4 いつまで喋っとんねん!
「おっおっおっ……お客様の中にイッチおらんかーwww」
「まーたスレ立て逃げか? マジで草草の草やでぇwwwwww」
(いつまで喋っとんねん!)
(ほんまずーっと喋ってんな……)
ドアの軋む音。
理科室を歩き回っていたワイ君の声が徐々に遠ざかっていった。
秋山はまだロッカーの奥にいた。
(動かれへんかった。呼吸が浅い。肺がうまく膨らまへん)
(けど……チャンスや。ようやく、ほんまにようやくワイ君がどっか行った)
カチャ、とロッカーの扉を開ける。できるだけ音を立てへんように。
足をゆっくり出して、腰を落とす。まだ足が震えてる。
けど、動けるうちに動かんと。
理科室の中は相変わらず暗くて、空気が埃っぽい。
ぐちゃぐちゃに蹴られた机や椅子、割れかけのビーカー、転がる何かの骨格模型。
(よう見たらこれ、下あごだけ動物の骨やん……なんやねんこれ……)
(恐がそうと思って普通の学校にないようなもんまであるやん)
(なんか身、守れるもん探さなあかんな…)
秋山はそろそろと机の下、キャビネットの中、ロッカーの裏──と探る。
時間をかけてる余裕はない。けど、何かはほしい。
そして、金属の塊を見つけた。
分銅。小さいのからまあまあ重いのまで、錆ついた感じでいくつか並んでいる。
「……分銅かいなこれ、懐かしいがな。これワイ君の頭に投げたらイケるんちゃうか」
小声でつぶやいて、秋山はポケットへ幾つか入れる。
(近付かれた時のためになんかいるわな)
秋山は靴下を脱いで、そこに一番重そうな分銅を3つ突っ込む。
「……靴下スラッパーや」
重さを確かめるように握る。ずしりとした手ごたえ。
(思ったより頼もしいな……)
薬品棚を見たが、ラベルはどれも黄ばんでて文字が読めん。読めても意味がわからん。
(これ触ったら逆に危ないやつやで)
──薬品はスルー。今は手を出さん。
そして、部屋の隅に貼ってあった壁の掲示物。
校内地図や。印刷が古びてて色あせてるが、教室や体育館、職員室、図書室は載ってる。
(放送室……どこや?)
何度も目を凝らすが、ない。載ってない。
(そんなアホな……職員室の隣とか、理科準備室の中とか、そういうこと?)
いや、全部が全部書いてあるとは限らへん。
学校って、意外と「当たり前すぎて書かん」場所あるしな。
スマホは謎アプリが開きっぱなしで写真もとられへんし。
ワイ君の声は、もう聞こえへん。
でも廊下の静けさが逆に怖い。突然戻ってくるかもわからん。
秋山は、靴下スラッパーをもう一度しっかり握り直した。
背中の汗が冷えて、シャツがべっとり張りついている。
時間は……まだある。でも少しずつ削られていってる。
(……行くしかない)
理科室の扉に耳を当てて、音を確かめる。
物音、なし。
──行くで。