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神と呼ばれた獣と愉快な仲間達?

神と呼ばれた獣の嘆き

作者: 麻戸 槊來

私の処女作に興味を持っていただき、ありがとうございます。


初めての作品の上、独特の表現をしている為分かりにくいかと思います。始めから、若干マイナス的な表現があるため、そういう話が苦手な方は、ご注意ください。



どんなに努力したって報われないし、救われない。

それ所か、認められさえしない状態をあなたは知らないでしょう。どんなに頑張ったって、足掻いたってつらくなる一方で、何も現状は変わらない。むしろ、状況はどんどん悪くなるの。


―――これだけ努力して、それでも足りないとあなたは言うの?


じゃあ、どこまで。どうしたら良いというのよ。いっそ、ひと思いにここで終わらせてよ。夢をみたって、虚しいだけだと…思いたかった訳がないでしょ!?




―――口汚く、周りの彼らを罵った。

こんな珍しい銀色の髪を持っているせいで、生まれてからずっと迫害されてきた。

周囲には鳶色とびいろや黒、紺色の髪をしている人は居てもこんなにも色素が薄い人間は居ない。もともと両親も、そんなに濃い髪色をしていた訳ではないけれど、どう転んでも銀色に見えはしないのだ。



生まれてからずっと不吉だ、異質だと気味悪がられてきた。それでも両親は私を守り、愛してくれた。だからこそ、私はここまで生きることが出来たのだと思う。


…けれどそんな優しかった両親も三年前には父が、今年の冬には母が亡くなった。2人とも、私がいるせいでまともな職に就けず、割に合わない給金額である仕事を文句も言わずに勤めて、必死にして育ててくれた。

私は16になっても仕事を見つけられず、家事を全て引き受けて2人を手助けするのが精いっぱいだった。



両親がいなくなった今、私は珍しいという理由だけで、神への生け贄にされようとしている。身寄りのない私を助けてくれる人はいなかった。

むしろ厄介者でしかない私を、神への捧げものという形で追い出せるのだから、村人たちにとったら願ったり叶ったりだろう。


大して神への忠誠心などなく、ひたすら災厄などを恐れた国民。

嗚呼、もう何もかもがバカらしい。連れて行きたくば、連れて行け。


―――もう、ここにいる意味を見いだせない。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






生け贄に選ばれた娘を、ひたすら見つめる者がいた。

神と呼ばれて久しい彼は、別段生け贄などは望んでいなかった。…むしろ人間が神などと呼びだしたのは、彼の力を見た者が怖れを抱き、勝算のない戦いを挑むよりも、利用してやろうと考えたからであろう。


人間からしたら奇怪な術を操り、ときには自然災害さえも防ぐ存在は神と呼ぶのに都合がよかったのだろうと彼は考えている。

だが近頃の人間たちの行動は、目に余るものがあった。



木を伐採し、欲望のままに同胞である生き物たちの命を奪うさまに、わざわざ人間たちを助けてやろうとは思わなかった。

…大体、彼は神と呼ばれる前から、人間たちを特別助けるという事は無かった。

ただ洪水や山火事は彼にとっても厄介なため、防止していただけだ。それを、人間たちが困ったからといって、どうして手を貸してもらえると考えるのか。むしろ彼にはそれが不思議でしょうがなかった。だが、とうとう痺れを切らして人間たちは生け贄を差し出してきた。


面倒だと思うが『生け贄など必要ない』ことを伝えるため、城にわざわざ出向くと彼の瞳は一人の娘に引き付けられた。



驚く周囲には目もくれず、彼女に念話で語りかける。




『勝手な言霊を延々吐き出し、終わるは儚くもか弱き一つのたましい

 まことに不要と申すか

 どうせついえる命なれば、われに預けられたし


 君乞う言霊、聞こえはせず

 自ら、終焉しゅうえんを望む言霊にふうをせしは我

 ―――なれば、君は我の物』


念話を使った途端、気を失った彼女をそっと彼は連れ去った。






一ヵ月後。彼は一人、自身の城の上で佇んでいた。

思うのは他でもない、この屋敷に迎え入れた新しい住人のことだ。


時が経ち、我の記憶に君組み込まれ

我、存在し、初めて心が騒ぎたる

しかし…。


――――どの様に優しくあつかいても

君、我を見ず


視線をわせど

真実、見つめ合う事はなし


それ程、気に入らなくば

何故、求めに応じた


必要としたは、人形にんぎょうではなく

必要とされたくは、あるじとしてでもなく


泣くなら癒しを与うる事もでき

しかし、君は涙せず

笑うなら共に笑む事もでき

しかし、君の頬は動きもせず


彼が当初に求めたような笑顔を見ることは、いまだ叶っていない。

想像通りに事が進まない苛立ちに、思わず低く唸り声をあげる。


何故だ何故だ何故だ何故だ


愛しきは君の笑顔なり

喜びは君の感情なり

嬉しきは君の反応なり


君、我が好いたものに戻り賜え

君、願わくば我を、愛し賜え



声に出せない感情を抱え、彼はひとり咆哮した。






✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾  ✾






彼に対して、少女の憂いは、差別や死の恐怖から逃れてもなお続いていた。


どうして、こんな私が選ばれたのか分からない。誰からも必要とされず、死すらも覚悟していた私の前に気高き、孤高の獣が現れた。


―――ただ、生け贄として死に逝くだけだと考えていた私は、その知的な瞳を見て、彼ならばもう一度信じてみたいと感じた。




神と呼ばれる彼の城へ連れてこられた時、まずはその標高の高さに驚いた。

人間はおろか、鳥ですら城へ訪問することは困難であろう。

といっても、彼に会ってから直ぐに気を失ったため、どうやってここまで移動したのかは分からなかった。こんな場所まで普通に移動し、生活できるのだから、神と呼ばれる彼の力は計り知れない。


