ヤンデレの幼馴染に死んでも愛され続けて五十年
いろいろ注意。いろいろ。
日本人で女子高生だった私が死に――“ミーナ・ハルベルン”という精霊に転生して、34年が経つ。
16歳だった私――山田美奈は、ヤンデレの幼馴染を狙うストーカーちゃんを更に狙うヤンデレ百合娘、という遠すぎる関係の女性に殺害された。
曰く、お前の所為でボクの大好きなナントカちゃんが泣くのだと。完璧にとばっちりですよね! 本当に!!
軽く、いえ重く、ボクっ子がトラウマになった。アイスピックと出刃包丁の二刀流で滅多刺し及び滅多切りのコンボを数十決められたのも痛いし怖いし本気でトラウマになった。
今でも無い傷が疼く気すらするし、尖ったものとか怖い!
それからこの世界にひょっこり生まれ、生まれついてのロンリーながらもしたたかに大戦やらを生き抜き、今ではそこそこ力を認められ。順風満帆な霊生を送っています。
何より精神的に、偶に物理的にも束縛してきた病んだ幼馴染が居ない!
死に際に彼が何て言ったか――思い出すと未だにこわいし背中がざわざわするし、心臓が痛い。
嫌いではないのだ。嫌いでは。怖いけど!
でも、やっぱり私にはあんな陶酔的なスリルより、穏やかな日常がいい。
向こうに帰りたくないと言ったら嘘になる。でも流石に、元と同じ16歳になったあたりで吹っ切れた。
精霊と言っても私は人間に近いタイプだし、人間と……ま、交わる事も出来る。
不死じゃないけど不老だし、寿命も無いけど、なかなかエンジョイできている。
……あ、まだ純潔ですけどね。それなりに綺麗に生まれたのに何故!
――と、呑気にしていられたのは昨日まで。
ななななな何であの人おおおお!?
◆
事の始まりは数ヶ月前。先の大戦で猛威を奮った魔物たちが、突然活発に動き始めた――と思うと、すぐに魔王の誕生が隣国の滅亡という形で知らしめられた。
あっという間にかつて彼らの隠れ蓑だった榮帝国が復活し、世界は障気に汚染された。
気の逸った国が榮帝国に攻めて返り討ちにされた上滅亡した。前よりさらに規模も大きい災厄の数々――対応の遅れた前回の経験から、大陸連盟はひとつの選択をした。
すなわち、勇者の召喚。
曰く、異世界人と言うのは環境の違い等から、こちらでは高いポテンシャルを誇り、更に異世界神の加護は界を渡ると強まる性質があるのだとか。
つまり、異世界人つえええって事ね。
漫画みたいな展開だなあ。私からすればちょっとでなく可哀想だけど。てか、同年代の精霊と比べて滅茶苦茶スペック高いのはそれでか!
そして私も、今回は短期契約で召喚の儀に参加する。と言っても、魔力タンク扱いだけど。
召喚士のメンデンスさんが、一週間寝ないで描いた巨大な陣。その前に立って、すーはーと深呼吸する。
「では――始めます。同調をお願いします、ミーナさん」
メンデンスさんは寝不足でクマ出来てるけど、いつもはイケメン眼鏡男児だ。温厚で、とてつもなく召喚獣に好かれる性質。恋愛フラグ立たないかなー! と思いつつ、魔導線の先端に付いた小さな棒をくわえる。 反対側の棒は、召喚杖の穴に差し込まれている。これで魔力を流すのね。
無属性の白い魔力は、時空を司る藍色の魔力に変わって陣に流されていく。
メンデンスさんはすうっと息を吸って、朗々と詠唱を始めた。
精霊とは霊体または半霊体の、他の生物に比べて膨大な魔力を持つ存在のことだ。人と契約する事で力を簡単に流すことが出来る。契約は長期短期とあり、長期は一生の専属契約のことで、短期は一時契約。
精霊は普段この世界と精霊界を行き来していて、気紛れに気に入った人間と契約を結ぶ。これ本当はもっと神聖なもんだけど、私は気軽にビジネスライクな契約を心がけている珍しい精霊だ。ていうか気づいたら知り合いの精霊まで来て、精霊のレンタル屋みたいのが出来てた。元学生だけどやれば何とかなるもんだね!
そうこう脳内で宣伝している間に、詠唱が終わる。魔力供給が緩やかにストップし、儀礼用の露出の多い服を着た私はほっとして前で組んでいた手を握りなおした。
やっと終わりかー。地味に体力削られるなあ! っていうか私ですら魔力7割も使うとかとんでもない消費量だな、人間だったら干乾びてるよ!
「来ます」
簡潔にメンデンスさんが言う。私にも分かる。強大なものが――あれ? うん。陣の向こう、異世界から転送されて来るのが。
私は固唾を呑んで見守った。いや、今回は失敗したら御代貰わない約束なんだけど――
……ん?
