公安の視線 ― 血の連鎖を追え
久世 恒一(警視庁公安部・特別事案担当)は、古い書庫の埃をかき分けていた。
戦前の史料を整理する任務だったが、目の前の資料には、不自然な痕跡が残されていた。
白紙の帳面に、赤い朱書きで書かれた家名。
「御影」。
それは、戦前の公文書には一度も登場しないはずの名前だった。
さらにページをめくると、江戸期の古文書が現れた。
密封された封筒には、「一族内秘事」と記され、墨で強く押印されている。
久世は息を飲む。
文体は古文調、公文書風でありながら、明らかに血と近親婚の記録を示唆していた。
「兄弟姪甥間ノ結合ヲ以テ、血ヲ深クシ正統ヲ保ツ」
「弱キ者及ビ歪ミ過剰ナ者ハ、別室ニ隔離シ、血ノ淘汰ニ従フ」
「奇形、歪曲、衰弱は辱シメニ非ズ、血ノ純化ヲ示ス徴ト看做ス」
文字が生々しく脳裏に響く。
これは、単なる民間の儀式ではない。
国家公文書に密かに記録されるほど、存在が認知され、しかし黙殺された血統だ。
久世はページを繰りながら、背筋が寒くなった。
戦前から、御影一族は血を軸に国家の目を潜り抜けて存在していた。
そして今、その血統は第126代に達している。
「まさか……現代まで……」
古文書には、産室での選別儀式、淘汰の方法、身体の歪みが正統性の証明であることまで、詳細に記録されていた。
まるで、血の哲学が書面に刻まれ、時間を越えて生きているかのようだった。
久世はその瞬間、確信した。
これは単なる歴史資料ではない。
現代においても、誰かがその血統を守り、儀式を継承している。
戦前資料、江戸期密書、産婆の記録――
全てが繋がるとき、公安は初めて真統一族の存在と、その血の哲学の恐ろしさに直面する。
「俺たちは、何を見つけてしまったんだ……」
書庫の闇の中、赤い朱印と古文書の墨の匂いが、
静かに、しかし確実に、血の支配を現代に呼び覚ましていた。




