孤独なモノたち
孤独。
人は一人では生きてはいけないという自明。
ただし。
この男にはその理は意味を成さなかった。
【冒険者よ……】
目の前に竜がいた。
世界のすべてをたった一夜にて焼き滅ぼす、理外の力をもった竜。
その竜を討伐せんと、世界最強の冒険者たちが徒党を組んで挑んだ。
結果は——。
言わずもがな。
【貴様もまた孤独か】
そんな絶望の中で人知れず現れた、一人の青年。
彼もまた冒険者だった。
「独りが当たり前すぎて気にしたこともねえや」
頭を切り落とされた竜が、未だ衰えぬ覇気を放ってその男をじろりと見据えていた。
青年は大剣を地面に突き刺し、その場に腰を据える。
【道理を外れた力を持つ者は皆、その道を征く】
竜はにやりと笑う。
【神にすら嫌われたか】
彼の身体に刻まれた白い傷跡。
神に拒絶された、その証を。
「ガキの頃に雷に打たれてな」
面白可笑しく笑う青年。
「むしろ気分が良かったさ」
代わりに、禍々しい太陽の印が額に浮き上がっていた。
【魔神から寵愛されるとは】
「魔神って響き、カッコよかったからな」
この世界で魔神は忌避される存在。
だがこの青年にはむしろ良しとする思考。
【だから神に見放されるのだ】
「だから? 俺は産まれた時からずっと独りだぜ?」
ケラケラ笑う青年。
彼は孤児だった。
「お前はどうだ? その力、さぞ持て余したことだろ?」
魔竜と呼ばれた世界の敵。
彼の力は。
あまりに理不尽だった。
【ああ、つまらんかった】
動けば大地を割り。
飛べば空を裂き。
火を吹けばすべてが焦土。
【だが貴様に出逢えた。光栄に思うぞ】
満足げに笑う魔竜。
【貴様を一人残して逝く事が心残りだ】
魔竜を殺してのけた冒険者。
世界最強の男。
孤独な、男。
「気にしねえよ。適当に酒飲めりゃあ十分だ」
笑う青年。
【お前も笑っていた】
「あ?」
青年の笑いが止まる。
【我との闘い、どう感じた?】
身体中に傷を纏う青年。
腕が千切れ飛ぶ闘いだった。
「言わせんな」
清々しい顔だった。
【ハッ……些事をやろう】
そう言って、青年に魔力を与える魔竜。
受け取って、ピクリと青年は反応した。
【そこに我の卵がある】
「お前」
告げる必要のない事だ。
【言ったであろう、貴様に】
フッと笑う。
【《理解》の無い世界は寂しいものだ】
魔竜の息が浅くなっていく。
青年は彼をじっと見つめた。
【好きにしろ。煮るなり焼くなり、な】
そう言って、魔竜の瞳から生気が抜けていく。
ゆっくりと息を引き取った。
報われた顔をして、彼は満足げに死んで逝った。
「……」
魔力の導きによる方向を見た。
巨大な、世界最高の山の頂上。
超高レベルの魔物が跋扈するその山にて。
まさに頂点に君臨したその魔竜の、住処。
「ああ……そうだな」
青年は笑った。
千切れ飛んだ腕を探し拾って、くっつける。
「楽しかったよ」
青年はその山を見据えた。
「受け取るぜ。今度は俺を超える竜にしてやる」
大剣を担ぎ、青年は歩く。
——孤独な道。
その先に灯るささやかな光に向かって。
「希望はなくっちゃな」
楽しみを抱きながら、上機嫌に歩いて行った。