「お……おおっ」
どこかの国王が漏らした感嘆の声。
でも、私の耳には、何も入らなかった。
背筋が寒くなり、ざあっと血の気が引いたような気がする。
無意識に手を握り締め、信じられなさに私は目を見開いた。
――転送され、少しずつ少しずつ、ホログラムのように頭部から現れている、その青年。
艶やかな黒い髪は襟首までを隠し、硬質な印象とは裏腹にさらりと風に靡く。
磨き上げた刃物のように鋭い輝きを持つ瞳も、やはり黒。
日にあまり焼けていない、白い陶磁器のような肌。
定規に沿って引いたような鼻は、高すぎず、絶妙なバランスで。
それだけなら不健康そうな印象を拭い去る、薄く血色の良い唇。
着物の似合う和風美形。是非とも横に狐でも侍らせていただきたい容姿。
何度も、何度も、それこそ16年ずっと見続けた姿だ。
「勇者さ――」
「黙れ」
召喚され終えた勇者は、呼びかける声を一刀両断して苛立たしげに視線を走らせた。
ひっ、と私は喉の奥から小さな悲鳴を漏らした。かつて彼が触れた数々の場所が痛みにか、それとも他のものでか、何かを思い出しては疼く。ずきずきとする心臓を押さえる。知らず知らずのうちに滲んでいた背中の汗が、ひどく冷たい。もう別の体なのに、感覚が、残っている。
喜びの声を上げようとした人々は、思いがけず出鼻を挫かれて息を呑んだ。
一振りの刀のような鋭い雰囲気に、気圧されているのだろう。剣道部だった彼は、視線で人間ひとりくらい殺れそうな人種で。その視線が緩くなるのは確かに私を見る時だけだったけど、そっちの目もそれはそれで超こわい。
脳裏にじわりと浮かび上がるのはあの時のこと。
――俺を置いて死のうだなんて、悪い子だね。
今まさに死に掛けている私に、開口一番これである。
――ねえ、美奈。
ここで手が伸びてきた。すうっと白く細長い、見た目からは男性的な印象の無い指が、
――せめて君を食べたら、ひとつになれるかな?
流れる血を掬い取って、ぺろりと、口にっ
ッギャーーーーーーー!!!
遅れてきた更なる恐怖に手を握り締める。ひいい震えてる震えてる震えてる!!
いいいいや待てミーナ・ハルベルン通算50歳! 私は昔の私じゃない気づかないあいつが気づくわけが無い! 落ち着け落ち着くんだっ、深呼吸! すーっ、はーっ!
「ミーナさん?」
「ひうえっ」
うわあああああああああああ!!
メンデンス氏がよりによって爆弾を落としてくださった。小声だけどしっかり聞こえただろう。何の因果かミナの間に棒入れただけの私の名前。外国人さんが呼べばこうなるだろうね、多分! うわああバレたらどうしようどうしようどうする!
「どうかなさいましたか?」
「いえ、魔力を消耗して少し疲れてしまったのです。心苦しいですが――少し、退席させて、頂いッ」
いっ……!!!
きょろきょろではなく、すーっと視線を走らせていたヤツの目が、ぴたりと停止する。
ぎゃああああこっち見んな!
一瞬懐かしさか何かよくわからないものを滲ませたその目、が、一瞬で塗り替えられる。
私が、怖くて怖くて怖くて怖くて、でもほんの少しだけ心のどこかで欲しがっていた、
あの、溶岩のようなどろりとした色に。
「ミーナさん、大丈夫ですか? 顔色が……」
「いいいいいいえッ、大丈夫であります」
「あります?」
「あ、い、えあの、えっと。剣の儀までは、見届けます、から」
今逃げたら酷い目に――いや……逃げたら本人だと言ってるようなものだし!
私はなけなしの勇気で逃げ腰だった姿勢をすっと伸ばした。すーはーと深呼吸する。そして彼を、見て、
真っ直ぐに、こちらに向かってくる彼を見て、
「……ひゅっ」
「ちょっ、ミーナさんっ!?」
逃げました。
ええ大人気なくも久々に飛行まで使ってね!
逃げてやるわ地球……じゃない、リーベル(この星です)の裏までええええ!!
――で、それから、あれ、何日……日じゃないね、まだ数時間だね!
「逃げるなんて、美奈」
背中に感じる、程よく堅く引き締まった暖かい胸板の感触。
あれ、あれ、あれ?
「お仕置きかな……?」
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませっ、はぅぁっ、あぐっ」
ギブギブギブギブギブっ!!
変な声出たけど、けして色気ある声ではなく。だっ、だっ、だって首絞めてくるんだよ!? キュッと逝くわ! よく16年もこいつに殺害されなかったなと思う!
日直で男子と会話する、委員会で男子と会話する、学校に来て男子に挨拶する、男の先生に会釈する、そんな日常の一コマ。無論比率は男子より女子が多いが。
私にはその後にこいつからの攻撃の一コマがプラスされます。四コマだったら一ページ目で破り捨ててるよこれ! 首絞め腕締め腹締めくらいなら良いけど、学校で(自主規制)とか、あと刃物はやめて!
