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一二六の血脈――玉座は肉体に宿る  作者: キロヒカ.オツマ―


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1/16

選ばれる肉体

産声は、祝福ではなかった。


それは合否を告げる合図にすぎない。


土間に近い産室は、湿った土と鉄の匂いが混じっていた。

消毒薬の匂いではない。ここでは、清潔さよりも血の濃度が尊ばれる。


女は声を上げなかった。

上げることを許されていなかった。


彼女の腹から引きずり出されるように現れた肉体を、

産婆は一瞬だけ宙に掲げ、

泣き声の質、肺の強さ、声帯の震えを聞き分ける。


「……息は、通っている」


その言葉に、誰も安堵しない。

ここからが始まりだからだ。


赤子は、すぐに白木の台へ置かれた。

布はかけられない。

隠す理由がない。


皮膚の色。

骨格の歪み。

左右の非対称。

四肢の長さ。

指の数。


記録係の男が、墨を含ませた筆を走らせる。


「鎖骨、左右差あり」

「右足短縮、約一寸」

「耳介形成不全、軽度」


それらは欠陥ではない。

**“反応”**だ。


血が、どれほど濃くなったか。

外の世界をどれほど拒絶したか。

その結果が、肉体に刻まれている。


産婆は、赤子の脚を静かに開いた。

性別を確認するためではない。

骨盤の形、関節の可動域、

将来「儀式に耐えられるか」を測るためだ。


泣き声が一段高くなる。


「……弱くはない」


それは、合格でも称賛でもない。

ただの暫定評価だった。


奥から、杖の音が響く。


石を削った床を、ゆっくりと進むその音に、

室内の全員が視線を伏せた。


来た。


当主――

真統一二六代。


その身体は、明らかに不完全だった。

背骨は湾曲し、

片脚は引きずるように床を擦る。

皮膚は薄く、血管が地図のように浮いている。


だが、その目だけは異様に澄んでいた。


当主は、赤子を見下ろす。


「……よく、混じらなかったな」


誰ともなく、息を呑む音がした。


当主は続ける。


「この歪みは、外の血ではない。

 我ら自身が、我らを深く掘り下げた証だ」


そう言って、細い指で赤子の胸に触れる。

心臓の鼓動を、確かめるように。


「速い。

 恐怖ではない。

 ……生存本能だ」


当主は、かすかに笑った。


「残す」


その一言で、運命が決まった。


女は、その言葉を聞いても泣かなかった。

喜びでも、悲しみでもない。

任務が完了しただけだからだ。


赤子は、白木の台から下ろされ、

次代候補として、番号を与えられる。


名は、まだ与えられない。


名は、

完全に“選ばれた”身体だけが持つものだった。


その夜、記録庫に一行が追記される。


――

本日、一二六代系譜に連なる新生体を確認。

外部混血反応なし。

歪曲は許容範囲。

生存観察対象として保留。


血は、なお続く。

――


地上では、誰も知らない。


この国のどこかで、

「象徴となる資格」を、

制度ではなく肉体で測る儀式が、

今も静かに続いていることを。

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