表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

物語集

サックス・ブルーといちご色の夏

作者: 辻堂安古市
掲載日:2026/07/18



武 頼庵さまの『みずに纏わる物語企画』に参加しています。








「あ〜 暑い……っ!」


 待ち合わせの場所から見える遊歩道は、真夏の日差しに焼かれて白く揺れている。うーん、ちょっと日陰から出たくない。


「ごめん夏帆、待った?」


 名前を呼ばれて振り返ると、颯真が額に汗を浮かべながら笑っていた。


「全然。私も今来たところ」


 そんな、誰もが一度は使う嘘を口にしてしまった。本当は十五分も前から来ていたんだけどね。


 だって会う前って時間が必要じゃない?鏡を見て前髪を整えて、リップを塗り直して、服のしわを伸ばして……することいっぱい、でしょ?


 それに今日は、ちょっと気合いを入れてみたんだ。去年、颯真が付き合う前に何気なく言った「お前って青、似合うよな」の一言。私は忘れていなーい!


 というわけで私が選んだのは、夏空みたいなサックス・ブルーのワンピース。それに合うオフホワイトのサンダルと、編み込みバックも新調した!




 ……んだけどね。今んとこ、颯真は何も、何ひとっつも服の事に触れてこないんだ。頑張って爽やか夏コーデしてきたんだから、なんかこう、ないのー?



(アーケード街を歩くこと30分経過)



 あ~そうですか…………仕方ない。作戦Bだ。



「ねえ?あそこのカフェ入ろうよ」


「良いね。俺かき氷食いたいわ」



 オープンテラスには大きな白いパラソルが並んでいる。テラスへの窓が開いているから、適度に冷気が来てちょうど良い感じ………でも冷房代、大丈夫なんだろか?ま、いいか。ほい、メニュー。


「かき氷あるよ」

「じゃあ、どれにしようかな」


 いちご。 メロン。レモン。 マンゴー。ブルーハワイ………抹茶………抹茶ねえ……うーん。


 本当は抹茶が好きなんだけど、でも今日は違う。サックス・ブルーの服には、きっといちごのピンクが似合うはずだ。


 写真を撮ったときの『映え』だって、絶対にいちごピンクの方が可愛いそれに……舌が緑になるのが、ちょっと嫌。


 いやさー。口開けた時に、舌がくすんだ緑色だと、可愛くないじゃない?それに私の前に置かれた時の色のバランス。ブルーに白い氷といちごのピンクって、完璧な組み合わせじゃない?やっぱいちご一択っしょ!


「私はいちご」

「じゃあ俺、抹茶」

「え?」


 思わず颯真をにらむ。


「どうした?」

「ううん、なんでも」


 えー………そんなせっかく我慢したのに。


「颯真のおバカ」

「いきなりヒドくない?」





 一学期の成績表の事や、夏休みの部活の予定とかを話していると、ふわふわの氷が運ばれて来た。


「よし溶けちまう前に食べようぜ」

「うん。いただきまーす」


 私はピンク色の氷を白い練乳と一緒にすくって一口食べる。


 冷たい。

 甘い。

 夏の暑さが、一瞬だけ溶けていく。


 颯真は抹茶を頬張りながら、「うまっ」と子どもみたいな顔をして氷をパクパク食べている。あ、そんな食べ方すると……!


「!イタタタ!う〜来たぁぁ!」

「もー、何やってんのよ……」


 言わんこっちゃない。

 でも頭を抱えて苦しんでる颯真を笑いながら、私は別の事を考えてた。


(気付いてないんだろうな)


 この服も。

 髪を少し切ったことも。

 イヤリングを新しくしたことも。

 今日のネイルも。

 全部、颯真のためなのにな。


「いてて………あれ?どしたそんな顔して」

「んーん、なんにも?」

「そうか?………あ、わかった。抹茶も食いたくなったんだろ?」

「へ?いや違っ」


 そうだけど、そうじゃない!