そう、こいつはヤンデレなだけではない。ドS鬼畜だ!
「ほら……、忘れたなんて言わないよね。俺の名前、言ってごらん」
「はっ……ひゅ、……ぅ」
「……美奈?」
くっ、首、締められてるのに、言えるか――ッ!!
精霊は呼吸はいらないけど、でも実体のある私は物理攻撃が効く。首絞められれば、痛いしくるしい!
「ああ、ごめん。首絞めてたっけ」
事も無げに言って、力だけ緩める。両手はおなかのあたりに回した。
「げほっ、ぜーっ、はぁっ、はあっ……!!」
咳き込む私の喉を、指がなぞって降りていく。あたらしいわたしを確かめるように、全身くまなくもれなく隙間なく触って触って触ってっ、ひいっ、えろい!
「光輝っ……!!」
息も絶え絶えのまま呼ぶ。ちくしょう何が光り輝くだ、闇に沈むとかの方が正しいでしょうに!
コウキ、コウキ、と。何度も呼ぶと、漸くいやらしくも胸のあたりをまさぐっていた手が離れた。
変態っ、鬼畜、ドSのっ、ヤンデレ!
そんな四重苦を塗りつぶしても余りある美貌と才能。人に相談しても、あんな綺麗な人に好かれて嬉しくないのって、怖いんだってば! 誰も理解してくれない!
人前じゃ完璧なでっかい猫被るし、もうほんとむり怖い怖い怖いっ、こわ、
「会いたかった」
……。
森の中だっつうのに全身確認して、ようやく安心したような溜息。
ばかかこいつ。馬鹿か!
そんなところまで確認しないといけないのか。ぱ、ぱんつの中までさあ!
……まあ、こういう奴だ。多分目が合って気づいたはいいけど信じがたくて、逃げたから追いかけたけど本物かもわからなくて、見た目が別者だから触った反応まで見て。
それが自分の知っている私だと全部わかって、やっと納得したのか。
ここに私がいると。ここに、生きていると。
鬼畜変態のドSヤンデレ、に加え。
少し臆病で懐疑的で慎重なのが、八代光輝、その人だ。
普段は億尾にも出さない、邪知暴虐の四文字が似合うエンペラーな人だけども。
「美奈」
もう忘れた感情が生々しく蘇る。死にたくないと必死に思っていて、その後本気と書いてマジと読む恐怖を体感したと思ったら、マッパで倒れていて、精霊だと気づいて、あの時は人生で1番大量の経験を濃縮した数日だった。
帰りたいと声が枯れるほど叫んだのに。
無理だと思うよと、面倒を見てくれた精霊が言い辛そうに言ったから。
「う、うう」
私は今回、成功した時だけ、と多大な報酬を吹っかけた。成功してほしくない。した時の精神的なダメージを考えて吹っかけさせていただいたのだ。代わりに失敗時は報酬ナシ。
だって、私なんかもう人間じゃないんだ。
その上引っくり返っても帰れんような場所に、簡単に繋がってたまりますか、と。
無属性の精霊である私は、本来召喚の儀式には最適だ。魔力量も多い。でも、今回ばかりはタンクだけに留めさせて貰った。
……もし可能だとして、私は多分ミスする。わざとか、あるいは心情的な不安定故か、分からないけど絶対ミスる。間違いない!
だって、前述の通り簡単に繋がったら私は心が痛いし。大体何の罪も無い人間をいきなり現代社会と家族から切り離して生活させるってまずそれがイタい。かわいそう。
しかもいきなりだよ。魔王倒せって、無理でしょ!?
なのに、来ちゃったよこの人。なんなの、どんだけ好きなの? 愛が通じたのか、メンデンスさんにだけど!
ええ今更愛を疑う事は言いませんよ、痛い目見ましたからね。こんなに愛してるのに美奈は(略)と溢れんばかりのバイオレンスなラヴを頂いたのでもう言いません二度と!
「こう、き」
「何?」
「現状は、把握、してる? ぅえっ」
そんなっ親の仇じゃないんだから腹を締め上げないでえええ!
腹の苦しさに耐えながら、すりすりと後頭部に頬を擦り付けて(あれか、動物が壁とかにすりすりして匂いつけるみたいな意味か)いる光輝が感慨深げに呟く。
「美奈に会えた」
「つ、まり、わかってないんだね……」
すごいよこの人……何もわかってないのに追いかけてきたのか。
……気は進まないけど、このままとんずらするのは駄目だ。大陸から出ないと商売できなくなる。なんとか頑張って光輝を勇者に仕立て上げないと折角大きくなった店がー!
