのです。その本は大変人気で、店頭にはあと一冊しか置いてありませんでした。お目当ての本が見つかり、僕は意気揚々と手を伸ばしました。すると、隣にいた人物も僕と同様に手を伸ばしたのです。


「「あっ!」」


これが彼女との出会いでした。




「ンっとね~…私、正直初めてキミを見た時、ぶっ倒れるかと思ったよ。一目惚れってヤツ。それから、キミの後を着けて住所特定したり、キミの家に無断侵入して下着の匂い嗅いだり、盗聴器仕掛けたり、キミの捨てたゴミを全て回収して食べたり舐めたりしたし、それからキミにまとわりつくビッチとかメス豚とかくそ女とか言い寄る輩は全て殺した……全部キミの事を思ってヤッた求愛行動なんだよ?キミの為に色々頑張ったのに、私の告白をなんで拒絶したの?なんで逃げたの?なんでなんでなんでッ!どうしてキミは私のモノにならないの?……けど、今日は文字通りキミと私は一つになる!楽しみだね♪」


にんまりと笑い、彼女は手に持ったチェーンソーを作動させる。室内に爆音が響きわたり、僕にとっては悪魔の奇声のように聞こえます。

一つに?一般常識で言えば、大概の人は性交の事を指すのでしょうが、ナニか違和感を感じます……なんでしょう?セックスに、チェーンソーは必要なのかな??




「うふふふふふ。ま、まままままずは、足から…」


瞬時に理解しました。彼女は、バラバラに切り刻んだ人間を犯す歪んだ性癖の持ち主なのだと。キチガイなんだと。嗚呼、今流行りのヤンデレとも言うのでしょうか?とにかく、生命の危機を感じた僕は、必死に身体をよじり、彼女から離れようと試みます。ふと、一瞬感じた浮遊感。すぐに全身を襲う鈍い痛み。僕は自分のベッド上で縛られたようで、身体を激しく動かしたせいで床に落下してしまったです。


「んんんーッ!?」


僕の視界に飛び込んできた光景。それは、血の海に漂う家族……いえ、家族だった肉塊がバラバラに切り刻まれ、僕の部屋に四散している光景でした。母さんも父さんも妹もペットのポチも例外なく、全身バラバラに切り刻まれた地獄絵図。

一体僕が彼女に何をしたと言うんでしょう?たまたま本屋で目が合って、少し喋っただけの彼女。僕が彼女にひどい事をして、彼女は僕に対して怨みを抱いている。とかなら、この所業はまだ理解できます。全くもって理解不能な思考回路です。


「たべりゅう~!ニンゲンたべりゅう~ッ!!大好きなキミをたべりゅう~ッ!!!」


彼女は涎を垂らし、イッちゃった目で「たべりゅう~ッ」を連呼しています。その言葉を聞いて、僕は彼女の先程の言葉、「一つになる」の意味を完全に理解しました。性交によって一つになるのではなく、彼女は僕を文字通り捕食して一つになる。

死ぬ…死ぬ死ぬいや、喰われる!

例えようのない、絶望感が僕を襲いました。


「えいっ!」


ギュイイイイイインッ!


「ンごおおおおおおおッ!」


チェーンソーの刃がゆっくりと僕の右足に食い込みます。肉から骨に、ミチミチと肉を切り裂き、ゴリゴリと骨を削り…

赤。赤赤赤赤赤。千切れ飛んだ右足。


「アハハ、大根みゅたぃにゃの~。いただきます!」


ぐちゃぐちゃ。


僕の右足が…彼女に食べられています。顔を血に染め、僕の右足を貪る悪魔。悪魔は言いました。これは、愛だと。悪魔は言いました。これは、憎しみだと。激痛なんて生ぬるい表現です。明確な、意思を持った殺意が。愛が。憎しみが


「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」


悪魔に情けも容赦もありませんでした。左足、左腕、右腕…狂ったようにチェーンソーを振り回し、僕の身体のパーツを次々と切り落として行きます。

僕は必死に願いました。終われ…夢なら醒めろ。止めて下さい!


「おいしゅいぃねぅ~♪」


悪魔はついに、僕の脇腹に直接噛み付いてきました。僕の意識は絶え絶えで、いつ死んでもおかしくない状態です。悪魔は、僕の口に巻き付けたガムテープを剥がしながら言いました。


「最後にナニか言いたい事、ある?」


精一杯の力を振り絞り、かすれ声で僕は言いました。


「……なんで、こんな事を?」


悪魔は言いました。


「だって、食べたいンだモン」


それが、僕の聞いた最後の言葉でした。






これを見たあなたへ。

本屋で偶然目が合った人の顔を覚えておいて下さい。その人は、あなたを捕食する機会をうかがっています。……ホラ、噂をすればあなたの部屋に。

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