大きな城ではあったが、ここで生活しているのは彼だけのようで。人間はおろか、生物がほとんどいなかった。それにもかかわらず、何処にも汚れや荒れた様子など見られなかったのは、神のせる技なのだろう。




彼は狼の姿をしてはいるが、馬ほどの身丈があり、不思議な術を操っていた。

そのため誰もいなくても、自分の世話だけをできれば、何の問題もなかった。

なぜか、食材は常に豊富に揃っていたし。彼と一緒にいる時に突然、触れてもないのに物が動いたことには驚いたが、白銀の体に赤い瞳の彼が、火を出したり、水を自在にあつかう姿は神秘的だった。


…けれど共に生活するうちに、私が彼にとって、つまらない存在であろう事に絶望した。


――――こんなにも必要とされたいと感じたのは初めてで。

戸惑うばかりで、どうすればいいのかが分からないでいた。





そんな事ばかりを考えていた私の耳に、彼の城に来て初めて心地よい声が届いた。


「我、君を支配することなく、君に寄り添いし者なり。

 怯えは不信を抱き、拒絶は悲しみを生む。

 我の望みし人間は、君のみなり

 願わくは永久とわともにあれ、望みたるは君の笑顔也」


突然、鼓膜を震わせた音に、驚きを隠せなかった。

眼を見開いて驚く私に、慣れ親しんだこの獣は何処か満足そうに目を細めた。


――――何なんだ、この美しい獣は。


この獣は…いや、彼は実は話せたというのか。

しかも、最初に話しかけられた言葉が、愛の告白めいたものとはどういう事なのだろうか。


「――――もともと会話できるのに、話さなかったんですか?」


他に言う事があるだろうとは思ったが、何はともあれ今はそこが一番気になった。

一か月以上ともに過ごしていたのに、一度も話しかけてくれないとはどういうことなのだろうか。


「否、君に出逢いし時、我の言霊は無く。

 念話、君の体力を奪いし忌々しき物」


「いくら体力を奪われるといっても、一度くらい状況を説明してくれてもいいじゃない」


口調がだいぶ砕けてしまったが、知ったことか。

実は出会った時には彼の言葉が聞こえた気がしたのに、その後一度も聞こえず落ち込んでいたのだ。あの時は必要としてくれた気がしたけれど、本当はしょうがなく面倒をみてくれているのではないかと、だいぶ疑ってもいた。だからこそ……どうしても文句を言わずにはいられない。



「君、我の念を受けし時、三つの晩を経て漸くまなこを開きたり。

 我、それに恐怖を覚え、ならば二度は無いと誓いたる」


「じゃあ、何故いきなり話せるようになったの?」



矢継ぎ早に聞いたら失礼かとも感じたが、神は気にしていないのだからいいだろう。それよりも何故か、別段変ったことは質問してないはずなのに彼は目線をそらした。

顔をそらさず目だけをそらしているというのは、絶対に聞いてはいけないことでは

ないのであろう。さすがに一か月ともに生活していれば、大まかな事は分かるようになっていた。


ただ、どこか気まずそうにみえるのは、どうしてだろう。


「…我、君の言霊恋しく思い。

 我、君の反応に喜びをたる。

 夢見るは本来の君なり。

 故に我、毎夜言霊を学びたる。

 我に問う君、いと嬉し」


……え。ということは、私の反応を得られないのが淋しくて、毎晩話す練習をしていたということ…??



「君の声、我の耳に心地よく。

 君、自らの中に閉じこもるは、我、辛き事なり。

 ―――願わくはヒトの様に話したく、はやる気持ちを抑え言霊を必死に学びたる。

 なれど、君いなくば意味をず。君、我の元を離れること無かれ」



嗚呼、悲しそうな眼差しに、どこか困ったような八の字眉。

しまいに耳を垂らしてしまった姿は、飼い主に怒られた犬のよう…。


いや、落ち着け自分!!

目の前にいるのは、私より遥かに大きな体の神と崇められている狼のはずだ。飼い犬のように扱うなど許されない、尊い存在なのだ。いくら動物が好きだからって、彼は格が違いすぎる…。


「こ、これから会話をしてくれるのなら、ここにいます」


――――やっちまったよ、この女。つい安心させるように首元を撫でたら、嬉しそうに目を細め、しっぽを振るものだから。


…そうだ、きっと私のせいではないはずだ。

その後、寝転がった彼の体を思いっきり撫でまわし、もふもふに包まれたのも。神であるにもかかわらず、こんなに可愛い彼が悪い。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

狼が誰と言葉の練習をしていたかなど、サイドストーリー的なものを投稿しておりますので、宜しければそちらもお付き合い頂ければ嬉しいです。


ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

また目にとめてもらえるよう精進しますので、よろしくお願いします。

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