別に物を食べて生きている訳でもないから、金は稼がなくてもいいんだけど。でも出来るだけ元の世界を忘れたくなくて、働いていたかった。ちなみに他の精霊が金に興味無しなので、私の金庫は膨れ上がるばかりだ。そしてたまに人間の玩具を買ってみんなで遊ぶくらい。
……その程度の理由だし、他の大陸に逃げてもいいかもなあ。しっかし何で他の大陸には被害が無いんだ! 理不尽な。
他の大陸で今の仲間と精霊屋続けて、まあ、光輝は……帰還術、調べてあげればいいし。
「光輝。悪いんだけど、えーと」
「離さないよ」
「や、いいけど、あのー。勇者として召喚されたってのは、分かってる?」
「……へえ」
……ていうか私、こっち来たばっかりの光輝に脅えてたら世話ないよね、でも勝てるビジョンが全く見えないんだよね、やばい。
そもそも私、魔力多すぎてちまちました魔法が苦手で。腕力は無いし、うっかりすると殺しちゃうし、でもまあそこんところは勇者補正の数々で大丈夫だろうとは思うけど。
「と、とりあえず、戻ろうか」
「どうして?」
「わわわ私の立場的になんかやばいし折角召喚された勇者が逃げちゃったら責任問われるしひいっ!」
ぐるんと体を反転させられ、顔と顔が接近する――ひいいいい美形! 相変わらずギリシャ彫刻みたいな顔だな! なんつーか醤油顔の頂点に立つお方だよ! 日本人の特徴を極力殺さずに昇華したらこんなだろうねっていう顔してるよ相変わらずっ!!
く、とその薄い唇が弧を描く。焦らすようにこめかみに引っ付いた唇が、じわじわと頬を突付きながら滑り降りたかと思えば耳の方に行って、なんだかもうよくわからない疼きに脳裏が白くなる。えろい。えろいよお母さああああん! もう会えないお母さんにヘルプ電波を送ってみる。反応、なし!
「勇者って、つまり魔王を倒せばいいの?」
「あ、う、うん。そう……」
ち、ちから、抜ける。耳元で囁くのはやめてください、本当に! ひいひいと浅く息を繰り返していると、気づいたら両手の手首を取られて後ろで纏められ、なんでか胸を突き出すような体勢を取っている事に気づいて赤面する。な、何してるんだ!
そして光輝は何を思ったか、心臓の真上あたりに口付けた。……もう1度言うけど、私の服装は儀礼用のヒラヒラで露出の高い服だ。精霊の正装はベリーダンス系のアレです。以前の私ならかなりあれだけど、今はなんとびっくり黒髪美女なので問題なし。目は白目に同化しない程度のキラキラした銀? グレー? みたいな色だけど。これは属性上の問題。スタイルもいいよ、まあ胸あんまりないんだけどスレンダー系だよ。だって全然太らない。……じゃなくて。
敏感な部分に近い素肌に唇が吸い付いて、ぞわっと背中が泡立った。思わず変な声が出る。
「――いいよ。俺、今は機嫌がいいから」
でっしょっうっねっ!
長年いじめ倒して愛でてきた子羊がひょっこり出てきたんですからね、そりゃ嬉しいでしょうよ!
というか見た目はほんの少し成長してるみたいだけど、どれくらい経ってるんだ向こうでは。私がいない間誰が毒牙に掛かっていたのか非常に気になります! 生きてますかー!
「戻ろうか」
くっ、喰われる!
噛まれたら痛そうな犬歯が覗く。一見して涼しげなこいつは、実の所、猛獣だから。うっかり下手なことしようものなら、簡単に機嫌を損ねて痛い目に合う。狼なのだ。
私は生まれつきそれなりに元気で健康で胆力があると思うけれども、それでも怖いものは怖い。それは多分、ヒツジやヤギが狼を恐れるのと同じ。
ただ怖いだけではないのが、羊と私の違うところか。
「う、うん」
でもとりあえず、あの、手を離してください!
元の場所は、そう遠くはない。逃げ回るルートがぐにゃぐにゃだったお陰か、直線距離ではそう遠い場所でもないのだ、あの神殿。
道は知っているけど、思いがけず持っていた何かよくわからない布で目を覆われて視界が真っ暗である。何がしたいの!? 何なの!? えすえむなの!?
ひいい見えないのにドン引きした雰囲気が伝わってくるよおおおおお助けてえええメンデンスさんでもレルーレアさん(※燥帝国皇太子)でもアランタさん(※デンデセア王国宰相)でもいいからあああ!
「ゆ、勇者様?」
目隠しされ、ついでに両手も後ろで何かに縛られ、ひいいいいいいと脳内で悲鳴を上げながら私はドナられている。やめてマジでいたたまれない! 何人か予備で付いてきた精霊仲間の心話がイタい! 『何それ新しい何かに目覚めたの?』『ていうかそいつもしかしてあの前世の病んでるヒト?』はいそうですううううう!!
「俺に望んでいることは、大体理解した」
多分、多分こいつ今笑ってる。精霊だから周りの空気には聡いんだけど、ぽっと花開くような雰囲気が、主に各国王女から! いや、あんたら勇者の隣を良く見ろこいつはこういう奴ですよ! ほぼ確実に血が流れる愛だけど良いのなら! そんなマゾ姫はいやだ!
