5 なんか気持ち悪いな
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(今やな)
秋山は靴下スラッパーを手に、ゆっくりと理科室のドアを開けた。
廊下の空気は少し湿ってて、埃の匂いが漂ってくる。照明は点いてない。
理科室を出てすぐ、隣の教室の扉をそっと開けてみた。
机と椅子はほとんどが壁際に寄せられていて、中央が不自然に空いている。
(掃除でもしてたんか?)
(机の引き出しとか教卓とか、なんか入ってないやろか……)と思って開けたら、あった。
カッターや。まだ使えそうや。
ロッカーの中には使い古しのガムテープ。
教室の隅には、ホウキとモップ。
(鈍器やん……これ使えんことないな)
さらに廊下を進むと、開けっ放しの教室の中にナイロン製の黒いリュックが落ちてた。
(なんでこんなもんまであんねん……元々はほんまにあった学校なんかな……)
中は空やけど、チャックも動くし破れてもない。
秋山は拾ったガムテ、カッターを放り込む。
(靴下スラッパーは手に持っとこか)
ロッカーを更に開けていくと、上靴と厚手の教科書がおいてある。
(靴下で歩くのも地味にきつかったから助かるわ)
秋山は上靴を履き、厚手の教科書を腹に巻き付けてガムテープで固定した。
(とりあえず……装備はこんなもんやな)
廊下に出ると、ガラス戸越しに月明かりが少し差し込んでいて、ほんのり明るい。
(教室の窓は溶接されてるけど、廊下の中庭に面してる窓は溶接してないんやな)
その廊下を歩きながら、秋山はふと思った。
(……なんかこの学校、俺が通ってた中学に似てへんか)
天井の低さとか、廊下の幅、教室の並び方。全部じゃない。でも、ところどころ「覚えのある違和感」がある。
(なんか……気持ち悪いな。ここ、ほんまに……俺の中学ちゃうんか?)
けど記憶と完璧には一致せぇへん。それが余計に気持ち悪い。
(そや……放送室、たしか──階段上がって右側の突き当たりやった気がする)
自分の中学では、そうやったはず。
完全に同じではない。でも、似てるなら……試してみる価値はある。
秋山は、靴下スラッパーの握りを確認しながら、足音を殺して階段の方へ向かった。
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