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プロローグ~運命の人は意外な場所に……?

「ねえちぃくん。そこど~けて♡」


 昼休みの教室。

 鷲尾智衣が英単語帳をパラパラとめくり、5限目の単語テストに備えていると。米林夏鈴が甘えた声でやってきた。


「やだよ。ここ俺の席だし」

「けち~。あたしくみちゃんとご飯食べたいの〜。譲ってくれたっていいじゃ〜ん」

「いや自分の席で食えよ」


 友だちと一緒に食べたい気持ちはわかるけどさ。周りに空いている席がたくさんあるのに、わざわざ座っている人間をどかすことないじゃん。俺勉強してるのに。


「ぶぅ、ちぃくんのいじわる。そんなだからモテないんじゃない?」

「うるせ、余計なお世話だ」

 

 夏鈴は俺の幼馴染で、天使のように優しい性格と、女優並みに整ったその容姿から、校内では正統派美少女としてかなりの人気を誇っている──が。

 俺のことは心底どうでも良いのか、昔から何かと扱いが雑なんだよなぁ。中学の時なんか、不良っぽい先輩の告白を断るために、彼氏の振りまでやらされたんだから。最終的に不良から屋上へ呼び出され、「俺の夏鈴を幸せにしてくれ」と背中をぶっ叩かれた日には、骨が砕けるかと思ったね。もう2度とごめんだ。


「……あの……夏鈴ちゃん」

「ん? どうしたのくみちゃん?」

「……鷲尾くん……困っているから……別の場所で……食べよ」


 隣に座る沢田くみさんが、視線はスマホに向けたまま、か細い声で申し訳なさそうに言った。

 沢田さんは夏鈴の親友で、丸渕眼鏡にセミロングの大人しい少女だ。だけど俺は彼女の隣の席になって2か月経つにも関わらず、一度も会話をしたことがない。というか目が合ったことすらない。

 彼女の鞄に付いているプニキュアのストラップが、俺の推しと同じなので、是非一度語り合ってみたいんだけど……いつもスマホと睨めっこしていて、話しかけるなオーラがプンプンなんだよね。たぶん、いや絶対に嫌われている。


「あ~、大丈夫大丈夫。勉強なんてどこでもできるんだから、ちぃくんは図書室行きなよ」

「そんなめちゃくちゃな」

「はいどいたどいたー」

「ちょっ……!」


 夏鈴が俺に身体を押しつけ、無理やり席を奪おうと試みる。柔らかな胸の感触に、髪から香る爽やかな柑橘系の匂い。幼稚園の時は何も感じなかったけど、美しく成長した幼馴染からのこれは──


「やった~。席ゲット~」

「くっ……」


 全身の力が抜けた俺は、簡単に椅子から落ちてしまった。さすがにこれはずるすぎるだろ。幼馴染とはいえ、美少女からの0距離攻撃。抵抗できるはずがない。


「ところでちぃくんってさ、彼女いないよね?」


 美味しそうなサンドウィッチが詰め込まれたお弁当を机に置き、夏鈴はニヤニヤと俺に尋ねた。


「……嫌味か?」

「まっさか~。なんとなく聞いてみた」


 俺が恋愛と無縁なことなんて、夏鈴が一番よく知ってるだろうに。俺をからかうのがよほど楽しいらしい。


「いませんね、あいにく。夏鈴様のようにモテませんので」

「ま~ね~。私モテるから~」

「調子に乗るな」

「ふふーん」


 そのどや顔は、正直かなりイラっとくる。モテるのは事実なのが余計に。

 はぁ。俺だって本当は可愛い彼女が欲しいのに。


「……ま、それなら大丈夫か」

「なんか言ったか?」

「なんでもな~い。あっ。やっぱりちぃくん、ここ座ってていいよ」

「えっ? なんで急に」

「ちょ~っと事情が変わったの~。じゃあくみちゃん。生徒ホールで話そ」

「う……うん」


 夏鈴は早くも俺に席を返還すると、沢田さんの手を取り、嵐のように去ってしまった。

 なんだったんだ……?

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