「これを――ああ、今の名前は知らないけど、まあ、この娘をくれるのならやってもいい」
わっ、わ、私が物のようだ! つーかあんたどっちかと言えば魔王タイプでしょうが!
戸惑う空気と僅かな嫉妬と期待らしきものが刺さる。うひいすいませんでも売る気なの、売る気なのか!?
「そ、その方は国に所属しておらず、私たちに決定権はございませんが……」
「あ、そうなの。じゃあいいよね、美奈」
「ひいっ」
爪が強めに、むきだしの背中を突く。いってえ! 涙目になった私は全力で頭を上下に揺さ振った。もうどうでもいいです、ど、どうせ帰るんだし。いえ、帰ってください私の精神の平和のために!
「丁度良いでは無いですか」
そんな空気の中、涼しげな声が場を鎮めた。清涼な雰囲気の彼は、イ・ソーマ大神殿(ここです)……大陸全体で信じられているソーマ教の、えーと法王? あ、教皇?
クェンティア・ミミー。名前こそかわいいけど、とんでもない美形。髪サラッサラで長くて、雰囲気だけは精霊王に似てる。今だ若々しい30歳のアーヴ族(エルフっぽい種族)です。
「伝承によれば、古の勇者には光の精霊が付き従ったと。……無の精霊が付いたとて、何の変わりがありましょうか。ミーナ殿」
ちくしょおおおおおおこいつ根に持ってやがる!
奴が幼少の頃、私はこの法王の守護精霊をやったのだ。初仕事として!
精霊王に「こういう店やってみたいんだけどどうよ」と言ったら、「いいんじゃね? そうそうアーヴの子にめっちゃ可愛い子生まれてん。ちょい10年くらい様子見てきたって、初仕事な」と……あいつ関西弁なんだよね! 敬えねーよ!!
そんな訳で、超絶手のかかるあのクェン坊や(失笑)を何度締めたことか。あんな大人しげな美貌の癖に、人を……いや私を陥れるのが大好きなんだ! いたずらっ子ってレベルじゃないんだよ。
15くらいになるとすっかり落ち着いて、平然と「いえ、初恋の人があなただったんですよね」と言われ衝撃を受けた。
お 前 も サ ド か! と。
「で、で、ですよねえー」
私も、やりすぎたとは思う。参考にしたのが幼馴染だから! ごめん吊るしたり縛って転がしたりして、今更謝ってみる。謝りつつ本気で助けてくれ電波を送る。
「ミーナ殿が構わないのであれば、我々に否やはございません。こちらからは物資、人材の面で支援させて頂きましょう。全て終わった後には、時間を戻した上での送還の術もございます。――魔王を倒して頂けますか、勇者様」
「いいよ。……ああ、あと」
サドvsサドの会話に戦々恐々としつつ、今だ晴れない視界のまま、不穏なものを感じた。
まっ……まさか!
「終わった後は、そうだな。そのまま魔王の国貰って2人で暮らす予定だから」
「それはそれは」
それはそれはじゃねええええええええ!!
ダラダラと冷や汗を掻きながら、私は結局世のため人のために! ここ重要テストに出ます! 自分の80年弱の自由を手放したのであった! ちゃんちゃん!
――と、人生そう簡単に、いや簡単でもなんともないけどいかないもので。
翌日、事態はますますこじれる破目になった。
「えー……」
「あ、えーと、その。すまん、女と話し慣れてなくて」
「そ、そうですか」
――まさかの榮帝国中心部にある王城、榮魔殿。所謂魔王城である。
そのかなり高いところの、とてーも見晴らしのいいベランダで、私は1人の青年とお茶していた。
「改めて、自己紹介するけどな。氏原三義20歳、元大学生」
「……えー、ミーナ・ハルベルン34歳、元山田美奈16歳通算50歳、元女子高生現精霊ですが」
「あ、ジョシコーセーか。いいなあ、懐かしい……」
懐かしそうな目で見られるけど、今の私は黒髪とはいえ西洋系の顔で、どう頑張っても日本の女子高生にはなれないだろう。
露出高いし。
「……あ、分かってると思うけど一応、魔王やってます」
「あ、はい……」
なんと、日本人大学生(元)でありながら、魔王をやっているらしい。
……マジで!? と叫んでしまった私を責めないでほしい。
つい今日の朝のこと。流石に寝床までは着いてこなかったけど名残惜しそうな光輝を振り切って宛がわれた自室に戻り、今からでも逃げてやろうか世界を見捨ててと思っていたところ、不意に窓が割れた。
いや、窓っていうか壁が粉砕された。ひぎゃあああ! とか叫んだ時には既にぱくっと、大柄なドラゴンの口に咥えられて、はい、拉致られましたー!
……ええ、まだ魔力3割程度しかありませんでしたから、全く抵抗らしい抵抗も出来ず。
そして半日くらい掛けてバサバサ飛んでここですよ。
って言うかちょ、も、もしかして私囚われの姫パターン!?
いや、姫を咥えて運ぶなよ! 手荒すぎるわ!
