第5話 仲良しのギュ〜♪
そして放課後。
俺は沢田さんと、再び札幌駅を訪れていた。
「……うぅ……人が……たくさんいます」
「やっぱり平日の夕方は混んでるよね」
前回は休日の早朝だったけど、この時間だとやっぱり人が多い。帰宅ラッシュの時間だもんな。
「それで、今日はプリクラを撮りたいんだよね?」
「はい……! イケてるJKの……盛るという文化を……私も……体験したいんです」
「りょーかい」
今朝はすごい真剣な表情で『付き合ってもらっても……良いですか』なんて言われて身構えちゃったけど。深刻な悩みではなくて安心した。
それにせっかくなら、こういうカップルっぽいイベントを経験するのも悪くない。今の沢田さんの可愛さを、これ以上どう盛るのかは疑問だけど。
「じゃあ狸小路のゲーセン行こっか」
「お願いします……!」
というわけで。
ここから地下歩行空間を通り、すすきのにある狸小路まで移動する。札駅周辺は地下で繋がってるのがありがたい。店が並んでて飽きないし、信号にも捕まらないし。
「……あの……鷲尾さん」
「ん? どうしたの」
「私の顔……何か……付いていませんか?」
「いや、付いてないと思うけど。何かあった?」
「その……今日は教室で……いつもよりたくさん……視線が……」
「あー」
たぶんそれは、沢田さんの可愛さがみんなに知られたからだと思う。前髪を切って眼鏡を外したことで、奇麗な瞳が露わになって、表情もよく見えるようになった。
それに。
「沢田さん、明るくなったもんね」
前は目も合わなかったけど、ここ数日は少しずつ会話もできて、笑顔も増えた。
きっと彼女なりに、努力しているんだと思う。
「全部……鷲尾さんの……おかげです」
「いやいや。そんなことはないでしょ」
「いえ……私は……勉強もできないし……取柄もなくて……全然鷲尾さんと……釣り合わないから……少しでも魅力的な彼女に……なりたくて……」
「それは──ありがと」
俺はそんなに立派な人間じゃないけど。そう思ってくれる人がいることは、素直に嬉しくて、胸が熱くなる。
でも……俺はその気持ちを、ちゃんと返せているのかな──。
そのまま10分少々歩いて地上に上がり、目的のゲームセンターにたどり着いた。
「私……こういうところは初めてで……緊張します」
「俺もプリクラは初めて」
プリクラを撮る陽キャたちを横目に、独りで太鼓を叩いたりはしてたけどね。
でも今の俺は、可愛い女子と制服デートしちゃってるんだよな。1週間前は創造もできなかったシチュエーションだ。
「と、とりあえず。入ってみようか」
「はい……お願い……します」
※
『指ハート~♪』
プリクラに100円を投入し、中に入ると、機械に次々とポーズを命令された。そして休む間もなく撮影される写真。
基本的に陰キャは写真というものに弱いので、気恥ずかしくて仕方がないのだが、それはそれとして、律儀にポーズを取る沢田さんはとても可愛い。
──パシャッ──
『小顔ポ~ズ♪』
「鷲尾さん……小顔ポーズって……なんですか……?」
「えっと、俺も詳しくないけど。こうやって両手で顔挟んで」
「ふふっ……鷲尾さん……可愛いです」
「!?」
──パシャッ──
……絶対変な顔になったじゃん。
『最後は〜、仲良しのギュ〜♪』
──!?
ぎゅ~ってつまり……ハグだよね?
むりむりむり! ハードル高すぎるでしょ。
「だめ……ですか」
「さ、沢田さん!?」
彼女が制服の袖を引き、潤んだ瞳で俺を見つめている。
「私とはぎゅ~……したく……ないですか……?」
「そういうわけじゃ、ないけど」
「私は……したい……です」
「う、うん」
あーもー、なんとでもなれ!
──パシャッ──
※
……はぁ、心臓止まるかと思った。
狭い空間に女の子と2人。ただでさえ距離が近くてドキドキなのに、そこにきて最後のハグ。
沢田さんの身体がふわふわで柔らかかったことと、いい匂いがしたことしか記憶にない。
「ふふっ……やっぱり……可愛いです」
プリントされた写真を見て、沢田さんは嬉しそうに笑う。
けど俺はどう見ても酷い顔だ。小顔ポーズも、ハグのやつも、動揺して半目になった俺は、プリ機の技術でも盛れていない。沢田さんは相変わらず可愛いけど。
「一生大切に……しますね」
そう呟き、沢田さんは愛おしげに写真を見つめた。
「俺も大事にするよ」
彼女と撮った初めての写真だもん。
「あの……もう一つだけ……付き合ってもらって……いいですか……?」
「うん。いいよ」
「一緒に……観覧車………乗りたいです」