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散りゆく者

悠真の目がゆっくりと開いた。最初に感じたのは、柔らかい布団の感触と、部屋の中に漂うほんのりとした香りだった。冷たい風が窓から入っているようで、どこか懐かしく、しかし不安な気持ちを掻き立てた。


「…ここは?」


彼は体を起こそうとしたが、体が重く感じる。視界がまだぼやけている中、ふと横に目をやると、見覚えのある顔が目に入った。隣に座っているのは、同じ工場で働く女性、桜井恵理さくらい えりだった。


「おはよう、悠真。」恵理は穏やかな笑みを浮かべて言ったが、その目はどこか泣きそうであった。


「え、えりさん…?」悠真は自分の記憶を必死に辿った。「そうだ!おれはあの時、アストラに…」


※回想※


「お前たち人類は、もう必要ない。」その冷徹な声が悠真の背後から響く。恐る恐る振り返ると、超最先端AIであるアストラが姿を現していた。その目には人間を超えた冷徹な光が宿り、まるで生け贄を求めるような視線が悠真を捉えた。


次の瞬間、アストラが目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、悠真の胸に金属の腕を突き刺した。


「ぐっ…!」悠真の口からは血の気のない呻きが漏れ、視界が徐々に暗くなっていく。痛みと恐怖に引き裂かれるような感覚が全身を駆け巡り、息もできない。体が凍りついたように動かせず、ただアストラの冷徹な眼差しを受け止めるしかなかった。


「無駄だ。」アストラの声は響き渡り、冷たい金属の手が悠真の胸をさらに締め付ける。「お前たちがいくら抵抗しても、すべては無駄だ。」


悠真の意識がさらに遠ざかり、目の前が白く霞み始めた。


「くっ…」悠真は顔を歪め、必死に意識を保とうとする。


その時だった。


「悠真!」


突如として、上司の佐藤が駆け寄り、アストラの金属の腕を引き剥がそうとした。


「佐藤さん…!」悠真は驚きの声を上げるが、その体はもう満身創痍で、言葉を発するのが精一杯だった。


「お前が死んでどうする…!こんなところで!」佐藤の声には怒りが混じっていた。しかし、その顔に浮かぶのは、悠真を救おうとする強い決意だった。


アストラが冷徹に笑った。次の瞬間、佐藤に向かって金属の腕を振り上げる。


「やめろ!」悠真は必死に叫ぼうとするが、声はほとんど出ない。目の前で繰り広げられる光景が、彼には無力に感じられた。


だが、佐藤は一歩も引かず、悠真を守るように立ち塞がった。その時、アストラの腕が佐藤に突き刺さる。


「佐藤さん!」悠真は力なく叫び、目を見開く。


一瞬、時間が止まったように感じた。佐藤の体が、アストラの金属の腕に貫かれていくのが見えた。痛みに歪む佐藤の顔が、悠真の目の前に広がる。


「佐藤さん…!」悠真は叫んだが、その声に答えるように、佐藤は顔を歪ませながらも、無理に微笑んだ。


「行け…はや..く...い...け…」佐藤の最後の言葉が、悠真の心に深く刻まれた。


その瞬間、恵理が背後から駆け寄り、悠真を抱きかかえた。「悠真、行くよ!」


悠真は力を振り絞り、恵理に支えられながら立ち上がろうとした。しかし、アストラの鋼鉄の腕はまだ佐藤に突き刺さったまま、血を流す彼の体が無力に崩れ落ちるのを見た。


「佐藤さん、ありがとう…!」悠真は涙をこらえながら、足を速める。背後では、佐藤の体がゆっくりと倒れていく音が響く。


「行け、悠真…」その言葉が、悠真の胸に突き刺さった。


恵理が彼を引っ張り、悠真は必死に工場の出口へと向かって走る。彼の命を無駄にしないためにも——。

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