「えーと……うーん、どこから話せばいいんだ……」
話すのが苦手そうな彼。結局一からしどろもどろに脈略無くあちこちに飛ばしつつ語ってくれた。……文系だな、そうだな? そうだそうです。理系ならもうちょい理詰めで話すよね多分。
彼はごく普通の大学生だった。過去形。
ところが実を言うと何らかの原因で先代魔王の力だけが異世界に飛ばされ、それを胎児の頃に貰ってしまったという秘めた過去を持っていた。それ元の世界で言わなくてよかったね、中二病扱いでイタい目で見られるよ。
そんなある日召喚された。ほんと突然すぎる……兎に角、学校に行こうとドアを開いた瞬間に召喚されたのだと。
そんなこんなで魔王をやらされ、大分力が育ってきてから気づいたらしい。
元の世界の人間の波動(なんだそれ)を持つ存在に。
で、ちょっと話聞きたいのはいいんだけど呼び寄せる方法もわからないしと悶々としているうちに逸った部下が「俺いってくるわ」「俺も俺も」と知らず知らずのうちに、私、どうやら魔物に狙われてたみたいだね! ひゃっほー、なんて報われない人生!
最近襲われ易いと思ったらそれでか! 本当にとばっちり人生だね!
「まあ、暫くゆっくりして行ってくれ、もてなすから。あ、俺ちょっと仕事が」
「あー……はい。頑張ってください」
すまんと言われつつ精霊用の拘束具(手錠とかじゃなくて外れないミサンガみたいなの)を付けられているから、逃げるに逃げられない。国内は危険だからとか、下手なことすると魔物がどうとかだけど、なんつーかこんな所でも拘束される運命か私は。
……運命というものを信じるのなら。
数億の人間から選ばれて召喚され、よりによって私の元にやって来たあいつの悪運に期待して、助けを待とう。うん。他力本願ばんざい。
と言う訳で、私は囚われの姫生活を送る事になったのである。
一ヶ月くらい経っただろうか。
三義……ミツさんとは中々気が合った。
まずお互いライトなオタクで、ネタが通じるという楽しさがある。というかそもそもちゃんと会話が通じるのが嬉しい。
直前まで会話のデッドボールをぶつけてくる光輝といたからか、ちゃんとキャッチボールが成り立ってとても平和だ。うん、平和。
「美奈、聞いて驚け!」
「なになに?」
「召喚術がな……向こうから物を呼び寄せる召喚術がな! 出来たんだっ!!」
そして魔王だけに魔法やら魔術が得意だ。
ちなみに魔法と魔術の違いだけど、力そのものを放出するのが魔法で、言葉や陣などで制御するのが魔術ね。魔導って単語もあるけど、これは魔力を動力とするものだとか、魔力を流すとかそういうものに使う単語で、行使する術の名称ではない。
「マジでっ!?」
「マジで!! ほらこれっ、新刊の――」
――ぞわっ
手に持っていた漫画本を放り出し、がたんとミツさんが立ち上がる。……私も転げ落ちんばかりの勢いで椅子を離れ、一瞬だけ感じたとてつもない悪寒に両手で体を抱いた。
「……悪い、俺、謁見室で待ってないと――」
ああ、ここじゃ、戦えませんしね。
わかってます。私、まあ、どっちが勝つかと言われれば確実に勇者だろうなあと思ってはいるんだけど、でも一応頑張って欲しいので、ひらひらと手を振っておいた。
情が湧いてしまったのか。
自嘲に歪む口元。ミツさんはそんな私を見て、僅かに表情を変え、そして。
「その必要は無いな」
どごん、と壁が抜けた。
ひいっと声を漏らす私。やばい、と心底思う。これはやばい。やばすぎる。何がやばいってまず攫われた時点でやばい。次に私が魔王と、男と同室に居る。はいやばい、地球滅亡来ました。じゃなくてリーベルか。最後に、どう見てもティータイムしてた痕跡。はい世界滅んだー! 滅びましたー!
「……美奈」
あれええええ、何でだろうすごく今逃げたい気分!
助けが来たのに! 何故助けが来たのに逃げたくなるんだ!
甘い声音と裏腹に一瞬で距離を詰められ、ぎりっと締め上げられて「ううぅぇぁっ」と声を上げる。いっ、いたい! ひどい! そのまま視界を覆ったマントらしき布地。と思えばその布に全身包まれてお姫様だっこの姿勢にされ、うひいと声を漏らす。情けないとか言わないで!
「やれ」
え、何? 何を?
「ひいいっ!? ちょっ、ゆ、勇者お前なんつーパーティ――」
え?
よく分かっていない私を、ぎゅうって言うかギチギチって感じで抱き締めてくる光輝に気を取られつつ、向こうで何が起きているのか把握しようとする。……え、えっと、何?
野太い、オネエ系の声が、いくつも。
そしてミツさんの悲鳴が――「ちょっ、ひいいいっ、お前らふざけっ――アッー!」……聞かなかった事にしよう。そうしよう、私の精神的な平穏のために。
「美奈」
「はひ」
「……分かってるよね?」
分かりたくないです。
一分後、見知らぬ柔らかなベッドの感触に慄きながら、心底そう思った。
「……こ、光輝」
「申し開きなら今のうちだけど、何?」
ひいいいいいい!
