血の王、現世に降り立つ
都市の夜は冷たく、濡れたアスファルトに街灯の光が反射していた。
御影一二六は、背中の湾曲も、片脚の長短も、まるで自らの権威を示す装飾のように感じながら、静かに歩いた。
「今宵、血の秩序を再び表に示す時が来た」
声は出さない。心の中の言葉だけで、体の一つ一つが命令に従う。
長年にわたり、戦前から江戸期まで受け継がれた血統の哲学が、指先の微細な震え、呼吸のリズム、歩調の一つに至るまで、彼の身体を支配していた。
御影は、公安の存在を知っていた。
現代の公安は、古文書を発見したことで、真統一族の存在を突き止め始めている。
だが、彼らはまだ、血の秩序の全貌を理解していない。
「知ることと、理解することは違う。
彼らはまだ、この血の深みを知らぬ」
御影はビルの影に身を潜め、監視カメラと公安の動きを観察した。
動線を分析する。夜の風景の中、街灯に映る影の形まで読み取る。
全ては策略の一環だ。血の秩序は、見えないところで支配される。
そして、公安チームの一人が書庫の古文書に気付いた瞬間、
御影は静かに歩を進める。
彼らには見えない通路を通り、建物の影から影へと移動する。
彼の身体の奇形は、闇に紛れるための“武器”でもある。
一見不安定な歩行も、実は緻密な戦術の一部だ。
「これより、血の王座を示す」
御影は、公安の最前線を見据え、心理戦を開始する。
書類の盗難、情報の偽装、古文書の流布――
全ては、公安の思考を誘導し、混乱させるためだ。
彼の奇形は、恐怖ではなく策略の象徴であり、血統哲学そのものだ。
歩みを止め、彼は闇の中で立ち止まる。
公安の無線機の音が微かに聞こえる。
心拍を整え、筋肉の微細な動きで相手の位置を把握する。
「血の秩序は、誰も壊せぬ。
だが、この現世で再確認せねばならぬ」
御影の指先が微かに震え、夜風が身体を撫でる。
全身に宿る血の感覚が、次なる一手を告げる。
彼は、公安に捕捉されることを恐れない。
恐れるべきは、血の秩序に背く自らの思考だけだ。
そして、街の闇に溶け込みながら、御影一二六は現代に動き出した。
その目は冷たく澄み渡り、血の哲学を宿した玉座の王として、
公安と世界の秩序に挑む準備を完璧に整えていた。




