偽ブラーケルの小娘
それじゃあ、退屈しのぎにお話を聞かせましょう。
昔、ブラーケル村の娘が教会の聖アンナと子のマリア像の前でお祈りをしていました。
「神様、聖アンナ様、天国のお父様とお母様!
私は幼少よりこの教会で下働きをしながら、あなた様がたのお言葉を守り続けています。
ですからどうか願いを聞いてください。
ああ、私はズットマー門の傍に住む金髪の青年に恋をしてしまったのです!
あなた様がたには私が不貞や裏切りとは無縁の女だということがよくお分かりでしょう。
彼の人の妻にふさわしいのは私を置いて他にいないはずです。
どうか、どうかあの青年を私の夫としてくださりますよう!」
娘の祈りが天に届いたのでしょうか。
はたして娘以外誰もいないはずの教会内に声が響きます。
「お前はその人を夫にはできない。決して!」
実はこれは聖像の傍らにある、告解用の衝立の影にいた助祭の返事でしたが、娘にはそうとはわかりません。娘は聖アンナを信仰していたため、子どもの方に当たりをつけて言いました。
「偏屈で鬱陶しい、粋がったおちびちゃん! あんたじゃないの。お母さんに話させなさい!」
すると助祭が姿を現して、
「神に仕えようと願った者が夫を望むはずがなかろう! ましてそれを神に願うなど言語道断だ!」
と、娘を叱りつけました。
それで娘はようやく気づき、助祭に言い返しました。
「あなただって上辺に囚われるなと説教するくせに、新しいかつらの広告に目を奪われているじゃない!」
とかく人間は自分だけを規則の外に置いてしまいがち。
そうならないように、あなたは何のための規則なのかをちゃんと考えなくちゃ駄目ですよ。
そう、お利口さんね。
…………それにしても全く、とんだとばっちりだったわ。
謎の語り手をやりたくて出来た話です。
話し手と聞き手は『マリアの子ども』(KHM3)に登場する「マリア」と「子ども」を想定しています。