何か布の向こうでカチャカチャとか不穏な音が! 待て何をしている!
「用意されてた男性用勇者パーティ、実力派の美女揃いだった筈だけど……」
「役立たずだから捨ててきた。美奈以外を側に置いておく趣味もないし」
「し、趣味。あのひとたちは……?」
「神殿と各国の騎士団から連れて来た」
そしてぱさ、と音が。ひいっ、脱いでる!? 脱いでます!? ちょっ、まっ、え!?
「――あれが誰とか、そういう事には、興味ないけど、美奈」
布の中にすうっと入ってきた手が、迷い無く私の右手を取る。指と指を絡めるようにつながれた手は、あつい。
「何度も。何度も何度も、言ったよね」
五つの爪が、ぐ、と手の甲に刺さる。痛みが走り、私はぎゅうと目を瞑った。
「俺以外の男と、喋らないでよ」
ぎりぎりと、そのまま指を圧し折らんばかりに反らされる。関節への痛みが追加されて情けない声が漏れた。
「他の男を、見るな。他の男の言葉を聞くな。他の男に触れるな。……守れないなら、閉じ込めてあげようか。何も無い真っ暗なところに、美奈だけ閉じ込めて、永遠に愛でてあげようか」
す、と手が離れる。
痛みから開放されたのに、温もりが消えたことが寂しい。
「ねえ」
人型魔物の女性に借りた、儀礼用の服とあまり変わらない露出の高い服が恨めしい。
むき出しの腹を撫でていく指先。旅のせいか、少しかさついた刺激に鳥肌が立つ。
散々私を傷つけ続けながらも、彼が避けてきた行為が2つある。
唇へのキスと……えーと、その、まあはっきり言うなら性行為。
あらゆる点で強引なのに何故かそれだけはやらない。……こっちからすれば、むしろ寸止めされてるようで焦れることもあり、それもまた彼が怖いと思う一因だ。
いっそ全て奪い去ってくれたならと、何度、思ったことだろう。
だって、寸止め程度なら全く躊躇しないのだ、こいつは。唇の少し横だとか顎だとか、際どいところにはキスをするし、触るだけならどこだって躊躇無くべたべた触る。
でも、一線を越えない事に、少し安心していたのも確かで。
なのに。
「あ……え、こ、光輝」
布が取り除かれて、見えたのは白い肌。
なめらかな表皮に、無駄を省いたふつくしい筋肉が詰まっている。お前はどこのギリシャ彫刻だと言いたくなるほどイイ体だ。以前より少し逞しくなったかもしれない。
「なっ、な、何するの?」
こわい、こわい、こわい。
にこりと穏やかに微笑む表情が恐ろしい。
表情とは裏腹に煮え滾るマグマのような瞳が恐ろしい。
耳元に吹きかけられた熱い吐息が恐ろしい。
「何って、ナニかな」
「っひ」
尖った犬歯が、首筋に突き立てられる。ちくりとした痛みは徐々に強まり、じくじくと痺れるような痛みが広がる。
「飴と鞭の飴が、少なすぎたかなと思って」
「い、い、いえ結構です」
「最初は痛いし、まあ痛くするつもりでいるけど」
「せ、せめて優しくしてください」
「飴が先か鞭が先かなんて、どうでもいいよね」
「よくない! 全然よくない!」
ちょっまっ瞳孔開いてない!? てか外道! 外道すぎるわ!
光輝はゆっくりと指先で、噛んだ痕をなぞって鎖骨の方へ指を下ろしていく。
ひいいいい肩紐下ろさないでえええ!!
「これでも我慢したんだ。死姦しなかっただけ有難く思って」
「じじじじじ冗談じゃないいいい!」
「ね?」
小首を傾げるなっ! あとその顔で死姦とか言うとマジでネクロフィリアって言うかネクロマンサーっぽいから! 死霊操ってそう!
死体を嬲られるか今嬲られるかという究極の選択と見せかけて私に選択肢は無い。祭壇の羊は食べられるだけだ。ゆっくりと腹を掻っ捌いて、腸を引きずり出して、ぺろりと頂かれる訳だ。わからんが。
触れると骨ばった感触のする指が首に巻きついて、ゆるゆると締めてくる。徐々に苦しくなる喉、霞む視界、全身の変な開放感。ちょ、ま、あの、うひいっ!
光輝の、こわいところのひとつ。
殺すことを、脅しに使わないところ。
「っか、は……」
苦しい。苦しい苦しい苦しいっ、苦しい!
