血の審判 ― 儀式現場の対決
廃工場の奥。
鉄の匂い、湿った土、血の濃い匂いが漂う空間。
公安チームは慎重に進む。
赤外線カメラに映る微かな動き。
壁に貼られた古い図面。
それが、御影一二六の潜伏施設――そして、儀式場であることを告げていた。
「ここか……」久世の声は低い。
隊員たちは全員、緊張で肩を震わせる。
今夜、彼らは歴史の闇に触れるのだ。
奥の扉が重く開かれる。
薄暗い光の中、白木の台に赤子が置かれ、身体検分が行われている。
産婆の手が微かに動き、記録係が墨で数字を走らせる。
その中心に立つのは、御影一二六。
背中の湾曲、長短不揃いの脚、浮き出る血管――
全てが圧倒的な存在感を放つ。
まさに血の王座そのものだ。
御影は静かに振り返る。
その目は冷たく澄み渡り、赤子の鼓動を感じ取るような鋭さで公安を射抜く。
「……来たか」
低く、しかし力強い声。
「血の秩序を乱す者は、誰一人として許さぬ」
久世は拳を握る。
「止まれ! これ以上の行為は違法だ! 名を名乗れ!」
御影は微笑む。
「名は、血が決める」
指先が赤子の胸に触れ、鼓動を確かめる。
「速すぎず、遅すぎず……生き残る者よ、血を濃くせよ」
公安が前進する。
だが御影は赤子の周囲の動線を熟知している。
壁の影、床の段差、白木の台の位置――
全てが心理戦の舞台だ。
彼の奇形の身体は、不安定ではなく、戦術を宿す武器である。
隊員の一人が声を上げる。
「動くな! 手を上げろ!」
御影はゆっくりと歩を進める。
微かに揺れる背中、片脚を踏み替えるたびに、公安の集中力が乱れる。
「血の淘汰を見誤る者は、己の命も見誤る」
御影の声は、理屈ではなく血そのものが発する命令のようだ。
久世は判断する。
「赤子を守れ! 儀式を止める! だが……奴を捕まえることは不可能かもしれない……」
御影は一歩踏み出し、台の赤子を抱き上げる。
その瞬間、公安の光線センサーが反応する。
だが、御影は微細な動きで光を避け、赤子を守る。
心理戦と身体操作の極致である。
「我が血の秩序を乱す者は、誰一人許さぬ」
御影は呟き、静かに後退する。
雨の音と血の匂いの中で、公安チームは彼の存在感に圧倒され、行動が鈍る。
夜は深く、雨は止まない。
赤子の鼓動は、血の秩序を物語り、
御影一二六の身体は、玉座の象徴として、現代法すら無力化する。
公安は今、初めて理解する。
血の哲学は理論でも法律でもなく、身体と心理で現実を支配するということを。
そして御影は、静かに闇の中に姿を消した。
だがその後ろ姿には、確実に血の王座が次代に続く予感が漂っていた。