「ほい、あ〜ん」

「うぐっ………あ、あ〜ん」


 あ~んって!

 嬉しいけど!

 でもプランが!緑が!

 どうしてくれるのよ!?


 えーい、こうなりゃ大量のいちごかき氷で上塗りしてや……あいたたた!?


「ほら急いで食べるからそうなるんだぞ?」


 颯真に言われたくなーい!





「ね、写真撮ろう?」

「良いね」


 撮れた写真を見る。


 サックス・ブルーの服。

 ピンクのかき氷。

 白いパラソル。

 真っ青な空。


 我ながら悪くない写真が撮れた。でも、「可愛い」って言ってほしい人は、まだ何も言わない。「ドレープ感が良いね」とか、そんなのまで望んでない。たった一言、欲しいだけなんだけどなぁ。


 こうなったら………


「ねえ?」

「ん?」

「私、今日いつもと違うところない?」

「え?」


 颯真は真剣な顔で私を見始めた。


「髪?」

「違う」

「イヤリング?」

「違う」

「え、もしかして日焼け止め変えた?」

「違ーう!」


 それ見て分かる?

 他に気付くとこあるでしょ?


「難しすぎるってよ」


 困ったように頭をかく颯真。本当に、この人は鈍い。


「もういいよ。次のとこ行こう」

「あ、おい」


 私はテーブルの上にあった伝票を持って立ち上がった。あ~あ。自信なくすなあ。






 アーケードから出て日傘をさすと、颯真が持ってくれた。一緒に入るから、自然と二人の距離が近くなる。


「もうちょい中に入らないと」


 そう言って颯真が肩を引き寄せてきた。

 一瞬、その仕草にドキリとする。

 嬉しい、けど……


「もう!」

「?」

「何にも気付いてくれない!」

「え?」


 私はべーっといちごシロップでほんのり染まったピンク色の舌を出した。


「これだけ頑張ったのにー!」


 そう言いながら、颯真の肘を軽くつねる。


「いてっ!?なんだよ急に」

「秘密!当ててみてよ」


 私はすねたフリをしながら日傘から出て歩き出した。


「夏帆」

「なによ」

「あ~……あのさ」

「ん?」

「その水色の服、すごく似合ってる。最初から、そう思ってたんだ」


 私は思わず立ち止まって振り向く。


「あと」


 颯真は照れくさそうに目をそらす。


「今日、いつもより可愛い……と思う、よ」

「…………!」


 その一言だけで。暑さも。蝉の声も。溶けかけたかき氷も。全部が夏の思い出になった。


 私はもう一度だけ、ピンク色の舌をぺろっと出して笑う。


「ふ~ん?」

「何だよ?」

「ふふっ。な〜んでも?」


 今度は「あっかんべー」じゃない。

 嬉しくて、照れ隠しをしただけだ。


 私は颯真の横に戻り、さっきより少しだけ強く颯真の腕に自分の両手を絡めて、顔を押し付けた。そうしないと、いちご色になってニヤけた顔を見られてしまいそうだったから。


「……そう思ってたんなら早く言ってよね」

「いや、その……ごめん。じゃあ、お詫び」

「え?」


 日傘が深く被される。


「ちょっ……!」


 その瞬間、いちご味に抹茶の風味がプラスされた。


「………!」

「抹茶も食べたかったんだろ?」


 いたずらっ子ぽく笑う颯真に、私の顔は完全にいちご色になってしまった。


 もー!

 ばかやろー……!

 

 私の顔色で夏コーデ完成させてどーすんのよー!












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ただただ幸せなイチャコラを見せて頂き、大変嬉しく感じております(๑>◡<๑)こんなん、いいですよね〜。 美味しそうだったり、彩りの鮮やかさが場面を際立たせますね。 こんな彼女いてくれたら、幸せでしょう…
夏という今の季節にピッタリな爽やかなお話ですね。 私も久々にかき氷が食べたくなりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