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第3話 交際の始まりと晴れない疑念

『プニクローバーかっこよすぎません!?』

『うん! かっこよかった』

『後輩プニキュアが次々やられていく中、”大切なものを守るため。戦う理由は、それだけで十分です!”って、満身創痍の身体で立ち上がるとか、凄すぎるにもほどがありますよ!』

『本編だと仲間に背中を押される場面が多かったから、クローバーの成長をより感じるよね』

『ほんとそれなです! そこからクローバーシールドで敵の攻撃を凌いで、最後の反撃に繋げるとこも激熱だし……私、何回泣いたかわかりません』


 映画を観終えた俺たちは、お好み焼き屋で順番待ちの席に座りながら、プニキュアの感想に花を咲かせていた。

 映画館でプニキュアを観るのは初めてだったけど、思ったよりアウェイな空気ではなくて助かった。高校生くらいのカップルも何組かいたし。

 なにより、会場全体でプニキュアを応援するあのLIVE感は、パソコン前の1人視聴じゃ絶対に味わえない興奮があった。


「申し訳ありませんが、お待ちのお客様はこちらに名前のご記入をお願いします」

 

 少し客が増えてきたためか、店員さんに順番待ちの紙を渡された。ちょうどお昼の時間だもんね。


「私……書きますね……」

「うん、ありがと」


 そして沢田さんはペンを取り、一番左上の空白に、綺麗な文字で”澤田”と──あれ? 


「沢田さんって、そっちの”澤”使うの?」

「えっと……こだわりは……ないですけど……基本的に自分では……こっちを書いてます」

「あ、そうなんだ」


 たしかクラスの名簿は『沢田くみ』だったような……?

 もちろん、旧字体と新字体を併用する人はたまにいるけど。でも


「2名様でお待ちの澤田様ー。ご案内いたします」


 それならやっぱり、あのラブレターは──




「……なんだか……踊ってる……みたいですね」


 熱い鉄板上で円形に広げられたお好み焼き。その上でゆらゆらと揺れる鰹節たちを見て、沢田さんが言った。


「たしかに。ちょっと可愛いかも」


 ついでに無意識なのか、その鰹節に合わせて左右に揺れている沢田さんも、俺は可愛いと思う。


「……夢みたいです……こうやって……鷲尾さんと……話せているのが」


 恥ずかしげな上目遣いで、沢田さんは俺を見つめる。

 その魅惑的な表情のせいか、あるいは暖められた鉄板せいか、俺は身体が火照り出すのを感じた。


「ずっと……話してみたくて……でも私……人見知りなので……顔も見れなくて……だからいま……こうして一緒に……過ごせているだけで……私はどうしようもなく……嬉しいんです」

「俺も、楽しかった」


 生まれて初めてのデート。

 いつもと違う雰囲気の沢田さんに、少し胸がドキッとして。大好きなプニキュアを、初めて誰かと一緒に観られて。映画の感想に盛り上がって。

 その時間は、人生で一番と思えるくらい、甘くて、愛おしくて。


「だから……たとえ鷲尾さんと……付き合えなくても……私は十分に……幸せです」


 そう言って沢田さんは、優しく微笑んでくれた。


 ──告白については、まだ気になることがあるけれど。間違いなく沢田さんは、俺を好きでいてくれて。俺の知らない幸せを、たくさん教えてくれた。

 その事実だけで、答えを出すには十分だと思う。


「あのさ、沢田さん」

「は……はい」

「俺と付き合わない?」

「──!? ほ……ほんとに……私で……いいんですか……?」

「うん。沢田さんと付き合いたい」


 彼女が運命の人だという確信はまだない。

 だけどきっと沢田さんとなら、これからたくさんの好きを見つけ合える。そう確信できたから。


「でも私……胸小さいし……コミュ障だし……夏鈴ちゃんみたいに……可愛くないし──」

「ううん。俺は沢田さんがいい。沢田さんの好きなところ100個見つけたい。どうかな?」

「……ありがとう……ございます……うぅ」

「あ、いや、泣かないで」

「うぅ……でも……嬉しいんです……泣かせて……ください」


 彼女の潤んだ瞳は、吸い込まれそうなほど美しくて。つい俺は目を奪われてしまう。


「ほ、ほら。お好み焼き食べよ! 早くしないと焦げちゃうし」

「うぅ……食べますぅ……」


 泣きじゃくりながら、お好み焼きを頬張る沢田さんもまた、とても可愛かった。

 でも……まずはあの疑念を晴らしたい。


 ──誰が”沢田くみ”のラブレターを書いたのか──

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