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川で溺死

俺は授業を受けながら、弥生ちゃんを救う手をずっと考えていた。

昨日はあのトラックにひかれなかったら、弥生ちゃんが亡くなることはない。

と思っていた。

しかし、違う道を通ったら、鉄骨が落ちてきた。

という事は、

また違う道を通ってもらうか。

引き留めて、時間をずらすか。

そういう方法がベストだろう。

では、どうすれば、それが可能か?


昨日は、帰宅時間に見計らって声をかけて成功した。

今日も同じ戦法で行こう。


……


当日、俺は校門の辺りに隠れて、弥生ちゃんが通りすぎるの待つ。

弥生ちゃんが来た。

友達と一緒だ。

俺は30mほど離れ尾行する。

300mほど進み、弥生ちゃんは友達と別れた。

このルートは、あの本屋へ向かうコースだ。


よし近づこう。

弥生ちゃんと目が合う。

「あっ高元君。こっちなんだ」

と弥生ちゃんは言った。


「そう。今日はね。街の本屋に行こうかなって思って。あっうちは向こうね」

と俺は言った。


「そうなんだ。私もそっち方面だから、途中まで一緒に帰ろ」

と弥生ちゃんは言った。


「うん。そうしよう」

と俺は言った。


「昨日の朝も小説読んでって言ってたけど、本が好きなの?」

と弥生ちゃんは言った。


そうそうこの展開。


「俺小説が好きなんだ。 特にラノベとか」

と俺は言った。


「ラノベ。私も好きだよ。小説投稿サイトとかよく見るし」

と弥生ちゃんは言った。


うわ。ここで距離が一気に縮まる。


「俺も小説投稿サイトはよく見る」

と俺は言った。


「俺はちょっと変わった作品ばかり書く人なんだけど、SCと言う小説家が好きなんだ」

と俺は言った。


どう。来るやっぱり来る。


「SCって、あの汚部屋転生とか、お笑い芸人の転生とか、老兵300人で1万の軍隊相手に戦うとか、無茶な設定が好きな作家さん?」

と弥生ちゃんは言った。


よし、来た。


「そうそう。無茶な設定で、転生チートとか絶対にしてくれない塩対応の神様がよく出る作家さん」

と俺は言った。


「あの人の作品、ほんとオカシイよね。なんか常に予想を裏切るというか、予想を裏切るのが当たり前的な」

と弥生ちゃんは言った。


「結構読んでるの?」

と俺は言った。

知ってるんだけどね。


「投稿サイトに出てるのは全部読んだ」

と弥生ちゃんは言った。


「俺、紙版もコンプリートしてるよ。まだだったら今度貸そうか?」

と俺は言った。


「めっちゃウレシイ。絶対だよ」

と弥生ちゃんは言った。


よし成功。


「今日新刊が出るんだ」

と俺は言った。


「いいな」

と弥生ちゃんは羨ましそうに言った。


「見終わったら貸すよ」

と俺は快諾した。


「約束だよ」

と弥生ちゃんは笑顔で言った。


これで関係性は完璧と。

あとは回避だなぁ。

でも、3度目の正直。

今回はいける気がする。


そろそろあのトラックとあの工事現場のところだ。

ここら辺で、5分くらい時間を引き伸ばそう。


「そうだ。弥生ちゃん。元気印のおしるこ好きじゃなかった?」

と俺は言った。


「よく覚えてたね。好きだよ」

と弥生ちゃんは笑顔で言った。


「今日、父さんが俺の話にウケて500円くれたんだ。あそこにおしるこ売ってるから、おごるから、5分だけ、あの橋のところで話そうよ。SCの話少しだけしたいから」

と俺は言った。


「わかった。じゃあ行こう」

と弥生ちゃんは言った。


よし5分もあれば、回避できる。

これで終わりだ。


俺は橋の近くにある自動販売機でおしるこを二つ購入する。

橋の中央のベンチのところまで歩き、ベンチに座る。

二人はおしるこを振り、蓋を開ける。

(ぷしゅ)

甘いな。そう思っていると、弥生ちゃんが苦戦している。


「貸して、開けるよ」

と俺はいう。


弥生ちゃんは俺におしるこを渡す。

「ありがとう」


(ぷしゅ)

「あっ、ちょっとこぼれた。ごめん少しこぼしちゃった」

と俺は言った。


「ちょっと待って、ティッシュ取るから」

と弥生ちゃんは言った。


弥生ちゃんがカバンから、ティッシュを取り出した瞬間、

風がびゅっと吹いて、カバンの中からハンカチが舞った。


「ダメ。それお母さんの形見なんだから」

と弥生ちゃんはハンカチを追いかける。


そしてハンカチを取ろうと、欄干に手を伸ばした瞬間。

(ばりばりばり どーん)


「きゃー」

欄干は崩落し、弥生ちゃんはそのまま落下していった。


「弥生ちゃん」

俺は叫ぶ。

俺は欄干の近くにかけより、慎重に下を見る。

橋の下のコンクリート部分には血痕が残り、

体を打ち付けられた弥生ちゃんは、そのまま沈んでいった。


近くにいた通行人は驚いていた。

俺は救急車に電話をする。

俺はその時まで、絶望という言葉は、努力しなかったものの戯言だと思っていた。

しかし、

トラック事故、

鉄骨の落下による事故、

欄干の崩落による事故、

これらの事故を目の前にすると、本当に絶望という瞬間はあるのだと思った。

そして、努力しなかったものの戯言だと、心の中で切って捨てた俺に無性に腹がたった。

今の俺が、その絶望状態だからだ。

ひどく孤独に感じる。

社会からつまはじきにされた気がする。

お前の努力なんてと、切って捨てられた気がする。


少女一人の命も救えないなんて、

いや……

そもそも、俺は人を救えるような器じゃないんじゃないか。

それなのに、何度も救おうとして、そのたびに、何度も彼女に苦痛を与えているのではないか?

運命になんてあらがえないのではないか。

あぁもうやめよう。

諦めよう。

髪喰いさま。俺は諦めるよ。

だってムリだもの。


(ピロピロ)

弥生ちゃんのカバンから音がする。

ちらっと見ると、スマホの画面に通知が表示されていた。


ニコハチ弁当店長

「今日のバイトいつもの時間で大丈夫だから」


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