2 なに語尾に草生やしとんねん!
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なんやあいつ。
刀持った、モナーのお面つけたアホみたいなやつが笑ろてるで。
( ´∀`)
……なんか腹立つわ。なんやあいつ。
「イッチ全然おらんがなwww」
笑てる……
あれがワイ君かいな。
俺は、暇潰しに2ちゃんに書き込んだだけやぞ。
ホンマにこんなこと現実に起こるんか?
夢か?
……いや、生々しい。
臭い。カビくさい。鉄臭い……
血の匂いまでしとるがな。
頭が混乱するのを必死で抑えて、俺はスマホを手に取る。
画面はまだ光ってる。操作もできる。
でも、電波は「圏外」。GPSも反応せえへん。
それより──
> 残り時間:71時間55分
※ワイ君との距離:3m
ヒント:校舎図は“理科室”のロッカー内にある
「……は?」
こんなアプリ、入れてへんぞ。
いや、ちゃう。これ──ガチの命懸けサバイバルやんけ。
しかも説明、短すぎやろ。
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ギィイ……ギィイ……
あかん、また音が近づいてきてる。
ワイ君が廊下を練り歩いてる。
手に持って引きずってるのは……足か?
あれ、人間の足やろ……?
「落ち着け……落ち着け俺……」
俺は、息を殺して掃除用具入れに身を滑り込ませた。
ワイ君がゆっくりと教室に入ってくる。
着てるのは……なんや、あれ。学生服?
(ほんま、なんやねんこの世界……)
俺は息を潜めて、掃除用具入れの隙間からワイ君を観察する。
ワイ君はお面のせいで、あんまり周りが見えてへんのか、キョロキョロしながら独り言を言うてる。
「ちょwwwおまwwwもちつけオレwww」
……古いな!
いつの2ちゃんねらーや!
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ワイ君がどこかへ行くまで、息を潜めてやり過ごした。
足音が消えてからも、念のため5分は待った。
スマホのタイマーは、しっかりと時間を刻み続けてる。
──あかん。
こんなとこに72時間もおれるわけがない。
けど、逃げる手段もない。
ほんで、あれを倒すなんて……できるわけがない。
「とりあえず地図やな……理科室、行かな……」
俺はそっと掃除用具入れから出て、教室のドアを開けた。
油断したらギシッて音が鳴るタイプの、古い引き戸。
ドアの下を持ち上げながら、静かーに開く。
廊下には誰もおらへん。
ドア、押さへん。
走らへん。
喋らへん。
避難訓練のおはしやな。
静かに、静かに廊下を歩く。
理科室は──どこや……。
場所分からへんで。
とりあえず二階行ってみよか。
階段へ向かう途中。
俺は、見てもうた。
向こうから、何かを引きずって歩いてくるワイ君の姿。
今度は──人を掴んでる。
スウェット着た……多分、高校生くらいの男の子。
首から血がダラッと垂れて、目はもう開いてへん。
「おいおいおいおいおいおい……!」
声は出ぇへんのに、心臓だけが暴れとる。
理科室!理科室や秋山!!
地図見なアカンねん!!
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息を殺しながら階段を上がる。
理科室は二階の突き当たりにあった。
扉を開けて、中に転がり込むように入る。
……誰もおらん。
ロッカーを探す。
一番奥、鍵がかかってへんやつを開けると──
あった。
薄汚れた手書きの「校舎見取り図」。
> ・1階:教室、保健室、職員室、音楽室
・2階:理科室、準備室、図書室、美術室
・屋上:施錠中、鍵は職員室
「……職員室な。覚えとこ」
あと、気になる張り紙がもう一枚貼ってあった。
> 【ワイ君への対抗手段】
・物理攻撃可。
・“放送室”に定期的に“ヒント音声”が流れる。
※なお、ワイ君の殺害は自己責任とします。
あかん。こんなん……
思ったより、恐いやんけ。
3日間、まともに寝られへんし……
けど──生き延びたら、100億。
いや、生き延びんでも……
ワイ君を倒したら終わるんちゃうか。
(殺ったろかいな。いや、でも……)
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ギィ……ギィ……
また、足音が近づいてきとる。
階段からや。今、ワイ君が2階に上がってきとる。
「重たっwww 自立キボンヌwww」
たぶん手に持ってた死体に話し掛けとんのかいな。
なに語尾に草生やしとんねん!
「っ……!」
そんなん思てる場合やないで。
俺はドアを静かに閉めて、ロッカーに隠れた。
息を殺す。
その時、スマホが小さく震えた──。