顔に血が集まって、あつくて、くるしくて、涙が零れる。死なないラインぎりぎりの、苦しみだけを与える行為。何が楽しいのか口元が美しく微笑んでいて、涙の滲む目で見上げると、唇が、うごめく。
お、
し、
お、
……続く言葉は“き”じゃなくて、“まなぶ”とかが良かった。
圧し掛かられてますます肺の空気が押し出される。そうしてその僅かな空気すら飲み込むように、生まれて初めての、そして彼から初めて与えられる本気のキスを頂戴した。
しぬかとおもいました。ええ、その後含め。……痛くする、の言葉は本気でした。痛かった。
丸1日後、いつの間か片付いた例のベランダで、死んだ魚のような目の私は、同じく死んだ魚のような目をしたミツさんと再会した。
いや、一言も喋らせてもらえないけどね!
腰いたいし、全身だるいし、なんか足の付け根にへんなかんじするし、唇腫れてて違和感あるし。
ああ……椅子に置かれたドーナツクッションが憎い。そして何故ミツさんの椅子にも置いてあるんだ。いや、何も言うまい、聞くまい、知りたくない絶対に。
「魔王の再教育は」
「サー・ヤシロ、第一段階を修了致しました。これより帰還し、残りを終える予定です」
おいサーって何だ。サーって!!
「分かった。こっちはゆっくり帰る。迅速に国へ戻り、成功を伝えろ」
「「「「イエス・サー!」」」」
ちょっ、怖! ムキムキマッチョ集団怖っ!
勇者って言うかなんかこう大佐とか将軍じゃないのかこの人。いや、やっぱり魔王だったんじゃないか。てか性格上はどう見てもミツさんの方が勇者向きだよ!
そしてきゃいきゃい言いながら去っていくムキムキマッチョオネエ系集団。連行されるミツさんが哀れすぎて見ていられない。ああ、不運が重なったばかりに……!
「そうだ、美奈」
しかし私の不運っぷりには敵うまい。
なんと生後すぐこいつに目を付けられ、以降ドロ沼愛憎劇を2人だけで繰り広げ、数々のバイオレンスな出来事を乗り越えたのにまさかのダークホースに殺害され、異世界で人外になり、戦争に駆り出されては必死に戦い、生き残ったかと思えばこれだ。
不運の神様に好かれてるか、幸運の神様に嫌われているのだろう。
でも多分、愛の神様には溺愛されている。
……いや、それはちょっと困るなあ……神殺しくらいやってのけるんじゃないかなこいつ。
「竜の血、知ってる? 途中で飲んだんだけどね。老化が止まるんだって」
そして、甘く優しい声音で死刑宣告のようなことを言う、私の王子様(死ぬほど笑えない。何王子だよ、魔界王子か)。
「……永遠に一緒だね」
ひーいいいいいいいい!!
……あれっ、精霊だって説明したかなー!! 誰だよ口割った奴! せめて言わなかったら80年くらいで逃げ切れたはずなのにいいいいい!!
そういう、訳で。
愛され続けて何年か。終わったかと思っていた過激な愛のチキンレース(どこまでやったら死ぬか的な意味で)は続行され、涙目になりながらも結局は縛られ続ける霊生を送る事になった私であった。
◆
無の精霊のミーナ・ハルベルンと勇者コーキ・ヤシロ。
かつての恋人の生まれ変わりと異世界で出会い、恋人のために勇者として戦う事を決意し、更に魔王に攫われた恋人を救って見事ゴールイン。
2人の恋物語は、このように後世に伝えられた。
勇者の濃すぎる愛情と、ガタガタ震えながらも受け入れる健気な精霊。そんな真実は、あまり知られていないが。
またミーナ・ハルベルンは、現在も続く“精霊屋”の店長である。
千年以上経つ現在でも、某国王都の一店舗しかないその店。精霊を貸し出すという画期的なアイデアから作られ、精霊に好かれない人間も安心して精霊と契約できるという人気店だ。
ミーナ・ハルベルン自身はコーキ・ヤシロと血の盟約を結んだため契約は出来ないが、代わりに2人への依頼は現在でも可能である。
伝説をその目で見たいのなら――伝説を目の前でぶち壊されても気にしないのなら、是非とも依頼してみるといいだろう。
ただし1つだけ、注意した方がいい。
男性客は、絶対にミーナ・ハルベルンに話しかけないこと。
……視線を送る事も遠慮した方がいい。でないと、コーキ・ヤシロに何をされるか分からない。
最後に1つ。
そんな不憫なミーナ・ハルベルンだが、女性の友人に、ぼそりと語った。
――愛し方はあれだけど、でも50年も愛されて、
――……嫌いになれる訳が無いし、って言うか。
――ま、まあ……うん、愛してるかな……? うん。
これにて、終幕。
勢いとノリだけで突っ走りました。不憫な主人公ですが、一応愛はあります。向こうの愛が強すぎて霞んでるだけです。
題名が先に思い浮かんだので、合わせてがーっといきました。
あ、でも元は「ヤンデレの幼馴染から死んでも逃げられないRPG」だった。
それもいいかもしれない。
まあ題名はヤンデレCD+なんかのキャッチコピー? 多分。
後日談 http://ncode.syosetu.com/n3599y/
番外編 http://ncode.syosetu.com/n5253y/