サックス・ブルーといちご色の夏
武 頼庵さまの『みずに纏わる物語企画』に参加しています。
「あ〜 暑い……っ!」
待ち合わせの場所から見える遊歩道は、真夏の日差しに焼かれて白く揺れている。うーん、ちょっと日陰から出たくない。
「ごめん夏帆、待った?」
名前を呼ばれて振り返ると、颯真が額に汗を浮かべながら笑っていた。
「全然。私も今来たところ」
そんな、誰もが一度は使う嘘を口にしてしまった。本当は十五分も前から来ていたんだけどね。
だって会う前って時間が必要じゃない?鏡を見て前髪を整えて、リップを塗り直して、服のしわを伸ばして……することいっぱい、でしょ?
それに今日は、ちょっと気合いを入れてみたんだ。去年、颯真が付き合う前に何気なく言った「お前って青、似合うよな」の一言。私は忘れていなーい!
というわけで私が選んだのは、夏空みたいなサックス・ブルーのワンピース。それに合うオフホワイトのサンダルと、編み込みバックも新調した!
……んだけどね。今んとこ、颯真は何も、何ひとっつも服の事に触れてこないんだ。頑張って爽やか夏コーデしてきたんだから、なんかこう、ないのー?
(アーケード街を歩くこと30分経過)
あ~そうですか…………仕方ない。作戦Bだ。
「ねえ?あそこのカフェ入ろうよ」
「良いね。俺かき氷食いたいわ」
オープンテラスには大きな白いパラソルが並んでいる。テラスへの窓が開いているから、適度に冷気が来てちょうど良い感じ………でも冷房代、大丈夫なんだろか?ま、いいか。ほい、メニュー。
「かき氷あるよ」
「じゃあ、どれにしようかな」
いちご。 メロン。レモン。 マンゴー。ブルーハワイ………抹茶………抹茶ねえ……うーん。
本当は抹茶が好きなんだけど、でも今日は違う。サックス・ブルーの服には、きっといちごのピンクが似合うはずだ。
写真を撮ったときの『映え』だって、絶対にいちごピンクの方が可愛いそれに……舌が緑になるのが、ちょっと嫌。
いやさー。口開けた時に、舌がくすんだ緑色だと、可愛くないじゃない?それに私の前に置かれた時の色のバランス。ブルーに白い氷といちごのピンクって、完璧な組み合わせじゃない?やっぱいちご一択っしょ!
「私はいちご」
「じゃあ俺、抹茶」
「え?」
思わず颯真をにらむ。
「どうした?」
「ううん、なんでも」
えー………そんなせっかく我慢したのに。
「颯真のおバカ」
「いきなりヒドくない?」
一学期の成績表の事や、夏休みの部活の予定とかを話していると、ふわふわの氷が運ばれて来た。
「よし溶けちまう前に食べようぜ」
「うん。いただきまーす」
私はピンク色の氷を白い練乳と一緒にすくって一口食べる。
冷たい。
甘い。
夏の暑さが、一瞬だけ溶けていく。
颯真は抹茶を頬張りながら、「うまっ」と子どもみたいな顔をして氷をパクパク食べている。あ、そんな食べ方すると……!
「!イタタタ!う〜来たぁぁ!」
「もー、何やってんのよ……」
言わんこっちゃない。
でも頭を抱えて苦しんでる颯真を笑いながら、私は別の事を考えてた。
(気付いてないんだろうな)
この服も。
髪を少し切ったことも。
イヤリングを新しくしたことも。
今日のネイルも。
全部、颯真のためなのにな。
「いてて………あれ?どしたそんな顔して」
「んーん、なんにも?」
「そうか?………あ、わかった。抹茶も食いたくなったんだろ?」
「へ?いや違っ」
そうだけど、そうじゃない!
「ほい、あ〜ん」
「うぐっ………あ、あ〜ん」
あ~んって!
嬉しいけど!
でもプランが!緑が!
どうしてくれるのよ!?
えーい、こうなりゃ大量のいちごかき氷で上塗りしてや……あいたたた!?
「ほら急いで食べるからそうなるんだぞ?」
颯真に言われたくなーい!
「ね、写真撮ろう?」
「良いね」
撮れた写真を見る。
サックス・ブルーの服。
ピンクのかき氷。
白いパラソル。
真っ青な空。
我ながら悪くない写真が撮れた。でも、「可愛い」って言ってほしい人は、まだ何も言わない。「ドレープ感が良いね」とか、そんなのまで望んでない。たった一言、欲しいだけなんだけどなぁ。
こうなったら………
「ねえ?」
「ん?」
「私、今日いつもと違うところない?」
「え?」
颯真は真剣な顔で私を見始めた。
「髪?」
「違う」
「イヤリング?」
「違う」
「え、もしかして日焼け止め変えた?」
「違ーう!」
それ見て分かる?
他に気付くとこあるでしょ?
「難しすぎるってよ」
困ったように頭をかく颯真。本当に、この人は鈍い。
「もういいよ。次のとこ行こう」
「あ、おい」
私はテーブルの上にあった伝票を持って立ち上がった。あ~あ。自信なくすなあ。
アーケードから出て日傘をさすと、颯真が持ってくれた。一緒に入るから、自然と二人の距離が近くなる。
「もうちょい中に入らないと」
そう言って颯真が肩を引き寄せてきた。
一瞬、その仕草にドキリとする。
嬉しい、けど……
「もう!」
「?」
「何にも気付いてくれない!」
「え?」
私はべーっといちごシロップでほんのり染まったピンク色の舌を出した。
「これだけ頑張ったのにー!」
そう言いながら、颯真の肘を軽くつねる。
「いてっ!?なんだよ急に」
「秘密!当ててみてよ」
私はすねたフリをしながら日傘から出て歩き出した。
「夏帆」
「なによ」
「あ~……あのさ」
「ん?」
「その水色の服、すごく似合ってる。最初から、そう思ってたんだ」
私は思わず立ち止まって振り向く。
「あと」
颯真は照れくさそうに目をそらす。
「今日、いつもより可愛い……と思う、よ」
「…………!」
その一言だけで。暑さも。蝉の声も。溶けかけたかき氷も。全部が夏の思い出になった。
私はもう一度だけ、ピンク色の舌をぺろっと出して笑う。
「ふ~ん?」
「何だよ?」
「ふふっ。な〜んでも?」
今度は「あっかんべー」じゃない。
嬉しくて、照れ隠しをしただけだ。
私は颯真の横に戻り、さっきより少しだけ強く颯真の腕に自分の両手を絡めて、顔を押し付けた。そうしないと、いちご色になってニヤけた顔を見られてしまいそうだったから。
「……そう思ってたんなら早く言ってよね」
「いや、その……ごめん。じゃあ、お詫び」
「え?」
日傘が深く被される。
「ちょっ……!」
その瞬間、いちご味に抹茶の風味がプラスされた。
「………!」
「抹茶も食べたかったんだろ?」
いたずらっ子ぽく笑う颯真に、私の顔は完全にいちご色になってしまった。
もー!
ばかやろー……!
私の顔色で夏コーデ完成させてどーすんのよー!




